後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔174〕谷川雁の物語論・子ども論・教育論を凝縮した『<感動の体系>をめぐって』が出版されました!

2018年03月20日 | 図書案内
 ラボ言語教育総合研究所事務局長をされていた矢部顕さんからメールが入ったのは昨年の秋のことでした。松本輝夫さんの編集する『<感動の体系>をめぐって』(谷川雁 ラボ草創期の言霊)が出版されるというお知らせでした。私は早速予約購読希望ということで、松本さんにメールしました。
 なんというタイミングでしょう。丁度私が読んでみたい本だったのです。
 私はラボ言語教育総合研究所(言語総研)に所員としてかかわって12年がたちました。ここでの私が志向している研究は、ラボの中心的活動の「テーマ活動」の位置づけや方法、表現について演劇教育の立場から提言するということです。そこで、そもそもテーマ活動とは何か、ラボの創始者の一人、谷川雁がどう考えていたのかをはっきりさせたいと思っていたのです。ところがそれをまとめて読むことがなかなかできませんでした。そうした本が出版されていなかったのです。まさかラボ教育センターの本部に赴いて、資料探しをするわけにも行きません。そこにこの本の出版が知らされたのでした。
 昨年の暮れ、私の元にこの本が届きました。読み応えある大部な本でした。
 本の概要は次のとおりです。

■『〈感動の体系〉をめぐって』谷川雁 ラボ草創期の言霊
松本輝夫 編
本文344頁
2018年1月発売
定価3,780円(税込み)
目次
第一部 珊瑚礁のように育つもの――論考、エッセイ、発言・講話録
第二部 [講演記録]人間は「物語的存在」
    ――『ロミオとジュリエット』『国生み』、狂言をめぐって
第三部 [参考資料等]言語(学)を手がかりに世界に新たな挑戦
     鈴木孝夫エッセイ、ラボ・テープ一覧、ラボ用語解説、略年譜


 松本輝夫さんは10年ほど前にラボ教育センター会長を辞した方です。私を言語総研に誘ってくださった方でもあります。その顛末については拙著『実践的演劇教育論-ことばと心の受け渡し』に詳述されています。
 彼はラボを退社してから『谷川雁-永久工作者の言霊』を出版しました。雁の「サークル村」での活動は有名ですが、ラボ時代の思想や運動についてはあまり知られていません。雁の一生涯のトータルな思想や運動を俯瞰できる本を今まで読んだことはありません。そこを書ききった本です。松本さんは学生時代、サークル村の雁を訪ね、ラボを興した雁を追って入社します。松本さんにしか書けない本です。名著だと思います。
 少し詳しく目次を紹介しましょう。


