[分析結果の補足説明]
非常時指令官(National Incident Command:NIC)を中心とした緊急時対応: 原油流失に対処するための関係機関の努力は極めて積極的であった。 円グラフ(図1)に示されているように、人為的対処の努力は流出原油の33%を回収することに成功した。 これには油井パイプ挿入チューブとトップ・ハット・システム(17%)による回収、燃焼(5%)、すくいとり(skimming)および化学的分散(8%)が含まれる。 直接採取、燃焼、およびすくいとり水から油を完全に取り除くが、以下で議論するようにそれが生物的に分解されるまで、化学的に分散している油は水中に残っている。
化学処理剤による分散: 見積りに基づくと、自然に原油の16%は海洋の鉛直構造の水柱(water column)の中で自然分散し、また8%は海面の上および海面の下の化学分散剤の散布で分散された。 自然分散は高速でライザー管から油がわずかな小滴状態で水中にスプレーされた結果で起きた。 そのこの分析の目的のために、‘分散された原油'は人間の髪の直径に相当する100ミクロン未満の小滴と定義された。 ごく小さいこれら油滴は、自然に浮揚性があって、その結果、次にそれらが生物分解し始めるところで水柱に残っている。 化学的分散では、またそれが大きい表面油膜が浜に上がるのを妨げるためにわずかな小滴に油を壊れさせるため、それは生物分解のために容易により利用可能になる。 化学分散剤は海面およびその下で適用された。 したがって、化学的に分散された原油は水柱における深部みと表面のすぐ下では作業は終わった。 分散剤は減油が水柱と表面で生物分解される可能性を広げる。分散剤は少量な量でさえ、それが生物分解されるまで自然的または化学的に分散された油は弱い生物には毒性がある。
蒸発(Evaporation)と分解(dissolution): 流失原油総量の25%がすぐに自然気化したか、または水柱に溶けたと見積もられている。 蒸発と分解割合の推定は、ディープウォーター・ホライズン事故の間に行われた科学的研究と観測データに基づいている。
「溶解」は「分散」と異なる。「溶解」は油からの個別炭化水素分子(Hydrocarbon Molecules)がちょうど水で砂糖を溶かすことができるように水の中に分離して溶ける過程である。一方、「分散」は油のより大量が油のよりわずかな小滴へ砕ける過程である。
残余部分の問題: 直接測定するか、または見積もることができるカテゴリー(すなわち、直接回収、分散、蒸発、および分解)を計算した後におよそ26%が残る。 [図1]はそれのすべてが測定するかまたは見積もることが難しいカテゴリの組み合わせである。 それはいくつか海面上、または海面下でまだ軽い輝き物またはタールの塊の形のもの、岸に漂着したりまたは岸で集められた原油、さらに砂と沈殿物の中に埋められ時代を通して再浮上されるかもしれないいくつかの原油を含んでいる。 また、この原油は自然回復過程の中で分解し始めた。
生物分解(微生物分解): 水柱における分散油と水面の油は自然に生物分解する。 湾の中の生物分解のレートを定量化するために行われるより多くの分析がある一方で、多くの科学者からの早期の観察と予備研究の結果は、BP Deepwater Horizon流出からの原油がすぐに生物分解しているのを示している。 NOAA、EPA、DOE、および科学アカデミーの科学者は、この分解率のより正確な推計について計算するために働いている。 原油の溶解や分散については表面油を破壊するバクテリアが機能することはよく知られており、メキシコ湾は大部分が温水、好ましい栄養物および酸素レベルが豊富であることから自然を通して定期的にメキシコ湾に流入する原油の掃除機能があるという事実になじむ。
[分析方法と推定に関する説明]
流速(flow rate): 原油の結末推計計算(Oil Budget Calculator)は流出の過程の上で放出された油の総量の推計からは始めた。 最も新しい推計は米国地質調査所の(USGS)ディレクターのマーシャ・マクナットが率いるNICの”Flow Rate Technical Group:FRTG”、およびでエネルギー省長官スティーブン・チュウによって導かれたエネルギー省(DOE)のチームとによる科学者と技術者による議論と共同作業を反映したものである。 このグループは、約490万バレルの原油が2010年4月22日から原油流失が一時中断した7月15日の間にBP Deepwater Horizon現場から流失したと見積もった。この見積りの不確実性は10%+である。 図1の円グラフはこのグループの490万バレルの原油流失量の見積りに基づいている。
直接的流失測定と最高の推定: 原油の結末計算はどこでも可能な方法でありまた計測が不可能なときは科学的に可能な推定に基づいている。 直接回収量や燃焼量は、毎日の調査作業上の報告で直接測定され報告されたものである。 毎日のすくい取りの量もまた報告に基づき推計下ものである。残りの数値は過去の科学的分析や入手可能な情報ならびに広い科学的専門知識に基づいている。 これらの数値は、追加情報と継続的な解析に基づいて精製され続けるであろう。 これらの計算方法の詳細については、2010年8月1日から”Deepwater Horizon Incident Budget Tool Report”の中で2010年8月1日からオンラインで利用可能である。同 ツールは国土安全保障省合衆国沿岸警備隊、NOAA、およびNISTとの共同作業に基づき連邦地質調査局によって作成された。
[今後の継続的モニタリングと調査]
