『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  43

2009-09-16 09:53:27 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『トリタス、ポリメストルの砦のことだが、アレテスを魚の行商人に仕立てて探らせようと思っている。アレテスに二人の部下をつけて行かせるのだが、トリタス、そちらから、道案内を兼ねた魚の行商人にふさわしい手の者2名、同道してくれないか。できるだけ早い時間に獲れたての魚を持って出発したいが、どうだろうか。』
 『いいでしょう。判りました。お引き受けしましょう。』
 話は決まった。アエネアスは、アレテスに声をかけた。
 『おいっ!アレテス、話は聞いていたな。部下を二人選んで身づくろいを整えて待機しろ。特に注意することは、3人とも、魚の行商人らしく身体に魚の匂いをしみ込ませるのだ。大事なことは、出向く5人とも無事に帰ってくることだ。判ったな。』
 この話を聞いていた、一同は笑った、魚の匂いを発散するアレテスたちを想像して声を出して笑った。浜頭たちも皆につれて笑った。
 話し合いは、笑いで締めくくられた。場を和やかに終えた感じであった。

第2章  トラキアへ  42

2009-09-15 12:39:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『サレト浜頭。ところで砦にいる兵数は、どのくらいいるのであろう。』
 訊ねるアエネアスのまなざしは真剣みを帯びてきていた。答えるサレトの目つきも鋭くなっていた。
 『そうですね。大きな砦で500人くらい、小さな砦で200人ぐらいと思われます。』
 『ポリメストルのところはどうだ。』
 『領主ポリメストルの砦は、300人ぐらいのはずです。この辺りでは中規模と言ったところです。』
 『そうか、まあ~、そんなところか。』
 アエネアスの頭脳は、互いが持っている兵数の多さに考えが及んだ。話し合いは終わった。彼は、おもむろに口を開いた。
 『浜頭の皆さん。いろいろと話してもらって、ありがとう。私たちのこれからについて、私どもで話し合わなければならないことが沢山ある。私どもが貴方たちに危害を加える、それは決してありません。安堵していただきたい。この私が貴方たちに約束する。それで、明後日の朝になるが、トリタス、どうだろう、皆さんと話し合いの場を持ちたいのだが了承していただきたい。あ~あ、トリタス、今日、このあとだが、このアレテスがポリメストルの砦の探索に出かける。それで頼みがある。』 アエネアスは、アレテスを紹介してトリタスに告げた。

第2章  トラキアへ  41

2009-09-14 07:56:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 トリタスに話をふられたサレトは、緊張した面持ちで話し始めた。
 『では、お話いたします。私の知っている、このエノス地方一帯の豪族、領主たちの割拠している状態は、余り広い範囲のことではありませんが、知っている限りのことについてお話いたします。エノスから東へ40キロ余り、北へは、浜から25キロくらいの範囲のことです。ここから、東へ30キロばかり行ったところにカラニシエリの集落があります。その北のホカアイ、南へ下って、メジデイエ、イブリシエ、そして、タヅラの湖の西にと、この辺りに6つの砦があります。次にエノス近辺の状況ですが、エノスに1つ、ガラの湖の南の山地の山の麓にあるのがポリメストルの砦、エノスの集落の川向こうの対岸に1つ、ここで合計9つの砦が数えられます。あ~あ、もう1つ、エーレの砦があります。これは、ガラの湖から、エブロス川をはさんだ河岸から、内陸に少し入ったところにある砦です。その南は、広い広い湿地帯で浜に至るまで人は住んではいません。そして、浜になるのですが、そこが、私の仕切っている浜です。都合、この辺り一帯に、10個の砦が散在していることになります。お判りいただけたでしょうか。』
 アエネアスは、頷いた。
 『ありがとう。よく判った。もうひとつ、聞いておきたいが、いいかな。』