■『谷川雁 永久工作者の言霊』松本 輝夫 平凡社新書 2014/05 264ページ 880円+税
*60年代前半、多くの若者や知識人に多大な影響を与えた谷川雁。思想家や詩人といった枠に収まりきらない彼の思想と生涯を描く。
●目次
はじめに──謎と可能性のかたまり
「おれたちはあくまでオルグさ」/筑豊での雁との出会い
「沈黙の一五年」=ラボ時代は雁の全盛期であった/「下山の時代」の先駆者
第一章 「種子を蒔く事には魂の愉悦がある」──幼時から戦争期の学生時代
母親体験における消えない瑕/『ピーター・パン』との出会い/谷川四兄弟
五高時代の作文「蒔く人・刈る人」をめぐって/「侮戦」「蔑戦」で潜りぬけた戦争期
八か月の兵隊生活
第二章 「血のしたたるようなほんとの生活をしたい」──詩作、日本共産党、青年時代
雲への偏愛とアジアへの親近/井上光晴への弔辞と『ポアン・ホワンけのくもたち』
日本共産党入党とその後の試練/阿蘇の結核病棟での「反省なき日々」
『サークル村』発起の下地/思想的飛躍/長男の早すぎた死と子どもの主題化
「東京へゆくな ふるさとを創れ」/雁にとっての原点/日本の村へのオマージュ
「日本浪曼派の戦後版」/潜在するエネルギーの井戸、思想の乳房
第三章 「ここに酒あり」──「サークル村」「大正行動隊」、筑豊時代
森崎和江との「内的友情」と筑豊入り/『サークル村』創刊/「さらに深く集団の意味を」
「虎を描いて猫に堕した」/「サークル村」から「大正行動隊」への転進
「乗りこえられた前衛」──日本共産党との決別/吉本隆明との連携と共同
大正行動隊内で起こった強姦・殺人事件/大正鉱業退職者同盟の結成
泥沼的争議終結から「同盟村」づくりへ/森崎和江との豊饒な離別
「革命の現在的不能性」をばねに/「立体的な」脱筑豊をめぐって/「ここに酒あり」
第四章 「ことばがこどもの未来をつくる」──ラボ(=テック)時代の一五年
テックへの入社/ラボ・パーティの発起/外国語を媒介にする精神活動を
「第三の女」としてのラボ・テューター/ラボ・パーティは「サークル村」の継承でもある
ラボ活動の骨格形成に献身/ラボは「ストレンジ・カンパニー」/物語へ、ことばの本質へ
「ことばを教える」教育からの自己脱皮/「子ども向き」は子どもへの冒涜
生命の源へ/子どもの本質は「童神」/ラボが「成った」時
第五章 「がらんどうがあった」──ラボに残した物語作品
「ああ、女の子。これはもう、あんまりなことだ」/トムとベッキイにとっての「鍾乳洞のやみ」
日本神話における天地の始まり/格別な吸引力/「物語としての日本神話」にこだわる
第二話「スサノオ」の出だしの謎/物語的存在としての長男空也/原典にない独自の彩り
「非国家的な交流の風」/物語におけるよみがえりの構造/人間は物語的存在である
第六章 「数えきれぬ私の追放歴」の最終篇──なぜラボ退社となったのか
路線上の対立が表面化/経営者谷川雁の過剰と不足/労組敵視政策は何に由来したのか
平岡正明と吉本隆明、それぞれの「支援」の流儀/吉本隆明の谷川雁批判をめぐって
雁がラボ時代を封印した理由
第七章 「源流としての宮沢賢治」──十代の会、ものがたり文化の会
ラボ退社後の軌跡/雁によるテック批判/「ものがたり文化の会」=「賢治への旅」の構え/独創的な高度成長期批判/試みの核心/「賢治からはじまったものがある」
「原点」と「源流」としての縄文
終章 「下山の時代」にこだまする言霊
「あざやかな精神下降」の先達・柳田国男/吉本隆明との対照性/晩年の「妄想」「白昼夢」
「下山の時代」の進展
あとがき


 雁のラボでの思想と行動を考えるにはまず『谷川雁 永久工作者の言霊』でそのアウトラインをつかみ、『〈感動の体系〉をめぐって』で原典に当たるのがいいかもしれません。
『〈感動の体系〉をめぐって』は雁の論考、エッセイ、発言・講話録、講演記録などで構成されているのですが、巻末にある松本さんの解題や解説が周到で秀逸なので、まずはこれに目を通してから本文に入ることをお勧めします。

 ところで、先日、『〈感動の体系〉をめぐって』の出版記念会が東京神田で開かれました。私は呼びかけ人の1人に加えていただき、スピーチもさせていただきました。魅力的な雁の肉声も聴かせていただいたり、錚々たるメンバーのスピーチを楽しみました。テューターの佐藤公子さん、五十嵐伸子さんとの再会、あきあかねさん(ペンネーム、谷川雁研究会『雲よ』執筆者)との出会いなど、嬉しいことも多々ありました。残念だったのは矢部顕さんが足の不調で上京できなかったことです。
 いずれにしても、この本の出版は、テーマ活動の物語論、子ども論、教育論を考える上で貴重なものでした。テーマ活動の表現をめぐっては、さらに、竹内敏晴や鶴見俊輔に登場願う必要があるということが見えてきました。

 そうそう、7月近刊のお知らせです。『地域演劇教育論-ことばと心の受け渡し』(仮、晩成書房)巻頭言として松本輝夫さん、矢部顕さんに原稿をお願いしました。そのうちに詳しくお知らせします。


