青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

続・ベニシジミ物語 12【2007.7.5 雲南百花嶺】

2011-03-26 11:30:21 | チョウ



雲南高黎貢山百花嶺②「地図」



↑明日以降、この山々に向かうことになります。宿の主人が見せてくれた様々な写真によると、野生アジサイの咲いているのは標高2500m前後。ということは、今回は無理して稜線まで行くことは無いのですが。






↑僕の持ってきた地図を、だいたいこの辺りだと思って写してみました。実は、今回訪れた「百花嶺」は、この地図のすぐ下に当たります。騰沖側で言えば、桜花谷(ここの天然温泉は断崖絶壁の原生林の中、これまでに訪れた日本や台湾を含む温泉の中でも、ナンバー1に押しても良いほどの秘湯で、周辺に簡素なログハウスの宿泊施設があります、2004年夏に探訪、「深夜のログハウスから望む月明かりの高黎貢山」の写真を、以前の「あや子版」にアップしたことがあるような気がします)との中ほどの、曲石の村の東側です。ちなみに界頭郷も、何年か前(確か同じ2004年)の春に泊まったことのある村。そこから菜の花畑越しに仰いだ高黎貢山の夕景や、集落越しの夜明けの稜線の写真も、以前「あや子版」にアップしたように覚えているのですが(どれも記憶違いかな?)。






↑こちらは、茶室の壁に貼られていた地図。怒江(サルウイン河)河岸から、標高にして300~400mほど登った当たりだと思われます。海抜1600~1700m付近でしょうか。






↑稜線を越えて、騰沖側(イラワジ河支流の龍川江流域)の集落・曲石郷に山道が続いています。どうやらこの山道は、ミャンマーやアッサムと雲南を結ぶ、いにしえの「旧街道」の遺跡として、知る人ぞ知る道のようです。現在は、ほとんど踏み後程度のトレールで、周囲は深い森に囲まれていますが、以前はもっと開けていたのかも知れません。地図の南北の緑色に示された「核心区」こそ、多様な生物が息づく、真の原生林なのでしょう。以前、龍川江桜花谷の天然温泉に泊まった時、山のガイドをしているという地元の少年が訪ねてきたことがあります。彼の言うに、僕と一緒なら、(テントや食料持参で)山頂稜線まで行くことが出来る、次回来た時にはぜひ一緒に行こう、と。彼の帰った後で、温泉の管理をしている少女たちに、絶対彼と一緒に行っちゃだめよ!少数民族の悪童なんだから、たしなまれたことを思い出しました。そういえば、彼曰く、行くのなら、秋遅くか早春、夏の間はクマや大蛇がいてとても危険、とアドバイスされたことも、たった今、思いだした。今回(2007年)、一人で山の中を歩き回っていたのは、考えて見れば物騒な話だったのかも知れません。ちなみに、雲南の人々からは、よく「高黎貢山は老虎が出るから恐ろしい!」と、(たぶん冗談半分に)忠告されることがあります。一応、この地域でのベンガルトラは、50年余り前に絶滅している、と聞いているのですが。





↑やはり壁に貼ってあった、別の地図。右方が怒江(サルウイン河)流域、左方が龍川江(イラワジ河支流)流域。






↑下縁中央が宿舎のある集落。明日は、中央上半の大瀑布に至る周回道を辿ってみることにしましょう。下縁の山道を左へ、稜線に向かって登るのは、明後日に。









↑稜線上の「公房」までは約20㎞、往復出来ない距離ではないけれど、、、。今回はアジサイ探索が目的なので、無理するのは止めて、適当な所で引き返すべきでしょう(結局、中間地点の「永定橋」というところまで行ってきました)。稜線には、↑次回改めて「公房」泊まり込みで。アオミドリフチベニシジミとフカミドリフチベニシジミを撮影した山間の草地は、「旧街子」の辺り。







↑稜線から龍川江側の曲石郷へは、こちらからよりずっと距離が短いようです(リフトらしきものが描かれているけれど、一体何?)。次回は横断にチャレンジしなくては。






↑地図を写していたら、夜の灯りに、タイワンヒグラシに似た(そのもの?)大型のセミが飛び込んできました。幸先良し!







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続・ベニシジミ物語 11(2007.7.5 雲南百花嶺)

2011-03-25 09:12:31 | チョウ



雲南高黎貢山百花嶺①「百花嶺(白花原始森林)へ」

ベニシジミの仲間の紹介の途上ですが、ここでちょっと趣向を変えて、アオミドリフチベニシジミとフカミドリフチベニシジミを観察した、高黎貢山の「百花嶺」(「白花林」とも言うようです)への紀行を紹介していきましょう。この紀行が終了した時点(11回+3回を予定)で、再びベニシジミの仲間の紹介を続けて行きます(残り13回を予定)。

2007年は、散々な年でした(2006年も2008年も、それぞれに相当悲惨だったのだけれど)。1~2月に雲南・ラオスで体調を崩して、ほうほうの体で帰国、7月には1週間のとんぼ返りの予定で中国に向かったのは良いのだけれど、帰国費用が捻出出来ず、猛暑の最中、香港(シンセン)で1週間余分に足止めを食ってしまったという、、、、いつも同じことを繰り返しているようですね。

この時の中国行きは、昆明の博物館での中国産野生アジサイの標本チェックが主目的、ついでに“幻の記載種”の実態を解明しておかねば、ということで、博物館で紹介された、高黎貢山“百花原始森林”に野生アジサイの探索にやって来た、という訳です。

高黎貢山は、サルウイン河(中国名「怒江」)とイラワジ河に挟まれて南北に連なる山脈の総称で、延長500㎞近く、北はチベット省境の、雲南省最高峰「梅里雪山」とミャンマー最高峰「カカポラジ」に挟まれた5000m前後の峰々、南は標高2000m前後に高度を下げ、インドシナ半島に収斂するミャンマー国境近くに至ります。僕がよく訪れるのは、南部の、保山と騰沖を結ぶ省道317号線沿いの、保山市と騰沖県と龍陵県の境に位置する、標高2400m程の峠の周辺です。その他、これまでに訪れたことがあるのは、騰沖側の河の一支流・龍川江を30㎞余程遡った「桜花谷」、さらに30㎞余北の「界頭」(いずれも騰沖の町からバスやタクシー利用)、界頭からトラックの荷台で最奥の集落「大塘」、大塘から丸一日歩き通し、ミャンマー国境まであと5㎞の稜線上の原生林、、、。いずれも高黎貢山の西側(イラワジ河流域)に当たり、すぐ西側には、北から「大脳子山」「白風坡」「雪山頂」といった、標高3500前後の高黎貢山の峰々が連なっています。

このときは、始めて東面の怒江(サルウイン河)流域から主稜線の中腹に向かったことになります。北緯25度付近で、中国で南方に位置しますが、桂林や昆明や台北とほぼ同緯度、香港よりはかなり北で、河岸の標高も1000m余りあると思われます。しかし、山稜と山稜に挟まれた深い谷間であるという地形と、すぐ西にベンガル湾からの偏西風をまともに受けるミャンマー北部のイラワジ本流の平原を控えていることもあってか、おそらく中国でも有数の猛暑の地と思われます。実際、この時の帰路に泊まった怒江沿いの宿の夜は、筆舌に尽くし難いほどの物凄い暑さだったものです。

それと共に、標高3000~3500m超の稜線上は、北にチベットの氷雪の峰々に連なること、両側に深い渓谷を擁した切り立った山稜であることなどから、標高以上に、温帯系の生物群集が育まれているように思われます。両者の中程に広がる、標高1500~2500m前後の山腹の原生林や渓流の生物相の魅力は、もって知るべしでしょう。






↑というわけで、難儀を重ねて、バス・タクシーその他を乗り継ぎ、百花嶺の宿泊所に辿りつきました。宿泊所の屋根上から望んだ、集落と高黎貢山の一峰。






↑宿泊所の庭と僕の部屋の向かいの棟。







↑右下一階部分は茶室を兼ねたベンチ。







↑僕の部屋。







↑室内から望んだ、夕映えの怒江方面。







↑窓の下です。






↑宿のご主人とお子さん。





↑おじいちゃん、おばあちゃん(?)と一緒に食事。







↑左のスープの具は、この瓜の様な野菜の蔓だそうです。アオミドリフチベニシジミを撮影した、集落の草地にも植えられていました。







↑翌日には、瓜の実そのものも、スープの中に(左上と手前)。韮とじの卵焼きは僕の大好物です。

宿泊費は幾らだったか記憶していないのだけれど、確か一泊30元(400円強)と言われたように思います。帰る際、まとめて2日(夕方までいたので実質3日?)分を支払ったら、思ったよりも高額で、150元ほど(約2000円)を取られてしまった。食事代がかなり高くついたのでしょう。清算時、御主人が非常に申し訳なさそうに、これだけの額を支払って頂けないでしょうか、と紙に子細に記した請求書を、恐る恐る出してきたのが印象に残っています。外国人の宿泊客は僕が3人目由、一人はアメリカ人、一人は日本人(恐らく何かの分野の研究者)、アルバムを見せてくれました。

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続・ベニシジミ物語 10 アオミドリフチベニシジミ(その2)

2011-03-24 11:26:12 | チョウ



雲南省保山市高黎貢山百花嶺2007.7.6【17:14】
 

(第10回)アオミドリフチベニシジミHeliophorus androcles Ⅱ

百花嶺の2日目は、集落から3㎞ほど尾根を登った辺りの林内の草地(北回りの林道との接続地点で、古街道跡の“旧街子”の近く)で、アオミドリフチミドリシジミの♂に出会いました。ここでは、フカミドリシジミと混棲し、キンイロフチベニシジミらしき個体も目撃しています。本来の目的は野生アジサイの探索なので、昼間の撮影は短時間で切り上げ、さらに尾根道を10㎞余往復し、午後5時頃から改めて観察・撮影を始めました。天候は(途中何度かの小雨を挟んで)曇り。午後5時から5時半頃にかけてはアオミドリフチベニシジミが多数見られたのに対し、5時半以降はフカミドリフチベニシジミだけとなりました。調査例が少なすぎるので何とも言えませんが、前日の集落近くでの午前中の観察ではアオミドリフチベニシジミのみが見られたことと併せ、両種の間に活動時間帯や微気候に対する何らかの差があるのかも知れません。





アオミドリフチベニシジミHeliophorus androclesとフカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctata[夏型翅裏面]
(全写真)雲南省保山市高黎貢山百花嶺(標高1700m~2200m) 2007.7.5~6
1段目左2頭:アオミドリフチベニシジミ♂
2段目右2頭:フカミドリフチベニシジミ♂
1段目右端と2段目右端は、どちらの種に属するか未検証。


   

   

アオミドリフチベニシジミHeliophorus androclesまたはフカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctata[夏型♀]
(全写真)雲南省保山市高黎貢山百花嶺(標高1700m~2200m) 2007.7.5~6
*1段目左2カット、1段目右と3段目2カットは、それぞれ同一個体(計3頭)。




≪撮影個体、および場所と時間の一覧表≫

2007年7月5日(集落上の畑縁の草地・標高約1700m地点/薄曇り)
9:12アオミドリ♂ 7=撮影総数(0=翅裏面)カット
9:16-9:19アオミドリ♂ 53(8)カット
9:31アオミドリ♂ 5(0)カット
[他に未整理(行方不明)写真一部あり、午後はヒグラシの録音]

2007年7月6日(主稜線に至る山間林内に開けた草地・標高約1900m地点/曇り~小雨)
[午前中の集落周辺での撮影カットは未整理(行方不明)]
13:31種不明 1(1)カット(アオミドリ♀?)
13:31-13:33フカミドリ♂ 30(9)カット
13:34-13:35種不明♀ 21(0)カット
13:37-13:38種不明 6(6)カット
13:45-13:46フカミドリ♂ 23(1)カット
[この間アジサイ探索のため林内の尾根を標高2500m付近まで登攀往復]
16:57-16:59アオミドリ♂ 30(0)カット
17:01フカミドリ♂ 4(0)カット
17:10-17:11フカミドリ♂ 13(0)カット
17:12-17:13アオミドリ♂ 6(0)カット(*著しい汚損個体)
17:14-17:17アオミドリ♂ 48(3)カット
17:21フカミドリ♂ 5(0)カット
17:23-17:24フカミドリ♂ 8(0)カット
17:27-17:29フカミドリ♂ 7(4)カット(*訪花/未同定)
17:29フカミドリ♂2頭 8(0)カット(*占有姿勢)
17:29フカミドリ♂ 3(0)カット
17:30フカミドリ♂ 1(0)カット
17:35フカミドリ♂ 4(0)カット
17:46種不明 1(1)カット (おそらくフカミドリ)
17:46種不明♀ 3(0)カット (上掲と同一個体の可能性)
17:50種不明♀ 4(0)カット
17:51種不明♀ 5(0)カット
17:53-17:55フカミドリ♂ 20(0)カット
17:56種不明 2(2)カット(*訪花/シソ科クルマバナ)
17:56-17:58フカミドリ♂ 16(1)カット
18:00フカミドリ♂ 7(0)カット
18:01-18:02種不明♀ 5(0)カット