第2章  トラキアへ  40

2009-09-11 07:32:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『判りました。先ず、襲撃のなかったことについてですが、私たちは、このように思うのですが。』 トリタスは、顔を浜頭たちのほうに向けた。
 『あの~、浜頭の皆さん、私の話に、そうではないと言うことがあったら、訂正、注釈をお願いします。』
 トリタスは、アエネアスの方に向いて話し出した。
 『これについては、三つぐらいの原因が考えられます。先ず、第一に昨夕の浜における上陸決戦で、領主側の失った手勢が多かったことです。あの戦いで失った手勢は、領主が動員できる手勢の半分以上でないかと思われることです。次には、他の豪族たちが領主の要請に応じなかったのではないかと考えられます。第三には、ギリシア側によしみを通じているのは、領主ポリメストルだけで、他の豪族たちは、ギリシア嫌いで、ポリメストルには好感を持っていません。トラキアの豪族たちは、トラキア独自の国家建設をもくろんでいるはずです。また、ポリメストル以外の豪族、領主たちは、トロイに対して、特別悪い感情を抱いていないのではないかと考えられます。察していただければ幸いです。如何でしょうか、昨夕も私が、浜頭、浜衆たちと打ち合わせたところ、夜襲はなかろうと言うことになり、宴を催したのです。そして、もうひとつ、ポリュドロス様のことですが、浜の墓地に埋めてあります。おちつかれましたら弔ってあげて下さい。』 トリタスは言葉を続けた。
 『浜頭の皆さん、これでよろしかったでしょうか。』
 『うん。まあ~、そんなところでないかと、私らも思っている。』
 『それから、サレト浜頭、豪族たちの割拠、砦については、お主が詳しい。話して差し上げてほしい。』

第2章  トラキアへ  39

2009-09-10 10:25:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 エーゲ海北部に出没する海賊は、海上において船舶を襲うだけではなく、大陸沿岸の集落や漁村も襲っていた。トリタスの話に出た海賊は、サモトラケ島に本拠を置いている海賊らしい。それについて、トリタスは手短かに話した。
 『サモトラケ島に本拠を置く海賊には、この浜でも手を焼いている事情があるのです。奴らは、海上で交易船を襲うだけではなく、浜へ船で乗りつけて、浜の集落をも襲うのです。全くそれには困っています。』
 『よく話してくれた、トリタス。そして、サレト、ありがとう。二人に心から深く礼を言う。本当にありがとう。』 アエネアスは、礼を言って、浜頭の連中に向いて訊ねた。
 『トリタス、実は、昨夜のことだが、俺たちは、敵の襲撃を予想していた。しかし、その襲撃がなかった。俺たちは、不思議に思っている。その何故にかかわることについて、知っているようであれば教えてくれないか。ポリュドロスのことは判った。それで、この地方一帯の豪族の割拠の情況について解かっていることが、あったら教えてほしい。』 と、アエネアスは、告げた。

第2章  トラキアへ  38

2009-09-09 10:26:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 トリタスは、訥々と話を進めていく。
 『そうしているうちに船は、近づいてきて浅瀬に来る、人が海の中に降り立つ、波打ちに向かってきます。その人は、軍装しているではありませんか。私たちは身構えました。よ~く見るとオキテス様ではありませんか。私たちは、小屋を出てオキテス様を出迎えました。いつも交易のときのオキテス様としか会っていませんので、私は驚きました。私たちは簡単な挨拶をかわし事情を話しました。オキテス様の手勢では、領主の部隊の兵数には、とてもとても太刀打ちは無理だと思いました。オキテス様に私の思いを話しました。事は急がねばならない事情があります。』
 オキテスは、頷きながら話を聞いていた。
 『そこで私は、簡単に事情を話し、川向こうの浜頭サレトに紹介することにしたのです。それで私の手の者を一人つけて、オキテス様を川向こうのサレト浜頭の浜に向かわせたのです。あ~あ、統領、ここにいるのが川向こうの浜頭サレトです。』
 サレトは、アエネアスに丁寧に挨拶をした。
 『オキテス様の話では、明日、パリヌルス様の船団が、この浜に着くことを知りました。オキテス様には、川向こうの浜でパリヌルス様の船団の到着を待ってくれるように話しました。また、オキテス様から、パリヌルス様の船団、そして、アエネアス統領とポリュドロス様の係わり合いについても聞いていましたので、貴方様方には、海賊に抱くような不安はありませんでした。』

