2020年で私が一番ハマったエンタメ作品は、NHKで放映された30分アニメ『映像研には手を出すな!』全12話でした。
クオリティーが高い、センスがいい、これと似た作品を他に知らない、恋愛要素がいっさい無い、商売っ気を感じさせない(視聴者に媚びてない)、伊藤沙莉さんの声が素晴らしい!等々、惹かれた理由は多々あるんだけど、なんと言ってもエンタメ作品を創りだすことの面白さと難しさと、創ってる人たちの心情をこれほどリアルに描いた作品を、私はこれまで観たことがない。それに尽きると思います。
私がそこに強く惹かれる理由はもちろん、かつて自分も映像作品を創ってたからだけど、自主制作の舞台裏を描いたような作品を私はこれまで、むしろ毛嫌いしてたんですよね。
なぜなら、ちっともリアルじゃなかったから。いや、ドキュメンタリーじゃないから嘘はあっても構わないんだけど、その嘘のつき方が気に食わなかったんですね。
監督を務める主人公は大抵ナイーブでストイックな青年で、クラスのマドンナ的な女の子を撮影しながら「この輝きを永遠にぼくのフィルムに焼きつけるんだ」みたいなことをほざくワケですよw
周りのスタッフ達もみんな真剣で、作品の方向性を巡って議論したり殴り合ったりなんかして、とにかくみんな内面が二枚目なワケです。
んなヤツらはおらんやろぉーっ!!って、私は思っちゃうワケですw
私はかつて自分のチームで監督を務めただけでなく、役者として数多くのチームに参加してました(やたら色んな作品に顔を出すから『自主映画界の大杉漣』と呼ばれたりした)から、アマチュアの制作現場がどんなものか人一倍よく知ってるワケです。
若い連中の創作活動なんて、そんなカッコいいもんじゃ絶対ない。もっと下らなくて自分勝手でドロドロで、とても映画やドラマのネタに出来るようなもんじゃない。
映画やドラマで映像制作の舞台裏を描くってことはつまり、創り手が自分自身を主人公にしてるようなもんですよね? そんなつもりは無くても観る側はそう感じてしまう。
嘘をつくなよ!ってことです。自分を美化して描くほど恥ずかしいことは無いやろ!ってことです。
ところが! 『映像研~』の登場人物たちには、そういうこっ恥ずかしさがいっさい無い! みんな自分の欲望に対してのみ忠実で、友情だの絆だのと嘘臭いことは言わない!(彼女たちは仲間というより同志です)
アニメの制作過程もリアルに描かれてるけど、それより私は登場人物たちのリアルさ、生々しさがとにかく可笑しくて、いとおしくて、もちろんかつての(人生で一番輝いてたであろう時期の)自分自身を投影したりもして、とにかく居心地がよくて何でもない場面で涙が出て来ちゃう。
私と一緒に映画を創ってくれた仲間には感謝してるし、好きだけど、もし自分1人だけで創れるもんならそうしたかった。『映像研~』の主人公=浅草氏もそういうキャラクターです。
そりゃあ自主映画作家も色々ですから、中にはみんなでワイワイ騒ぐのが好きでやってるヤツもいただろうけど、そんなヤツの創った作品は絶対つまんないと私は断言しますw
だってそんなの本気じゃないし、そもそも作品創りとは出産と同じで苦しいものなんです。皆で楽しくワイワイやってて優れた作品が生み出せるワケがない!
さらに『映像研~』が凄いのは、作品を創るための資金をどうやって調達するか、出来上がった作品をどうやって売り込むかっていう、ビジネスの部分までしっかり(しかもめっぽう面白く)描いてるところ。
私自身にはそういう才覚がまったく無かったもんで、金森氏みたいに優秀なプロデューサーと出逢えたらどんなに良かっただろう? 人生変わってたかも?って、そんなことまで考えちゃう。
そして何より私の心を震わせてくれたのは、浅草氏や水崎氏の飽くなき創作意欲! 先に書いた「自分の欲望に対してのみ忠実」っていうのは、言い換えれば「ピュア」ってことです。
とにかく描きたいものがあって、それを形にしたい欲望に突き動かされ闇雲に突っ走る。私も最初はそうでした。それがいつしか創ること自体が目的になって、その為のネタとして描くものを絞り出すという本末転倒なことになり、やがて枯渇しちゃう。
才能って、普通の人とは違った発想が出来るとか、1つの要素に飛び抜けた力を発揮するとか、そういうイメージがあるけど、実はそれより何より、創作意欲をずっと持ち続けられる事こそが、クリエイターにとって最も必要な才能なんだと、それを失った私はつくづく思い知らされました。
だから、今はそれしか無い浅草氏や水崎氏がとても眩しく見えるし、それを的確に支援してくれる金森氏みたいな存在がいることがもう、羨ましくって羨ましくって仕方がない。
どうやら『映像研~』って、クリエイター筋にすごく支持されてるみたいです。創作者にとって究極の理想郷と、真実がそこにあるからでしょう。そう、決して美化してないことが大きなポイント。
そんなワケで、創作に興味がない人には、もしかすると何も響かない作品なのかも知れません。そういう方が無理して観る必要はないと思います。けど、私みたいにかつて創作に夢中になった方、今まさにやろうとしてる方は絶対観た方がいい。
ただし、実写版の連ドラと映画は観なくて良いと思います。映画の方は観てないけど、連ドラの作者は上記に書いた『映像研~』の魅力、その肝を完全に見誤っており、原作の良さをぶち壊しちゃいました。映画版も同じスタッフみたいだから同様でしょう。
そこはやっぱり、原作のどこが良かったのかを的確に読み取り、さらにバージョンアップさせたアニメ版の監督=湯浅政明さんの「才能」でしょう。本当に羨ましい!
『映像研~』はホントに金森氏の存在が肝ですよね。創作に熱中する人しか出てこなかったら、あんな面白い話にはなってなかったはず。
おっしゃるように、クリエイターが世に出たり会社が大きくなったりするには、金森氏みたいな人の存在が不可欠なんでしょうね。そういう意味でもほんとにリアルな作品です。
ぼくは雑多な趣味をハシゴして来ましたが、アイスクリームの上の部分だけすくって"つまみ食い"した感じです。熱しやすく飽きっぽいので「こんなもんだろ」と満足してしまい、ずっとそれ一筋に打ち込んで来た人には手も足も出ません。趣味や仕事でもそうです(笑)。若い時からそれ一筋と言うモチベーションが尽きない人は素直に尊敬します。
映像研は面白いです。本当にキャラが愛おしい。ロボット研の連中とか「オレも同じだ」と仲間に入りたくなります。
浅草氏の空想世界がアニメになったりする演出も秀逸でしたし、金森氏が良い味出していますよね。
成功した企業やプロダクトって、夢見がちな連中の手綱を取る金庫番がいるものです。本田技研は金庫番もメカオタクで夢を追っていたら大メーカーにならなかったでしょう。