フカミドリフチベニシジミ♂17頭149カット、アオミドリフチベニシジミ♂6頭149カット、種不明♀5頭38カット、種不明(翅裏面のみ撮影)4頭10カット、他に、草原②の入り口付近で(6日16時前後)キンイロフチベニシジミと思われる1♂を目撃(未撮影)。








↑高黎貢山百花嶺の山間林内に開けた草地。ここにアオミドリフチベニシジミとフカミドリフチベニシジミが多数見られます。2007.7.6 





↑食草はタデ科で間違いないでしょう。この葉はおそらくギシギシ属、チョウはどちらの種か不明。高黎貢山百花嶺2007.7.6【13:31】






↑高黎貢山百花嶺2007.7.6【16:57】








↑手前はギシギシ属の花序。高黎貢山百花嶺2007.7.6【16:57】








↑高黎貢山百花嶺2007.7.6【16:57】








↑おおむね新鮮な個体が多いのですが、中には飛び古した個体も見かけます。写真下、右の蝶はウラナミジャノメ属の一種。高黎貢山百花嶺2007.7.6【17:12~13】













↑♂翅表の金属光沢鱗は、後方から見たより前方から見たほうが鮮やか、ただしキンイロフチベニシジミの場合と違って、大きく異なることはありません。この個体も翅裏の褐色条が太く、あるいはフカミドリフチベニシジミとの有意な区別点と考えて良いのかも知れません。高黎貢山百花嶺2007.7.6【17:14~17】




↑地図にしろプレートにしろ、「百花嶺」となっているのと、「白花林」となっているのと、2通りあるので、何故なのだろう?どちらが正しいのだろう?あるいは別々の場所なのだろうか?と疑問に思っていたのですが、解りました。読み方が両方とも「バイファーリン」なのです。






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続・ベニシジミ物語 6 アオミドリフチベニシジミ

2011-03-23 15:58:08 | チョウ







雲南省保山市高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:12】 


(第9回)アオミドリフチベニシジミHeliophorus androcles Ⅰ

《Heliophorus androclesの♂外部生殖器構造について(被検標本:ヒマラヤ地方産)》

「中国のチョウ」には、刊行時点で本種を撮影・観察し得ていなかったことから、本種の♂外部生殖器構造についてはほとんど触れていなかったと思います。ただし、国外(おそらくネパールまたはインド東北部)産を検鏡していて、特徴は把握しています。ごく大雑把に言えばフカミドリフチベニシジミ&キンイロフチベニシジミに最も近いと考えられますが、両種の持つ幾つかの固有形質の発現は弱く、またvinculum背後縁に大型の突起が生じることではサファイアフチベニシジミと共通します(それ以外の形質のサファイアフチベニシジミとの共通性は少ない)。どこかにメモや略図があるはずなのですけれど、現時点では探し出せないので、それが見つかる(あるいは再検鏡する)までは、詳細は割愛します。なお、ここでは種名をHeliophorus androclesと同定していますが、文献によってまちまちで(ことにサファイアフチベニシジミとの混同が見られます)、近似の複数種が存在する可能性もあります。






アオミドリフチベニシジミ Heliophorus androcles[夏型♂]
(全写真)雲南省保山市高黎貢山百花嶺(標高1700m~2200m) 2007.7.5~6
*1段目と2段目左端の計4カット、3番目3カット、4段目左2カットは、それぞれ同一個体(計6頭)。


《アオミドリフチベニシジミHeliophorus androclesの分布と生態について》

アオミドリフチベニシジミは、雲南からインドシナ半島北部やヒマラヤ東部には広く分布していると思われるのですが、僕は、この高黎貢山百花嶺(白花林)のみでしか撮影・観察していません。撮影地は2か所、百花嶺集落の畑脇の草地(2007.7.5標高1700m付近)と、稜線に向けて数百m登った辺りの林内に開けた草地(2007.7.6標高2000m付近)です。今回は、まず畑脇草地での撮影個体、次回に林内での撮影個体を紹介していきます(高黎貢山百花嶺の自然については、この後、12回に亘って紹介していく予定です)。撮影時間帯は、(今手元に出てきた写真に関しては)午前9時12分からの20分間。観察した個体は全て♂で、ここではフカミドリシジミは目撃していません。







↑怒江(サルウイン河)の畔から望む高黎貢山東面、写真右方の山中に百花嶺があります。上2005.6.30、下2005.2.5(フカミドリフチベニシジミⅡでも同一地点からの写真を紹介済み)。







↑百花嶺の集落。2007.7.5。下の写真の手前がアオミドリフチベニシジミのいた草地。





↑草地の葉上で翅を開いて日浴?中の♂。見渡すとあちこちで見付けることが出来ます。イメージは、日本のベニシジミにそっくりです。高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:17】






↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:12】翅表の色や金属青色鱗の範囲はサファイアフチベニシジミの夏型と似ていますが、僅かに緑がかっていて、同じ青でも色調が明らかに異なります。








↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:16】前の写真とは別個体。後翅表の朱色班は、夏型で明らかに減少するサファイアフチベニシジミとは、春型(アオミドリフチベニシジミの季節型については未確認)同様に幅広いことで異なります。






↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:17】近づくと複眼を上に持ち上げてこちらを見ているように思えます。








↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:19】裏面はフカミドリフチベニシジミやキンイロフチベニシジミとほとんど変わらないように思います。チェックした個体(次回にもう1個体)に関しては前翅の褐色条が太いようですが、安定した有意差なのかどうかは確かではありません。













↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:12】葉上に止まるとすぐに翅を開きます。








↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:31】金属光沢青色鱗の範囲はどの個体も安定しています(この個体は前翅が丸味を帯び、基部が濃色)。


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続・ベニシジミ物語 8 フカミドリフチベニシジミ(その2)

2011-03-22 11:19:25 | チョウ






雲南省保山市高黎貢山百花嶺2007.7.6【17:29】 




(第8回)フカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctata Ⅱ

フカミドリフチベニシジミは、雲南の各地に於いては、ちょうど日本のベニシジミに相当する普遍的なチョウの一つではないかと思われます(四川省西部の成都市西郊一帯ではサファイアフチベニシジミがこれに代わります)。そのためもあってか、あちこちで見た記憶があるにも係わらず、(真面目に撮影していないのでしょうか)意外に写真が少ないのです。あるいは、撮影はしたのだけれど、ついでに1カットとか2カットだけ、ということで、どこかに紛れ込んでしまって、見つけ出せないまま、というのも有りそう。事実、夏期の大理蒼山での撮影カットは多数あるはずなのですが、(前もってワードに張り付けてあるものを除いては)行方不明で探し出せません。

ということで、フカミドリフチベニシジミ夏型は、たまたま多数の個体の撮影写真が出てきた、雲南高黎貢山百花嶺産を中心に紹介していきます。実のところ、今回「ベニシジミ特集」をやろうと思い立ったのは、膨大な数の写真の整理中、この2007.7.5-6百花嶺での撮影カットの7割ぐらいを見付けだしたので、その中の多くを占める、アオミドリフチベニシジミとフカミドリフチベニシジミを紹介しておこうと思い立ち、どうせなら他のベニシジミ類も、と考えて、シリーズ化と相成ったわけです。

集落の畑脇で撮影した2007.7.5の分は、全てアオミドリフチベニシジミで、フカミドリフチベニシジミは原生林内の草地で撮影した7.6の分にのみ含まれています。アオミドリフチベニシジミとは完全な混棲をしていて、翅裏の模様による区別を把握していないことから、そこで写した♀がどちらの種に属するかの判別は出来ないでいます。詳細については、アオミドリフチベニシジミ(その2)の項で述べて行きます。



   

   
フカミドリフチベニシジミ Heliophorus viridipunctata[夏型♂(全て別個体)]
1段目左:夏型♂:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6
1段目中:夏型♂:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6
1段目右:夏型♂:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6
2段目左:夏型♂:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6
2段目中:夏型♂:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6
2段目右:夏型♂:四川省天全県二朗山中腹2009.8.4
7段目左:夏型♂:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6
7段目中:夏型♂:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6
7段目右:夏型♂:雲南省大理市蒼山中腹2007.7.12
8段目左:夏型♂:雲南省大理市蒼山中腹2007.7.12
8段目中:夏型♂:雲南省大理市蒼山中腹1995.7.27
8段目右:夏型♂:雲南省大理市蒼山中腹1995.8.1
*撮影地点は、春・夏型とも、いずれも標高2000m前後(1800m~2300m)




   

     
フカミドリフチベニシジミ Heliophorus viridipunctata[夏型♀翅表と♂♀翅裏(全て別個体)]
1段目左:夏型♀:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6(アオミドリフチベニシジミの可能性もあり)
1段目中:夏型♀:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6(アオミドリフチベニシジミの可能性もあり)
1段目右:夏型♀:四川省天全県二朗山中腹2009.8.4(キンイロフチベニシジミの可能性もあり)
2段目左:夏型♀:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6
2段目中:夏型♀:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6(アオミドリフチベニシジミの可能性もあり)
2段目右:夏型♀:雲南省保山市高黎貢山白花林2007.7.6(アオミドリフチベニシジミの可能性もあり)
3段目左:夏型♀:雲南省金平県(北方の峠上)1995.4.14
3段目中:夏型♀:雲南省大理市蒼山中腹1995.8.1
3段目右:夏型♀:雲南省大理市蒼山中腹1995.7.27





↑怒江(サルウイン河)の畔から望む高黎貢山東面、写真中央辺りに百花嶺があります。2005.2.5(借り物のデジタルカメラで撮影)。アオミドリフチベニシジミⅠにも同地点からの写真を紹介しています。





↑アオミドリフチベニシジミとフカミドリフチベニシジミが混棲する林内の草地。百花嶺の標高2000m付近(アオミドリフチベニシジミⅡにも同じ場所の写真を紹介しています)。2007.7.6





↑フカミドリフチベニシジミ♂裏面。外縁の朱色が鮮やかです。高黎貢山百花嶺2007.7.6【13:32】(撮影時間のリストはアオミドリフチベニシジミⅡの末尾に掲載)









↑高黎貢山百花嶺2007.7.6【13:32~33】







↑♀は♂のように活発な活動はせず、茂みにひっそりと止まっています。アオミドリフチベニシジミとフカミドリフチベニシジミの♂が共に見られるため、どちらの種に属するのかは不明です。高黎貢山百花嶺2007.7.6【13:32~33】





↑占有姿勢をとる2頭の♂。高黎貢山百花嶺2007.7.6【17:29】







↑♂(上)♀(下)とも、たまに花(未同定)を訪れます。高黎貢山百花嶺2007.7.6【上17:29/下17:51】







↑♂(上)♀(種不明・下)。午後5時頃には多数見られたアオミドリフチベニシジミ♂は、5時半頃には姿を消してしまいました。6時頃になると、フカミドリフチベニシジミ♂の活動も静まって来ます。高黎貢山百花嶺2007.7.6【上17:58/下18:02】






↑雲南省昆明市西山。1995.4.3





↑雲南省緑春。1995.4.14





↑雲南省金平。1995.4.7





↑雲南省大理蒼山。1995.8.1 











↑四川省天全県二朗山両河口2009.8.1。前の写真で終えるつもりでいたら、四川省でも撮影しているはずなのを思い出し、急遽探し出して追加しました(随分写真枚数が増えてあや子さんには申し訳なく思っています)。今の所、雲南省の各産地から飛び離れた東北方面での記録地です。本項の組み写真とキンイロフチベニシジミⅡで紹介した「どちらの種か解らない♀翅裏」の写真の個体は、前日、ほぼ同一地点で撮影したものです。二朗山の峠の20㎞ほど手前(以前紹介した、夜中に辿りついて泊まったゲストハウスの少し手前)で、「喇叭河」という山岳リゾート?自然公園への分岐点(標高は1800mくらいでしょうか)。5000m級の稜線(導遊図の上辺)を隔てて、「東拉紀行」で紹介した東拉渓谷(サファイアフチベニシジミを撮影)、その東にキンイロフチベニシジミを撮影した西嶺雪山があります。









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続・ベニシジミ物語 7 フカミドリフチベニシジミ(その1)

2011-03-21 09:28:21 | チョウ





雲南省大理市蒼山山麓2010.5.5 




(第7回)フカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctata Ⅰ

《Heliophorus viridipunctataの♂外部生殖器構造について(被検標本:雲南省緑春県産)》

キンイロフチベニシジミの項で記したように、♂外部生殖器の形態は、キンイロフチベニシジミと酷似します。末端部分における微少な差異が、個体変異の範疇に含まれるものなのか、種を分けるに足る有意なものなのかについての判断は、現時点では保留しておきます。将来、検鏡を再開し次第、改めて検証して行く予定です。




