“『太陽にほえろ!』の後番組”というハンパ無いプレッシャーを背負って、金曜夜8時の日本テレビ系列、1987年2月に誕生した新番組が「大型刑事ドラマ’87ニューモデル」と銘打たれた『ジャングル』です。
岡田晋吉プロデューサー以下、ほとんど『太陽~』と同じスタッフで製作され、同年12月まで全35話が放映されました。(音楽担当は林 哲司さんにチェンジ)
舞台も同じ東京・新宿、七曲署の次って事で「八坂署」。まさに正統な続編と言って差し支え無いと思いますが、ドラマとしての内容は大きく変わりました。『太陽~』が最初はそうだったように、既成の刑事ドラマの常識を覆すような、斬新な手法をアグレッシブに取り入れたんですね。
刑事達が交代で主役を演じて毎回1つの事件を追うのではなく、複数の事件捜査を同時進行させ、主役を絞らずに群像劇として描き、1話完結とせず大事件は数週をかけて解決させる。
要するに現実の警察により近いリアリティーを追求したワケです。事件毎に捜査本部が設けられ、本庁から出向いて来たキャリアが指揮を執る等の描写を見たのは、この番組が初めてだったように記憶します。
カメラワークも人物アップを多用した『太陽~』とは対照的に、室内シーンをわざわざ望遠レンズで撮ったり、長回しを多用する等、黒澤映画ばりの演出が取り入れられました。
レギュラーキャストも、旬の人気者よりも実力重視の俳優さんが集められました。まず係長に鹿賀丈史、課長に江守 徹、本庁刑事に竜 雷太、ほか桑名正博、勝野 洋、火野正平、西山浩司、香坂みゆき、田中 実、山口粧太、山谷初男、安原義人と、総勢12名!
さらに鹿賀さんの妻に真野響子、桑名さんの元妻に永島映子、山口さんの恋人に高樹沙耶、勝野さんの妻に友里千賀子といったセミレギュラーも加わります。
事件捜査だけじゃなく刑事の描かれ方もリアリティ―重視で、正義のヒーローだった『太陽~』と違って、例えば係長の鹿賀さんは5時になったらサッサと帰宅し、妻との時間を大切にするサラリーマン的キャラだし、元マル暴担当だった桑名さんは暴力団と癒着してたりする。
そんな感情移入しづらいキャラクター達が、繋がりのない別個の事件捜査を同時進行させ、必ずしもスッキリ解決しなかったりする『ジャングル』の作劇は、どうやら保守的なテレビ視聴者を困惑させちゃったようで、視聴率は苦戦する結果となりました。
後に竜雷太さんは『ジャングル』を振り返って「あれはハッキリ言って失敗だった。ちょっとウケを狙い過ぎた」なんて語られてます。
「ウケを狙い過ぎた」っていうのはたぶん「玄人受け」を意識し過ぎた=「マニアック」って意味で、なるほど人気を得られなかった一番の理由は、そういう事かも知れません。
物凄く志の高いドラマ創りには違いないんだけど、気合いが空回りしたと言うか、クリエイティブ過ぎて視聴者の嗜好とかけ離れちゃったって事なんでしょう。
私個人の見解としては、玄人受けを狙ったというよりも、前作『太陽にほえろ!』とは違う内容にしようっていうスタッフの心意気が、裏目に出ちゃったような気がします。
後に大ヒットするフジテレビの『踊る大捜査線』も、作劇に『太陽~』と真逆のアプローチを取り入れた点で『ジャングル』とよく似てるんだけど、実は根本的なスピリットは全然違うんじゃないでしょうか?
主役の刑事達が走らない、犯人を逮捕しない(逮捕するのは本庁のキャリア達)、殉職しない、私生活を描かない、聞き込みシーンに音楽を被せない等といった『踊る~』の作劇ルールって、言ってみれば形だけ、表面上のものであって、物語の本質とは違う「枝葉」に過ぎません。
根本的に描いてるのは青島(織田裕二)という「新人刑事」の活躍や、仲間達との固い絆、罪を憎んで人を憎まずの精神etcと、実は『太陽にほえろ!』と全く同じだったりする。
要は「刑事を走らせずとも熱血や努力は描ける」って事を示しただけで、根本的には『太陽~』の精神をストレートに引き継いでる。だから私もTVシリーズの『踊る~』にはハマりました。(映画版はダメだけど)
『ジャングル』の場合は形よりも『太陽~』の基本精神である「熱血」「努力」を否定するドラマ創りをしてしまった。いや、ホントは否定してないんだけど、否定してるように見えるハードボイルドさを狙ったのかも知れません。
それは確かに斬新ではあるんだけど、多くの視聴者がTVドラマに求めるものとは違ってた。私自身『太陽~』からの習慣で毎回欠かさず観てましたけど、決してハマってはいなかったです。
まぁしかし、実はもっと単純な話で、女性好みのイケメンをキャスティングしなかった事が、最大の敗因かも知れませんw ’80年代にはもう、テレビはすっかり女性向けのメディアになってましたから。
そんなワケで『ジャングル』は思ったような視聴率が取れず、徐々に作劇を『太陽にほえろ!』で馴染んだ手法に戻して行く事になります。最終回は結局、新人刑事=山口粧太の殉職劇になっちゃいました。
斬新な番組を成功させる事がいかに難しいか、そして質の高さが必ずしも人気を呼ぶとは限らないって事を、図らずもこのドラマは証明しちゃいましたね。
けれども、創り手がこういうパイオニア精神を失ってしまったら、それこそテレビ業界は朽ち果てて行くだけです。今現在、この『ジャングル』ほど高い志、熱い心意気を感じさせてくれる番組が、一体何本ある事でしょう?
『太陽にほえろ!PART2』と同じく、幻にしてしまっちゃいけない作品だと私は思います。是非とも再放送&商品化を熱望します!
(つづく)
正直、ジャングルファンが読める代物になっているかどうか不安ですが…また暇なときにでもどうぞ
林哲司さんの音楽は最近つべで聴いていますが、かっこよすぎです。
小説の構想練るときも作業用BGMにしてました。
「ジャングル」とは関係ないですが、「Loving in the rain」もいい曲ですよ。
乱文失礼いたしました。
押し入った賊も押し入られた家族もサイコパス的で気持ちが悪く、津上刑事の一人称で始まったはずの物語が、途中で別の人物の一人称に変わったりするのも読みづらい原因になってたように思います。
あとがきを読んで、気持ち悪いサイトへの批判をこめて書かれたことを知って「そういう事だったのか」と納得はしたのですが、その元のサイトを知らない人(つまり私を含むほとんどの読者)には、その意図は伝わりにくいと思います。
私の読解力の無さを棚に上げ、偉そうなことを書いてすみません。個人的には、もうちょっとライトに楽しめる小説が読みたいです。
殉職刑事を演じた山口粧太さんもその後のドラマでは不遇な役ばかりなのが田中実さんとの明暗を分けた感は否めません。
香坂みゆきさんがある回から突然大沢逸美さんに交代したのもガッカリ感がしました。