表通りの裏通り

~珈琲とロックと道楽の日々~
ブルース・スプリングスティーンとスティーブ・マックィーンと渥美清さんが人生の師匠です。

『敵』

2025-02-20 15:38:08 | 映画

19日は僕にとって特別な日なので映画を観に行くって殆どないんですが、昨日はいつものルーティンを崩して『敵』を観てきました。

以前観た予告編がとても面白そうだったのと、長塚京三さんをはじめとする俳優陣が気になったから。

第37回東京国際映画祭 3冠!1月17日(金)公開映画『敵』本予告

映画は長塚さん演じる主人公(77歳の独居老人)のありふれた日常を、モノクロームの映像の中で淡々と描いていきます。

蓄えと日々の生活費を計算しつつ、自らのXデーを決めて毎日バラエティ豊かな食事を作って独り楽しむ...と文字だけで見ると何か充実した老後のようですが、井之頭五郎もとい渡辺儀助流”孤独のグルメ”の見せ方が素晴らしくてどれも美味しそうでした。日々の食事にも手を抜かない、フランス文学の権威(だから融通が利かないし人付き合いがあまり上手じゃない)だった元大学教授渡辺儀助さん。レバーの血抜きのために牛乳に浸したり、焼き鳥の仕込みも冷麺作りも一切の妥協ナシ。ハムエッグ(しかも最後に水を加えて蒸し焼き!)や鮭の切り身をの焼く音や珈琲豆を挽く音、そして常に独りだから咀嚼する音と、食事のあと(珈琲を飲む前に!)必ず行う歯磨きのシャカシャカ音までもが儀助さんの”孤独のグルメ”を盛り上げてくれます。やはり映画の「音」ってとても重要ですよね。だから映画はやっぱり映画館で。

この一連のシーン、モノクロームだからもちろん色はついていませんが、とっても色鮮やかに独居老人の日常を映し出してくれます。一応物語は季節ごとのパートに分かれていて、儀助さんの人生の終わりを冬に持ってくるかと思いきや...。映画は徐々にサスペンスのような雰囲気に。

パンフレット内の吉田大八監督のインタビューにもあるように「いつの間にかモノクロであることを忘れた観客の想像力をMAXび起動させて...」と、ホントに白黒映画であることを忘れてしまいます。この辺の演出は実にお上手で、長塚さんの名演も相まって引き込まれていくこと請け合いです。

注:吉田監督に危うくダマされそうになるけど、本作品はモノクロームの映画です。

そんな色(色んな意味で)のない儀助さんの生活の中に彩を与えてくれるのが、思い出したかのように突然訪ねてくる元教え子の康子さん(滝内公美さんが艶っぽくてキレイ!)と、たまに儀助さんが訪れるバー「夜間飛行」を手伝う歩美ちゃん(河合優実さんの圧倒的な存在感。長塚さんと互角に渡り合っています)。そして要所要所で現世に出てくる死んだ奥さま信子さん(黒沢あすかさんハマってます)。

この三人の女性に翻弄され、現実と妄想の世界を行ったり来たりする儀助さんの様子が、タイトルにもなった『敵』の存在と複雑に絡み合って目が離せなくなるのです。

そうして観客は、穏やかな生活で”敵”なんていそうもない、前半のゆったりとした一見平和な余生を過ごす独居老人の他愛もない描写から、観ているうちに気がつけば現実と妄想の世界を行き来する儀助さんと同化しちゃっていることでしょう。これも長塚さんの名演技の賜物であり、刷り込まれていたCM(後述します)の主人公のせいでもありますが、きっと観た方には僕が何を言いたいのか分かって頂けるはずです。すみません。語彙が乏しくて。

 

そして観終わったあとの感想。

この作品、一言で括るとジャンルは何だろう?やっぱりサスペンスなのかな。あとからジワる映画です。

落ち着いたら筒井康隆さんの原作を読んでみよう。

 

追伸

長塚さんと言えばウイスキーのCMのイメージが強くて、ちょっとYouTubeで探してみました。

https://youtu.be/XmfLDpIZTY0?si=R0OFnBEbSKQd0eiw

もう30年も前の名作CM「恋は、遠い日の花火ではない。」。このキャッチ素晴らしいですね。

若い女性に翻弄される若き日の長塚さん。既視感があるとおもったらやっぱり何となく繋がっていました(個人の感想です)。このまんま歳とって儀助さんになったみたい。