フカミドリフチベニシジミ Heliophorus viridipunctata[春型♂(全て別個体)]
1段目左:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2007.2.24
1段目中:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2007.2.24
1段目右:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2007.2.24
2段目左:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2007.2.24
2段目中:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2007.2.24
2段目右:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2009.3.17
3段目左:春型♂:雲南省緑春県(緑春東方の峠)1995.4.7
3段目中:春型♂:雲南省金平県(金平北方の峠)1995.4.14
3段目右:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2010.5.5
4段目左:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2010.5.5
4段目中:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2010.5.5
4段目右:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2010.5.5









フカミドリフチベニシジミ Heliophorus viridipuncutata[春型♀翅表と♂♀翅裏(全て別個体)]
1段目左:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2009.3.17
1段目中:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2007.2.24
1段目右:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2007.2.24
2段目左:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2010.5.5
2段目中:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2009.3.17
2段目右:春型♂:雲南省大理市蒼山山麓2010.5.5


 

《フカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctataの分布と生態について》

1995年以降、四川から雲南に、植物や昆虫などの撮影行の比重を移して行きました。そのため、最もよく見かけるベニシジミの仲間が、それまでのサファイアフチベニシジミからフカミドリフチベニシジミに入れ替りました。

フカミドリフチベニシジミの分布域は、マクロに見るとキンイロフチベニシジミと重なります(四川省西部~雲南省西部・南部・インドシナ半島北部)。また、部分的には、サファイアフチベニシジミやアオミドリフチベニシジミの分布圏とも、多少なりとも重なります。僕自身がこれまでに撮影・観察した範囲では、サファイアフチベニシジミ確認西縁(磨西)周辺でフカミドリフチベニシジミ確認東縁(二朗山)周辺と重なり、アオミドリフチベニシジミ確認東縁(高黎貢山=僕自身における唯一の確認地、文献上によるとそれ以西に広く分布していると思われます)周辺で、フカミドリフチベニシジミ確認西縁(高黎貢山、より西のミャンマーなどにも分布)周辺と重なります。

アオミドリフチベニシジミとの混棲状況については、次種の項で詳しく述べます。キンイロフチベニシジミとの混棲状況については、前項で述べたように、マクロに見ればおおむね重複し、ミクロに見れば、完全な混棲地点は今のところ確認し得ていません。調査不足で偶然ということも考えられますが、少なくとも、キンイロフチベニシジミがより山間部の原生的環境に見られ、フカミドリフチベニシジミがより人里近くの人為的環境に多い傾向があることは確かなようです。

僕は、“棲み分け”という言葉を安易に使うのは、好きではありません。種が違えば、多少なりとも性質は異なるはずです。近縁の複数種が同所的に棲息し、活動の微環境・時期や時間帯・パターンなどに差が見られた場合、えてして相互の種の存在が関与して成された(→棲み分けを行う)と考えがちですが、それ以前に、それぞれの種が“もともと”備えもつ性格に導かれた(相手の種の存在とは無関係に成された)「結果としての棲み分け」に過ぎないと考えたほうが、妥当であるように思われるのです。

ただし、非常に近縁な種間においては、その限りではないかも知れません。フカミドリフチベニシジミとキンイロフチベニシジミの場合も、♂外部生殖器の形態が酷似するということは、種分化の時間がごく浅いとも考えられ、デリケートな“種間”の相互作用、たとえば交雑を避けるための(時間や空間や行動や形態に係わる)何らかの制御機構が働くなど、必然的に棲み分けが行われている、という可能性もあるでしょう。

その他のベニシジミ族各種との混棲は、Helleia属3種(メスアカムラサキベニシジミ、シロオビムラサキベニシジミ、オナガムラサキベニシジミ)およびウラフチベニシジミと、大理蒼山山麓~中腹をはじめとした雲南省の幾つかの地点で観察しています。フカミドリフチベニシジミに対し、Helleia属3種はより標高の高い地域に、ウラフチベニシジミはより低標高の地域に見られる傾向があるようです。

フカミドリフチベニシジミの発生期は、僕自身が確認した限りにおいては、2月から8月、(秋期は僕の怠慢でチェックし損ねている、、、雲南では普通種とも言えそうな蝶のため、出会ってもきちんと撮影・記録していない可能性大)おそらく年間を通して発生しているものと考えられます。

顕著な季節差を示すサファイアフチベニシジミと異なり、キンイロフチベニシジミ同様に、出現時期(季節)ごとの差異は微少です。(以下♂♀とも共通)2~4月に出現する“春型”は、後翅表後縁の朱色班がよく発達し、尾状突起は短め。6~8月に出現する“夏型”は、後翅表後縁の朱色班の発達が悪く、尾状突起より長め。両タイプは明確に入れ替るのではなく、例えば、同じ“春型”として一括しましたが、4~5月の個体は、2~3月の個体に比べて幾分“夏型”に近づく傾向があることは、サファイアフチベニシジミやキンイロフチベニシジミの場合と同じです。

♂前翅表については、キンイロフチベニシジミ同様に、出現季節による差違は全く見られません。ただし、外縁と翅端付近の黒色部以外の金属光沢域が、広く安定しているキンイロフチベニシジミと異なり、本種では個体変異が著しいのが特徴です。ほとんど金属光沢青緑色鱗が出現せず、翅表一様に黒褐色の個体から、かなり鮮やかな金属光沢青緑色鱗が翅表中央部に広がる(といっても他種のように全面に広がることはありません)個体まで多様です。また、金属光沢青緑鱗の前方域に、小さな朱色班が現れることもあり、中には朱色班が大きくて金属光沢青緑鱗を欠く、一見♀を思わせる個体もあります。これらのバリエーションは、季節を問わずアットランダムに出現するようで、同一時期・同一地点でも、様々なタイプの個体が見られます。

♀前翅表の朱色紋は、春型でより大きく、夏型で小さめとなることは、サファイアフチベニシジミの場合と同様です。サファイアフチベニシジミのように、朱色紋が外側で盛り上がって内側で湾曲気味になる傾向は特に示さず、単調な楕円型または長方型となります。確実に該当すると判断出来る♀を撮影していないキンイロフチベニシジミに対しては比較が叶いませんが、おそらく差異は極めて少ないのではないかと考えられます。アオミドリフチベニシジミとは、(僕の観察地に関しては)完全に同所的に混在していて、撮影・観察した♀個体がどちらに属するかの確認が出来ずにいます(アオミドリフチベニシジミの項で纏めて紹介)。

裏面は、後翅外縁の朱色班が、春型でやや白色鱗を塗しますが、サファイアフチベニシジミのように顕著ではありません。また、春夏とも褐色条が明瞭に発達することなどから、サファイアフチベニシジミとは容易に区別がつきます。アオミドリフチベニシジミやキンイロフチベニシジミとは酷似し、ことに後者とは有意の区別点を指摘できず、♀の判別は非常に難しいものと思われます。なお、フカミドリフチベニシジミの前翅裏面外縁は鮮やかな朱色(ウラフチベニシジミでは顕著に出現し、サファイアフチベニシジミにはほとんど現れない)で縁取られる傾向がありますが、僕のチェックした個体に限って言えば、キンイロフチベニシジミにおける出現程度はやや弱く、これを有意の差と認めうるか否かについては後の検証結果を待たねばなりません(おそらく個体変異の範疇に入るものと思われます)。










↑雲南省大理 2007.2.23。洱海湖畔と大理古城を結ぶ農道沿いの菜の花畑から仰ぎ見た蒼山4123mの連峰。この季節、山裾の田畑の周辺では、フカミドリフチベニシジミが飛び交っています。








↑雲南省大理 2009.3.17。蒼山の山裾には、畑が開墾されていて、土手には様々な花が咲き競っています。









↑タネツケバナに吸蜜に訪れたフカミドリフチベニシジミ。その雰囲気は、日本の田畑の畔のベニシジミとそっくりです。雲南省大理 2007.2.24。











↑雲南省大理 2007.2.24。上は♂、下2枚は♀。










↑雲南省大理 2007.2.24。畔に舞い落ちた枯葉と、緑の草&ベニシジミの組み合わせは、まさに早春のイメージ。写真上のように新鮮な個体から、写真下のように飛び古した個体までが混在していて、一部個体は冬を通して発生している可能性が推察されます。






↑雲南省大理 2007.2.24。陽だまりのシダの一種の葉上で、占有姿勢をとる2頭の♂。







↑雲南省大理 2009.3.17。ミドリシジミのAB型♀のように、青緑金属光沢班の上に朱色班が現れる♂もいます。







↑雲南省大理 2010.5.5。占有姿勢を取る2頭の♂。互いを意識していて、一頭が向きを変えると、もう一頭も同時に向きを変えます。やがて2頭同時に飛び立って空高く舞い上がり、激しく追飛翔を繰り返したのち、姿を消してしまいます。そして気がつくと、いつの間にか元の葉上に戻って来ているのです。







↑人差し指よりやや大きめ。第2回のマルバネフチベニシジミ(人さし指よりやや小さめ)と比較して下さい。極小のミヤマムラサキベニシジミを除く各種は(日本のベニシジミも)同程度です。雲南省大理 2010.5.5。






↑後翅外縁だけでなく、前翅外縁にも朱を施しています。まるで口紅のようにチャーミング。雲南省大理 2010.5.5。







↑雲南省大理 2010.5.5。この一連の写真(2010年5月)は、以前の「あや子版」でリアルタイムで紹介していますので、そちらも参照して下さい。






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続・ベニシジミ物語 5 キンイロフチベニシジミ(その2)

2011-03-20 09:39:12 | チョウ






↑ベトナム北部ファンシーファン山中腹 2010年4月4日。



(第4回)キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma Ⅱ

『中国のチョウ』刊行以降(実質2004年以降)の記録を中心に、簡単にメモっておきます(一応最初の2つは『中国のチョウ』収録の撮影記録)。
■1991年8月9日、四川省大邑県西嶺雪山。
■1995年4月7日、雲南省緑春県。
■2004年7月30日、雲南省騰沖県高黎貢山。
■2010年4月4日、ベトナム北部(サパ)ファンシーファン山中腹。
同時に4~5♂を観察した緑春を除き、各1♂の観察・撮影です。

前記したように、フカミドリフチベニシジミとは♂交尾器にほとんど差異がなく、マクロな分布域はほぼ重なります。ただし、今のところ僕自身は、同一地点では両種を撮影していません。唯一の同一地点での目撃地は、雲南省保山市高黎貢山百花嶺(2007.7.6)で、多数のフカミドリフチベニシジミ、アオミドリフチベニシジミに混じえ、一頭を目撃しています。ちなみに雲南省騰沖県高黎貢山でのキンイロフチベニシジミ撮影地は、百花嶺と同一山系の約40㎞隔てた地点(ともに標高は2000~2300m、7月)、2004年9月末には、その麓の龍川江(イラワジ河支流)畔の水田畔で1♀を撮影していますが、僕の同定能力では、どちらの種であるかの判別は付きません(ただし後述するように、棲息環境からすれば、フカミドリフチベニシジミの♀である可能性が高いと思います)。

最も隣接した地点での同日撮影は、雲南省緑春県東部における、距離にして2~3km、標高にして200~300mほどを隔てた地点の例(標高1500~2000m付近)で、キンイロフチベニシジミが、山間部の道の無い渓流源頭部、フカミドリフチベニシジミが、人里に近い溜池畔の藪と、山腹の雑木林内の山道です。

また、四川省のキンイロフチベニシジミ撮影地(大邑県西嶺雪山)の南西50㎞余の地点(天全県二朗山)でも、フカミドリフチベニシジミを撮影しています。こちらも、標高(1500~2000m付近)季節(8月上旬)とも共通、ただし前者は、山間の渓流、後者は集落近くの国道沿いです。後者の近くでは、別の年に♀も撮影していますが、どちらの種なのかの判別はつきません(おそらくフカミドリフチベニシジミ)。

ベトナム北部のキンイロフチベニシジミ撮影地(サパ・ファンシーファン山)は、ほとんど中国(雲南省)国境に隣接した地点で、緑春県での撮影地と同一の山系に属しています。距離の隔たりは100㎞ほど、その間の元陽県、金平県でもフカミドリフチベニシジミを撮影していて、サパ~金平間は50㎞余です。いずれも標高は1500~2000m。キンイロフチベニシジミの撮影地は、ファンシーファン山中腹の道無き小渓流で、金平と元陽のフカミドリフチベニシジミ撮影地は、それぞれ林内に開けた天然放牧草地と、棚田脇の林縁です。

