■ ルイのお嫁さんになってほしい!
ルイにも大好きな彼女がいる。そろそろ3年越しくらいのおつきあいになるだろうか。
朝、散歩時間が重なるので会えるご近所のチコちゃんである。チコちゃんは、写真のとおり美形のコーギーである。同じ犬種だからというわけではないだろうが、ふたりは仲良しである。相思相愛だろう。
コーギーなのにチコちゃんには立派な尻尾がある。これがまたかわいい。ルイにはないこの尻尾をいつも触らせてもらってきた。
ルイと仲がいいから、もし、お嫁さんに迎えられたらいいなぁ、などとできもしない夢想を何度となく描いてきた。半年ほど前からチコちゃんの下半身はきかなくなってしまったが、それでもかまわないと思っていた。
年齢はルイよりチコちゃんのほうが少し年上らしい。正確な年齢がわからないのは、チコちゃんは保護犬で、縁あってご近所の子になったからである。たぶん、パピーミル(子犬工場)で繁殖犬としてひたすら子犬を産まされ、あげくに捨てられた子らしかった。
■ チコちゃんに会えるなら
元々の性格もよかった子なのでおっとりしていたが、可愛がられた経験がないので、最初は人間に愛されるとはどういうことが理解できずにいた。しかし、やさしいご家族がそろったおうちに引き取られ、愛情いっぱいに過ごしてきたのですぐに反応も変わった。
チコちゃんのおかげで、チコちゃんのママとも仲良しになれた。ぼくと同世代のこの山ガールさんは、アグレッシブだし、近所のわんこ仲間たちから愛されるやさしく素敵な女性である。
不幸な生い立ちのチコちゃんだが、晩年はやさしいママにめぐりあえてよかったと思っていた。ルイもチコちゃんのママが大好きで、遠くに見つけただけで全力でぼくを引きずっていく。
最近のルイは朝の散歩に積極的ではない。寒さのせいか、6歳半の年齢のせいか、それとも性格がズボラなのか?
「さあ、チコちゃんに会いにいこう!」
最近では、そういって毎朝ルイを散歩に追い立てて出かけている。
6時ごろだから夜明け前の町はまだ暗い。場所によっては街灯の灯りも乏しくなって人影が見えないこともある。それまでフラフラついてきたルイが顔を上げて、引っ張り出すとまちがいなくチコちゃんたちがいる。
■ もう会えないかもしれないなんて
昨日、年明けではじめてチコちゃんたちに会った。
下半身がきかなくっているチコちゃんはペットバギーで散歩に出てくる。そして、コンビニ前の100メートルほどを、後ろ肢をママに支えられ、前肢だけで歩いて散歩を終えている。家ではママにマッサージをしてもらっているそうだ。
2週間ぶりで会ったチコちゃんだったが、ママさんから聞かされた近況は実にショックだった。
チコちゃんが、ガンだというのである。前日まで入院していて胆のうガンだとわかったそうだ。余命はひと月しかない。
「ルイちゃん、もう会えないかもしれない」というママさんの言葉が胸に突き刺さる。わが家も6年前のちょうどいまごろにシェラをガンで亡くしているからなおさら辛い。
ママさんの辛く、悲しい話を聞きながら、ぼくはいつもと変わらずパギーに座っているチコちゃんの頭をずっと撫でていた。
この日、チコちゃんは何度かぼくの手のひらに自分の頭をそっとこすりつけてくれた。いつもは撫でさせてくれるだけなのに、この日はまるで「さよなら」を告げるかのように頭を預けてくれたのである。