後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔407〕ようやく、名優・伊藤巴子さんの『舞台歴程-凜として』(一葉社)を手に入れました。

2021年10月13日 | 図書案内
  伊藤巴子さんという名優をご存じでしょうか。彼女の略歴については「著者紹介」をご覧ください。まさに名優、大女優の一人と言っても過言ではありません。
 私にとっては『乞食と王子』(『王子と乞食』ではない)で主演している彼女を見たのが最初の出会いでした。実にしなやかで表情豊かな演技に引きつけられあっという間に彼女の虜になってしまいました。当時はすでに年輩の女優さんでしたが、歳を感じさせない輝きがありました。
 彼女の名前を一躍有名にした『森は生きている』の舞台は残念ながらこの目で見ることはできませんでした。しかし、私が東久留米市で教師をしていたときに、演劇鑑賞教室実行委員として劇団仲間の「ちいさなけしの花」を東久留米市の小学校の巡回公演に招致することに成功しました。伊藤さんも出演の劇で子どもたちと一緒に至近距離から舞台を鑑賞することができたのです。その顛末が、本文「劇団仲間『ちいさなけしの花』-デビット・ホ-ルマンさんからの贈り物」に綴られています。

 親しくお話しさせていただくようになったのは日本演劇教育連盟の演劇鑑賞教育研究会というサークルに参加したときでした。刀禰佳夫さんや副島功さん、市橋久生さんとご一緒させていただきました。彼女は連盟の顧問をされていたということもあり、私のミニコミ「啓」を送らせていただき、懇意にしていただいたのです。
  『舞台歴程-凜として』は彼女の初めての本です。数年前に発行されていたのは当然知っていたのですが、ひょんなことから最近手に入れたのです。
  伊藤さんは本書を出版され半年後の2016年12月に逝去されました。以下は2016年12月19日付の朝日新聞(朝刊)の訃報です。私の手帳に切り抜いて貼り付けておいたものでした。

●伊藤巴子さん(いとう・ともこ=俳優、本名舟本巴子〈ふなもと・ともこ〉)が17日、心不全で死去、85歳。故人の遺志で葬儀は行わず、後日しのぶ会を開く予定。連絡先は一葉社(03・3949・3492)。
 東京都出身。児童演劇の普及活動などに取り組んだ。


  『舞台歴程-凜として』は第1幕は日本の劇団上演に触れたもの、第2幕は中国・韓国のもの、第3幕は米国、欧州、ロシア、豪州、キューバのものを発表順に収めています。発表誌は『悲劇喜劇』(早川書店)、『月刊 音楽広場』(後に『月刊 クーヨン』)、『演劇と教育』(晩成書房)の3誌です。
  「プロローグ 演劇で輝く子どもたち」は第57回全国演劇教育研究集会(日本演劇教育連盟主催)の記念公演でした。2008年、東京学芸大学での穏やかだけど凜とした語り口が脳裏に蘇ってきました。


○『舞台歴程-凜として』伊藤巴子、一葉社、2016年5月、398頁
〔以下、一葉社HPより〕
■著者紹介■
 1954年、俳優座演劇研究所附属養成所卒業、劇団仲間入団。養成所在籍中に俳優座劇場杮落とし公演『森は生きている』で初舞台。以後、『乞食と王子』で主演(57年から通算1580公演)、『森は生きている』で主演(58年から通算2000公演)の記録樹立。『かぐや姫』『華岡青洲の妻』『花いちもんめ』『婉という女』『人形の家』『風浪』『少年王 マチウシ』等数かずの舞台に立ちつつ、中国をはじめ各国との演劇交流に尽力。全国各地の児童青少年演劇活動も支援。
 日本児童青少年演劇劇団協議会代表幹事、日中演劇交流話劇人社理事長、湯浅芳子の会会長などを歴任。山本安英賞、日本児童演劇協会賞、紀伊國屋演劇賞などを受賞。2015年、日中演劇人の友好と相互理解促進で「文化庁長官表彰被表彰者」に。        

■内容紹介■
 『夕鶴』の劇作家・木下順二氏らの推奨により本物の演劇人にのみ与えられるあの山本安英賞を受賞し、世界的な名作『森は生きている』の主演で通算2000公演超えの記録を樹立!――俳優座養成所を卒業して「劇団仲間」創設以来、フリーランスで活躍する現在までの60年余、『森は生きている』ほか数かずの記念碑的作品を演じつづけ、要職に就きながら中国をはじめ各国との演劇交流に尽力し、全国各地の児童青少年演劇活動の支援や指導に取り組む伝説的な舞台女優初めての書。
 北海道から沖縄まで全国各地で芝居を創りつづけたこれまでの舞台一筋の軌跡と、国内はもとより中国・韓国・豪州・ハワイ・西欧・北欧・ロシア・キューバへと世界の演劇を観つづけた感動・発見の旅、そして揺るぎなくも温かく柔らかい視点からの劇評と演劇人物評等あわせて116篇を収録。
 名女優は、舞台の上で凜として立ち、時間も空間も、おとなと子どもの境界線も飛び越える。

