☆家に帰ったら最後……
順調に成長を見せるルイではあるが、そのやんちゃぶりにいささか辟易気味だ。とにかくエネルギッシュで、常にこちらの気を引こうといたずらばかりしている。シェラやむぎになかったオス犬特有のワンパクに圧倒されているといったところである。
まずは朝、ぼくと一緒に出かけようとして玄関に突進するルイを押さえるのに家人がひと苦労する。毎日のことで懲りた家人が、最近は事前にリビングから廊下への扉を閉めてしまうので、昨日からは玄関でのルイの見送りがなくなり、ぼくのほうは物足りなさを覚えながら出かけている。
毎晩、家に帰ると大喜びで出迎えてくれるが、ひとしきり相手をしてから押しとどめるのが容易ではない。ルイに跳びつかれたり、まとわりつかれるとスーツに毛がついてしまい、ブラッシングに苦労する。それを回避しつつ服を着替えなくてはならない
着替えを終えるとたいていすぐに夕食になる。ぼくの腕に前足をかけ、テーブルの上をのぞきこんでくるルイを叱り、やめさせると、ぼくのスリッパを噛んだり、引っ張ったりして遊びに誘う。怒るとますますしつこく、「遊ぼ! 遊ぼ!」とテンションを上げるだけだから下手に怒れない。
やっぱり今夜もまだ遊んでもらえないとわかれば、しばし家人の足下でおとなしくしている。
☆ルイを静かにさせた黒い袋の威力
ぼくの夕飯が終わり、ソファーへ移動する様子を家人の足下からルイがじっと見ている。見ているだけでまだ「遊ぼ!」と押しかけてはこない。このとき、床に放り出してあるルイのおもちゃをうっかり触ったりしたらすっ飛んでくる。でも、たいていは、じっとぼくを見つめるルイのかわいさに負けて、「ルイ、おいで。遊ぼうぜ」と、ぼくのほうが誘っている。
とにかくなんでもいいから引っ張りっこをしたがる。おもちゃを投げてやると走って取ってきてぼくの手に押しつける。「ちょうだい」といってそれを持つと引っ張ろうとする。「それじゃいらない」と放すと、おもちゃをくわえたままでぼくの手を噛んでの催促がつづく。相手にしないでいるとのしかかってきて遊びに引っ張りこもうと懸命である。
そんなやりとりを1時間以上つづけているとこちらも疲れてしまう。遊びが単純だからなおさら疲れる。昨日は、家人がぼくに買ってきた春用のシャツが入っていた黒いビニール袋があったので、何気なくかぶせてしまったら、動けなくなってしばらくじっとしていた。
遊びとしては危ないので頻繁にはできないが、一定の抑止になることだけはわかった。外してやると、袋の内側はルイの吐息でびっしょりだった。
「ルイ、もう疲れたからやめようよ」といって遊びをやめると、ルイもやっぱりかなり疲れているようで、大きく息を吐きながら這いつくばっていた。ぼくはそのままソファーに横になって、前の晩と同じように午前2時近くまで爆睡だった。
シェラやむぎたちと生活は、もっと静かで優雅な時間が流れていたはずなのに……。それでも、沈みがちになるよりは、にぎやかで刺激的な時間がいまはちょうどいいのかもしれない。