■『<感動の体系>をめぐって一谷川雁 ラボ草創期の言霊』
        出版祝賀・記念会へのご案内
          2018年2月吉日 主催:谷川雁研究会(代表:松本輝夫)
                       賛同呼びかけ人一同(2枚目参照)
 全国的に厳寒の新年となっていますが、いかがお過ごしでしょうか。
 さて、この度、松本輝夫編の標記大著がアーツアンドクラフツより刊行となりました。
かって詩人、思想家、論客として吉本隆明に勝るとも劣らない存在として屹立していた谷
川雁。しかもほんの数年前まではその雁の「沈黙時代」とか「謎の空白期」とみなされて
いたテック時代(=ラボ草創期)の言霊のほぼ全てをおさめた一巻だけに刊行後まだわず
か1か月ですが、すでに数多の反響を呼び起こしています。
 谷川雁や吉本、村上一郎、あるいは谷川健一、上野英信、(2月10日逝去の)石牟礼道子、森崎和江、さらには「サークル村」や大正炭鉱闘争に関心を寄せる研究者や読書家からは「テック時代の雁がこんなにも真剣かつ雄弁に物を書き語っていたとは驚き。しかも難解が売りだった雁にしては至って読みやすく面白いので感服も」とか「全てがラボ関係者相手の言霊だが、よく読むと<解説>にも書かれているようにラボ以外の人間も納得や発見に導かれるさすが雁!という表現が多々」といった感想を沢山いただいています。
 一方ラボ・デューターの皆さん(元の方も含めて)からは「これはもう何よりの宝物」
とか「私の新たなバイブル」、「ラボのベースを築いた人とは聞いていたが、こんなにも深くて魅力的なことばでラボを語っていたとは素敵すぎて嬉しいかぎり」といった声から「ラボの全デューターに読んでほしい本」といったいささか過激な提案(?)まで夥しい数の反応が寄せられています。
 いずれにせよ、「これまで埋もれていた雁さんのことばを発掘し、集め、一巻にまとめて読めるようにした大仕事に感謝」し、喜んでくださる内容で、それなりの苦労も重ねましたが、今は編者冥利に尽きる日々となっている次第です。
 また雁が、なぜ吉本とは「別な道」を選んで子ども達との共同活動に打ち込んでいった
のか-その謎と活動軌跡が解き明かされる一巻でもあると改めて確信しているところです。
 つきましては様々な意味でそれこそ<感動の体系>でもある本書発刊を共に喜び、祝う
出版記念会を下記の通り開催いたします。ふるってご参集ください。お待ちしています。

                  記
・とき:2018年3月17日(土)午後2時半~6時(午後2時開場)
・ところ:「サロンド冨山房Folio」(出版社冨山房地下1階)千代田区神田神保町
・プログラム:天下無双の言語学者にして雁に匹敵する思想家(先生の言い方では
    ホモ・フィロソフィクス)でもある鈴木孝夫先生による「ラボ草創期における
    谷川雁さんと私」そして「私がラボを応援してきた一番の理由」をテーマに
    した記念大講演(90分前後)が中心プログラムとなります。ただし「私がその
    日まで生きていればね」という冗談半分の「条件つき」ですが、これに対して
    は「万が一の場合は鈴木孝夫を偲ぶ会の第一弾も兼ねるようにしますから
    ご心配なく」と応えています。かってラボの全国を縦断的に回って行なった
    鈴木先生と松木による掛け合い漫才型のやりとりも再現されることになるで
    しょう。他にも<感動の体系>にふさわしい多彩なプログラムを検討中です。