たまたま僕の撮影した地点が重ならないというだけのことで、完全な混生地も普遍的に存在するのかも知れませんが、フカミドリフチベニシジミが、より人里に近い(あるいは人手の入った)環境、キンイロフチベニシジミが、より原生自然環境に結びついているらしいということも、動かし難い事実と思われます(全体的に見て、後者のほうが明らかに稀)。

♂の活動時間帯と、占有・追飛翔パターンについては、緑春県に於ける観察を『中国のチョウ』に記述しています。ファンシーファン山の小渓流(環境的には緑春での観察地に酷似)でも、ほぼ同様の行動を示し、灌木または高茎草本の葉上で占有姿勢をとっての静止(通常静止直後は翅を閉じていますが、しばらくすると水平に開きます)と、他個体?との追飛翔を、交互に繰り返します。非常に素早くて目まぐるしく、目で追うことはほとんど不可能に思われる程です(葉上から飛び立って姿を消しても、いつの間にか翅を水平に開いて元の葉上に戻っている)。ちなみに、ウラフチベニシジミ群の種(Heliophorus ilaまたはepicles)も、同一地点で同時に占有飛翔を繰り返しており、確認はしていないのですが、両者間で追飛翔を行っている可能性も少なくないと考えられます。

顕著な占有行動を観察したのは、緑春や高黎貢山では正午前後だったのに対し、ファンシーファン山では午後4~5時頃(中国時間に換算、ベトナム現地時間では、午後3~4時頃)でした。しかし、日差しは非常に強く、必ずしも時間帯に係わらず、日照状況などその時々の微気象との相関によって、決定されているものと思われます。

撮影個体のうち、緑春産とファンシーファン山産が春期(4月上旬)で春型、高黎貢山産と西嶺雪山産が夏期(7月末~8月上旬)で夏型に相当すると思われますが、サファイアフチベニシジミとは異なり、前翅表先半部の黒色部の広がりに於いては春夏で全く差異はありません(サファイアフチベニシジミの夏型同様の広がりを示します)。後翅裏面後縁沿いの赤色班は、春型で白色鱗を塗したような様相を呈し、後翅表後縁沿いの朱色班は、春型で発達が良く(色も鮮やか)夏型でやや発達が悪いといった、サファイアフチベニシジミの場合に似た傾向を示しますが、サファイアフチベニシジミのように顕著ではありません。(四川省二朗山で撮影の夏期の♀個体の裏面写真を、一応本種として紹介していますが、フカミドリフチベニシジミか本種かについては、不明です)。

なお、♂翅表が、鮮やかで明るい金色の金属光沢を示す雲南省緑春産・雲南省高黎貢山産に対し、四川省西嶺雪山産はやや緑がかった弱い光沢(飛び古した個体ゆえかも知れません)、ベトナム北部ファンシーファン山はオレンジ色を帯びる(ミャンマー産の所蔵標本も似た色調を示します)、といった差異が見られます。個体変異に由来するものなのか、地域的な(あるいはその他の意味を持つ)安定した変異なのかは、今後の検証課題です。










↑雲南省境に近い、ベトナム最北部ファンシーファン山3142m。









↑ファンシーファン山中腹の、キンイロフチベニシジミとウラフチベニシジミ♂の占有行動が見られる小渓流。













↑ファンシーファン山中腹 2010.4.4(同一個体)。







↑西嶺雪山(大邑原始森林)のキンイロフチベニシジミが棲息する渓谷。






↑おそらく、フカミドリフチベニシジミ、サファイアフチベニシジミも混生しているのではないかと考えられますが、渓流の上部では本種が主体になるものと思われます。花は野生アジサイのアスペラの一種。2009.8.9






↑飛び古した個体なので、正確なことは解らないけれど、ベトナム・サパ産とは反対に、赤色味がほとんど無く、金色というより黄緑色です。四川省大邑県西嶺雪山(大邑原始森林)中腹 1991.8.9






↑♀裏面。四川省天全県二朗山中腹 2009.8.3
成都西郊の山地には、キンイロフチベニシジミ、フカミドリフチベニシジミ、サファイアフチベニシジミの3種が分布している可能性があります。サファイアフチベニシジミに関しては、♀や翅裏面も他種との区別が可能ですが、僕は現時点ではキンイロフチベニシジミとフカミドリフチベニシジミの♀の区別点を把握していません。したがって、この写真の個体も、どちらの種なのかは不明です。







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続・ベニシジミ物語 5 キンイロフチベニシジミ(その1)

2011-03-19 09:33:44 | チョウ

 



↑雲南省騰沖県高黎貢山2004.7.30 



(第4回)キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma Ⅰ

《Heliophorus brahmaの♂外部生殖器構造について(被検標本:雲南省緑春県産)》

【全体の大きさとプロポーション】
●大きさは、ベニシジミ族として中康。Valvaやjuxtaの前後長が短く、全体に丸く頑丈なイメージ。

【Saccusの発達度】
●ウラフチベニシジミHeliophorus ila程ではありませんが、やや長めです。

【Sociusの形状】
●サファイアフチベニシジミHeliophlus saphir同様に、基部が太く後半が内側に湾曲して先端が鋭く尖り、対で「クワガタ」状になりますが、対の幅は本種のほうが広がります。

【Falxの発達程度】
●ベニシジミ族として平均的。

【Vinculum背後縁の張り出し】
●シロオビムラサキベニシジミHelleia pangaともども、張り出しが顕著です。

【Valvaのプロポーション】
●横幅の広い(前後長は幅の約1.5倍)半球形のお椀型で、濃く着色し、(Heliophorus viridipunctataを除く)他の各種に比べて明らかに頑丈な感じがします。

【Costaの発達程度と、Juxta側翼との連接状況】
●Costaの部分が急角度で屈曲してjuxtaの側翼と連接し、costa上方のvalva背基縁が、2分裂した突起となります。

【Juxta両翼面の角度】
●ほぼ90度。

【Juxtaの翼の形状】
●概形はHelleia属3種(オナガムラサキベニシジミ、シロオビムラサキベニシジミ、メスアカムラサキベニシジミ)に似て大型、側翼が発達して左右の幅が前後長を越します。

【Juxtaの腰からsaddleにかけての状況】
●腰の位置が低く、翼面はvalva内面に近づき、腰からsaddleにかけての部分は一様に幅の広い面状となります。

【Phallusの形状】
●ベニシジミ族の一般型。

本種の♂外部生殖器の基本構造は、次に述べるフカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctataと完全に相同です。末端部分には微少な相違点が見られますが、種差と言える程のものかどうかは疑問です。ただし、仮に微少な差であっても、相互に安定的であればその限りではありません。被検標本が少ない現時点では、保留にしておくほかないでしょう。








キンイロフチベニシジミ Heliophorus brahma

1段目左:春型♂:雲南省緑春県 1995.4.7
1段目中:夏型♂:雲南省騰沖県高黎貢山 2004.7.30
1段目右:同上(同一個体)
2段目左:春型♂:ベトナム北部ファンシーファン山中腹 2010.3.20
2段目中:同上(同一個体)
2段目右:同上(同一個体)
3段目左:同上(同一個体)
3段目中:同上(同一個体)
3段目右:夏型♂:四川省大邑県西嶺雪山中腹 1991.8.9
4段目左:春型♂裏面:雲南省緑春県 1995.4.7
4段目中:春型♂裏面:ベトナム北部ファンシーファン山中腹 2010.3.20
4段目右:夏型♀裏面:四川省天全県二朗山中腹 2009.8.3(フカミドリフチベニシジミないしはサファイアフチベニシジミの可能性あり)

*撮影地点はいずれも標高2000m前後(1700m~2300m)



《キンイロフチベニシジミHeliophorus brahmaの分布と生態について》

昨年末、沖縄にヘツカリンドウの調査に赴く際、なかなか予算を捻出出来ず、出発当日の時点で、どう考えても2万円ほどが足りません。思いあぐねた挙句、羽田に向かう途中に、神田神保町の古本屋へ本を売却しに行くことにしました。

用意したのは、作者や出版元から寄贈された、一冊数万円単位の豪華写真集を2冊、高額で購入した学術書を1冊、中国の奥地で入手し苦労をして持ち帰った分厚い図鑑2冊、いずれも手放したくは無かったのですが、背に腹は代えられません。少なくとも万単位の金額にはなるはずです。もし、予想より少な目なら、それらに加えて、中国の研究施設に寄贈するという名目で、つい先日無理を言って出版元より頂いたばかりの、自著「中国のチョウ」も付け加える、という算段です。

ところが何と、、、、数万円どころか、5冊併せて、たったの500円!幾らなんでもそれは無いですよ!と抗議したのですが、今の時勢、写真集などは全く値が付かない、外国物も買い手がない、と埒があきません。『中国のチョウ』なら6000円を出しても良いです、併せて6500円、じゃあどうでしょう、ということで、(必要のない重い本を何冊も中国や沖縄で持ち歩く訳には行かないし)仕方なく、粘って計7000円で引き取ってもらうことにしました。

帰京後、『中国のチョウ』を買い戻しに行ったのです。6000円ということは、8000円ぐらいで店頭に出ているかも、売却者本人ということで、少しは負けて貰えるかも、だったら手持ちの資金でギリギリ足りそう、と思っていたのですが、売値は定価(1万6000円)と左程変わらない1万3500円。1万2000円に負けておきましょう、と言われても、今の僕には購入は無理な話です。

というわけで、今現在『中国のチョウ』は僕の手元に存在しません。幸い、ベニシジミ族全体のゲニタリアについて記述した部分と、サファイアフチベニシジミの記述部分に関しては、以前にパソコン内に取り込んでいたため、それを再編して利用することが可能になったのですけれど、その他の種に関しての(ゲニタリア以外の)記述は、参照することが出来なくなってしまったわけです(原資料を引っ張り出して新たに一から纏めるのは大変!)。従って、キンイロフチベニシジミ以下の種の、『中国のチョウ』刊行以前の記録(1988~1997年)の紹介は、今回は割愛し、そのうちに『中国のチョウ』を再入手した時点で、追加記述をしていきたいと考えています。





↑雲南省緑春県 1995.4.7。元陽県との境界の峠付近から、数100m登った森林中の渓谷の陽だまりで、キンイロフチベニシジミの数頭の♂が、葉上で占有行動するのに出会いました。詳細は『中国のチョウ』に記述しているので、入手後、転載を予定しています。







↑雲南省緑春県 1995.4.7。春型♂。サファイアフチベニシジミと違って、翅表は、後翅外縁の朱色班が鮮やかなことを除けば、夏型との間に目立った差違はありません。数頭の♂による葉上での目まぐるしい占有行動を観察していたのですが、一時間近く絶った頃、突然姿が消えてしまいました。しばらくして、足下の小さな流れの岩上に数頭の♂が吸水にやって来ているのに気がつきました。








↑後方から見ると、翅の輝きは消え、クロミドリシジミを思わせる、味わいのある深い暗色と成ります。






↑雲南省緑春県 1995.4.7。後翅裏面外縁朱色班が白く塗されるのは、サファイアフチベニシジミ春型と同じ。ただし、その程度はより軽微で、裏面の条紋は明瞭、尾状突起はかなり長めです。






↑キンイロフチベニシジミの棲息する渓流周辺の天然林の写真が見つからないので、代わりに緑春への行き帰りに出会った巨大棚田の写真を紹介しておきましょう(「あや子版」では何度か紹介済み」。初出時は日本初の紹介だったはずですが、16年後の現在では、超有名観光地になってしまったようですね。ちなみにこのような開けた環境の周辺には、フカミドリフチベニシジミは見られても、キンイロフチベニシジミは棲息していない筈です。雲南省元陽~緑春1995.4.8












↑雲南省騰沖県高黎貢山 2004.7.30。♂は葉上に静止し、他の個体が近づくと飛び立って、物凄いスピードで目まぐるしく占有飛翔を繰り返します。金属光沢の煌めきは、前方から見た時が最も顕著なようです。春型との差は、翅表では後翅外縁朱色班の鮮やかさがやや弱く、翅裏では朱色班に白色鱗を塗さないことぐらいで、全体としてごく軽微です。翅裏の黒条紋は、サファイアフチベニシジミと違って良く発達します。












↑雲南省騰沖県高黎貢山2004.4.20。キンイロフチベニシジミが見られるのは、峠頂近くの原生林(写真上:樹冠、中:林内2004.4.20)中に開けた、天然放牧草地(下1995.7.30)の周縁です。








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続・ベニシジミ物語 4 サファイアフチベニシジミ(その2)

2011-03-18 14:11:35 | チョウ
続・ベニシジミ物語 4 サファイアフチベニシジミ(その2)





