『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  98

2012-08-10 14:06:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは舟艇のかたわらに立った。
 『おっ、オキテス、今日はお前が来てくれて助かった、有難う。明日の出航については舟艇の上で話した要領だ、いいな。俺は統領のデロスでの用件は今日だけで充分と考えている。よろしく頼む』
 『パリヌルス、お前、ちょっぴり先が見えるのか。判った、心得た。じゃ~な』
 浜を離れる舟艇は、海面を泡立てて帰途についた。

 オキテスを見送ったパリヌルスは、一同のもとに戻った。
 『お~い、カイクス、『ぶどう』は足りたか。ここ数日、新鮮なものを口にしていない。有り余るほどあるはずだ。充分にやってくれよ。それから、今日の夕めしはやや早めに始めよう。皆、判ったな』
 彼らは歓声を上げた。
 『この『ぶどう』はだな、甘味も強い、酸味も強い、その酸味が身体にいいのだ。味わって食べろよ。干し肉と酒は夕めし分だ』
 彼らは『ぶどう』を口いっぱいにほおばって食べている。喜びの感情を満身にあらわして胃袋におさめていた。種だけを辺りかまわず『ぺっ!』『ぺっ!』と吐き出して、酸味の強さに顔をしかめる者、旨そうに食べる者、皮の渋みを味わって食べている者、さまざまな様子がうかがえた。久しぶりに口にした果物、堅いパンにも『ガリッ!』と噛みつき音をたてながら咀嚼していた。
 昼めしを終えたパリヌルスは、船影に座して沖行く船を目で追いながら深く考えた。
 狭い島の間を通り抜ける船団の姿をイメージした。イメージの中では異変は生じなかった。彼はそのようであってくれと強く強く念じた。これだけの船団の航海を無事に成し遂げる統率者としてのプリペアードマインド(準備された精神)を心中に築こうとしていたのである。
  

*お詫び申し上げます。    第5章  クレタ島  97
 12行目で欠字をやりました。訂正いたします。申し訳ありませんでした。
 荷降ろし手伝った。   を   荷降ろしを手伝った。
                          訂正いたします。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  97

2012-08-10 05:55:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『あ~あ、オロンテス、オキテスの船団も俺の船団も、明日の昼頃にはパロスの浜に着く。みんなで、お前の焼いた旨いパンを食おう。頼んだぞ』
 『昼食のパンは、オロンテススペッシャルをご馳走しますよ!』
 言葉を交わして、パリヌルスは舟艇に、オロンテスは浜に立っていた。舟艇は海面を泡立てることなく滑るように浜を去った。
 『おっ、オキテス、買い物はうまくいった。重畳、重畳。あの値段、あの価格、俺たちの思いより安くついた。ところでだ、明日のことだ。陽の出には出航してほしい。俺はお前たちの船団が浜を離れる様子を見て、間隔を測ってこの浜を出る。いいな。ナクソスとパロスの島間の狭いところで両岸から矢が射掛けられるかも知れない。そのときは俺たちが応戦する。統領たちを安全なところに頼む。天候の悪いときのほうが危険度が大きい、注意してくれ』
 舟艇の船足は速く、パリヌルスの船団のいる浜には時間がかからなかった。船団の者たちが総出で出迎える、そして、荷降ろし手伝った。
 『隊長、お帰りなさい。待っていました。塩漬け干し肉じゃありませんか。それに『ぶどう』と酒、豪勢ですね。お昼は済まされましたか、一緒に食べましょう』
 『おうっ、判った。おれはオキテスを見送ってくる、それからだ。『ぶどう』を皆に渡してくれ。肉と酒は夕めしにだ』
 『判りました』