2024年7月放映スタートの新作アニメ『グレンダイザーU』は、1975年10月から‘77年2月までフジテレビ系列の日曜夜7時枠で全74話が放映された、永井豪原作&東映動画制作によるマジンガーシリーズ第3弾『UFOロボ グレンダイザー』の約50年ぶりとなるリブート作品。
そして今回レビューする旧作の第50話は、主人公=デューク・フリードのやんちゃな妹=グレース・マリア・フリードが途中加入して2話目にあたるエピソード。
マリアの投入は恐らく、本来のヒロインである牧葉ひかるがイマイチ不人気だったことを受けてのテコ入れであり、『マジンガーZ』の大ヒーローから異星人のサポート役(を通り越してコメディーリリーフ)に格下げされた兜甲児のファンに対する、せめてもの心遣いとして弓さやか(『マジンガーZ』のヒロイン)的なパートナーをあてがう意図が、制作陣にあったんじゃないかと私は勝手に思ってます。
あるいは単純にネタが尽きて来たがゆえのリニューアル(新キャラ&新メカの投入と、個人戦からチーム戦へのシフト)かも知れないけど、この第50話を観るかぎりだとマリア登場に“さやか2号”の意図が無かったとは、とても思えません。
☆第50話『暗殺!! 兜甲児を消せ』(1976.9.12.OA/脚本=田村多津夫/演出=大谷恒清)
なにしろ勝ち気でじゃじゃ馬で、向こう見ず、意地っ張り、そして特に好きな相手に対しては素直になれないっていうヒロイン像は、少なくともロボットアニメのジャンルだと弓さやかがパイオニア。
本来、さやかのキャラ設定は(原作でも)もうちょい淑やかだったのに、テレビ版『マジンガーZ』メインスタッフの中に無類の“じゃじゃ馬好き”がおられ、その方が手掛けた回のさやかだけ極端にエキセントリックだった。
そのインパクトがあまりに強烈で、また魅力的でもあったので『グレンダイザー』のマリアにも受け継がれ、それが後年の革命的ロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』における第2ヒロイン=惣流・アスカ・ラングレーの原型になったと、これも勝手な憶測だけど私は思ってます。
そもそも“第2ヒロイン”っていう存在自体が’70年代アニメじゃ画期的(おそらく史上初)だろうし、シリーズ中盤から登場する点にせよビジュアル面にせよネーミングにせよ、『エヴァ〜』の庵野秀明監督はマリアをイメージしてアスカのキャラを創ったとしか思えない。
そうさせるだけの不思議な魅力が、じゃじゃ馬ヒロインにはあるんですよね。
本エピソードでも冒頭から甲児をバイク競争に誘うやんちゃぶり。しかも、いくらアニメでもそりゃ無いやろ!と言うほかないアクロバットテクを披露!
だけどマリアには「異星人だから」っていう一応の説得力があるし、おまけに当時「UFO」と同時期に一世を風靡した「エスパー」の才能まで持ち合わせてることが後に判るので、このムチャな描写には伏線としての意味もある。むしろ彼女と互角に渡り合う兜甲児こそが地球人としてムチャすぎる。
で、ほぼ同時ながら数センチの差で甲児が先にゴール。
「いやあ、大したもんだよマリアちゃん! こいつは引き分けだな」
「いいえ、甲児の勝ちよ」
「いや、引き分けだよ」
「甲児の勝ちよ」
「引き分けだったら!」
「甲児の勝ちっ!!」
「💢💢💢💨」
「💢💢💢💨」
こんな風に「ケンカするほど仲がいい」のは昭和アニメやドラマの定番ではあったけど、甲児&マリアの場合は極端。
ちなみにずっと前にレビューした『マジンガーZ』#52にも甲児&さやかのこんなショットがありました。
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そこで私は気づきました。『マジンガーZ』#52と『UFOロボ グレンダイザー』#50には、とても偶然とは思えないほど共通点が多いことに。つまり、もしかするとリメイク?
今回、地球侵略を目論むベガ星連合軍はサブタイトル通り、甲児を暗殺するための刺客(3体の美女アンドロイド)を送り込んで来るんだけど、マリアの予知能力が覚醒したお陰でひとまず難を逃れます。
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いくらアンドロイド相手でも現在じゃたぶんNGなハラスメント描写で、まずは一体を破壊。
そして翌日、まだ二体の刺客に狙われてると分かっていながら、揃って向こう見ずな甲児&マリアは乗馬レースに出場。
それを心配そうに見守るデューク・フリードや牧葉ひかるたち。
ちなみにデューク・フリードの声は『宇宙戦艦ヤマト』の富山敬さん、マリアは『魔女っ子メグちゃん』の吉田理保子さん、ひかるの父親である牧葉団兵衛は『キューティーハニー』でも団兵衛だった富田耕生さん、宇宙研究所の宇門博士は伴宙太やボヤッキーの八奈見乗児さん、そして兜甲児はジャッキー・チェンの吹替でも知られる石丸博也さんと、声優陣がやたら豪華。ゲッターロボGも参戦する“東映まんがまつり”の劇場版には神谷明さんまで加わりますから。
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観衆の中には敵の刺客だけでなく、『キューティーハニー』や『ゲッターロボ』等のサブキャラがなにげに紛れ込んでます。
で、レース中に再びマリアの予知能力が甲児の危機をチャッチ!
