後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔566〕ハンセン病をテーマにした児童文学『おじいさんの手』(菅龍一著、太郎次郎社)を36年ぶりに読み直しました。

2023年02月19日 | 図書案内
  前々ブログで矢部顕さんが「北條民雄と光岡良二」を書いてくださったことに刺激されて、久しぶりに本棚から『おじいさんの手』(菅龍一著、太郎次郎社)を取り出し再読しました。
 菅龍一さんは団塊の世代の我々にとっては村田栄一さんと並んで憧れの教師でした。村田さんは小学校、菅さんは定時制高校教師、奇しくも同じ川崎市内での活躍・活動が私にはまぶしく輝いていたのでした。
 菅さんの主著はなんといっても『教育の原型を求めて』(朝日新聞社)でしょう。親しく交流させていただくようになったのは奥地圭子さんを通じてだったでしょうか。我々夫婦の共同ミニコミ誌『啓』を送る度に、真っ先に感想のはがきを届けてくれるのでした。
 そんなある日、思いもかけず、『善財童子ものがたり』(菅龍一著、偕成社)の3部作が届いたのでした。雑誌『ひと』に連載されていたものでした。2人で恐縮することしきりでした。
 さらに送っていただいたのが『おじいさんの手』(菅龍一著、太郎次郎社)でした。私が知る唯一のハンセン病を主題にした児童文学でした。菅さんはハンセン病については徳永進さんの『死の中の笑み』や『隔離』(いずれも、ゆるみ出版社)によって目を開かせられたとしています。





 さて『おじいさんの手』に話を戻しましょう。
 川崎で登校拒否児になった香織は、お母さんの郷里(おそらく鳥取)のおばあさんの元に預けられます。香織は戦争で死んだとされているおじいさんの消息を徐々に明らかにしていきます。おじいさんは現在の国立療養所多摩全生園(東京・東村山市)で教師として働いていたという設定になっているので、作者の菅さんは矢部顕さんの教えてくれた光岡良二をイメージしていたのでしょうか。おじいさんは全生園の子どもの数が少なくなり郷里に帰ることができず、国立ハンセン病療養所・長島愛生圓に入所したという話になっています。そこで香織たちはおじいさんと会い、おじいさんは郷里を訪ねることになるのでした。生きて再会を果たしたおじいさんとおばあさん、はたしておじいさんは郷里に留まるのでしょうか。
 当たり前のことですが、『おじいさんの手』には菅さんの実体験が色濃く反映されています。香織のお母さんが川崎の定時制高校で学んでいたり、鳥取の若者たちの劇団が登場したりします。菅さんは若いときに岸田戯曲賞を受賞しています。さらに、京都大学の物理学科出身ということで、科学の目が物語全体に行き届いています。

 菅さんのご自宅にNさんとお線香をあげに伺ったのは何時のことだったでしょうか。

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