Ⅲ.EUのオンライン・ヘイトスピーチに対抗するための具体的取組み
(1)EU委員会のオンライン・ヘイトスピーチに対抗するための行動規範の主要プラットフォームとの同意
EUのサイトを抜粋し、仮訳する。
〇 オンラインでの違法なヘイトスピーチの拡散を防止および防止するために、欧州委員会は2016年5月、Facebook、Microsoft、Twitter、およびYouTubeとの間で「オンラインでの違法なヘイトスピーチに対抗するための行動規範」に同意した。
さらに、2018年の間に、Instagram、Snapchat、Dailymotionが、また2019年1月にJeuxvideo.comの行動規範に参加し、TikTokも2020年9月に参加した。2021年6月25日、LinkedInも行動規範への参加を発表した。
〇 その実行方法
行動規範の実行は、さまざまなEU諸国にある組織のネットワークと協力して設定された定期的な監視演習を通じて評価される。これらの組織は、一般的に合意された方法論を使用して、IT企業がコードのコミットメントをどのように実装しているかをテストする。
資料「Information note - Progress on combating hate speech online through the EU Code of conduct 2016-2019」 September 2019年9月27日公表はEUサイトからダウンロードする。
〇 モニタリング・ラウンド結果
EU行動規範は、オンラインでの違法なヘイトスピーチに対して強力な対応を提供している。2016年の規範の採択以来、行動規範は継続的な進歩を遂げている。。最後の評価によると、企業は平均して24時間以内にフラグが立てられたコンテンツの90%を評価し、違法なヘイトスピーチと見なされるコンテンツの71%が削除されている。
最も最近時である5回目のモニタリング(2020年6月)の概要は EUのサイトからダウンロードする。
〇 関係する行動規範サイトへのリンク
(2) 欧州委員会は2018年3月1日に、違法なコンテンツにオンラインで効果的に取り組むための措置に関する勧告6/28(66)を採択した。 オンラインプラットフォームは、コンテンツガバナンスにおいてより責任を負う必要がある。 この推奨事項は、次のとおりオンラインでのコンテンツの再表示を迅速かつプロアクティブに検出、削除、および防止するための一般的なアプローチを提案している。
①より明確な「通知とアクション」手順。
② より効率的なツールとプロアクティブな技術。
③ 基本的権利を確保するためのより強力な保護手段。
④ 中小企業への特別な配慮。
⑤ 当局とのより緊密な協力。
(2) 欧州委員会は、2021年第4四半期に指令草案を採択する予定である。
Ⅳ.わが国のヘイトスピーチ法規制や信者情報開示の在り方の研究会報告などの動向
あえて取り上げるとすれば、法務省の関係では、平成28年法律第68号「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」、総務省関係では「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」等であろう。
この両者の概要を以下記すが、ドイツやEU等と比較するまでもなく、具体性がなく、また法の実効性、現状の執行組織の欠落、等課題が山積である。
(1)平成28年法律第68号「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」)
法務省のHP(http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html)
(2)総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(座長:曽我部 真裕 京都大学大学院 法学研究科 教授)において議論を行っている発信者情報開示の在り方について、令和2年(2020年)11月14日(土)から同年12月4日(金)までの間、意見募集を行い、その結果を踏まえて取りまとめられた「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」を公表している。しかし、その後の具体的な検討は行われていない。
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(筆者注7) 連邦刑事庁法-BKAGは正式名は「連邦刑事庁に関する法律および刑事警察問題における連邦と州間の協力に関する法律(Gesetz über das Bundeskriminalamt und die Zusammenarbeit des Bundes und der Länder in kriminalpolizeilichen Angelegenheiten )」である。前述の本文Ⅰ.2の内容(ソーシャルネットワーク事業者は、2022年2月1日以降ヘイトスピーチを連邦刑事庁に報告する必要がある)から見て理解できよう。
(筆者注8) ドイツがここまで極右思想の拡大等に神経質なことの歴史的背景を見て置く必要がある。すなわち。、ナチス・ドイツが第二次世界大戦で敗れると、ドイツは連合国4か国軍(アメリカ合衆国、イギリス、フランス、ソビエト連邦)に占領された。連合国軍は、管理目的のために1945年5月8日から1949年までの4年間、オーデル・ナイセ線の西でドイツを4つに分割占領して軍政を布いた。