↑浙江省杭州市西郊臨安県西天目山山麓 2005.4.12


(第4回)サファイアフチベニシジミHeliophorus sapher Ⅱ

このシリーズで紹介するベニシジミ族各種の大多数の写真は、2005年にデジタルカメラを使いだしてからのものです。また、Helleia属の3種とベニシジミLycaena phlaeasは、ポジフィルム(ヴェルビア)使用のカットも多いのですが、主に1995年以降の撮影。それに対して、このサファイアフチベニシジミだけは、1989年~1991年度の、四川省都江堰市(青城山山麓)における、ポジフィルム(コダクローム)使用の写真が、ほとんどを占めます。

1998年に『中国のチョウ』刊行後は、主な撮影・取材対象地域を、四川省から雲南省や陝西省や広西壮族自治区などに移してしまったために、この仲間の主役はフカミドリフチベニシジミ(およびキンイロフチベニシジミ&アオミドリフチベニシジミ)となり、四川省、ことに成都近郊の低山地域に多く見られたサファイアフチベニシジミに出会う機会は、めっきりと減ってしまいました。ここ数年、再び四川省を訪れる機会も増えたので、他地域(浙江省)産を併せ、『中国のチョウ』刊行後に撮影した個体のデータを紹介しておきます。

■2009年7月1日。四川省磨西県ミニャコンカ山麓。1♂撮影。正確には、ミニャコンカ登山口である磨西の村の手前、大渡江支流沿いの滝を車を止めて撮影中に出会った個体です。同行していた中村君が見付け、僕も慌てて撮影に加わりました(中村君は翅の裏面も撮影しています)。2010年8月9日。四川省宝興県東拉渓谷入口付近。1♂(+α)。「My Sentimental Jorney~東拉紀行」でも紹介。同時に♂翅表と翅裏を撮影していますが、別個体の可能性もあります。緯度は、北緯30°(磨西)、30°30′(宝興)付近で、青城山や西天目山山麓とほぼ同じですが、標高は明らかに高く、1500m~2000m辺りに位置するものと考えられます。ともに、前翅外縁黒色部が翅端部で広がり、後翅外縁の朱色班の面積が狭いという、典型的な夏型の形質を示しています。

なお、この一帯(成都西郊の比較的高標高の地域)では、キンイロフチベニシジミ(西嶺雪山)、フカミドリフチベニシジミ(二朗山)も、撮影しています(青城山山麓などの低地帯では、おそらくサファイアフチベニシジミ単独分布)。ただし、この3種を同時に見かけたことはありません(二朗山で撮影した1♀の帰属は未定→キンイロフチベニシジミの項で写真紹介しています)。四川省における3種の相互関係の実態は、今後の検証課題です。

■2005年4月12日。浙江省臨安県(杭州市西郊)西天目山山麓。1♂撮影。『中国のチョウ』に、1989年度の観察・撮影例を記述した場所と、同一地点。『中国のチョウ』では、標高約400mとしていますが、ここでは約200mとしておきました。手元に等高線の入った地図がないため、正確な標高は解らないのですが(判明次第記述します)、いずれにしても、東シナ海沿海部(杭州湾)の杭州市中心部から左程離れていない、山際の低地帯です(西天目山登山口)。同じ時期が発生盛期となる、ヒイロクモマツマキチョウの撮影が主目的で、1989年の場合も、2005年の場合も、ヒイロクモマツマキチョウ撮影中に、同じく成都近郊に多産するキマダラサカハチチョウ共々、畑の縁でたまたま出会ったものです(見つけたのはスーリンで、ヒイロクモマツマキチョウ撮影を中断、あわてて駆けつけて写したのが、この写真です)。

1989年、2005年とも、撮影時期は、主に1989~1991年の成都市西郊の青城山山麓と同じ頃(4月上~中旬)、成都西郊産について言えば、この時期の撮影個体は、全て典型的な春型の特徴を示していますが、浙江省産は、夏型との中間的形質を現わします。すなわち、♂翅表外縁の黒色部が先端付近で夏型のように太くなり、しかし典型的な夏型と違って、後翅外縁の橙色班は、鮮やかで太い春型的特徴を示します(1989年に撮影した裏面の特徴も中間的)。また、尾状突起も、典型的な春型(通常極めて短い)よりは幾分長めですが、夏型に比べれば明らかに短いと言えます。

季節のみでなく、両地域とも、北緯30°~31°(屋久島~種子島に相当)の間に位置し、標高も左程変わりなく(海抜換算では青城山山麓のほうが幾分高い)、地形的にも類似しています。なのに片方(成都近郊産)は典型的な春型、片方(杭州近郊産)は夏型との移行型、というのは、どのような訳があるのでしょうか?異なる分類群に属する(浙江省の♂ゲニタリアは未検鏡)可能性もなくは無いでしょうが、外観で判断する限り、全く相同と考えて差し支えないと思います。おそらく、季節型(ベニシジミ類の場合は、日本のベニシジミなどもそうですが、明確な季節型があるのではなく、低温または短日期と高温または長日期との間で、表現形質が連続的に移行していきます)の形質形成に与える気候的要因が、同一季節、同一緯度・標高といっても、背後に5000~7000mクラスの高山を控えた内陸盆地の縁の成都近郊と、周囲には2000m未満の山しかない沿海部の杭州近郊では、微妙に異なるのではないでしょうか。

興味深いのは、(『中国のチョウ』にも触れていますが)青城山をはじめとする成都西郊の低山帯に於いて、本種とともに極めて普通に見られるキマダラサカハチチョウが、ここ杭州西郊でも混在しているということです。両種は、一般には中国西部を代表する種のように思われがちですが、実際は、より西方では(それぞれ近縁別種の、アカマダラモドキやオオサカハチチョウ、フカミドリフチベニシジミやアオミドリフチベニシジミと入れ代るように)姿を消し、逆に遥か東方の長江河口付近に姿を現すわけで(中間地域の湖北省などに於ける実態検証が必要ですが)、このような種から成る「長江中~下流域固有生物」という分布型のカテゴリーを設置せしめても良いのではないか、と思っています。






↑サファイアフチベニシジミ、キマダラサカハチチョウ、ヒイロクモマツマキチョウの棲息する、西天目山山麓の畑の縁の雑木林。浙江省臨安県2005.4.10。
上の写真は、デジタルを使いだして最初のカットの一つです。その1年ほど前から仕事(旅行本の取材)用には簡単なデジタルカメラを使ってはいましたが、蝶の写真をデジタルで撮影したのは、この日が初めて(ヒイロクモマツマキチョウの翅を閉じたカット)。その直後、西天目山に登山中に、買ったばかりのデジタルカメラが雨に濡れてしまって、作動しなくなってしまいました(デジタルはアナログより雨に弱いのです)。そこで、翌日、翌々日の撮影は、(上海のニコンへ修理に出すまでの間)予備に持っていたアナログカメラを代用することにしました。最初に紹介した、サファイアフチベニシジミ♂のカットが、その時の撮影。ということは僕がポジフィルム使用のアナログカメラで写した、最後の写真の一つということになります(のち半年ほどはアナログカメラも持ち歩いていて、風景や花は念の為両方で撮影していましたが、結局ポジフィルムのほうは現像しないまま今に至っています)。





↑1989.4.9 浙江省臨安県。2005年度と同じ場所での撮影(♂)。この時もヒイロクマキチョウ撮影中に、キマダラサカハチチョウと共に姿を表しました。今回(2005年度)とは逆に、キマダラサカハチチョウは何とか撮影できたのだけれど、サファイアフチベニシジミの撮影には失敗。でも、かろうじて同定は出来ます。後翅裏面後縁朱色帯は白色鱗粉を塗し(典型春型に比べればやや軽微)、尾状突起は典型春型に比べればやや長めで、2005年撮影個体の翅表の特徴と軌を一にします。








↑吸水中の夏型。四川省都江堰市青城山山麓 1989.6.20







↑キツネアザミの花で吸蜜中の夏型2♀。四川省都江堰市青城山山麓 1989.6.14 







↑交尾中の夏型♂♀。裏面の黒条は僅かに現れますが、フカミドリフチベニシジミなど近縁3種に比べれば、明らかに不明瞭です。四川省都江堰市青城山山麓 1989.8.1










↑夏型♀。春型同様に、朱色班は内側に湾曲する傾向があります。四川省都江堰市青城山山麓1989.6.19(上)/1989.6.9(上と下)









↑夏型♂。前翅外縁黒帯の上部が広がり、後翅外縁の朱色帯は、春型に比べ、明らかに発達が悪くなります。四川省都江堰市青城山山麓1989.6.14(上)/1989.6.8(下)








↑夏型♂。後翅裏面外縁沿い朱色帯(の内縁の白帯)は、中程(第4-5室)で強く湾曲する傾向があります(近縁3種やウラフチベニシジミではストレート)。四川省宝興県東拉1989.6.14。宝興県の産地は「東拉紀行」で紹介済み。








↑上2枚とも中村君撮影。僕のより、ずっと良い色が出てる! 悔しいなあ、、、、落ち込んでしまいます。腕の差ではなく、カメラの違いだと思いましょう。






↑中村くんに、オーイ!と呼ばれて、駆けつけて写しました。もっと地味な色だったのを、鮮度を上げて、やっとこの程度です。ミニャコンカ山麓の磨西の村の手前付近にて 2009.7.1 







↑磨西県の撮影地は、ミニャコンカ7556m(写真の左のピーク、1989.5.2撮影)の山麓で、海螺溝入口に近い大渡河の一支流沿いの路傍(標高1600m付近)。ミニャコンカ紀行は、「2009.7.2“20年ぶりのミニャコンカ”」で近く紹介を予定しています。





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続・ベニシジミ物語 3 サファイアフチベニシジミ(その1)

2011-03-17 11:29:46 | チョウ






↑四川省成都市西郊都江堰市青城山山麓 1989.4.14 





(第3回)サファイアフチベニシジミHeliophorus sapher Ⅰ

《Heliophorus sapherの♂外部生殖器構造について(被検標本:四川省都江堰市産)》
*第1回「はじめに」で述べたように、『中国のチョウ』からの転載(全て僕自身の観察)です。形質ごとのまとめから、種ごとのまとめに、文脈を入れ替え、学名と和名を併記しました(『中国のチョウ』では数字記号に変換)。外部生殖器各部分の簡単な説明は「はじめに」(*)を参照して下さい。また、その他の観察事例についても、原則として、語調の変更のみを行い、『中国のチョウ』記述文をそのまま引き写しました。注約を付した部分は文中に*印で示し、新たな観察については、末尾に『追記』として記述しました。

翅の色や斑紋などの外観は、中国大陸南部や台湾から東南アジア各地に広く分布するウラフチベニシジミHeliophorus (Heliophorus) ilaや、その近縁種のHeliophorus (Heliophorus) epiclesによく似ていて、通常同じHeliophorus属に含められますが、雄交尾器の形状差は顕著で、以下に述べるキンイロフチベニシジミHeliophorus brahmaやフカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctata、さらにアオミドリフチベニシジミHeliophorus androclesともども、類縁的にはかなり離れて位置付けされるべきものと思われます。

しかし上記2種に対しても、valvaがきわめて横長なこと、juxtaの翼も前後に長いことなどの明確な差があり、一見したところ雄交尾器の概形は、むしろオオベニシジミLycaena(Rapsidia)disperやミヤマムラサキベニシジミLycaena(Rapsidia)standfussiに類似しています。また、vinculum背後縁が著しく突出し、鋭く尖った遊離板となり、この傾向に限っていえばアオミドリフチベニシジミHeliophorus androclesと共通します。

【全体の大きさとプロポーション】
●ミヤマムラサキベニシジミLycaena sutandfussiと並ぶ最大種。最小種のメスアカムラサキベニシジミHelleia tseng、シロオビムラサキベニシジミHelleia pang、オナガムラサキベニシジミHelleia liに比べて、juxta長で約3倍、valva長で約2倍の差があります。valvaやjuxtaが前後に長くスリムな点も、ミヤマムラサキベニシジミと共通します。

【Saccusの発達度】
●ウラフチベニシジミHeliophorus ilaのように著しく長くはなりませんが、キンイロフチベニシジミHelleia brahma、フカミドリフチベニシジミHelleia viridipunctata共々、他の各種に比べればやや長めです。

【Sociusの形状】
●基部が太く後半が内側に湾曲して先端が鋭く尖り、対で「クワガタ」状になります(キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma、フカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctataと共通、ただし2種に比べ対の幅が狭い)。

【Falxの発達程度】
●ベニシジミ族としては平均的(著しく細長いウラフチベニシジミHeliophorus ilaを別格とすると、オナガムラサキベニシジミHelleia li が最もよく発達、メスアカムラサキベニシジミHelleia tsengが最も発達が悪い)。

【Vinculum背後縁の張り出し】
●アオミドリフチベニシジミHeliophorus androclesとともに、大型の突起状を成します(シロオビムラサキベニシジミHelleia pang、キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma、フカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctataも顕著に張り出しますが、突起状にはなりません)。

