1985年に公開され大ヒットした、ピーター・ウィアー監督&ハリソン・フォード主演によるアメリカ映画。第58回アカデミー賞の作品賞はじめ4部門にノミネートされた作品です。
『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』に続いて主演したこの作品で、ハリソンは初めてアカデミー主演男優賞にノミネートされ、アクションヒーロー以外の役でも魅力的に演じられることを証明し、俳優としてもスターとしても一気に株を上げて押しも押されぬ存在となりました。
また、このブログとしてはハリソンが初めて刑事を演じた作品としても外せません。SF映画『ブレードランナー』で演じたリック・デッカードも近未来の「特捜刑事」みたいに呼称されてますが、あれは警察官というより探偵、あるいは殺し屋と呼んだ方がしっくり来ます。
だからハリソンの純然たる「刑事ドラマ」としては、これが最初の作品。プロットは至ってシンプルなもので、オーストラリアの名匠=ピーター・ウィアー監督はハリウッドに出向いて「人気スター主演のプログラムピクチャー」を撮るつもりで臨んだのに、思わぬ高評価が舞い込んで逆に戸惑ったそうです。
ハリソンが演じたのはペンシルベニア州のフィラデルフィア市警・殺人捜査課に所属する中堅刑事=ジョン・ブック。ランカスター郡に実在する「アーミッシュ村」から母親=レイチェル(ケリー・マクギリス)と二人でボルティモアへ向かってた幼い少年=サミュエル(ルーカス・ハース)が、乗り換えで立ち寄ったフィラデルフィア駅のトイレで殺人現場を目撃してしまい、ブックはその捜査を担当することになります。
で、少年の証言により、犯人が同じ署の麻薬課に所属するベテラン刑事=マクフィー(ダニ―・グローバー)であることが判明。それを上司に報告した直後に命を狙われ、上司もグルであることを悟ったブックは、レイチェル&サミュエルを避難させるべくアーミッシュ村へと送り届けるんだけど、襲撃された時に撃たれた傷により気を失っちゃう。
で、19世紀式のお祈りと薬草によりw、何とか蘇生したブックは、傷が癒えるまでの間アーミッシュ村に身を潜めることになる。それで夫を亡くしたばかりのレイチェルと禁断の恋に落ちていくワケです。
なぜ「禁断」なのかと言えば、レイチェルがアーミッシュの女だから。キリスト教の非主流派として近代文明を拒絶し、非暴力主義を唱えて質素に暮らすアーミッシュの人々から見れば、大都会から来た暴力刑事であるブックはエイリアンそのもの。しかもレイチェルは未亡人になったばかりで、よそ者とすぐにチョメチョメするなど言語道断。もし結ばれたいなら全てを棄てなきゃいけないワケです。
それでも純真なレイチェルは、全面的に受け入れOKをアピール。だからこそブックは葛藤します。レイチェルが純真であればあるほど、そしてアーミッシュの素朴な生き方が好きになればなるほど、彼女からこの暮らしを奪えなくなっちゃう。
そうして我慢に我慢を重ねたブックがフィラデルフィアに帰ることを決めたその夜、二人の想いがついに爆発しちゃう。たぶん一晩中チョメチョメしまくった翌朝、殺しにやって来た悪徳刑事たちを撃退したブックは、なにも言わずにアーミッシュ村を去って行くのでした。
以上のあらすじに書いたブックやレイチェルの心情は、あくまで私が「多分そういうことだろう」と推測したものに過ぎず、セリフでは一切語られません。だからこそ名作なんですよね。もし語っちゃったらウィアー監督が仰った通りのありきたりな「プログラムピクチャー」で終わったかも知れません。
なのに、本作を初めて観た時の私はまだ20歳直前のガキンチョでしたから、いまいちピンと来ませんでした。数あるハリソン・フォード主演作の中で最もアクションが激しかった『魔宮の伝説』に続く作品だけに、ダーティハリーばりのバイオレンスがたっぷり見られるとばかり思ってましたから。
だけど今となっては、本作が心に染みる名作であり、ハリソンフォード・ファンの多くが「ナンバー1」に挙げる気持ちもよく解ります。ドラマとしての完成度は間違いなくトップクラスでしょう。
まずアーミッシュと呼ばれる人々が実在してる点にこの上ない説得力があるし、その生活ぶりがじっくり描かれることで刑事物らしからぬ映像美を堪能できるし、モーリス・ジャール氏によるシンセサイザー音楽がまた奇跡のマッチングぶりで、ちょっと他に類を見ない世界観なんですよね。
そして何より、タフなヒーローが似合いつつどこか不器用で、イケメンでありつつどこかイモっぽいハリソン・フォードの個性がこれほど完璧に活かされた作品も他に無いかも知れません。
翌'86年に『トップガン』で現代的ヒロインを演じるケリー・マクギリスも、'88年に『ダイ・ハード』でテロリストを演じるアレクサンダー・ゴドノフも本作が映画初出演で、不思議とアーミッシュの役がよくハマって輝きまくってます。
子役のルーカス・ハースも素晴らしいし、後に『リーサル・ウェポン』シリーズで世界一善良な刑事を演じるダニ―・グローバーの悪徳刑事ぶり、まだ全く無名だったヴィゴ・モーテンセン等、キャスティングの半端ない的確さがまた凄い、凄すぎる。
勿論、もはや無数に舞い込むオファー中から、一見地味な本作を選んだハリソンの選択眼も神がかり的だし、様々な要素の組み合わせが奇跡の化学反応を起こして傑作を生んだ、これはその典型例の1つかと思います。
この後、再びウィアー監督とタッグを組んだ『モスキート・コースト』は興行的に振るわなかったものの、ハリソンは『ワーキング・ガール』や『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』『パトリオット・ゲーム』そして『逃亡者』などのメガヒット作を連発し、いよいよハリウッドの頂点に君臨することになります。
だけどハリソンが最も輝いてたのは、俳優としてもスターとしても果てしない伸びしろを感じさせた、この『刑事ジョン・ブック/目撃者』の頃だったかも知れません。確かご本人もそんな風に仰ってたような記憶があります。
とにかくハリソンもケリーもお若い! まさにピチピチ&キラキラ状態で、それだけでも観る価値があり過ぎるぐらいあります。超オススメ!
PS. 本作でブック刑事が愛用する拳銃が、S&W M10ミリタリー&ポリスの2インチ旧型。何も知らずにいじろうとしたサミュエル少年に、ブックがその危険さを教え諭すシーンで、この銃が何度もクローズアップで映ります。
非常にクラシカルな拳銃で、'85年当時でもあまり活躍の場が無かったやも知れず、リボルバー好きのガンマニアには垂唾ものの映像であろうことをついでに記しておきます。私も大好きな機種で、モデルガンをいくつか持ってます。
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