~ 恩師のご著書「愚か者の独り言」より ~
講演集 一
「一つ一つしか思えない心の法則」
不思議なことに、人間の心というのは、
一つ一つしか思えないことになっています。
「いやそんなことはない、私は器用だから二つ思うことができるよ」
といわれるかも知れませんけど、そんなことはありません。
「ああ悲しいよう、ああ嬉しいよう」というように同時には思えません。
悲しい時は悲しいだけ、嬉しい時は嬉しいだけしか思えません。
「腹が立つなあ、やあ幸せだなあ」と同時には思えないでしょう。
幸せな時は幸せな思いだけですね。
禅定といって心を安らかにする修行をしておりますと、
最初はよく皆困るんですね。
今日は一度心静かに安らぎ、禅定の世界に入りたいと思って坐ります。
するとカタカタと誰か下駄の音をたてて道を通ります。
せっかく禅定しようと思うのに、うるさいなあと、まず心が動かされます。
次にあれは男の人かなと思い、あれは音が少し軽いから女の人だなあ、
どこの人だろうか、それは分からないけどその人は別嬪さんかいなとか、
身体つきは大きいかな、小さいかな、
と心はもうとどまることを知らず飛び回ります。
しかし一つ一つしか追っておりません。
必ず一つずつしか心は動いていないのです。