その後、西側とソ連の対立、2つのドイツの誕生、東西ドイツの統合というわが国ではまたく未経験の悲惨な歴史を担って来たのである。(Wikipedia から一部抜粋)。
(筆者注9) 連邦警察(Bundespolizei ;BPOL)は、連邦内務省(BMI)(筆者注11)の下部機関であり、特に国境警備、鉄道警察、海事および航空保安など、さまざまな法執行任務を実行する。連邦警察は、警察の観点から危険にさらされている連邦政府の憲法上の機関を妨害や危険から保護する。
また、彼らは組織犯罪やテロとの戦いにも関与しており、海外、たとえばドイツ大使館や国際警察の平和維持ミッションで奉仕する可能性がある。その任務は、連邦警察法、居住法、庇護手続法、航空保安法等、ドイツ基本法と連邦法によって割り当てられている。
35,000人以上の高度な訓練を受けた法執行官を含む約50,000人のスタッフを擁する連邦警察は、ドイツ連邦共和国とヨーロッパの内部セキュリティを維持する上で重要な役割を果たす非常に効果的な警察サービスである。
(筆者注10)「ドイツ連邦議会警察(Polizei beim Deutschen Bundestag)」から抜粋、仮訳する。
ドイツ連邦議会警察の主な任務は、連邦議会エリアの治安と秩序を確保することであり、これには、議会とその機関の会議の円滑な運営、および出席するすべての人の保護が含まれる。
〇議会の会期中の保護
警察は連邦議会とその機関の会期を保護・警備する。これらは主に本会議、委員会、議会グループ、評議会の会議である。
〇連邦議会議長の招待による国際イベント時の警護
議会警察はまた、連邦議会議長の招待で行われるたとえば、NATO会議や列国議会同盟の年次総会など国際的なイベントが安全に実行されることを保証する。
〇公式訪問
外国の元首と代表団によるドイツ連邦議会への訪問が準備するときは、警察が同行する。。
〇行政犯罪および刑事犯罪の起訴
ドイツ連邦議会の警察は、連邦議会エリアでの刑事犯罪の起訴と行政犯罪の処罰にも責任を負う。警察執行機関による最初の措置の後、捜査機関がその後の処理を引き継ぐ。捜査が完了すると、結果は検察官に送られる。
〇Polizei beim Deutschen Bundestagの法的根拠を仮訳する。
「連邦議会議長の建物内で家の権利と警察権を行使する。ドイツ基本法第40条第2項は、行政および司法による影響から議会を保護するための連邦議会議長の独立した権限を確立し、したがって、権力分立の原則に従う。警察の職務を遂行する際には、一般的な警察法が適用される。」
〇警察の暴力には憲法上の地位がある。
連邦議会議長は、ドイツ連邦議会で彼に従属する警察と警察権を行使する。その憲法上の地位のために、議会の警察権は基本的権利への干渉を承認するための基礎でもある。
〇居住権
警察権に加えて、議会の議長は家の権利も行使できる。彼の居住権のおかげで、連邦議会議長は、ドイツ連邦議会の財産の公的所有権から生じるすべての公民権を得る権利がある。
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(筆者注11) 連邦内務省(BMI)は大規模組織である。20以上の重要機関を統括しており、解説はHPが詳しい。
組織図は”https://www.bmi.bund.de/SharedDocs/downloads/EN/themen/ministry/organigramm.html”からダウンロードされたい。
(筆者注12) 警察情報システム(INPOL)は、連邦政府と州政府の間の電子データネットワークである。連邦刑事庁(BKA)がこのネットワークを運営しているが、連邦政府および州政府のすべての警察当局がデータを送信してアクセスできる。将来的には、システム全体が「Police2020」プロジェクトの新しいシステムに置き換えられる予定である。(連邦データ保護・情報自由監察官(BfDI)サイトBfDIから引用、仮訳)。
(筆者注13) 「シェンゲン情報システム(SIS: Schengen Information System)」は、シェンゲン協定締約国間の刑事警察協力を促進するために設置された情報共有ネットワークであり、四億人を越える人々が居住する「国境のないヨーロッパ」の安全を担保する措置として運用されている。同時にSISは「自由・安全・公正(Freedom, Security and Justice)」の領域としてのEUの「不可欠な要素」ともされる。シェンゲン協定および同実施条約は1998年に発効したアムステルダム条約によってEUの枠内に取り込まれているからである。(須田祐子・前田幸 男「シェンゲン情報システム(SIS)の現状と課題─「国境のないヨーロッパ」の国境管理とIT システム─」から一部抜粋。
(筆者注14) 独国の特徴の一つとして,組織と権限は分散しながら,データの共同利用で機能を統合している点に注意を喚起したい.その象徴的な事例が,警察機能とインテリジェンス機能の「分離原則」が強い中で,テロ対策に限って両者間でのテロリスト・データベース(ATD = Anti Terror Datei) を共同利用するものである.2006年の「反テロデータベース法」(BGBl. 2006 I S. 3409.正式の名称は長いが,訳せば「標準化され集中管理された反テロリズム・データを連邦と州の警察と情報機関の間で共同利用するための法律」となろう)が根拠である。(田川義博・林紘一郎「サイバーセキュリティのための情報共有と中核機関のあり方―3 つのモデルの相互比較とわが国への教訓―」から一部抜粋)。
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