【賛同呼びかけ人】(五十音順)
石川俊文(読書会サークル「鷹揚の会」世話人)
内田聖子(作家。『谷川雁のめがね』著者。元ラボ・デューター)
河谷史夫(朝日新聞元編集委員、論説委員。名うての辛口書評家でもあります)
神山典士(ノンフィクション作家。佐村河内事件スクープでは大宅壮一ノンフィクション
     賞受賞。元ラボ会員)
坂口博(火野葦平資料館館長。筑豊・川筋読書会世話人)
坂本喜杏(冨山房インターナショナル社長。谷川健一全集全24巻や『鈴木孝夫の世界』     全4巻も刊行)
佐藤公子(ラボ・デューター。二十代でパーティ開設以来一貫して<旬>の状態を保ちな
     がらラボの王道を歩み続けて今春が50周年というラボの女神的存在)
設楽清嗣(労働運動家。東京管理職ユニオン創設者。かってテック労組が大変世話になっ
     た恩人でもあります)
正津勉(詩人。詩集をはじめ『風を踏む』等著書多数。谷川雁には昔から多大の関心)
得丸久文(独自の言語学探求。昨秋大著『道元を読み解く』を冨山房インターより刊行)
仁衡琢磨(つくば市でIT企業経営。雁研ならびに鈴木孝夫研究会発起人。元ラボ会員)
林浩司(ラボ教育センター常務取締役)
福田三津夫(長年『演劇と教育』誌編集代表。元教員。ラボ言語教育総合研究所研究員)
米谷匡史(東京外国語大学教員。社会思想史・日本思想史専攻。『谷川雁セレクション』共編者)


  はてさて、出版懸念会からしばらくして、主催者の松本輝夫さんから会の報告が届きました。さすがに、当日の様子がよくわかるので転載させていただきます。


■3・17『感動の体系』出版記念会は新たな感動のうねりと共に無事終了
送信日時:2018年03月24日 19:47:44(+0900)
雁研発第192号:体調不安を抱えながらも敢えて出席してくれた
    鈴木孝夫先生の記念講演をはじめ多彩な人士による
   『<感動の体系>をめぐって--谷川雁 ラボ草創期の言霊』
    刊行を共に喜び、高く評価する熱い祝辞の数々に改めて
    本書発刊の大役を全うできた「感動」と次への励ましを
    果てしなく反芻する一日となりました。出席して下さった
    全ての皆さんに心から感謝申し上げます。
      
