Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦政府、関係州政府や連邦規制・監督機関等の対応(第1回-2・完)

2010-06-24 15:34:13 | 国際政策立案戦略

4.連邦エネルギー省の対応
 連邦エネルギー省のチュウ長官(Steven Chu)は「Deepwater Horizon」専用サイトの冒頭で、「透明性原則は公益面だけでなく科学的な対応過程の一部である。我々は独立性をもった科学者、技術者およびその他の専門家が、この事故情報につき見直しかつ自らの結論を下すべくあらゆる機会を確認すべきである。」と述べている。

 また、同省は「オバマ政権のBP社時原油流失に関する透明性をもった現下の取組機関として、現地原油流失の図解(schematics)へのオンラインアクセス、加圧試験(pressure test)、診断結果および誤作動している噴出防止装置(blowout preventer)やその他のデータを提供している」と説明している。

 同省のサイトでは、全面的にBP社の直接的提供データに基づき極めて専門的な図解解説を行っている。しかし、皮肉にもBP社は、司法省の言明を待つまでもなく環境保護面だけでなく労務管理なども含め適切な対応を取ってこなかった「地球を壊す穴掘り企業」の代表になった。この点につきエネルギー政策全体の監督庁であるエネルギー省長官や連邦内務省の下部機関で石油やガス施設の掘削認可・監督機関である「海洋エネルギー管理、規制・執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)(同局は6月17日即日施行で従来の「鉱物資源管理局(Minerals Management Service)」の責任者である内務省長官ケン・サラザール(Ken Salazar)氏は、6月16日のBP社との協議の場には出席していない(筆者にはその辺の背景までは推測できない)。これらの対応のアンバランスさはオバマ政権の「エネルギー政策の脆弱性のあらわれ(energy vulnerability )」といえるかもしれない。

5.連邦環境保護庁の対応
 連邦環境保護庁(U.S.Environmental Protection Agency:EPA)は「メキシコ湾原油流失に対するEPA対応」サイトを立ち上げている。同サイトでは、まず「BP社による分散化剤(dispesants)の安全性、環境面から見た解説」に重点が置かれている。
 ここでは6月14日時点のサイトの内容に基づきその要旨のみ紹介するが、この問題に関し専門家でない地元住民等にも理解できるよう電話会議の内容も含めリリース内容が全面的に公開されている。これらの公開の確保が「風評防止」に役立つことは言うまでもない。

(1)原油流失に伴う分散剤の使用許可と環境、水質など安全性検査結果(記者会見、声明発表、電話会議録写し)
 今回の原油流失危機が発生した際に、沿岸警備隊とEPAはBP社に対し流失の影響を削減させるため水面上の現有原油への「許可された分散剤(2-Butoxyethanol および2-Ethylhexyl Alcohol)」の使用許可を与えた。
 この使用許可は、環境保護および影響を受ける地域住民の健康を保証するための一定の条件を含むものである。現在BP社は水面における分散剤の使用を継続することが認められている。近隣住民への情報提供とその健康保護を保証するため、EPAは継続的に航空機による大気のモニタリング、常設および移動式飛行場を使い湾岸地区の大気質(air quality)のモニタリングを行っている。

 ・EPAおよびUSCGはBP社に対し、Deepwater Horizonの原油流失源における水中での分散剤の使用を許可した。予備検査結果では水面下の分散剤の使用により表面に達する原油量の削減効果があることを示した。
 BP社が水面下での分散剤の散布を行っている間、連邦政府はその効果、環境・水、大気質ならびに厳密なモニタリング・プログラムに基づく人間の健康への影響に関する定期的な分析の実行を要求する。このためEPA指示命令は、BP社が環境保護および国民の健康を保証するために厳格に遵守すべき監視計画を含んでおり、EPAは分散剤の使用がもし環境への効果以上にマイナスの影響を与えると判断するときは、ただちにその使用を停止させる権限を留保する。

・具体的に分散剤の使用による環境への影響へのモニタリングの各カテゴリー別結果概要
①空気データ:2010年6月12日までの間にEPAが行ったモニタリング結果においてオゾンおよび微粒子物質(particulates)の大気中の濃度は、この時期の通常の海岸線地区の数値としては正常値内にある。EPAは低レベルの海岸線における石油製品が関連してにおいが引き起こす汚染物質につき観測した。これらの化学物質は頭痛、目や鼻やのどの炎症、吐き気を引き起こすものであり、同地域は通常低レベルであることから住民は短期的に臭いのため健康上の問題を引き起こすことがありうる。

