先月の29日に田舎町で起きた幼い少女3人の刺殺事件のあと、イギリス全土で起きた騒乱に、私は強い衝撃を受けた。この騒乱が人種的偏見にもとづいたマイノリティ迫害の形をとったこと、数日で26都市に広がったことに、私は衝撃を受けたのである。
テレビの映像を見ると、モスクに石を投げたり、インド系イギリス人のささやかな店や難民申請者が泊まっている安ホテルを襲っている。若者だけが暴れているのではなく、いい年をした中年の白人男女が騒ぎに参加している。900人近くが逮捕され、500人以上が訴訟された。
私は、19世紀から20世紀にかけての東欧に起きたポグロム(ユダヤ人迫害)や1923年の関東大震災で起きた朝鮮人虐殺を連想した。
私の祖父は、震災当時、本郷に店を構えており、震災の被害を見に神田に出かけたところ、自警団につかまり殺されそうになった。祖父は背が高かったから、朝鮮人と間違えられたのである。佐渡おけさを歌って、新潟県南蒲原郡出身だと名のり、解放してもらったと祖父は言った。
朝日新聞は、このイギリスの騒乱を、8月7日の夕刊の記事1つを除いて、報道していない。識者はこのイギリスの騒乱をどう見ているのか、私は興味津々であるのに。イギリス在中のブレイディみかこは、これをどう分析するのだろうか。
きのう、他社のTBS『報道1930』で、ようやく、ゲストを招いて、イギリスの騒乱が議論された。
急速に騒乱がイギリス全土に広がったのは、サウスポートで幼い少女3人を刺した17歳の少年をイスラム教徒の難民とするデマ情報が、インタネット上で流れたことが大きな要因だとしていた。極右のトミー・ロビンソンが国外のキプロスからこのデマ情報を流した。その背景にロシアの影もあるのではとも言う。デマ情報をリツイートしてしまうネット社会の特性、移民に対する反感がくすぶっている土壌、政治の失敗を移民の急増に責任転嫁する既成政党の態度にも問題ありとする。
私は、自分たちの不安や不満を代弁する代表を持たぬ白人層が、少なからず、イギリスにも存在するのだと思う。ハンナ・アーレントの言葉を使えば、「見捨てられた人々」である。国民の分断とかそういう問題でなく、煽る人が出てくると、代弁者を持たぬ「見捨てられた人々」が、怒りで爆発するのである。民主主義が安定して機能するには、「見捨てられた人々」を「交渉」という政治の舞台に取り込む必要がある。このために、「代議制民主主義」の実装をも再検討する必要があると私は考える。