☆第319話『年上の女』
(1978.9.8.OA/脚本=小川 英&大山のぶ代/監督=木下 亮)
ある日、高校時代にサッカー部でボン(宮内 淳)の先輩だった「ねじねじ」マフラー男=矢倉(中尾 彬)の経営する建設会社が、手抜き工事による崩落事故を起こして多数の死傷者を出し、大きなニュースになります。
そんな折りに矢倉先輩から電話をもらい、ボンは驚きます。手抜き工事は金井という常務の指示によるもので、自分は口封じで金井に殺されるかも知れないと言う矢倉は、最後に「文子を頼む」という遺言じみたメッセージを残し、電話を切ったまま行方をくらますのでした。
文子(丘みつ子)というのは矢倉の妻で、高校時代にサッカー部のマネージャーだった同級生。つまりボンにとっては彼女も高校の2年先輩にあたります。
(劇中で彼女は『文子』とも『ふみ』とも呼ばれており、もしかするとスタッフの記録ミスかも知れないけど、今回のレビューでは『文子』が本名で『ふみ』は愛称であると解釈しておきます)
かくして、矢倉夫妻の挙式以来6年ぶりに文子と再会したボンは、彼女の口から「生活のすれ違いで夫婦仲は破綻していた」という話を聞いて複雑な気持ちになります。そう、高校時代、ボンは文子が好きだった。美人なら見境なく惚れちゃう男なんですw
矢倉もそんなボンの気持ちを知ってて、マフラーをねじりながら「お前がモタモタするならオレが取っちゃうゾ!」なんて冗談めかして言いながら、本当にチョメチョメして嫁にしちゃった。さすがは「ねじねじ」マフラー野郎です。
さて、そんな時に奥多摩で崖から転落&炎上した車から、矢倉らしき男の遺体が発見されます。矢倉建設の金庫にあった多額の現金や小切手も消えており、矢倉を殺した金井常務が持ち逃げしたものと藤堂チームは睨むのですが……
そこでボンは、文子から奇怪な情報を聞き出します。奥多摩で遺体が発見されて以来、家の電話が2コールだけ鳴って切れてしまうことが何度かあったという。それは高校時代、誰からの電話なのか事前に相手に知らせる為に、文子とボン、そして矢倉だけが使ってた合図「2コール切り」を彷彿させる……
だけどボンは文子に電話など掛けてない。そもそも、あの「ねじねじ」マフラー男の出番がこのまま終わっちゃうワケがない!
折りしも、矢倉が金井常務に汚職の指示を下してた疑惑が浮上し、遺体発見後にホテルで矢倉を見たという目撃証言まで飛び出します。実は矢倉は生きている!?
思えば、藤堂チームが金井常務を真っ先に疑ったのは、ボンにかかって来た矢倉の電話がきっかけでした。実は矢倉こそが犯人で、あの焼死体は金井常務だった!?
ボンはあらためて文子を訪ね、例の2コール電話がその後なかったか聞きますが、なぜか彼女は眼をそらし、言葉を濁します。
「いえ、あれ以降は……やっぱり間違い電話だったみたい」
美人に弱いボンはすぐ真に受けるんだけど、鬼のボス(石原裕次郎)は文子に疑惑の眼を向けます。
「でもボス、ふみさんがもし矢倉さんから連絡を受けてたら、必ずオレに知らせてくれる筈です。たとえ矢倉さんがどんなに彼女を愛していても、人殺しの、そんな悪党の言いなりになるようなふみさんでは……」
「ボン、お前が矢倉文子をどう思ってるかを聞いてるんじゃない。矢倉文子と矢倉浩は、この6年間夫婦だったんだ。そいつを忘れるな」
「…………」
その夜、文子は勤め先である劇場に1人でいました。彼女は演劇舞台の美術デザイナーなのです。
探しに来たボンを他の誰かと間違えたらしい文子を見て、ボンは確信します。
「やっぱり気づいていたんですね、ふみさん。矢倉さん生きてるんですね?」
「いいえ……どうしてそんなこと仰るの? だってもう矢倉は亡くなって……」
「あの死体、金井常務ですよ。証拠はまだ無い。でも、不正な金を作っていたのは矢倉さん自身だってことは証明されてるんです」
「そんなの嘘よ、嘘!」
「ふみさん!」
夫婦仲は破綻してた筈なのに、なぜ文子は夫を庇うのか? ボンは理解に苦しみます。
一夜明け、郊外に向けて車を走らせる文子を、ボンは尾行します。そうとは知らず海岸にやって来た文子を、マフラーをねじりながら待っていたのはやはり矢倉でした。
「ふみ、なぜ旅行の支度をして来なかった? お前、まさか田口を!」
文子が呼んだワケじゃないんだけど、確かに田口=ボンはそこにいました。ぼんぼん刑事がねじねじ野郎を捕まえに来たワケです。
「やっぱり生きていたのか……なぜだ矢倉さん? なぜこんな馬鹿なことを!?」
