1980年春、七曲署に滝隆一=スコッチ刑事(沖 雅也)が帰って来てくれました。(復帰編の第400話はすでにレビュー済み)
過去にも再三書いて来た通り、民放テレビドラマ視聴率チャンピオンの座を裏番組に奪われての、これは起死回生を賭けたテコ入れ策。油断して敵を勢いづかせてしまったツケが回り、すぐさま人気回復とは行かなかったものの、やっぱりこの人が加わるだけで番組のクオリティーが一段も二段も上がり、それがドック(神田正輝)登場以降の快進撃を支えてくれたのは間違いありません。
何より良かったと思うのは、新人刑事スニーカー(山下真司)が見違えるように元気になったこと。それまではパッとしないロッキー先輩(木之元 亮)を立てなきゃいけなかったけど、もはや押しも押されもしない存在のスコッチ御大なら遠慮なく全力でぶつかって行ける。これはホントに大きかったかも知れません。
その替わりロッキーの影が笑っちゃうほど薄くなるんだけど、逆にそれで「若手の長さん」みたいな唯一無二のポジションが得られて、むしろ良かったんじゃないかと思います。そもそもロッキーは主役の柄じゃなく、脇にいてこそ光る人だった。
これぞまさに相乗効果。復活の兆しがいよいよ見えて来ました。
☆第401話『紙飛行機』(1980.4.4.OA/脚本=小川英&四十物光男/監督=斎藤光正)
「スコッチ、鍵はどうした?」
「あいてましたよ」
「……ホントですか?」
ゴリさん(竜 雷太)の質問に涼しい顔で答えたスコッチに、怪訝そうな顔でツッコむスニーカー。
ゴリさんとスニーカーが、容疑者のアパートを家宅捜索すべく訪れたらすでに鍵が開いてて、容疑者が潜んでるのかと思って踏み込んだら、単独で動いてたスコッチがそこにいた、というシチュエーション。
どうやらスコッチはアパートの管理人に断りも入れず、勝手に裏技を使って部屋に侵入した。だからスニーカーは怪訝な顔をしてるワケです。
こういうやり取りが1つあるだけで、ただ家宅捜索するだけのシーンでも俄然面白くなる。それが出来るキャラクターが今までいなかったんですよね。これは大きい。本当に大きい。よくぞ帰って来てくれました!
事件は、金の先物取引をしてた闇業者の男が殺され、そいつに投資金200万円を騙し取られたマーシャラー(航空機誘導員)の土田という男(中野誠也)が容疑者として浮かび、こうして家宅捜索に至ったという顛末。
で、被害者の血がついた衣服も見つかり、容疑はすんなり確定。地道な捜査や謎解きに時間をかけず、話がトントン進むようになってくれたのもホント有難い。やっぱり『太陽にほえろ!』はこうあるべし!
さて、土田には入院中の幼い息子=守(岩瀬浩規)がいました。何十万人に1人の難病を患い、余命は長くて2ヶ月という守と、スニーカーは紙飛行機作りを通して仲良くなります。
「ボクも飛びたいな……ホンモノの飛行機で」
どうやら父親の土田は、守が生きてる間にその夢を叶えてやるべく、騙し取られた金を少しでも取り戻そうとして犯行に及んだ。スニーカーはこの親子に同情していきます。
そんな折り、守が病室から姿を消してしまいます。彼が屋上から飛ばす紙飛行機は、父親との通信手段でもあった。そう、土田が守と密会し、連れ去った。その行き先は……
「飛行場だ!」
土田は取り戻した金でセスナ機をチャーターしたに違いない。調べたら案の定、彼がフライトタイム2時間の遊覧飛行を予約してることが判明し、ボス(石原裕次郎)はスコッチ&スニーカーに緊急逮捕を命じるのですが……
獲物を狙う鷹のように覆面パトカーをすっ飛ばすスコッチに、助手席のスニーカーが訴えます。
「待ってやって下さい! 2時間です! 2時間すれば土田は此処に戻って来るんです!」
涙目になって訴えてもスコッチは聞く耳を持たず、覆面車で滑走路に突っ込み、離陸寸前だったセスナ機を強引に停止させます。
「頼む、刑事さん! 守に、守に空からの景色を見せてやりたいんだ! 2時間、この子と一緒に空を飛べたら、自首します! 飛ばせて下さい、お願いします!」
守を抱きしめながら訴える土田に、スニーカーは手を出せません。
「運動靴、離れてろ!」
同僚をスニーカーと呼ぶ人もなかなかいないけど、運動靴と呼ぶ人はもっといないだろうと思いますw つまりスコッチは、そしてスニーカーもまだ、互いを仲間とは認めてない。
「土田、降りて来い!」
新たな愛銃COLTトルーパーMk-III 6インチをぶっ放して威嚇し、スコッチは非情にも土田親子を連行しちゃうのでした。
納得がいかないスニーカーは、イライラを上司にぶつけます。
「ボス、仕事下さい! じっとしてると気が変になりそうなんですよ!」
それじゃあって事で、ボスは管内に潜伏中の連続強盗犯が出入りしそうな場所を張り込ませるんだけど、そこでもスニーカーはスコッチと衝突します。
犯人を見つけ、八つ当たり丸出しの体罰を与えたスニーカーは、止めに入ったスコッチ先輩にも掴みかかり、何やら怒鳴り散らします。負けずにスコッチも怒鳴り返すんだけど、二人とも興奮してるもんで何を言ってるのか聴き取れませんw
刑事どうしのここまで激しいぶつかり合いも『太陽にほえろ!』じゃ久しく見られませんでした。それこそスコッチが初めて七曲署に着任し、ゴリさんやボン(宮内 淳)を本気で怒らせた約4年前以来かも? やっぱりスコッチは、マンネリ打破に効果てきめんのカンフル剤なんですよね。