原油、分散剤、生態系の影響および人間への影響に関する我々の知識は発展し続けるであろう。連邦機関と多くのアカデミックで独立した科学者が活発に原油の最終的運命のより良い理解や搬送および影響について追求している。 連邦政府は定期的に活動、結果およびデータを広く国民に報告し続ける。 www.restorethegulf.gov で最新内容の情報を見つけることができる。また、www.geoplatform.gov では対処とモニタリングに関するデータを見ることができる。
DOI、NASA(航空宇宙局)およびNOAAは、ガルフ湾の表面で油のままで残る量の理解を精緻化し続けている。 NOAAの対応チームはタールの塊や水面下の原油の監視戦略につきの統一指揮官(Unified Command)と共に働いている。研究者はそこで原油の集中、分配、および影響等をモニターするために水面下のスキャンと標本抽出を続けている。 EPAとNOAAは、慎重に湾における分散剤のBP社の使用所状況をモニターして分散剤と原油成分の存在のために特別な注意を払い、空気、水および沈殿物をモニターし海岸線の近くで人々の健康影響への特別な注意を行っている。 多数のNOAA、全米科学財団(NSF)によって資金を供給された学術研究者、およびNOAA専属科学者は生物的分解、生態系(ecosystem)および野生生物への影響の割合を調査している。 DOIとDOEの対応チームは、環境に自然に残る油の正確な測定方法のコントロールすることを保証できる適切な方法に開発について働いている。 DOIは原油の地域的な野生動物、天然資源や公有地における影響を最小限化するためのリーダー的役割を担っている。
BP社の油井流失個所のキャピング作業により海岸線、魚、生態系への脅威は減少しているにもにもかかわらず、連邦機関専属科学者によるメキシコ湾の生態系への重大な懸念は依然残されている。その意味で引き続きのこれらの問題に関する完全な理解を得るためのモニタリングと調査が重要である。」
なお、NOAAの具体的BP社の原油流失事故へのresponseについては6月29日の本ブログで詳しく紹介したので参照されたい。
(2)同報告の批判的考察
連邦機関(NOAAやNIST(筆者注5)に所属する科学者を中心にまとめたものであり、一方、日常的に陸海空にわたる多面的な日々の調査活動から得られた結果をもとに書かれたものであることから科学的根拠に基づくものであることは間違いない。
しかし、かえってその結論部分には説得力が乏しいように思える。すなわち微生物による自然分解や気化により41%が消失したと言うくだりになると全体の推計計算の信頼性に疑問がわいてくる。
①現地での正確な情報を巡るメディアの視点と読者の参加
メキシコ湾およびその周辺湾岸、河川等における原油の流失状況を定点観測しているメディアも多い。例えば、CNNの“Gulf Coast beaches update”や読者の投稿専用サイトである“iReport”を斜め読みしてみた。一般向にまとめられており、素人にも分かりやすい内容や図解があり、そこでの紹介される写真やレポート・ビデオの各閲覧数は数千とかなり多い。
そこで見られる特徴を掻い摘んで紹介する。
“Depths of the disaster” :日々の原油流失量(総量490万バレル)の推移やメキシコ湾地域の3年以上にわたる潜在的経済的損失227億ドル、BP社の文書苦情受付件数85,923件などキーとなる数値が読みとれる。
“Map: Impact of the oil disaster”:湾岸9箇所の拠点からの漁業禁止海域や撤去作業の画像報告等が見れる。
②後述するEHAのメルビン・クレーマー博士の問題指摘やIOMが開催した7月の研究会等でも指摘されているとおり、2002年11月19日、スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故の影響はスペインやフランス等近隣国の清浄作業員や地元住民の健康や自然環境への影響の分析は数少ない研究成果として貴重なものであるにもかかわらず、そのフォロー研究は決して十分ではない。
③米国の地球温暖化や核エネルギー、クリーン・エネルギー施策等を提言している先進的科学者グループ(NPO)で、最近筆者も参加した「米国憂慮する学者連盟(Union of Concerned Scientists:UCS)」(筆者注6)によるエネルギー政策提言
5月5日付でUCSは「原油流失対策は表面的油井のセメント固定という取組だけではなく米国の石油依存体質を見直す石油節減政策でなくてはならない」と論じている。環境問題の根本的な解決なくして今回のような原油深海掘削施設の爆発事故や老朽タンカーの海難による原油汚染は後を絶たないといえよう。
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(筆者注5)“NIST”は米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology, NIST)であり、1901年に設置された連邦商務省傘下の物理科学技術部門の最先端研究機関であり非規制・監督(non-regulatory )機関である。
(筆者注6) “UCS”が専門分野として専門家を擁している分野は次の8分野である。
①科学的公平性(scientific integrity)(この用語のもととなる理念はどのようなものであろうか。あくまで推測であるがオバマ大統領が2009年3月9日に連邦機関のトップ管理者に宛てたメモ「タイトル: Scientific Integrity」との関連を探ってみた。目指すところは同一なのであろう。大統領は「国民は公共政策の決定に当たっての科学と科学的過程を知らねばならないし、公務員は科学的・技術的な調査結果と結論を抑圧・変更すべきでない。また連邦機関は科学技術に関する情報の開発・使用するなら広く国民も利用できるものとしなければならない。この連邦政府は連邦機関の科学・技術過程の完全性につき最高レベルを保証するため「科学技術政策局長(Office of the Science and Technology Policy)」にその責を持たせた。」と述べている。)