■もくじ■
 プロローグ 演劇で輝く子どもたち

   第一幕

「婉」に会う
『森は生きている』を知っていますか
中村俊一さんとの三〇年
西田堯舞踊団の公演
私の芝居の原点・岩手県西根(田頭村)
『森は生きている』一四三九回公演
東京演劇アンサンブル・ブレヒトの芝居小屋にて
オペラシアターこんにゃく座の公演
湯浅芳子さんの品格
劇団コーロ『私が私と出会う時』
「四万十川こども演劇祭・’93夏」
「岡本文弥九十九歳歌います」
大井弘子さんの「ビバボ人形劇」
私の歩く道を決めた『森は生きている』
人形劇団ひとみ座創立四五周年
川尻泰司さんとの告別
劇団風の子の民話劇
劇団仲間『ちいさなけしの花』
青山杉作先生の助言で
東京演劇アンサンブル『奇跡の人』
沖縄の洞窟で上演された『洞窟』
デビッド・ホールマン『すすむの話』
美しい日本語の舞台『ふたりのイーダ』
大阪の劇団コーロの『ときめく時にさそわれて』
組オペラ『隅田川/くさびら』
青年劇場『遺産らぷそでぃ』
杉村春子の『華岡青洲の妻』
『クニさんとひろ子さんのふしぎだな』
人形劇団プーク『ジェニー』
木山事務所プロデュース『はだしのゲン』
『My Love Letter』
兵庫現代芸術劇場主催・企画『シャドー・ランズ』
岩手県湯田町のぶどう座
劇団昴『噓つき女・英子』
青年劇場『こんにちはかぐや姫』
高瀬久男作・演出『この空のあるかぎり』
世田谷パブリックシアターでの『コルチャック先生』
坂東玉三郎の『夕鶴』
オペレッタ劇団ともしびの訪韓公演
高知県春野町ピアステージの歴史に残る舞台
ミュージカル『スクルージ』
調布市民演劇センター公演
田頭村・長沼民次郎さんとの告別
楽劇団いちょう座の豊かな想像の世界
東京芸術座『勲章の川――花岡事件』
文学座『THE BOYS』
劇団ひまわり『ベイビー・ラブ』
上田演劇塾の開塾
子ども目線でつくる劇団風の子
音楽劇『ちゅうたのくうそう』
演劇集団円+シアターχ提携公演『インナーチャイルド』
兵庫県立ピッコロ劇団『ホクロのある左足』
きんか舎公演・早坂久子『雁の帰るとき』
『小さき神のつくりし子ら』
こんにゃく座・林光オペラアンソロジー
上田演劇塾「いのち」
劇団風の子東京公演
文学座公演・別役実『最後の晩餐』
きんか舎公演『それゆけ、クッキーマン』
きんか舎公演『少年王 マチウシ』
前進座『大石内蔵助――おれの足音』
日本フィルハーモニー交響楽団
スウェーデン大使館児童青少年演劇祭
藤原新平語録
演劇集団円『くすくす、げらげら、うっふっふ』
飯沼慧さん
『火山灰地』
『森は生きている』一八九五回上演
菊地勇一さんへのラヴレター――追悼
私の初舞台と問われて
追悼・広渡常敏さん
こんにゃく座『オペラ想稿・銀河鉄道の夜』
大澤郁夫さんを悼む
西田堯さんを偲ぶ

   第二幕

『森は生きている』上海公演
昆劇女優張継青さん
上海昆劇大会
上海人民芸術劇院『家』日本公演
活気ある中国話劇界
中国を見つめることは日本を見つめること
天津芸術学校・少年児童京劇芸術団の舞台
韓国の三人の老俳優
中国の旅の思い出
名作『馬蘭花』と任徳耀さん
ジョン・ラーベ『南京の真実』
江蘇省京劇院日本公演
過士行作『棋人――チーレン』日本公演
劇団サンウルリム『ゴドーを待ちながら』日本公演
現代劇『非常麻將』と京劇『宰相劉羅鍋』
広州国際小劇場演劇祭・宮本研『花いちもんめ』
中国江西省・民間伝承芸能「儺舞戯」
英若誠さん追悼

   第三幕

憧れのレニングラードへ
ホノルル児童・青少年劇団『さよなら、サモア』
メルボルンで観た子どもたちへのオペラ『月の戦車』
フライング・フルーツ・フライ・サーカス
ロシア国立ペルミ・バレエのガラ公演
ロストフ国立青少年劇場から招かれて
キューバで観たミュージカル『モモ』
たったひとりの人形劇団モネゴイル
デンマーク演劇祭での経験
演出家コロゴッスキイさん
ストックホルム「国境のない演劇祭」
北欧への旅
アントニオ・ガデス舞踊団『アンダルシアの嵐』
フィンランドの演劇事情
ユーゴザパド劇場『どん底』を観た幸せ
『おじいちゃんの口笛』
スウェーデン、デンマーク演劇の旅
モスクワ劇場めぐり
静岡芸術劇場でのリトアニアの『マクベス』
ピーター・ブルック演出『ハムレットの悲劇』
映画『魔王』が告発する「ヒトラー・ユーゲント」の狂気
マールイ・ドラマ劇場、ドージン演出『兄弟姉妹』

 エピローグ 子どもの芝居に不可欠な理想主義、気品、凜としたもの

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