         2018年3月24日 雁研代表:松本輝夫

 本日から丁度一週間前の17日(土)、東京・神田神保町で開催された
標記出版記念会はお蔭様で大盛況裏に、かつ「感動の体系」そのものの
現前として実行でき、無事終了いたしました。
 実はその後も雁研がらみ、あるいは本書出版がらみの所用も多々あり、
関西にも寄って、一昨日(22日)大分市に戻ったばかりにつき、
報告が少々遅れた次第です。書くべきこと、書きたいことが溢れるほど
あって悩ましいのですが、可能な限り簡潔に箇条書きで記すことに
いたしましょう。
 1)まずは開会冒頭の司会役仁衡琢磨君の挨拶からして、彼と小生との
長い共同関係をめぐってよく考えられた上でのまことに凛々しく気合の
こもった語りで、会の空気を始めから熱く内容豊かな色調に彩ってくれま
した。彼はつくば市に拠点を置くIT企業経営者として超々多忙な身にも
かかわらず、小生が展開するほぼ全ての活動に同伴し、支えてくれる片腕
どころか両腕のような存在であり続けているのですが、彼が中二の時
(ということは30年以上前!)小生がラボ国際交流の引率者として米国
インディアナ州に赴いた際、その団に彼が交じってくれていた僥倖を改めて
かみしめた次第でもあります。(このようにのっけから雁の言う「感動の
体系」が発露する会だったということです)
 2)編者・松本の基調挨拶が15分ほどあったが、これは割愛。
 3)版元であるアーツアンドクラフツの小島雄社長の挨拶。この元々雁好き
でもある社長との出会いと誼を通じることがなければ、今回の出版は難し
かったかもしれません。併せてこのような大著を今どき出すことに伴う困難
を真率に語ってクリアすべきぎりぎりの「条件」を事前に伝えてくれたこと
が結果として「共同の運動としての出版」に結びついたのですから、この
版元を選んだのは大正解であり、佳いことづくめだったと言えるでしょう。
さらに言えば、この縁を結んでくれたのは実はラボ・テューターであり、
雁研発足時からの熱心な会員でもある忰田麻理子さんだということ。
この得難い人的連鎖もまた「感動の体系」と言えるでしょう。
なお小島社長は挨拶の中で、「次は谷川雁の全詩集、若い時の俳句や本人は
詞集と呼んでいる作品も含めて出したいと考えているので、松本さん、この場
にきておられる米谷さんの協力も得たい」とのこと。もちろん二人とも即座に
快諾となったのはいうまでもありません。
 4)ラボ・テューターを代表するかたちでの佐藤公子さんのスピーチは
特筆すべきものでした。公子さんは翌18日が佐藤パーティ50周年記念発表会
で、その発表等に向けて17日も子どもたちが集って活動しているところを
抜け出すようにして参加してくれたのですが、「本書を読んで一番驚き、かつ
感動したのは谷川雁さんはテューターでもないのに、何故こんなにも子どもたち
の心身の動きがよくわかり、全身全霊で寄り添えるような文章が書けるのか、
ということ。だから読んでいていちいちことばが胸に染みてきて、私が50年間
ラボをそれなりに頑張ってやってこれたことの理由と意味もよく納得することが
できた。テューターが書こうとしても書けない文章でテューターが一番言いたい
こと、思っていること、願っていることをものすごい説得力で表現している大著
一巻。なので、感動のあまり正月三が日だったのに、こんな本を出してくれた
松本さんに直接その気持ちを伝えたくて電話までした次第」と話してくれました。
50年もの歴史を刻んでなお全国でも指折りのパーティ規模をキープしつつ、
超異年齢の数多のラボっ子と共同して、佐藤パーティならではのテーマ活動を
自在に楽しみながら創りつづけているラボの女神的存在ともいうべき公子さんから
ここまで高評価されて、今は天界に遊ぶ雁の御霊もきっと大喜びしていること
でしょう。
 5)鈴木先生の記念講演。本当のことを言えば、先生は三年ほど前に患った大病
の再発が疑われるこの頃で、顔色も決してよくないのですが、「他ならぬ松本
さんの大事」であり、また「どうせもう満91歳にもなっているのだから充分
生きすぎと周りでも言われるので、仮に講演中に倒れてもそれもまた本望と割り
切って」、相当な無理をして参加してくださったのですが、1時間余、例に
よって立ったままの講演はさすがでしたね。
いつもの切れ味はやや乏しかったかもしれませんが、ともあれ鈴木先生が約束
通り姿をみせてくれ、地球と人類の現状に深い懸念を示すとともにそうであれば
こそ本来欧米とは異なる文化・文明をもつ日本が果たすべき役割が大なることを
力説し、そうした文脈において谷川雁が子どもたち、テューターから学びながら
英語優先主義やネイティブ英語講師志向は斥けつつ母語である日本語をとことん
大事にする外国語教育、母性豊かなテューター集団づくりに賭けていった大志と
言語哲学は今からみても高く評価できるとの講演でした。
なお先生は午後6時半からの二次会にも参加、生ビールで乾杯も共にされたくらい