それはさておき、あわや二人が殴り合いになろうとしたところに、ゴリさんが悪い知らせを持って駆けつけます。病院にいる守の容態が急変し、そして……
スニーカーが全力疾走で駆けつけるも、病室のベッドはすでに抜けのから。緊急逮捕が守の寿命を縮めてしまった可能性は否めません。
愕然となったスニーカーは、独りで街をさまよい、考えに考えて、結論を出します。やっぱりオレは、刑事に向いてない……
「いくら考えても、あの子と父親を2時間飛行機に乗せることが、間違っていたとはオレには思えないんです」
ボスに辞表を提出したスニーカーを、長さん(下川辰平)が慌てて引き留めます。
「スニーカー、土田は殺人犯なんだ。彼に飛行を許すことは、逃走のチャンスを与えることにもなるんだ! それをお前!」
「考えました! 何度も何度も、考えました……刑事には許されないってことも、よく解りました。だからオレ、辞めたいんです」
スニーカーの決意は揺るぎなく、長さんも他の刑事たちも言葉が出ません。
「オレは、あの子の短い一生をこんな形で終わらせてしまったことを、一生後悔すると思います。二度とこんな思いは味わいたくないんです」
こういう時にボスが言うセリフは、だいたい決まってます。
「……分かった。好きなようにすればいい」
辞表はボスに受理され、スニーカーは本当に次の日から署に来なくなっちゃいます。しばし愛用のバイクで気ままな旅をしたあと、工事現場で始めた肉体労働の仕事は、驚くほど彼に似合ってるのでしたw
そこに、スニーカーの妹から居場所を聞いたゴリさんが、またもや悪い知らせを持ってやって来ます。拘留中だった土田が警官の拳銃を奪って脱走し、その狙いはスコッチとスニーカーに対する復讐かも知れないから、気をつけるよう警告しに来たのでした。
そんなゴリさんに、かねてからの疑問をスニーカーはぶつけます。
「ゴリさんはあの少年のこと、どう思ってるんですか?」
「……スニーカー、お前の知らないことが1つだけある」
「え?」
ゴリさんは、スコッチが事前に医学書を読みあさり、守の病気について熟知してたことを明かします。激しい運動と精神的なショックは、守にとって命取りだった。セスナ機に乗せること自体が実は博打だった。
「しかし、そんな危険なことをあえてする父親の、一番強い願望はなんだ?」
「…………心中? 心中ですか、ゴリさん!」
「それが、あの時のスコッチの考えだ」
そう、だからスコッチは拳銃をぶっ放してでも親子を飛ばせなかった。すぐに撃つのは彼のクセではあるんだけどw
しかし、だったら早くそれをスニーカーに教えてやれば良かったじゃん!って思うんだけど、まぁそこは「自分で気づくのを待っていた」と解釈しておきましょう。
さて、土田が先に狙ったのは当然ながらスコッチでした。深夜の帰宅中に不意を突かれ、肩を撃たれたスコッチは、反撃する間もなく追い詰められます。
「苦しめ……守は2年間も苦しみ抜いたんだ。その守に僅か2時間の幸せも与えずに、お前は守を殺したんだ!」
とどめのトリガーを引こうとした土田の前に、紙飛行機が舞い降りて来ます。石段の上からそれを飛ばしたのは、我らがスニーカー刑事。
「土田! 守くんを殺したのは滝さんじゃない、お前だ!」
「なんだと?!」
「カッとなって人を殺して、お前にはもう死ぬことしか無かった」
「違う! オレはあの子が不憫で、一度でも空を飛ばしてやりたくて……」
「なら守くんをどうして病院から連れ出したりした?!」
「…………」
「土田、それは決して守くんへの愛情じゃないんだ。お前はただ、守くんを道連れにしたかっただけだ」
何もかも見抜かれ、復讐の意味を見失った土田は、その場に泣き崩れます。気持ちは解るけど、彼はそもそも殺人犯なのです。
「スニーカー、手錠だ」
「滝さん……」
ここで初めて、スコッチが「スニーカー」と口にしました。運動靴を横文字に変えただけにせよw、やっと彼を仲間だと認めたんでしょう。もちろん、スニーカーが此処にやって来たのも、同じ気持ちだからに違いありません。
スニーカーがうっかり出してしまった辞表は、まぁいつもの事だけどボスが机の引き出しに隠したままで、正式な受理には至りませんでした。
が、毛むくじゃらの先輩と二人して、その辞表を紙飛行機にして遊んでるスニーカーを見たボスは、「この次こそはすぐ上に提出しよう」と心に誓ったとか誓わなかったとかw
スコッチ復帰第2弾としてはやや地味な内容だけど、やはり刑事どうしの激しいぶつかり合いが、ここ半年間の退屈と鬱屈を吹っ飛ばしてくれました。
そして前述の通り、沖雅也さんの存在感と演技力によるクオリティーの底上げ、ようやく元気になってくれたスニーカー、子役を含めたゲスト陣の好演、そして斎藤光正監督の名演出も加わって、これはスコッチにとってもスニーカーにとっても代表作の1本になったと思います。
思い返せばスコッチが最初に登場した時も、第2弾(第218話『殿下とスコッチ』)は刑事どうしの激しいぶつかり合いを描く名作でした。あのときスコッチに全力でぶつかって行ったのが、後にスニーカーの人生を変えることになるボンだったことを思うと、ちょっと感慨深いものがありますよね。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます