■ ルイがいたからキャンプが続いている
7月のキャンプは5月に引き続き白樺の森が美しい信州のキャンプ場だった。ここはわが家にとってホームグランドともいうべきキャンプ場で、5月、7月、9月、10月とシーズンたけなわのキャンプは、原則としてすべてここでキャンプさせてもらっている。
すでにルイとも何度か訪れていると思っていたが、よくよく考えてみるとそうでもなかった。ルイとは一昨年の7月がはじめてで、今年の5月、そしてこの7月ようやく三回目だった。
ここへルイをはじめて連れてきたのは、ルイがようやく1歳を迎えたころ。2か月前にキャンプデビューしたばかりだった。先住犬のシェラをガンで送って半年と経っておらず、喪失感に沈みそうになる中、かろうじて気力をふりしぼって出かけた。
あのときは、ぼくも家人も涙にくれながらこのキャンプ場へたどりついた。高速道路を降り、佐久の町を抜けて見慣れた田園風景の中を走り出したころ、家人が不意にシェラとむぎの思い出話をはじめたのである。話しながら彼女は嗚咽し、ぼくも運転しながらあふれる涙をぬぐうのに忙しかった。
リアシートにひとりですわる、キャンプデビューしたばかりでまだクレートに入れなくてもすむほど幼く、不安そうにしているルイの存在をぼくたちはしばし忘れていた。
ほどなくたどりついたキャンプ場での3泊4日をルイとどのようにして過ごしたのか、記憶はきれいに消し飛んでいる。憶えているのは、涙にまみれて走った田園風景のしらじらしいまでの明るさだけである。
去年はぼくの腰痛が悪化して5月も7月もキャンプを休んだ。焦る気持ちはまったくなかった。むぎを喪い、シェラもまた送ることになり、もし、ルイを迎えていなかったら、もうキャンプなどきれいに捨てていたかもしれない。女房がむぎのいない寂しさに耐えられずにルイを迎えていてくれて正解だった。
9月になってようやくキャンプを再開する気になったのも、2歳になって日々わんぱくぶりを発揮しているルイと一緒に野遊びをやってみたいという気にさせてくれたからだった。
■ 個性が際立つキャンプでのわんこたち
シェラとむぎ、そして、ルイたちは、キャンプへくるとそれぞれに彼らなりの個性を存分に発揮してぼくたちを感心させてくれた。零歳児のころから何度もぼくとふたりだけでキャンプに出かけたシェラは、1歳を過ぎたあたりから設営しているぼくに「早くテントを張って!」とせかしたものだった。次に、張り終わったテントの入り口を前足で引っ掻いて中へ入れてとせがんだ。テントの中に入っていれば安心だったのだろう。
ふだんはいつもシェラの横から離れようとしないむぎは、キャンプへくるとデビューのときから自立した側面を見せてくれた。最初のときは、ちょっと目を離したすきに子供たちがいる近所のサイトへひとりでいってしまった。「あら、むぎちゃん、遊びにきてくれたの」という声で気づいたくらいだった。まさか、あのむぎがとびっくりしたものだった。
その後のむぎのキャンプでの変わりようはぼくたちにも驚きだった。シェラと離れ、いつも外を向いて見張りに徹していたからである。番犬をやってくれたからといって異変を知らせてくれたわけではなく、たとえば、野生のキツネが近づいてきても、イノシシの吐息と気配がすぐそこにあっても、そういうときはテントの奥に逃れてシェラのわきでシェラとともに知らん顔をしているのである。
もしこれがルイだったらどうだろう。「ルイは友を呼ぶ」というダジャレで命名したぼくの願いを知ってか知らずか、日常でのルイはこれ以上ないほどフレンドリーな成長を遂げてくれた。ほかの犬に対して、あるいは人間に対しても警戒など微塵もせず、いつも友好的な態度で接している。ただ、まだフィールドでの経験が浅いので野生との間近での出逢いはない。せいぜい、1歳になったばかりの夏のキャンプでお腹を虫にボコボコに食われ、かゆくて悲鳴を上げていた程度である。