第2章  トラキアへ  37

2009-09-08 06:31:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 トリタスは、丁寧に言葉をつないで話していく。
 『怒った領主は、預かりの身であるトロイのプリアモス王の子息のポリュドロスを殺害したうえ、その首をトロイにいるアガメムノンに送って、アガメムノンと手を結んだのです。全くひどいことをする領主です。ポリュドロス様の屋敷が、この浜の近くだったので、私たちもとても懇意にしていたのです。ポリュドロス様は優しい人で、よくこの浜に遊びにこられていたのです。浜の者たちも、その知らせにおどろき、深く悲しみました。そして、オキテス様の船団が浜につく日の昼ごろに、トロイ落城の知らせが、この浜に届いていました。』 
 ここまで話して、トリタスは皆の顔を見まわした。
 『また、この日の午後、オキテス様の船団の到着する少し前ですが、領主の砦から、私たちの許に連絡がありました。トロイ落城のこと、そして、トロイから船で逃れて来る者が居ってもかくまってはならん、との強い達しがありました。尚、そのあと、今夜から、砦の部隊が浜一帯を見張るために来るとの連絡もありまた。それから、私が浜に出てみますと、浜に向かってくる船団があるではありませんか。私たちは、それを見て驚きました。どこの船かはわかりません。私たちは、浜小屋にひそんで様子を見ることにしたのです。』

第2章  トラキアへ  36

2009-09-07 08:23:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 軍団の幹部、隊長たちと浜頭連が一つ屋根の下に会同して話し合うことになった。
 アエネアスは、トリタスをはじめ他の三人の浜頭たちに、オキテスの船団に対する配慮、砂浜で展開した戦闘、その後に浜衆たち総出で開いてくれた宴のことについて、改めて、厚く礼を述べた。
 一同が座について話し合いが始まる。先ず、アエネアスから話し始めた。
 『浜頭の皆さん、私たちは、このエノスの土地の詳しい事情がわかっていません。我々が今後、これからどうするか。について、考えなければなりません。どうか、あれこれについて、教えていただきたい。また、相談にものっていただきたい。宜しく頼みます。』
 『では、』 と口を開いたのは、トリタスであった。
 『先ず、私から、お話しいたしましょう。今の領主ポリメストルが、先王の頼みで、トロイに派遣した部隊が、さんざん、ギリシアにやられて、生き残った者たちが、這う這うの態で帰ってきました。帰ってきたのは、派遣した部隊の2割足らずでした。領主は、かんかんに怒りました。領主のポリメストルは、この部隊の派遣には、最初から反対だったのです。』 彼は、ここで一息ついた。

第2章  トラキアへ  35

2009-09-04 07:00:45 | アルツハイマー型認知症と闘おう
 『おはよう。諸君!異国の地で迎える朝はどうだ。深夜の敵の襲撃はなかった。何よりであった。』
 アエネアスの開口一番であった。居並んでいる彼らも、身体をゆすられることなく過ごした一夜で落ち着きを取り戻していた。
 『もう来る頃だと思うが、これから、浜頭連と話し合いをする。そのあと、我々の打ち合わせを行う。それともうひとつ、アレテスを探索に出す。我々は、当面、何をするかについて話し合う。皆、いいな。』 言い終わるのを聞いて、皆が肯いた。
 浜頭連の姿が見えてきた。浜頭が1名増えている。4人になっていた。
 一同は、顔を合わせた。
 『おはようございます、統領。よく休めましたか。このかんかん照りの下では、話し合いも落ち着きがありません。浜小屋に入りませんか。』
 『うん、よかろう。』 と言うことで一同は、浜のはずれにある、一軒の浜小屋に移動した。小屋の中に入る、小屋の中は浜風が吹き抜けている。涼感が感じられた。一同は、車座に座して話し合いが始まった。
 

第2章  トラキアへ  34

2009-09-03 08:17:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 風は止んでいる。海の荒れもおさまっている。
 浜はざわついていた。出漁していく漁師たちは準備に忙しく余念はなく、彼らを送り出す女房連の大声が、浜の空気を震わせていた。浜頭たちも砂浜に立って、漁師たちの差配に懸命であった。
 アエネアスは、この風景を目にして、ふと思いついた。アレテスを魚の行商人を装って、探索に向かわせることがいいのではないかと考えた。
 新しい朝を迎えて、アエネアスは多忙であった。彼に従いついて来た者たちにとっては、トロイから100キロ余りしか離れていない土地でありながら、そこは異国の地であり、彼らにとっては新天地であった。使っている言語は、同言語族に属していることが救いであった。風習、しきたりには、多少の差異があろうと思われるが、それについての覚悟はできていた。
 アエネアスは、幹部、及び、隊長連を集めての打ち合わせである。彼は、オープンな姿勢で皆に接した。市民たちの中からもオロンテスの他に2名が加わることになった。