②沈殿物(sediment)データ:6月1日までに海岸線で収集された沈殿物サンプルでは通常、石油中に含まれる化学物質の上昇値は見られなかった。

③石油廃棄物(waste)管理データ:EPAはメキシコ湾に沿って石油残骸物(oil debris)、原油の塊(tar balls)、ムース・オイル(mousse oil)(重質油が時間の経過により固めのグリース化したもの)およびその他の石油廃棄物(other petroleum waste products)の収集のための専門家チームを配置した。その予備検査では通常、石油製品にみられる化学成分のみが検出され典型的な健康保護を取るべきというものであった。
 なお、EPAの沿岸水質検査(Coastal Water Sampling)として5月22日~23日にかけて ルイジアナ州の海岸10箇所で採取した権検査の結果では、BPが使用許可された「分散剤(2-Butoxyethanol および2-Ethylhexyl Alcohol)」は検出されなかったと報告されている。

6.連邦司法省の取組み
 これまで述べた州や連邦機関に比べると腰が引けているというか連邦議会等政治的問題との調整について意識過剰なところが鮮明にうかがえる。とはいえ、6月1日、ホルダー司法長官は記者会見において現地視察結果を踏まえ司法省の取り組み方針につき以下のとおり言明している。
①本日の朝に我々が見たものは何マイルにもわたる原油であった。我々が見た原油は海岸線に沿ってすでに植物や動物の生態系に悪影響を与え、かつこの地域の人々の日々の生活に多くの影響を与えている。今回の災害は悲劇(tragedy)そのものである。
 私自身、この事故で忘れられない点が1つある。我々の環境やガルフコーストのコミュニティが被った莫大な費用に加え、4月20日の爆発と火災により11名のrig作業員の貴重な命が失われたことである。

 我々は爆発とその後の原油の流失の原因を調査することで、これらの貴重な命の価値を決して忘れないことをアメリカ国民に確約する。

②今回の事故対応の早期の段階において、我々はニューオリンズでの活動すなわちガルフコーストの近くで働いたり住んでいる人だけでなく、アメリカの納税者や同地域の環境や野生生物の保護するため、連邦司法省の環境・天然資源部長(Environment and Natural Resources Division)であるイグナシア・モレノ(Ignacia Moreno)市民権部長(Civil Division)であるトニー・ウェスト(Tony West)を含む連邦検事グループを派遣した。彼らはそのとき以降、事実の収集と政府の法的対処策を調整すべく誠実に働いている。

③我々は納税者の税金を1セントたりとも無駄なく取り返し、環境と野生生物が被った損害を取り戻すことを確約する。すなわち、我々は責任を持つ者が大混乱(mess)を整理し、悲劇で失われまた傷ついた天然資源を回復したり置き換えるべくことを確実にするつもりである。そして法律の範囲内の最大範囲でいかなる違法行為を起訴に持ち込むつもりである。

④それらの適用に関し、司法省の検事等が取組んでいる具体的な法律は次の通りである。(筆者注5)
「水質汚濁防止法(Clean Water Act:CWA)」(民事罰および刑事罰を定める)
「1990年油濁法( Oil Pollution Act of 1990:OPA)」
「1918年渡り鳥保護条約法( Migratory Bird Treaty Act)」
「1973年絶滅保護種法(Endangered Species Act)」(同法は絶滅の危機に瀕した種の動物につき怪我をさせたり死なせた場合には刑事罰を科す)
その他伝統的な犯罪処罰法