【Valvaのプロポーション】
●前後長が長く、幅の5~6倍、扁平で後方が細まったのち後縁が広がります。ミヤマムラサキベニシジミLycaena standfussiに似ていますが、後縁は丸みをおびて微細な粒状突起を伴います。

【Costaの発達程度と、Juxta側翼との連接状況】
●広く扁平な板状遊離突起となり、屈曲し強く張り出したjuxta側翼と連接します(キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma、フカミドリフチベニシジミHeliophorus.viridi-puncutataと異なり、costa上方のvalva背基縁は2分しません)。

【Juxta両翼面の角度】
●ミヤマムラサキベニシジミLycaena standfussi、キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma、フカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctata共々、ほぼ90度(ベニシジミLycaena phlaeasでは、きわめて急、その他の種はごくゆるやか)。

【Juxtaの翼の形状】
●主翼が前後に極めて長く、左右の幅の約2倍、valva長の約4/5、大きさや概形はミヤマムラサキベニシジミLycaena standfussiと似ていますが、主翼先端はさらに鋭く突出し、下翼は袖状に発達せず、袋状部分がごく狭いことが相違点です。

【Juxtaの腰からsaddleにかけての状況】
●キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma、フカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctata共々、腰の位置が低く、翼面はvalva内面に近づき、腰からsaddleにかけての部分は一様に幅の広い面状となります。

【Phallusの形状】
●ベニシジミ族の一般形。種ごとにいくらかづつの差はありますが、著しい特徴を示すシロオビムラサキベニシジミHelleia pangとウラフチベニシジミHeliophorus ilaを除く各種とは、ほぼ共通します。


   

     



サファイアフチベニシジミ Heliophorus saphir [♂翅表]
(全て別個体)
1段目中:春型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.15
1段目右:春型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.16
1段目左:春型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.16
2段目左:春型♂:浙江省臨安県西天目山山麓(標高約200m) 2005.4.7
2段目中:春型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.13
2段目右:春型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.13
3段目左:夏型♂:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.7.9
3段目中:夏型♂:四川省宝興県東拉渓谷(標高約1800m) 2010.8.9
3段目右:夏型♂:四川省磨西県市東ミニャコンカ山麓(標高約1700m) 2009.7.1
   

   

   


サファイアフチベニシジミ Heliophorus saphir [♀翅表と♂♀翅裏]
(全て別個体)
1段目左:春型♀:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.14
1段目中:春型♀:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1990.4.8
1段目右:春型♂裏面:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.15
2段目左:夏型♀:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.6.9
2段目中:夏型♀:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.6.19
2段目右:春型♂裏面:四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.4.15
3段目左:夏型裏面(交尾):四川省都江堰市青城山山麓(標高約800m) 1989.8.1
3段目中:夏型♀(産卵):四川省都江堰市玉塁山(標高約800m) 1991.8.7
3段目右:夏型♂裏面:四川省宝興県東拉渓谷(標高約1800m) 2010.8.9

《サファイアフチベニシジミHeliophorus saphirの分布と生態について》

四川省成都市西郊の青城山周辺には最も普通な蝶のひとつで、ここでは日本のベニシジミLycaena(Lycaena)phlaeasに代わる生態的位置を占めているように思えます。長江流域に沿って東西に広く分布し、成都から東へ2000km程離れた浙江省の杭州市近郊でも本種を撮影しています(1989年4月15日、西天目山山麓Alt.400m)が、青城山周辺以外の成都市近郊をはじめ、重慶市近郊、西安市近郊などでは未見出、多産する地域は限られているものと思われます。なお青城山周辺で見られるベニシジミ族は本種のみで、逆に多数のベニシジミ族の種が混棲する雲南省北部などでは本種を確認していません。

雄の翅表は金属光沢のある青緑色、雌は褐色の地に赤紋を有し、その姿は一見ミドリシジミ類を思わせます。しかし、彼らのように樹上性ではなく、林縁や渓流沿い、路傍などに生える草本や低木上によく見られます。雄の占有性は顕著で、翅を水平に開いて葉上に静止し、別の雄が近づくとすぐに飛び立ってこれを追い激しくもつれあいますが、一部の高等ゼフィルスに見るような明瞭な卍どもえ飛翔をなすまでには至りません。飛翔時は一斉に数頭~10数頭がもつれあい、追飛を行わないときは数mおきにほぼ等間隔の距離を保って、いくつもの個体が葉上で翅を平開したまま静止しています(ひとつの畑の周囲に多い時は20頭を超え、その中にはごく新鮮な個体から、かなり汚損が進んだ個体まで混在しています)。春・夏とも、追飛行動は日中の短時間(主にPM2:00~3:00頃の一時間弱)に限られていて、その活動時間帯の中で、雄が一斉に飛び立って行う目まぐるしい追飛翔と、平開姿勢をとっての静止を繰り返します。

雄は吸水性も顕著で、主に晴れた日の午前中、上記の畑のすぐ下を流れる渓流の、岩と岩にはさまれた砂地(地元の住民が料理の準備や洗濯の場として利用している)に、マドタテハDilipa fenestra、チュウゴクコムラサキApatura here、キマダラサカハチチョウAraschnia doris、ヒメフタオチョウPoliura narcaea、シロヘリスミナガシStibociona nicea、カバタテハモドキPseudergolis wedah、タイワンホシミスジLimenitis sulpitia、アカキマダラヒカゲNeope bremeri bremeri、ムラサキヒメキマダラヒカゲZophoessa violaceopicta、ウスアオヤマキチョウGonepteryx amintha amintha、マルバネエグリキチョウDercas wallichii、チュウゴクスジグロチョウPieris napi mandarina、クジャクカラスアゲハPapilio bianor、ルリモンアゲハP.paris、タイワンタイマイGraphium cloanthus、ユウマダラセセリAbraximorpha davidii、ムモンマエルリシジミOrthomiella sinensis、オオスギタニルリシジミCelastrina sugitanii lenzeni、ルリシジミC.argiolus、タッパンルリシジミUdara dilecuta、などとともに訪れ、ときにはサファイアフチベニシジミだけで10頭近い吸水集団を形成することもあります。岩上の鳥の糞で吸汁していることも多く、また、雌雄ともに訪花性も顕著で、路傍に咲くキツネアザミには、フィールドベニモンキチョウColias fieldiiとともに好んで訪れ(‘89年6月11日の観察では午後7:00頃まで吸蜜行動が見られた)、ナノハナやキイチゴ属Rubusの花でも吸蜜中の個体をよく見かけます。

雌は、雄とは平時の活動空間を異にするものと思われ、雄が占有中の畑の縁を緩やかに飛翔していたり、稀に吸水集団の中に混じっていたりしますが、一般には雄とは離れて単独でいることが多いようです。産卵は1991年8月6日AM11:30頃、雄の多い比較的明るい渓流沿いや畑の周辺とは著しく異なった環境の、イナズマオオムラサキSasakia funebrisの多産する玉塁山山頂付近の鬱閉した林内で観察しています。尾根上に近い石段の縁に横倒しに生える茎高10cmほどの半藤木性タデ科植物の周囲を、腹を曲げたまま歩き回り、葉縁に2卵を産付しました。交尾は89年8月1日PM5:30頃、青城山山麓の集落に近い路傍の草上で撮影しています。

第1化成虫は4月(上~中旬にきわめて多く、3月後半に出現)、第2化は6月(5月後半に出現)がピークで、7~8月に見られる個体は第3化に相当するものと思われますが、第2化以後の出現にはばらつきが予想され、正確なところは解りません。第1化(春型)と第2化以後(夏型)では、翅型や斑紋に顕著な差を示し、かつては互いに別種とされていたこともあります。春型は尾状突起が短く、後翅裏面外縁沿いの赤色帯の上に白色鱗が塗ぶしたように重なる傾向を示し、雄の翅表は金属光沢青色部が外縁を除く翅全面に広がり、雌翅表の赤色紋も大きい、といった特徴があります。夏型は後翅に明瞭な尾状突起を有し、後翅裏面外縁は鮮赤色で、雄翅表は外縁の黒帯が発達して(ことに翅頂部は黒色帯が著しく広がる)金属光沢青色部が狭く、雌翅表の赤色班もやや小さいことなどが特徴です。ただし、春型と夏型は明確に入れ代るのではなく、5~6月頃にはどちらの型とも判断し難い移行的な形質をもつ個体も、少なからず見出されます。これらの傾向は、日本産ベニシジミの季節変異のパターンと軌を一にするといって良いでしょう。秋期の状況は未確認ですが、晩夏から秋にかけてさらに数回出現するものと思われ、日本のベニシジミ同様に、晩秋の最終世代が春と同じタイプに戻るのかも知れません。




 





↑1989年から1991年にかけて毎日のように訪れていた青城山山麓の小渓流。この周辺だけで50種近い蝶を撮影したと思います。1995年に再訪した時には、新築のホテルに続くアスファルト道路が作られ、跡形も無くなってしまっていました。下の写真左上に見えるのは、黄花のヒガンバナ属野生種。








↑山麓の小渓流に吸水に来た春型♂(上の写真左はタテハチョウ科コムラサキ属のマドタテハ) 四川省都江堰市青城山1989.4.16







↑キイチゴの仲間の花で吸蜜中の春型♂ 四川省都江堰市青城山1989.4.16






↑葉上で占有姿勢をとる春型♂ 四川省都江堰市青城山1989.4.16


 





↑春型♂ 翅表の金属青色鱗の面積が広く、後翅後縁の朱色帯が発達し、尾状突起は短い。四川省都江堰市青城山1989.4.14-15 









↑春型の翅裏面 後翅裏面外縁の朱班は白色鱗で塗されています。近縁3種(フカミドリフチベニシジミ、キンイロフチベニシジミ、アオミドリフチベニシジミ)と異なり、黒条はほとんど発達しません。四川省都江堰市青城山1989.4.15









↑春型♀ 夏型に比べ前翅表の朱色班がより大きく現れます。朱色班の概形は、単調な楕円型のフカミドリフチベニシジミに比べ、外側に膨らみやや内側に膨らむ傾向があるようです。写真上の個体のように、基半部に♂と同じ青色金属光沢鱗が僅かに出現することもあります。四川省都江堰市青城山(上)1989.4.14(下)1990.4.8







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続・ベニシジミ物語 2 マルバネフチベニシジミ

2011-03-16 13:43:38 | チョウ
★続・ベニシジミ物語 1(はじめに)に追加をしました。









(写真上から)マルバネフチベニシジミ♂/♀/裏面 雲南省徳欽県梅里雪山雨崩村(標高約3200m) 2009.6.12-13




(第2回)マルバネフチベニシジミHeliophorus sp.

梅里雪山のみに分布する稀産種と思われ、おそらくすでに記載されているのでしょうが、僕はまだチェックし得ないでいます。将来、(実態双眼顕微鏡が手に入り次第)ゲニタリアの作図・解説と併せ、(もし記載が成されていれば)原記載報文などを紹介する予定でいます。

この蝶の撮影エピソードについては、以前「あや子版」(梅里雪山/ベニシジミの仲間①~⑨/2009.6.25~6.28)に、リアルタイムで紹介しています(和名を「マルバネサファイアフチベニシジミ」としています)。以下、その時の記事を、再掲載しておきます(一部省略)。

梅里雪山の懐、6000m級の氷雪の峰々が、緑の樹林に覆われた集落を取り囲む、雨崩(ユイボン)村こそ、“理想郷”の名にふさわしい地です。ただし、そこに辿り着くまでの苦労は、並み大抵ではありません。標高3100mのシャングリラから丸一日バスに揺られ、標高2000mの長江流域の町・迸子欄(昨年の夏、ミンミンゼミ“祖先種”を調査した所)に一度下り、白芒雪山の標高4300mの峠に登り、雲南省最奥の町・徳欽(標高3200m)を経て、再び標高2000mのメコン河流域に下り、西当温泉(標高2700m、温かいお湯が出ます)から徒歩で、標高4000mの峠へ、そして急坂を下って、上崩村(標高3300m)に辿り着きます。

上崩村の集落のすぐ傍の草原で、2種のベニシジミを見つけました。ひとつは、シロオビベニシジミ(と僕が名前を付けている)Helleia pang。外観は日本のベニシジミLycaena phlaeasに似ていますが、一応別属になっています(*本シリーズ第23回に紹介予定)。もうひとつは、四川省成都市近郊の青城山や、浙江省杭州市近郊の天目山で撮影したことのある、サファイアフチベニシジミHeliophorua saphirによく似た種。春型(この地域の紀行から推察して、年一回の発生)の特徴を示していますが、サファイアフチベニシジミでは短いと言えども明確に現れる後翅の尾状突起を、完全に欠きます(多数の個体で確認)。よく似た(♂の翅表が様々な色彩の)いくつもの種が存在するので、サンプルを日本に持ち帰って、外部生殖器の構造を調べてからでないと、このチョウの種名を特定するわけにはいきません。

