よしもとばなな 新潮文庫
短編が4つ入っています。
私は、読みながら「この本はきっと、ばななさんの沖縄に対する感謝の気持ちなんだろうな」と思って読んでいました。
そうしたら、後書きに「不思議とこの本がいろいろな縁をつないでくれたりもしました。それは沖縄が私に返してくれたものだと感じます。」と書いてありました。
そうかぁ、そうやって連鎖していくのね。私は、ちゃんと感謝できてるかなぁ。
よしもとばななの作品は、どれもみな心の中に抱えている自分では気が付いていない気持ちに気づかせてくれる、感性鋭いものですが、私はこの中では「ちんぬくじゅうしい」が好きです。
主人公の“私”は、小学生の女の子。母親が変な宗教にハマッてしまって、心が家族からどんどん離れてしまうのに危機感を感じながらも、何もできない無力な自分にもどかしさも感じています。両親は別居し、主人公は那覇に住む叔母に預けられます。両親と、夏休みに最後に旅行した、離島のけだるい午後。その、なんでもないひとときが、どんなに貴重でかけがえない時間であったか。落ち込んでいる主人公に対して、叔母さんはとても優しく、市場で買ってもらったアオバジュースの甘さと、叔母さんの優しさに、行き場のない感情があふれ出してしまいます。
その後、正気に戻った母と仲直りをした父と、もう一度親子の生活が再開します。そうなった今、かけがえのない貴重な時間は、母と過ごした思い出ではなくて、今は亡くなってしまった叔母との、市場で過ごした甘い優しい時間なのでした。
「失くしてはじめて分る身近な大切なもの」という言い古されたテーマですが、永遠のテーマでもあると思います。
“ちんぬく”は里芋のことで“じゅうしい”は炊き込みご飯のことです。

Coccoの曲名にもなってますね