ルイに問題があるとすれば音に対する異常な反応だろう。シェラは花火や雷を怖がったが、ルイは台車のたぐいやキックボード、スケートボード、妙な音を発して走るバイク、自転車、自動車などに反応して激しく騒ぐ。キャンプ場では、よそのサイトであってもテントの設営中のポールの動きを怖がって吠えついている。ポールはいうまでもないが、ほかの乗り物もキャンプ場では無縁ではなく、リードを引きちぎるばかりに全身で騒ぎ立てる。そして、その度に持参のクレートに入れられ、シートで目隠しをされて過ごすことになる。
■ ルイもむぎ同様コーギーらしさを発揮して
7月のキャンプに、ぼくたちは新しい装備でのぞんだ。設営が簡便なテントとタープに変えたのである。設営や撤収に要する時間と労力はこれまでの三分の一になった。
変わったのはテントとタープばかりではなかった。ルイのコーギーらしい習性を見つけることができたのである。これまでのシェルター型のリビングスペースだと外との接触が遮断される。だが、今度のリビングは一枚布の天幕だから外部といつも接触していられる。ここでルイは「番犬」の習性を見せてくれたのである。タープのはしに伏せの姿勢で構え、常に外部を監視する。むぎがキャンプでいつもやっていた使役犬の顔が顕著になった。
今年の7月18日~21日のキャンプは、気候がまだ梅雨明けにいたらず、連日の夕立は山の中ということもあって、ひとたび降ればゲリラ豪雨といいたくなほど短時間で激しい降雨となった。このキャンプ場を使うようになって20年近くの大半を自分たちのサイトにしてきた場所は、あたりの地形の変化もあって、雨がふりはじめ、地面が吸い込みきれないほどの水量の豪雨となると地表にあふれた雨水が水路となってぼくらのサイトを横切るありさまだった。
サイトの引っ越しやら雨の波状攻撃やらでゆっくりルイと遊んでいる暇はなかった。ルイが垣間見せた「番犬の習性」もすっかり忘れてしまい、ちゃんと検証してやる余裕を失っていた。
雨にたたられてぼくらも楽しんでいなかった。ルイにとっても面白くないキャンプだったろう。雨に閉じ込められ、タープの下で所在なげにしているルイを喜ばせてくれたのは、19日に合流したF家のユウキ君がルイにプレゼントしてくれたサッカーボールだった。先の年越しキャンプでもユウキ君が持参したサッカーボールで遊んでもらい、すっかり夢中になっている。ユウキ君もそれゆえにルイのマイボールをプレゼントしてくれたわけだ。
さっそく雨のあいまに、あいている芝生サイトへ出てルイをロングリードでつなぎ、都心の地元少年サッカーチームのエースストライカーのユウキ君がこのボールで遊んでくれた。ユウキ君の蹴るボールを鼻先で返し、「ルイくん、いいセンスだ」とユウキくんから何度もほめてもらえるほど熱中した。
しかし、ついつい熱が入ってボールをかじり、まもなくせっかくもらったボールをパンクさせてしまった。
■ また次のキャンプを約束して
キャンプ最終日が太陽ものぞいて申し分のない撤収日和だったのが、このキャンプのせめてもの救いだった。撤収後、F家のみなさんとは清里の清泉寮のファームショップへ移動し、しばし高原の夏の日差しを楽しんだ。ここもシェラやむぎとは何度も訪れている。ぼくはソフトクリーム以外のここの料理がどうしてもおいしいとは思えないが、施設とロケーションの素晴らしさについつい足を向けてしまう。
ルイにとってはボール遊びをはじめ、いつも遊んでくれるお兄ちゃんのユウキ君がいっしょなのですっかり満足していた。最終日の日和が申し分ないと、たとえ大雨にたたられた辛いキャンプでも、思い出の大半はまぶしいほどの輝きの中にある。この7月はそんなキャンプだった。
9月になったら、また、いっしょにキャンプしてねとルイに代わってユウキ君に頼んで快諾を得たのはいうまでもない。