前日、同じ草原で出会っていたのですが、先を急いでいたため、余り良い写真は写せないでいました。翌日の、滞在最終日(その日のうちに町に戻らねばならぬため、昼過ぎには出発)の出発前に撮影するつもりでいたのだけれど、それまで晴れていたのが、いざ撮影にかかろうとしたら、雨になってしまった。雨の中、花の上に多数の個体が翅を閉じて止まっているの(前の写真)ですが、陽が差さないと、翅を開きません。後は我慢比べ。タイムリミットになろうとした寸前、かすかに日差しが当たり、それとともに、おもむろに翅を開いてくれて、無事に撮影出来たのが、この♂翅表の写真です。

(*和名は、マルバネサファイアフチベニシジミと付けたのですが、少々長すぎると思うので、マルバネフチベニシジミに変更します)。

   

   





↑マルバネフチベニシジミ(2段目左2枚♀、その他は♂)雲南省徳欽県梅里雪山雨崩村(標高約3500m) 2009.6.12-13






↑奥の峰は、太子峰6054m。左下に見えるのが、2つある集落のうちの「下崩村」。そのうちに雨崩村の特集をする予定です。






↑こちらは「上崩村」。写真左奥の辺りに、マルバネフチベニシジミを撮影した草原があります。







↑マルバネウラフチベニシジミのいた草原の一角。








↑梅里雪山山脈の4つある6000m峰の一つ。草原の上に多い被るように迫ります。










↑(写真上から)マルバネフチベニシジミ♂/♀/裏面 雲南省徳欽県梅里雪山雨崩村(標高約3200m) 2009.6.12-13






↑雨崩村に下る峠道から見上げる太子峰6054m。





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続・ベニシジミ物語 1(はじめに)

2011-03-15 14:55:17 | チョウ






ここしばらく植物の話題ばかり続けてきたので、この辺りでチョウの話題もアップしておこうと考えたのですけれど、といって、写真の整理途上のため、まとまった形での紹介が出来ません。そこで、(植物の時のレンゲソウのように)いつものごとく、ピンチヒッターはベニシジミ。もう何度も同じ題材を紹介してきたので、またか、と思われるでしょうが、御勘弁下さい。確か以前にも再録した、『中国のチョウ』の解説文を、しつこく繰り返して紹介させて頂きます。

『中国のチョウ』の中で、もっとも力を注いで記述したのが、このベニシジミの仲間の♂Genitalia(外部生殖器)構造比較による系統関係の再検討です。我ながら、良く出来た報文だと自負しています。しかし、その数年後、僕とは別個に分類再検討を発表した某一流大学の若手エリート研究者に、僕の報文を(その存在を知りながら)完全無視される、という扱いを受けてしまいました(従って僕のほうも、今後彼の論文に従っての系統体系は一切引用せず、僕自身が行った検証のみに沿って記述していきます)。プロの研究者が、アマチュアの仕事を意図的に排除しようとすることは、昆虫の世界にしろ植物の世界にしろ、毎度のことで、いまさら驚くに値しないのですが、(客観的な心情としても)哀しくなってしまいます。機会があれば、そのような例(山ほどあります)だけを集めて紹介するのも面白いかも(笑)。

というわけで、彼の行いに対しては、少なからずの憤りを感じていますが、間に立って頂いた(かつ僕がベニシジミの仲間の分類を行うきっかけを与えて下さった)柴谷篤弘博士には、大変申し訳ない思いでいます。そのことに関しては、友子さんの問題とも係わってくるため、そのうちに「朝と夜の狭間で」の一環で、述べて行く機会があるかも知れません。

ベニシジミの仲間のゲニタリアは、単に顕微鏡で検鏡して作図をすれば良いというものではありません。欧米や旧・ソビエトの研究者の報文・論文には、多くの詳細なゲニタリアが図示されていますが、いずれも外観と末端構造のみを(こと細かく)表示したものに過ぎず、肝心の分類指標とされるべき形質には、全くと言って良いほど触れられていません。

ベニシジミの仲間の系統分類に際しては、このグループの特徴でもある、ペニスを支えるユクスタという部分(人間で言えば股関節のようなところ)の、周辺形質との相関を含めた検証が必要で、極めて微少で立体的な構造を成しているため、普通に検鏡しただけでは、その正確な姿は浮かび上がって来ません(前もって基本的な構造を完全に把握しておく必要があります)。ちなみに、一言で“細部”といっても、本質的で(系統分類を行うに当たって)重要な指標となる“安定した細部”と、“顕著に変化する末端的な細部”があって、後者のほうが目立ちやすいため、往々にしてそちらのほうに目が行きがち、そのため誤った系統関係を構築してしまうのです(上記研究者は、そのあたりはきちんと把握していることと思われますが)。

現在、手元に実体双眼顕微鏡がないため、作図が叶わないのですけれど、近い将来、新しい手元に実体双眼顕微鏡が手に入り次第、いの一番に行うことにし、今回は『中国のチョウ』の再録・再編ということで進めて行きます。(以上2011.3.4記)

♂外部生殖器構造比較の解説は、『中国のチョウ』における記述内容をそのままに、文脈を入れ替えて(“外部生殖器の構造→分類群”から“分類群→外部生殖器の構造”)行いました。種名は、学名と和名を併記(『中国のチョウ』では数字記号で統一)し、外部生殖器各部分の簡単な説明を()内に付記しました。また、その他の観察事例についても、原則として、語調の変更のみを行い、『中国のチョウ』記述文をそのまま引き写しました。注約を付した部分は文中に*印で示し、新たな観察については、末尾に『追記』として記述しました。

(以下、『中国のチョウ』からの改編転載)

ベニシジミ族の雄外部生殖器(交尾器)の基本構造について(*に記した各部位の説明は、今回新たに記述、参考書を見ずに書いたため、思い違いや綴りの間違いがあるかも知れません、それらについては、判明次第訂正していくことにします)。

■Juxtaは大型で、翼や基底部が発達し、valvaのcostaやsacculusと強い連接機能を持ちます(2つの主翼が後方に伸長し、その左右に「袖」状の側翼を生じ、左右のvalvaのcostaに連接、juxta本体中央の腰の部分より基方は、ふつう前方・後方・前方の順に屈曲して、基端の「saddle」でvalvaのsacculiと連接しています)。
*Juxta=Phallusを支える板状部、各部位へ派生する筋肉により、♀の膣溝内への挿入時に際してのphallusの前後動をはじめ、外部生殖器全体の連動を司ります。小さく目立たない器官のため、しばしば作図などに際して省略されることがあります。ベニシジミの仲間に於いては、2重に重なるように折れ曲がったり、数対の翼を生じたりするなど、立体的で複雑な構造を成し、この仲間の系統分類に際し重要な指標形質となります。
*Valva=♂外部生殖器のなかで最も目立つ部分です。Vinculumの両側縁から対になった板状で後方へ派出し、通常内面に様々な機能形質を伴います。交尾に際し、juxtaからの筋肉により収縮して♀の腹部を挟みます。
*Costa=Valvaの背縁基部。通常、dorsum基部下縁から下垂する一対の遊離突起appendix angularisに連節しています。
*Sacculus=Valvaの腹縁基部。Juxtaを挟み、左右(複数形sacculi)で連節します。カラスシジミ族などに於いては、sacculiが一体化して、juxtaの代わりを成しているように思われます。

■Phallusはやや細長く、先端が細まって鋭く尖ります。Subzonal sheathとsuprazonal sheathの長さはほぼ等しく、suprazonal sheathの背面にperi-vesical area(膣内挿入時に反転)が広く開き、vesica内にはふつう1個のcornutus(骨状突起)を生じます。Ductus ejaculatoriusは、subzonal sheath背面を広く覆っています。
*Phallu=Penisと同義。Suprazonal sheathと、subzonal sheathから成る。
*Subzonal sheath=Phallusの基半部で、第8節腹抗内に陥入する。
*Suprazonal sheath=Phallusの後半部で、交尾時に♀の膣内に挿入され一部が反転し内面が露出する。
*Ductus ejaculatorius=Subzonal sheath背面の膜質部で、輸精管が中に通っています。

■Dorsumは本体(第9節のtegmenと第10節のuncus)がほとんど発達せず、一対のヘラ状に伸びたsociiと、その基部から外側に向かって伸長する細長いfalxによって代表されます。Vinculumは細長く、しばしばその背方で後方への出張りを生じ、saccusが明瞭に存在します。
*Dorsum=Vinculum上縁の肛門の周囲を覆う洞溝状部分の総称。
*Tegmen=第9腹節のdorsumに接し、通常は第10腹節背縁に前後に伸長します。
*Uncus=Tegmenの後方の第10腹節に、通常膜質部(fenestrula)を介して連節します。
*Socii=Uncusから生じる一対の遊離突起、単数形socius。
*Falx=Tegmenとuncusの連節部付近の腹縁から生じる一対の遊離突起。Gnathosと呼ばれる部分と相同の機能を持つと思われ、タテハチョウ科などでは、しばしば左右が連節して肛門の下縁を取り囲む溝洞状を呈します。
*Vinculm=第8腹節と連節する輪状骨格。
*Saccus=Vinculmの下端が腹節(第8節)内に陥入した部分。

100種近い種がほぼ全世界にわたって分布していますが、ユーラシア大陸北半部と北米大陸でその大半を占め、アフリカ大陸・熱帯アジア・ニューギニア・ニュージーランド・中米には1~数種ずつ、オーストラリアと南米には全く分布を欠きます。ベニシジミ族単独でベニシジミ亜科LYCAEINAEとされ、属および亜属の分類についてはShibatani(1974)の再検討があり、本書でも大筋においてそれに従っています。(*『中国のチョウ』で「知られている食草は全てタデ科」と記したのは明らかな間違いで、北米産にはツツジ科のブルーベリーなどを食する種もあります)

なお、Eliot(1973)は、本族を北方のLycaena sectionと南方のHeliophorus sectionに分け、Shibataniもそれを踏襲しています。外見上、両sectionの種はかなり異なった印象をうけ、一般的にも異質の群と理解されているよですが、基本構造上の有意差はなく(*Juxtaとその周辺部分を除く♂外部生殖器の基本構造は、「Lycaena」「Heliophorus」の別を問わず極めて安定しています)、印象上の先入観からなされた慣例以外には、ことさら両群を分割する必然性はないものと思われます。これまでLycaena属群とHeliophorus属群を分ける根拠とされてきた大半の形質は、狭義のHeliophorus属(注:ウラフチベニシジミHeliophorus.ilaやHeliophorus epiclesなど)に固有の特徴で、Heliophorus sapher以下の各種には当て嵌まりません。したがって本書(「中国のチョウ」)では、sectionを分けずにおく処置をとっています。

中国大陸からは20種前後が知られ、うち本書には9種の生態写真を掲載しました(*2010年の時点で11種撮影、当ブログでは北米産3種を加えた14種を紹介しました)。この9種は、Shibataniに従えば(注:刊行後に頂いた柴谷篤弘氏の私信によればオオベニシジミ亜属の学名は変更されている由、今手元にその資料が見つからないので、暫定的に旧学名のまま記述しておきます)、Lycaena sectionのベニシジミ属Lycaenaベニシジミ亜属Lycaena(ベニシジミphlaeas)、同・オオベニシジミ亜属Rapsidia(ミヤマムラサキベニシジミstandfussi)、ムラサキベニシジミ属Helleiaの未記載亜属(メスアカムラサキベニシジミtseng、シロオビムラサキベニシジミpang、オナガムラサキベニシジミli)、Heliophorus Sectionのウラフチベニシジミ属Heliophorusウラフチベニシジミ亜属Heliophorus(ウラフチベニシジミilaまたはepicles)、同・未記載亜属(サファイアフチベニシジミsaphir、キンイロフチベニシジミbrahma、フカミドリフチベニシジミviridipunctata)に分類されます。

9種中、雄交尾器の基本形状が完全に一致し、明らかに同一分類群に含めることができるのは、キンイロフチベニシジミHeliophorus brahmaとフカミドリフチベニシジミHeliophorus viridipunctataのみではないかと思われます。Helleia pangとHelleia liも、phallusの形状などにやや明瞭な相違点を示すことを除き、全体としては共通部分が多く、同一分類群に含めてもよいでしょう。Helleia pangやHelleia liといくらかの共通形質をもつHelleia tsengは、顕著な相違点もより多く有し、同一分類群への帰属が妥当であるかどうかについては、さらに検討しなくてはなりません。

