『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  234

2010-06-16 06:34:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 太陽が南中するときが迫ってきていた。
 イリオネス、アレテス、パリヌルスの許に作業完了の報告があがってくる。西門前の広場に皆が集まり始めた。
 トリタスが浜衆たち、集落の者たちを引き連れて、砦の浜へ舟で乗り付けてきた。サレト浜頭たちも同道している。オキテスとカピュースらが出迎えた。舟からは今日の宴の肴にと膨大な量の魚介、果物、野菜類がおろされた。今日の宴の会場は浜に設営されることになっている。オキテスが彼らを広場へと案内してきた。アエネアスが歓待の言葉をかけた。
 『おうっ!トリタス、よく来てくれた。ありがとう』 と言って、トリタスの肩をひしっ!と抱きしめた。そのあと、彼は、トリタスに対して姿勢を改めて向き合った。
 『トリタス殿、このたびは、砦の建設に際して、ひとかたならぬお世話になった。厚く厚く礼を申します。ありがとう。貴方なればこそ、していただけたお世話でした。誠にありがとう。砦の出来具合を見ていただきたい。私が案内いたします』
 アエネアスとオキテスは、トリタス、サレト両浜頭と浜衆たちの案内に歩を運んだ。

第2章  トラキアへ  233

2010-06-15 07:14:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 この日彼らは、思い思いのところで身を休めて暁を待った。
 アエネアスは、久しぶりに息子ユールスを抱いて寝についた。

 瞬いている星が、ひとつ、またひとつと光を消していく、暁が訪れる。今日の曙光が平野を照らし始めた。砦の東面が朝日を浴びて輝いた。
 イリオネスは、東西南北の砦の全ての門を開けさせた。彼は東側の回廊から、ひときわ大きい、この日の大日輪向かって敬虔な気持ちで祈りをささげた。大きな事故にもあわず、滞りなく、建設の諸事を終えたことを感謝し、皆とともにある未来の健全なることを祈りあげた。
 ひとり、またひとり、と姿を現してくる。彼らも門の前に立ち深く一礼して、居を定めるべく割り当てられている宿舎に入っていく。
 イリオネスとアレテスは、この光景を見つめていた。定住のところを得た者たちの安堵した表情を見ることができた。
 宿舎の戸口には、係りの者がいて指示している。市民たちは、オロンテスの指示に従っている。入居を終えた者たちは、食糧倉庫に蓄積食糧の運搬、移入の仕事にたずさわっていった。軍団の者たちは、アカテス、カピュースの指示を受けて、武器庫に軍団の武器を、また、接収した戦利品の数々を倉庫に収めるべく忙しそうにたち働いた。そこには、繁多な光景が展開されていた。
 西門の前の広場では、リナウスが儀式の祭壇つくりに、部下たちを叱咤して取り組んでいた。儀式に関する諸事が遅滞することなく進んでいた。立ち木に繋がれているいけにえの羊が声をあげていた。

第2章  トラキアへ  232

2010-06-14 08:26:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 耳を聾する歓声が上がった。
 『続いて、統領からも話がある』
 アエネアスがしつらえられた高みに上がった。いっそう大きな歓声が広場を圧した。
 『諸君っ!砦が完成した。見てくれたまえ。この通りだ!』
 彼は、両手を広げて、砦全体を指し示した。一同のほうに向き直り、言葉を続けた。
 『砦の東南には、小さいと言えども湖があり、東には、その湖に流れ注ぐ川がある。南には、食資源の豊富な海があり、西には、諸君が集っている広場がある。そして、北には肥沃な大地がある。このような天啓を得たところに砦を、その砦に付随して、宿舎を建設できたことを諸君たちとともに心から喜びたい。神に感謝するとともに自分自身にも感謝しよう。諸君!おめでとう。皆で砦の完成を喜ぼう!君たちが労苦を惜しまず、砦建設にたずさわってきてくれたことに厚く礼を言う。ありがとう。軍団長が言ったように、明日から、この砦と宿舎を使おう。明日は、神に感謝し、砦と宿舎の完成を皆で祝おう』
 またまた、一同は大歓声をあげた。
 茜に燃える夕陽は、砦を、そこに集っている皆を赤々と照らした。

第2章  トラキアへ  231

2010-06-11 07:36:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『皆が集まってきましたね。皆がとてもうれしそうにしています。このような喜喜とした皆の顔が見れるとは』
 『イリオネス、皆に何を伝える?』
 『そうですね。皆が喜ぶ話をしてくだされば、それでいいと思いますが、あとは適当に』
 『ところで砦の呼称をなんとするか。お前に案があるか』
 『呼称ね。皆が口にしているのは、これは、アエネアスの砦だから『アエネーダナエ』といっています。私はこれはいいなと思っています。この砦に一番ふさわしい呼び名ではないかと思います。しかし、発表するタイミングですが、明日、儀式を終えたときがいいと思いますが』
 『判った。そうしよう』
 イリオネスは、集まった皆を見渡した。
 『おっ!諸君、集まってくれたか。この工事を始めて2週間、皆、ご苦労であった。工事の責任者として、皆に心から礼を言う。砦そして宿舎が完成した。よく見てくれ。この砦は、諸君たちが日夜、精魂をこめて造り上げた砦だ。宿舎も然りだ。そこでだが、現在使っている居留地から、明日午前中、それも朝のうちにだ、この砦の宿舎に移ってもらう。そして、明日、太陽が一番高いときに完成の儀式を行い、そのあと、ささやかではあるが、完成の宴を催行する。以上だ。もう一度、諸君たちに礼を言う、ありがとう』

