これも最近になって日本映画専門チャンネルで初めて観ました。大林宣彦 監督! 早坂暁 脚本! 沢田研二 主演! こんな作品があったとは!
フジテレビ&テレパックの制作で、大林監督としては珍しいビデオ撮りの作品。1983年9月に放映された単発2時間スペシャルです。
'83年と言えば角川映画『時をかける少女』が公開された年で、大林監督が乗りに乗っておられた頃。沢田研二さん=ジュリーもまだバリバリのトップアイドルだったし、早坂暁さんも昭和を代表する名脚本家のお1人。ヒロインは大竹しのぶさんに小川真由美さん。さらに風吹ジュンさん、泉谷しげるさん、ハリウッドスターのトロイ・ドナヒューさん、刑事ドラマでお馴染みウイリー・ドーシーさんもご登場という豪華布陣。
しかし内容は超シリアスで、舞台は終戦から僅か1ヶ月後の広島。日系アメリカ人で軍人でもあるジュリーが、行方不明の姉を探して広島を訪れ、被爆者の大竹さんと出逢って恋に落ちる。
だけど大竹さんも見つかった姉も放射能に冒されており、原爆を落とした側の立場にいるジュリーは苦悩した末、軍を裏切って大竹さんと駆け落ちし、射殺されちゃうという反戦メロドラマ。
晩年は戦争をテーマに映画を撮られることの多かった、実に大林監督らしい企画……かと思いきや、すでに内容もキャスティングもほぼ決まった段階でオファーを受けた、言わば雇われ仕事だったみたいで、与えられた脚本をほぼ忠実に映像化されたんだそうです。
それでも、何も知らずに数分観ただけで「あ、これ大林さんだ」って判っちゃう独自の世界観は健在。特に、焼け野原となった広島の町をマットペインティング(絵画)との合成で見せちゃう力業は、大林監督にしか出来ないマジックかと思います。
キャストにはいわゆる大林組の面々が見当たらず、後に常連となられる泉谷さんや『漂流教室』に出演されるドナヒューさんも今回が初登板。しかもビデオ撮りでスタッフの顔ぶれも違う、完全アウェイな環境に放り込まれても一切ブレない作家性。
それは大林監督が頑固だからじゃなくて、逆に何でも受け入れて面白がっちゃう柔軟性があればこそ。当時の町をセットで再現する予算が無いなら、いっそ絵に描いちゃえ!っていうフットワークの軽さですよね。もちろんCGなんか存在しない時代です。
第2ヒロインの小川真由美さんは、打ち合わせで衣裳は和服で通すと決めたにも関わらず、勝手に変更していきなり洋装で撮影現場に現れちゃうワガママぶりで、黒澤明監督なら即クビにしそうなもんだけど、大林さんは面白がっちゃうんですよねw むしろその傲慢さが役柄に合ってるからって歓迎しちゃう。
一方、主役のジュリーは、そんな大林監督に全幅の信頼を置き、とても誠実に日系アメリカ人を演じておられます。唯一、ステージに上がって唄う場面だけは衣裳への強いこだわりを見せたけど、それ以外は「素材」に徹して大林カラーに染まることを喜んでおられたみたいです。トップ中のトップに君臨するスターでありながら、なかなか出来ることじゃないですよね。
戦争については観る人それぞれがそれぞれのスタンスで考えるとして、本作でしか観られない大林宣彦X沢田研二の組み合わせによる華麗なる映像マジックと歌声、若き大竹しのぶの切ないメロドラマに酔いしれるべし。今となっては本当に貴重な作品です。
2 コメント
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- Unknown (ムーミン)
- 2020-11-13 21:11:35
- 沢田研二さんは歌手としてもスーパースターですが、俳優としても一流ですね。そういえば大河ドラマ「山河燃ゆ」でも日系アメリカ人の役を演じていました。最近テレビや映像から遠ざかっていますが、俳優ジュリーももっと評価されてもいいと思っています。
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- Unknown (harrison2018)
- 2020-11-13 23:06:09
- 最近『キネマの神様』という映画に、亡くなられた志村けんさんの代役で出演されたみたいですね。かなり久し振りの俳優業だったんじゃないでしょうか。
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