(前途したように)Heliophorus ila以下の各種については、これをHeliophorus種群(section)としてまとめ、Lycaena種群(section)に対置させる考えには、僕は必ずしも賛成ではありません。Sacculusが伸長し、sociusが鈍頭の舌状でなく先端が尖り、juxtaのsaddleの部分が幅広く主翼と重なるなどの傾向を示すことから、これを共有新形質として単系統群と見なすことも可能(もっとも、どの形質も互いに例外を有しています)かも知れないのですが、それらの形質がSectionを分けるほどの重要な構造上の意味をもつとは、僕には思えません。

それはさておき、Lycaena群の分類のバランスからすれば、少なくともHeliophorus ila(およびepiclesなど近縁各種)とHeliophorus.saphir・Heliophorus.brahma・Heliophorus.viridipunctataは、別属に置かれて然るべきでしょう。また、後3者のうち、Heliophorus.sapherとHeliophorus brahma+Heliophorus.viridipunctataも、それぞれ別亜属を設置するのが妥当と思われますが、両者を介在する形質(後述)を有したアオミドリフチベニシジミHeliophorus androcles(ヒマラヤ地方から中国大陸西南部に分布)などの存在を考えれば、どのような扱いをとるべきか苦慮するところです。





↑ミャンマー国境近くの雲南騰沖の街のショボクレた雑貨屋に売っていた紙コップ、むろん購入しました。まさにベニシジミ(ただし未知の種!)です。雰囲気は実によく出ていて、実際にこのような種がいても、おかしくは無いと思われる程の秀逸さです。


第1回 (はじめに)
第2回 マルバネフチベニシジミHeliophorus(a sub-genus)sp. ①
第3~4回 サファイアフチベニシジミHeliophorus(a sub-genus)saphir ②⑲
第5~6回 キンイロフチベニシジミHeliophorus(a sub-genus)brahma ③
第7~9回 フカミドリフチベニシジミHeliophorus(a sub-genus)viridipunctata ④⑮
第10~11回 アオミドリフチベニシジミHeliophorus(a sub-genus)androcles ⑤
第12~22回 高黎貢山A(百花嶺、地図、ハゴロモⅠⅡⅢ、蝶、植物ⅠⅡ、大瀑布と露天温泉、ヒグラシ、アジサイ)
第23~25回 高黎貢山B(原生林と菜の花畑、騰沖翡翠城、桜谷露天温泉、界頭から大塘を経て世界一石楠花の探索)
第26回 ウラフチベニシジミHeliophorus(Heliophorus)ila ⑥⑳
第27回 ベニシジミLycaena(Lycaena)phlaeas ⑦
第28回 ミヤマムラサキベニシジミLycaena(Rapsidia)standfussi ⑧
第29回 メスアカムラサキベニシジミHelleia(a sub-genus)tseng ⑩⑰
第30回 シロオビムラサキベニシジミHelleia(a sub-genus)pang ⑨⑯
第31回 オナガムラサキベニシジミHelleia(a sub-genus)li ⑪⑱
第32~33回 アメリカムラサキベニシジミLycaena(Epidemia)dorcas(北米産) ⑫
第34~35回 ブルーベリーベニシジミLycaena(Epidemia)mariposa(北米産) ⑬
第36~37回 キララタカネベニシジミLycaena(a sub-genus)cupreus(北米産) ⑭
第38回(補遺)ミャンマー産各種について


末尾の数字は、対応写真の通し番号(上段から下段へ、左から右へ。⑮および⑬右個体は♀、⑯~⑳は翅裏面)。

*学名:属・亜属は暫定的。大半は古い文献からの引用で、現在では変更や組み換えが成されている可能性があります(ウラフチベニシジミについてはilaとepiculesの2つの近縁種のうちilaを当てましたが、epiculesとすべきかも知れません)。
*和名:大半は、その時点で和名が付けられていなかったため、僕自身の作成によります(「中国のチョウ」を踏襲)。





↑マルバネウラフチベニシジミとシロオビムラサキベニシジミ 雲南省迪慶蔵族自治州徳欽県梅里雪山雨崩村



(以下、追記です)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

中国産ベニシジミ類の分布について

●北部~東北部産には、オオベニシジミLycaena(Rapsidea)disper、ムラサキベニシジミLycaena(Helleia)helleなど、ユーラシア大陸北部に広域分布種する幾つかの種が分布しているはずですが、僕は北京を含む中国北部をほとんど訪れたことがなく、手元に文献もないので、詳細は解りません。ちなみに、現時点で僕が中国で撮影・調査活動を行った地域の北限は、山東半島(煙台市周辺とツーボウ市周辺)。以下、それ以南の地域(北緯38度~20度、チベット・ウイグル両自治区を除き、ベトナム・ラオス北端部、および台湾のにおける探索と、ミャンマーのピンウーリン博物館所蔵資料を含む)産についての概要を記します(詳細については各種の項目を参照)。

●ベニシジミLycaena(Lycaena)phlaeas。ほぼ全域(台湾やインドシナ半島地域を除く)に分布する可能性もありますが、東北部以外では、おそらく東部を除いては極めて稀だと思います。浙江省杭州西郊では、サファイアフチベニシジミと、雲南省香格里拉では、メスアカムラサキベニシジミと、同一地点で観察・撮影しています。

●サファイアフチベニシジミHeliophorus saphir。僕自身は、四川省成都市西郊と、長江河口近くの浙江省杭州市西郊で観察・撮影しています。四川省西部のチベット・雲南省境に近い地域や、雲南省、チベット自治区、ヒマラヤ地域、インドシナ半島北部などにも記録があるようですが、アオミドリフチベニシジミほかとの誤認同定も混じっている可能性が高く、確実な分布域は、長江中~下流域周辺地域に限られるのではないかと思われます。

●ミヤマムラサキベニシジミLycaena(Rapsidia)standfussi。四川省西部・雲南省北部(およびチベット自治区東部・青海省にかけて)の5000~7000m級山岳地帯の、標高4000m前後の高山礫地帯に広い範囲に分布するものと思われます。中国産ベニシジミ族で最も高標高地に棲息し、他の各種とは混棲しないものと思われます。

●シロオビムラサキベニシジミHelleia pang、オナガムラサキベニシジミHelleia li、メスアカムラサキベニシジミHelleia tseng、キンイロフチベニシジミHeliophorus brahma、フカミドリフチベニシジミHeliophorus brahma、アオミドリフチベニシジミHeliophorus androcles(便宜上、前3者はHelleia属、後3者とサファイアフチベニシジミは、Heliophrus属に含めましたが、その是非については今後の検証を待たねばなりません)。以上6種の分布域は、広視的にはほぼ重なり、四川省西部・雲南省を中心に、一部、チベット東部・ヒマラヤ東部・インドシナ半島北部を加えた地域に及ぶと思われます。狭視的には、Helleia属3種が比較的高標高地、Heliophrus属2種が比較的低標高地を、分布の中心としているようです。アオミドリフチベニシジミは分布域が最も西寄りで、雲南省からインドシナ半島北部やヒマラヤ地域に及んでいます。

●ウラフチベニシジミHeliophorus ila(またはepicles)。暖地性・南方系の種で、台湾に分布する唯一のベニシジミ族の種。中国大陸では、おそらく長江流域以南に広く分布し、より南部・低標高地では、本種の単独(あるいは本群の複数種?)分布となるものと思われます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いずれにしろ、四川省西部・雲南省では、各地域(ほぼ同一地点)で3~6種のベニシジミ族の種が混棲しているようです。
Helleia属3種の多い、雲南省中部の大理蒼山や、北部の梅里雪山、あるいはサファイアフチベニシジミの産地、成都西郊地域や、杭州西郊地域、およびウラフチベニシジミやキンイロフチベニシジミの見られるベトナム北部(サパ)などについては、これまでにも度々紹介してきたこともあり、棲息環境などの紹介は最小限に留めました(今後、改めて詳細な紹介を行う予定でいます)が、これまで余り紹介していなかった雲南省西部の高黎貢山については、アオミドリフチベニシジミの探索紀行と併せ、20回ほどの(ベニシジミ類とは直接関係の無い)項目を追加挿入しておくことにします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
このシリーズで紹介する写真は、出来得るなら初出のカットが望ましいと思ってはいるのですが、膨大なオリジナル写真群から改めて選び出す時間的余裕がなく、結果として(手元に揃っている)以前に紹介済みのカットを多く使用することになってしまいました。将来、一部を未発表写真に差し替えることもあるかも知れません。





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生態図鑑:中国(および周辺地域)の蝶 (22)

2010-12-15 13:12:13 | チョウ


レンゲソウの一種で吸蜜するヒメシジミ族4種








6b-1~3 2010.4.7 陝西省秦嶺山脈 ミヤマシジミ(またはその近縁種)









6b-4~6 2010.4.7 陝西省秦嶺山脈 ツバメシジミ








6b-7~8 2010.4.7 陝西省秦嶺山脈 ルリシジミ(またはその近縁種)





6b-9 2010.4.7 陝西省秦嶺山脈 ジョウザンシジミ







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生態図鑑:中国(および周辺地域)の蝶(21)最終回・しばらく休載します。

2010-10-06 17:24:20 | チョウ


ElvisとBeatlesのはざまで~Johnny Tillotsonの時代(補遺)更新しました。

ElvisとBeatlesのはざまで~Johnny Tillotsonの時代(18)
の文章を追加しました。(19)と(20)も続いて記載しています。

『今日と(おそらく)明日、「ElvisとBeatlesのはざまで」の未記入分を追加記述し、完全終了と致します』


★「 カンパ」ありがとうございました。

千葉のMさん、東京のKさん、横浜のKさんの3名の方から、カンパを頂きました。感謝します。
その他、「青山潤三ネーチャークラブ」会員諸氏、及びこれまでに何らかの形で援助をして下さっている各氏にも、心から感謝の意を表します。

皆様の幸と健康をお祈りしています。

2010年10月6日 べトナム・サパにて

青山潤三





★先日、お知らせしたように、10月6日になりましたので、今日を持ちまして、しばらくブログの更新を休ませていただきます。たくさんの皆様に来ていただき、本当にありがとうございました。しばらく休養を取りまして、再び皆様に、新しい企画でお届け出来る日が来ることを、願っております。

花岡文子


メールアドレスjaoyama10@yahoo.co.jp

今日は最終回、⑤シリーズをお届けします。

生態図鑑:中国(および周辺地域)の蝶(21)
図鑑【未完成】:中国(および周辺地域)の野生植物(20)
ElvisとBeatlesのはざまで~Johnny Tillotsonの時代(19、20)
中国旅行情報(13)
My Sentimental Journey(43)


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生態図鑑:中国(および周辺地域)の蝶(21)

No.009スジボソヤマキチョウとヤマキチョウ【3】

シロチョウ科Pieridae/キチョウ亜科Coliaenae/キチョウ族Eumaeini/ヤマキチョウ属Gonepteryx
四川省Sichuan/二朗山Mt.Erlang中腹/標高alt.2700m/2010年8月10日

ヤマキチョウ飛翔。



































 

それでは皆さん、さようなら!







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生態図鑑:中国(および周辺地域)の蝶(20)

2010-10-05 15:44:53 | チョウ



★ElvisとBeatlesのはざまで~Johnny Tillotsonの時代(17)
⑩ 『ヴィック・ダナとルー・クリスティー』の文章を追加しました。


★ElvisとBeatlesのはざまで~Johnny Tillotsonの時代(15)
⑧『デル・シャンノンとジーン・ピットニー』 の文章を追加しました。


★「カンパのお願い」ご協力よろしくお願いします。

【月・水・金】中国の花/中国野生植物図鑑
【火・木・土】中国の蝶/中国蝶類生態図鑑
【月・木】日本列島および近隣地域の野生アジサイ
【水】中国大陸(&台湾・南西諸島)のセミ
【火・金(・日)】ElvisとBeatlesの狭間で~Johnny Tillotsonの時代
【随時(当面は土曜または日曜を予定)】中国旅行情報
【随時(当分は毎日)】My Sentimental Journey
【一時休載】屋久島はどこにある?(東シナ海周縁紀行)
【一時休載】屋久島はどこにある?(長江流域遡行紀行)

  青山潤三・花岡文子
メールアドレスjaoyama10@yahoo.co.jp

★今日は下記の③シリーズです。
「日本列島および近隣地域の野生アジサイ」及び「中国大陸(&台湾・南西諸島)のセミ」はしばらくお休みします。




生態図鑑:中国(および周辺地域)の蝶(20)
ElvisとBeatlesのはざまで~Johnny Tillotsonの時代(18)
My Sentimental Journey(42)


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生態図鑑:中国(および周辺地域)の蝶(20)

No.009スジボソヤマキチョウとヤマキチョウ【3】

シロチョウ科Pieridae/キチョウ亜科Coliaenae/キチョウ族Eumaeini/ヤマキチョウ属Gonepteryx
四川省Sichuan/二朗山Mt.Erlang中腹/標高alt.2700m/2010年8月10日

ヤマキチョウの求愛です。

































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