「馬鹿? オレがか? よせよ田口。人間にはな、二種類しか無いんだよ。馬鹿と利口さ。その馬鹿はオレじゃない。オレに騙されたヤツらだよ」
矢倉はねじねじマフラーの下から拳銃を取り出し、ボンに銃口を向けます。入手ルートは不明だけど、昭和ドラマの悪党はみんな当たり前のように銃を持ってました。
「田口、お前もだ。オレが生きてるということに感づきながら、1人でノコノコやって来るとはな。それじゃ刑事は務まらんぞ」
「あなた!」
「ふみ! お前もだ! 何の支度もしてないところを見ると、やっぱりオレと一緒に逃げるつもりは無いんだな。それならそうとなぜ言わないんだよ?」
「違うわ、私はただ……」
「言い訳はよせ! なあ、田口。お前があれほど惚れてた女を女房にしたんだが……やっぱりオレの失敗だったな。こいつの中にはいつもお前がいた。年下の、弟みたいな可愛いお前がな……そいつがオレには我慢ならなかったんだよ!」
「あなた……なんてこと言うの!」
やっぱり、この夫婦の仲が悪くなったのはオレのせいだった……どう考えたってマフラーをねじねじするようなキモメンより、長身イケメンのオレに惚れる方が自然だもんな……と思ったかどうか知らないけど、ボンも隙を見て愛銃COLTローマンを抜いて矢倉に向けます。
ところが当の文子は、意外な反応を示すのでした。
「田口、お前にオレが撃てるか? お前のお陰で惚れた女房に裏切られ続けたこのオレを、撃てるのか!?」
「裏切ってなんかいないわ!」
「裏切ってない?」
「あなた……あなたは、私がどうしてあなたと結婚したと思ってるの? 私は、あなた以外の人と結婚したいなんて思ったことも無いわ!」
「!!」
この「!!」は矢倉じゃなくて、ボンのリアクション。
「昔も……今も、一度もよ!!」
「!!」
これもボンのリアクション。ボスが言ってた通り、6年間を共に過ごした夫婦の絆には、いくらイケメンでも立ち入ることは出来ないのか? なんかオレ、恥ずかしいぞ!っていう意味の「!!」です。
「じゃあ、お前はなぜ旅行の支度をして来なかった? 田口に連絡したからじゃないのか!?」
「支度? どうしてそんなものが要るの? あなたが来いって言ったから私は来たのよ! それだけよ!」
「…………」
この「…………」もボン。そりゃ切ないでしょう。切ないんだけど、恋愛が成就すると死ぬ運命にある七曲署の刑事にとって、これはかえってラッキーなこと。結婚したければ女性ファンに無視されるよう毛むくじゃらになるしか道は無いのです。
結局、ボンが一瞬だけ眼をそらした隙に矢倉が自分のこめかみを撃ち抜き、事件は幕を下ろします。 観念したというよりも、文子を信じなかった自分の愚かさに彼は絶望したんでしょう。
ラスト、恐らく海外へ移住すると思われる文子を、ボンが空港で待ってたんだけど、現れた文子は彼に気づきながら素通りしちゃう。本当にボンのことを何とも想ってないなら、普通に挨拶ぐらいはしそうなもんです。やっぱり女性にしか解らない複雑な心理が奥底にあるんでしょう。
本エピソードはアニメ『ドラえもん』の声優としても知られる女優=大山のぶ代さんが『太陽にほえろ!』で書かれた、5本目にして最後の脚本作(小川英さんと共作)。
大山さんご自身の想いや経験がどれほど反映されてるかは知る由もないけど、冷めた筈の夫に対する愛情や、なのに年下イケメンへの想いも匂わせる女性心理の複雑さは、やっぱり女性でなければ書けないもんだろうと思います。
『太陽~』以外の番組には脚本を1本も提供されてない大山さん(俳優座で同期生だった露口茂さんの紹介?)、つまり5本しかドラマの脚本を書かれてない大山さんだけど、それだけじゃ何だか勿体ないです。
そして文子役の丘みつ子さんは当時30歳。ポルノに路線変更する前の日活で女優デビュー、初の主演作『ある少女の告白/純潔』にて相手役に抜擢されたのが誰あろう、当時まだド新人だった我らがスコッチ刑事=沖雅也さん。丘さん自らのご指名だったそうです。
テレビドラマを中心に多数の作品にご出演、我々世代には『前略おふくろ様』や『池中玄太80キロ』、そして『大都会 PART II 』のヒロイン=吉野今日子役でお馴染みの女優さん。現在も『やすらぎの刻~道』のレギュラー出演など第一線でご活躍されてます。
なお、昨今のテレビ番組やCMに倣って注意書を付け加えると、中尾彬さんは本エピソードにおいて実際はマフラーをされてません。わざわざ書くとホントつまんないですよね。
……と、一応フォローはしておきますw
ムーミン
見慣れないせいかな?