一方、この点でUCSサイト(Scientific Integrity)では連邦機関の科学情報の政治干渉により米国の直面する難問への対応能力を弱めている(まさに今回にBP社の原油流出への対応がその例にあげられよう)。連邦や議会の政策立案者は情報に基づく決定を行うため詳細な情報に依存する。このため我々はこれらリーダーたちが自身の健康、安全や環境を完全に守るため改革を後押しするのである。UCSサイトでもオバマ大統領に対する連邦政府の政策立案に関し具体的な科学的公平性勧告を行っている。
②地球温暖化(Global Warming)
③クリーンな乗り物(Clean Vehicles)
④クリーンなエネルギー(Clean Energy)
⑤原子力(nuclear Power)
⑥核兵器およびグローバルな安全性(Nuclear Weapons & Global security)
⑦食物と農業(Food & Agriculture)
⑧侵入生物種(Invasive Species)
なお、余談であるが最近UCSからどのような研究分野で協力できるかについて照会メールが届いた(筆者はオブザーバ参加であるのであるが)。
内容文は次のとおりである。
“I want to personally extend a warm welcome, and tell you a little more about all that is available to you on our website and via e-mail.
First, I want to make sure you know that your involvement is helping UCS work for a cleaner, healthier environment and a safer world. Your
action supports and amplifies our independent voice for change that is
based on solid scientific analyses. And finally, your passion about the
issues helps motivate policy makers and business leaders to take
positive steps toward addressing some of the most critical environmental and security challenges of our time.
But beyond saying thanks, I want to let you know about the variety of
ways you can keep informed about our work together and take action on
the issues you and I both care so deeply about.”
Sincerely,
Kevin Knobloch
President
ここまで読まれた読者は気が付くであろうが、筆者に対する「かすかな期待?」がうかがえる。さて、筆者は東大「サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)」等にもオブザーバーとして協力・参加しているのであるが、元々社会科学系の人間である筆者としてはどのように返事を書いたらよいのやら、誠意を持った対応は当然であるが、悩ましい限りである。
[参照URL]
・NOAAが発表した科学者の報告「ディープウォーター・ホライズンの結末:原油流失事故で結果的に原油に何が起きているか( BP Deepwater Horizon Oil Budget: What Happened To the Oil?)」
http://www.deepwaterhorizonresponse.com/posted/2931/Oil_Budget_description_8_3_FINAL.844091.pdf
・FDAのフロリダ州沖の海産物の安全宣言
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm220843.htm
・FDAのミシシピー州沖の海産物の安全宣言
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm220841.htm
・全米科学アカデミー医学研究所(IOM)が7月22日、23日に主催した研究会「メキシコ湾原油流失による人の健康被害に関する科学的評価」
http://www.iom.edu/Activities/PublicHealth/OilSpillHealth/2010-JUN-22.aspx
・欧州委員会の輸入品目規制のうち「第三国リスト」に関する決定
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:328:0070:0075:EN:PDF
・2002年スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故の人体への影響検査報告
http://ajrccm.atsjournals.org/cgi/reprint/176/6/610
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