「甲児、危ない! 甲児ぃーっ!!」
全速力で走ってる馬上からマリアが決死のダイビング!
そして愛のキックを股間に食らい、甲児が吹っ飛んだ!
常人ならそれだけで死にそうだけど、甲児は落馬した直後、鞍に仕掛けられた時限爆弾の爆風により吹っ飛んだのでした。
怒りに燃えたマリアが二体の刺客を追撃し、爆破! カッコいい! けど、彼女は馬を甲児の(茶色)に乗り換えた筈なのに、元のホワイトに配色されてる凡ミスが残念! (超過密スケジュールで創られてた昭和アニメにはよくあること)
それはともかく、お陰で甲児はこのありさま。
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そして件の『マジンガーZ』#52でも、甲児はこんなことになってました。
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その原因は、大喧嘩の末に甲児と絶交宣言した弓さやかが、機械獣との戦闘中にマジンガーZのヘルプ要請を拒否したから。
意識不明になってる甲児に、泣きながら唇を重ねるさやかをシルエットで描いた衝撃のキスシーンもさることながら、本エピソードが真に素晴らしいのはその後の展開。
サブタイトルは『甲児ピンチ! さやかマジンガー出動!』。そう、甲児の意識がまだ戻ってないのに機械獣が再来し、愛機=アフロダイAじゃ歯が立たないと判断したさやかは、決死の覚悟でマジンガーZに乗り込む。
ピンチヒッターとはいえヒロインに主役ロボを操縦させた作品は、たぶんこれが史上初。
最終的には、ついさっきまで死にかけてた甲児が目覚めてすぐに元気溌剌オロナミンCとなり、アフロダイAに乗って駆けつけるや“あうんの呼吸”でさやかと愛の空中大サーカス! 互いに自分の愛機(のコクピット)へ飛び込み、みごと連携プレーで機械獣をぶっ壊すのでした。
リアリティーなし! だけど、それでこそ生まれる感動が’70年代作品には確かにあった。『機動戦士ガンダム』以降、リアリティーと引き換えに失ったものも少なくないはず。
閑話休題。今回の『グレンダイザー』#50 でも重傷を負った甲児は、円盤獣の襲来により単独出動したグレンダイザーの援護を、ダブルヒロインに託します。
「甲児さんは私に頼んだのよ!」
「いいえ、私がイク!」
そう、“さやかマジンガー”と同じように、今回はマリアが甲児の愛機=ダブルスペイザーを操縦!
出撃シーンとそのBGMはロボットアニメの命。我々はそれを観て燃えるために毎週チャンネルを合わせたようなもんで、その記憶はDNAレベルで刷り込まれてますから、近年のリブート作品でも同じメロディーが出撃シーンに使われるか否かが、作品の評価を決定づけると言っても過言じゃない。
ちなみに通常は甲児がタブルスペイザー、ひかるがマリンスペイザー、マリアがドリルスペイザーを操縦し、チームプレーでグレンダイザーを援護する形態がスタンダード。
『マジンガーZ』と『グレートマジンガー』のスタッフが『鋼鉄ジーグ』へと異動し、『グレンダイザー』は『ゲッターロボ』のスタッフが引き継いだゆえ、3機編隊の描写はお手のもの。
ただしゲッターチームのパイロットは3人とも男だったのに対して、ダイザーチームの場合は2人が女性。わずか1〜2年で随分と時代が進んだ気がします。
孤立無援でさすがに苦戦するグレンダイザー=兄の危機に、甲児の友情も背負ったマリアが駆けつけ……
禁断の兄妹合体アタックにより、みごと円盤獣を撃破!
そもそも甲児を狙うよりデュークを暗殺する方が手っ取り早いやんとか、細かいツッコミを入れ始めたらキリがない。そんなの気にせず勢いで見せ切っちゃうのが昭和アニメの魅力だし、そこを楽しめるのが「オトナになった証拠」だと私は思ってます。
前回の記事に『UFOロボ グレンダイザー』は途中で観るのをやめたと書いたけど、甲児の新たな愛機=ダブルスペイザー(シリーズ前期に乗ってた自家用UFOより格段にカッコいい!)と、さやか2号とも言えるマリアが登場してからはよく観てました。
たぶん『マジンガーZ』からの古参ファンには似たような経緯を辿った人が多いはず。じゃじゃ馬ヒロインにはそれだけの吸引力があるんですよね。
さて、新作『グレンダイザーU』にこれから登場するマリアはどうなのか? すでに登場済みのさやかが少し大人びた分、マリアは変わらずじゃじゃ馬ぶりを発揮してくれると私は期待してます。(『エヴァ』ファンの皆さん、アスカ・ラングレーのパクリじゃないですよ!)
東映と東映動画は別の企業ですが、じゃじゃ馬ヒロインは東映ならではかな、と、思っています。1970年台前半の東映ピンキーアクションシリーズをはじめ、ウーマンリブの影響です。
一方の東宝は、旧来のおしとやかな女性が好みらしく、シンコからマスコットガールになり、ついにいなくなってしまいました。でも、そんな東宝だったからこそ、太陽らしさが出来上がったようにも思います。