ですから、まだまだ講演中に倒れてそのまま…という望みがかなうことは
なさそうですね。
 6)休憩後はまず雁の肉声を聴くということで、本書第二部収録の「ラボ・テープ
になぜ狂言か」講演記録CDを流したのですが、会場のデッキとの相性が悪かった
のか音声があまりよく聞き取れなかったので、途中でこれは取りやめに。
それでも「雁さんの肉声が少しでも聴けてよかった」との声を少なからずいただいて、
安堵した成り行きでもあります。
 7)この後は、林浩司(ラボ教育センター常務)、米谷匡史(東京外国語大学教員。
『谷川雁セレクション』共編者)、正津勉(詩人)、福田三津夫(演劇教育のプロ
フェッショナル。ラボ言語教育総合研究所研究員)、張厚泉(上海・東華大学教員)、
森史郎(松本の浦和高校・高一時からの旧友)さん等からの祝辞をいただき、
それぞれに有難く嬉しいスピーチだったのですが、割愛させていただくことにして、
今回初めて会うことができ、強烈な印象を残してくれたお二人のことだけを特記して
おきましょう。
 一人は、前田速夫さん。新潮社で定年まで有能な編集者として活躍し、車谷長吉を
はじめ多くの作家を世に送り出したことで知られる方ですが、一方で民俗学への関心
やみがたく、定年退社とほぼ同時に谷川健一に弟子入りしたというユニークな経歴の
持ち主でもあります。冨山房の坂本社長によれば、谷川健一に従って宮古島に赴いた
際、何度か氏が一緒だったとも。で、今回の出版記念会については民俗学に関わる
著書をアーツアンドクラフツから刊行している関係で知ることになり、雁にも当然関心
を抱いているので参加したとのこと。「できれば谷川4兄弟についての本も書いて
みたい」とも。
 また近年の沖縄発季刊誌『脈』特集の充実ぶりには編集者としても目を見張っていた
ところ、その「本土側」中心人物の一人が松本という男だとわかっていたので、ぜひ
会ってみたかったとのことでもあります。氏は『脈』86号、92号に執筆者として
名を連ねてもいます。小生としても以前から目をつけていた人物でもあるので、今後
共同活動が始まる可能性もあるでしょう。これまた雁の「工作」力が結んでくれた
新たな縁ですね。
 もう一人は韓国人研究者である申知瑛(シンチヨン)さん。米谷さんから紹介うけて
電話で参加申込みしてきた方で、韓国の研究空間<スユ+ノモ>という研究者
共同体みたいな興味深い「空間」の研究員であるとともに日本では今は津田塾大学等
の非常勤講師を務めているが、驚くべきは森崎和江作品の韓国語訳をすでに済ませて
(作品名は聞かず)現在は谷川雁の文章の韓国語訳に取り組んでいるとの話。
どの文章の翻訳がどのくらい進んでいるか、までは聞く時間がとれませんでしたが、
ともあれ、どうみてもまだ若い韓国人女性が、何度も「谷川雁」と呼びすてで親しみ
込めて語る凛々し気な姿につい聞き惚れ、見とれてしまいましたね。
 次の上京時には米谷さんと一緒にぜひ会って、ゆっくり話を聞いてみたいとも思った
次第です。
 さて、祝辞の最後にふったのが、ラボ・テューターの五十嵐伸子さん。この方は昨秋
事前予約の受付を開始するや、すぐになんと10冊分4万円を振り込んでくれた方です
が、茶道の先生でもあり昔から着物姿が美しい人として我が脳裏に刻まれてきた方でも
あります。で、今回参加申込みをうけるや、「祝賀会でもあるのでできれば着物姿で」
と依頼すると本当にその姿で現れてくれたのでした。その上で、「私は佐藤さんの50年
には及ばないが、40年はテューターの道を歩んできたので雁さんの話をラボで直接
聞いた最後の世代。今回の本を読んで雁さんの溌剌とした姿と語りが蘇ってきて嬉し
かったし、改めて励ましもうけたので、雁さんを知らない比較的若い世代のテューター
に読んでもらおうと思って声をかけたら皆快く買ってくれた。昨秋、すぐに10冊
求めたのは、私が声をかければ皆協力してくれると楽観できたからだが、松本さん
の活動を是非応援したいと思ったからでもある。だから今日は私がもっている着物
の中でも一番上等な着物を選んできた」との何とも涙がでるほどに有難い祝辞。
 ーー長くなりましたが、かくして出版記念会は、まさしく「感動の体系」にふさわしい
感動のうねりを巻き起こしながら閉会となった次第です。
 改めて参加してくださった全ての皆さんに御礼申し上げます。
                       以上

 追記:本当はこの後、出版記念会翌日からのことも書く予定だったのですが、
これだけでも長文すぎるので、号を改めて書くことにいたしましょう。
なお出版記念会には下記の方からお祝いメッセージをいただきました。
併せて感謝申し上げます。
(敬称略)
坂口博(筑豊・川筋読書会世話人)、松岡素万子(ラボ・テューター)、田尻裕子
(ラボ・テューター)、間瀬えりか(ラボ・テューター)




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