(筆者注5)読者は気づかれると思うが、多くのセグメント立法を有する米国で環境規制法はこれだけと思うであろう。今回適用の中心となっている「1990年油濁法( Oil Pollution Act of 1990:OPA)」が1989年「エクソン・バルディス号」の流失事故を背景に成立したことから考え、その規制強化に向けた改正法案は連邦議会下院や上院ですでに出されている。その概要を述べておく。
〔上院〕S.3305 「Big Oil Bailout Prevention Liability Act of 2010」(2010年5月4日上程:「1990年油濁法につき沖合原油掘削施設(offshore facility)に関し責任を持つ企業の責任強化に関する改正法案」(提出議員:民主党Bill Nelson(Fla.),Frank Lautenberg(N.J.),Robert Menendez(N.J.)他6名):共同提案議員は23名。
公式法案要旨は、「2010年4月15日施行の本法にもとづき、深海港(deepwater port: 沖合のLNG受入基地については、LNG基地建設促進を目的として2002年に改正された深海港法(Deepwater Port Act)に基づき、米国運輸省(DOT)(沿岸警備隊、海事局)の規制下に位置付けられることになった(沖合3マイル以遠のプロジェクト)を除く航行可能水域や海岸線隣接地域での原油掘削施設からの石油排出につき責任を負うものは、撤去にかかる総費用に加え100億ドル(現行7,500万ドル)の賠償金を科すというもの。 」

〔下院〕H.R.5214「Big Oil Bailout Prevention Act of 2010」(2010年5月5日上程:「1990年油濁法につき沖合原油掘削施設(offshore facility)に関し責任を持つ企業の責任強化に関する改正法案」(提出議員:共和党Holt Rush他72名が提案)。
公式法案要旨はS.3305の内容のほかに、(2)として州や地方政府が原油流失被害の準備および被害の緩和措置のため、大統領に「重油流失責任信託基金(Oil Spill Liability Fund)」からの事前支払を行う命令を発布できる規定を盛り込むというものである。
なお、同様の内容の法案が上院ではS.3472 、下院ではH.R.5355 が上程されている。

 米国は議員立法が最優先される国であるが、行政機関も適用法の限界には敏感で、下院や上院の関係委員会の委員長との二人三脚立法はごく一般的である。司法省等政府
関係者の発言等から見て当然現行法の適用の限界は承知しており、オバマ政権は適切な立法措置のために議会幹部との水面下の調整を行っていると見るのが常識であろう。

 

[参照URL]

*筆者追加注2021.2.25

2010年6月現在の本ブログ執筆時の参照すべきBP社、連邦政府のデープホライズン対策専門サイト、連邦環境保護庁、地元州の環境保護機関のサイトは一部リンクが不可となってる。これだけの原油流失事故であるのにかかわらず、問題意識の低さか?

 しかし、筆者なりに正確な情報入手にタレンジした結果、連邦エネルギー省科学技術情報局(OSTI.gov)の報告書にたどり着いた。表題は

「Sandia National Laboratory Support of the BP Deep p water Horizon Oil Spill Accident:Kenneth Gwinn Solid Mechanics Department, Engineering Sciences Center:Sandia National Laboratories Sandia National Laboratories Albuquerque, NM:January 25, 2011」(全14頁)

その前文でこのプレゼンテーションの情報は、具体的には、 2010年9月8日、BP社のディープウォーターホライズンの事故調査報告書(http://www.bp.com/extendedsectiongenericarticle.do?categoryId=40&contentId=7061813)にBPの数値等に依っているとある。

・BP社のディープウォーター・ホライズン対応専門サイト:
http://www.bp.com/extendedsectiongenericarticle.do?categoryId=40&contentId=7061813
・連邦政府のディープウォーター・ホライズン対策専門サイト“Water Horizon Response”:
http://www.deepwaterhorizonresponse.com/go/doc/2931/578227
・フロリダ州環境保護庁の被害状況専門サイト:http://www.dep.state.fl.us/deepwaterhorizon/
・連邦エネルギー省長官のサイト:
http://www.energy.gov/organization/dr_steven_chu.htm
・連邦環境保護庁(EPA)の「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)事故対応」の専門サイト:

・EPAのCase and Settlement InformationとAdditional Information on the Deepwater Horizon Oil Spillの解説サイト

https://www.epa.gov/enforcement/deepwater-horizon-bp-gulf-mexico-oil-spill
・6月1日の連邦司法省ホルダー長官の記者会見:http://www.justice.gov/ag/speeches/2010/ag-speech-100601.html
・6月16日のホワイトハウスのBP社会長他との損失補償合意内容声明:
http://www.whitehouse.gov/blog/2010/06/16/important-step-towards-making-people-gulf-coast-whole-again
******************************************************************************************

Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 米国史上最大規模の原油流出... | トップ | 米国史上最大規模の原油流出... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

国際政策立案戦略」カテゴリの最新記事