第2章  トラキアへ  230

2010-06-10 06:37:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おっ!そうか。トリタスには、えらい世話になった。ひととおりの感謝では足りないな』
 『それから、完成の儀式の手配ですが、万事、リナウスがその手配に当たっています。宿舎の方は、パリヌルス、オキテス、オロンテスの三人が割り振りを指示しています。後は歩きながら話します。統領まいりましょう』
 イリオネスの案内で砦の検分に三人は歩を運んだ。
 『統領の館も出来上がりました。最後になりますが見てください。それから、西門の門前に皆を集めます。統領から話をお願いします。以上です』
 『判った。工事完成の検分を終えよう』
 『では、統領、行きましょう』
 三人は、砦の内外をくまなく廻った。砦はこの上なく頑丈に出来上がっていた。太い木材を巧みにくみ上げて仕上がっていた。砦を巡り、次に宿舎の方に歩を向けた。パリヌルスとオキテスが懸命に役務をこなしている、オロンテスは市民の主だった者に割り振りを説明していた。
 アエネアスら三人は、検分を終えたその足で夕陽に映えている砦をしげしげと仰ぎ見た。
 皆が集まり始めた。彼らも出来上がった自分たちの造り上げた砦を見上げていた。

第2章  トラキアへ  229

2010-06-09 06:30:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アレテスは、八面六臂で事に当たっていた。テキパキと事を処理していく、報告を受ける、即、点検する。不具合はないか、安全度は確かか、慎重に慎重を重ねて念入りに点検業務を遂行していった。責任部署の工事を終えた者たちは、整地の仕事に手配していく。宿舎の点検、手配はパリヌルス、オキテス、オロンテスの三人にゆだねた。
 イリオネスは、エノスの浜より帰ってきた。午後になってアレテスと二人で報告を受け、各部署の工事の完了の点検に当たった。
 整地作業も滞りなく進んでいっていた。
 アエネアスは、櫓の上から工事の進み具合を見ていた。一周300メートルの砦の回廊を朝から4周もした。彼は、砦の出来具合には満足していた。
 アエネアスが、東南の角の櫓にいるとき、イリオネスとアレテスが姿を見せた。彼は二人に声をかけた。
 『おうっ!どうだ。砦の完成についての最終点検を終えたのか。宿舎の方もいい具合にいっているか』
 イリオネスが、その問いに答えた。
 『完成です。工事が遅れていた箇所も仕上がりました。これから統領をご案内します。整地の方は日没までかかりますが、滞りなく仕上がります。それから、報告が遅れましたが、エノスの浜へ行ってきました。トリタスが大変喜んでいました。明日午後には、皆を引き連れて砦に来るそうです』

第2章  トラキアへ  228

2010-06-08 07:21:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『トリタス、明日の午後だが、砦へ来てほしい。皆に見てもらいたい。ささやかだが宴の準備もしている、浜衆や集落の皆を引き連れて皆で来てほしい。それを伝えに来た』
 『判りました。皆でまいります。ありがとうございます』
 小屋の中にいた浜衆たちも外に出てきて二人の話を耳にして、イリオネスに笑顔を向けていた。イリオネスは、このエノスの浜に来て、砦の完成がうれしかった。彼は浜衆たちの肩を抱いて喜んだ。抑えに抑えていた喜びの感情を一気に爆発させた。この光景の中にいるトリタスの両目は涙に潤んでいた。
 『トリタス、サレト浜頭にも貴方から連絡してほしいのだが。いいかな』
 『いいですとも、あいつも喜ぶこの上なく喜ぶと思います』
 イリオネスは、エノスの浜の、この者たちとの一体感を感じていた。
 『イリオネス様、帰りは舟で砦の浜まで送ります。少々の間、此処でゆっくりしていて下さい』
 『ありがとう。トリタス。言葉に甘える、よろしいかな』
 イリオネスは、この親しい交わりに心が和んだ。

第2章  トラキアへ  227

2010-06-07 06:15:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 このあと、二、三の用件についてイリオネスはアエネアスと打ち合わせた。
 『うん、それでいいだろう。イリオネス、お前に世話をかけるな』
 『いえ、そんな。今の私をぐいぐいと強い力が引っ張ってくれているよな日々が続いています』
 『イリオネス行こうか。汗を流しに行こう』
 『ええ、行きましょう』 二人は浜へ向かった。

 短い夏の夜は明けた。砦と宿舎は、今日、完成する。イリオネスは、砦を丹念に見廻った。イリオネスは、額に汗を流し仕事に打ち込んでいる者たちに声をかけながら見て廻った。それを終えてエノスの浜に向かった。
 エノスの浜は懐かしかった。工事期間中、足を踏み入れなかった浜の風景がたまらなく懐かしかった。彼はトリタスの浜小屋に向かっている、途中すれ違う浜衆と挨拶ををかわしながらの足運びであった。イリオネスは彼の浜小屋の前に立った。
 『トリタスっ!』 大声でトリタスを呼んだ。
 何事かとトリタスが出てくる、二人はひしっと抱き合った。
 『トリタス!』 『イリオネス様!』 二人は感無量であった。
 『トリタス聞いてくれ!出来上がったぞ。砦ができた。お前のおかげだ。』
 『よろしゅうございましたな』
 
 お詫びと訂正
 6月4日の投稿で間違えた箇所がありました。深くお詫びの上訂正いたします。
 軍団の武具に一切を倉庫に   を
 軍団の武具の一切を倉庫に   と訂正いたします。
 

第2章  トラキアへ  226

2010-06-04 07:16:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 太陽はまだ西空にあり、地を焼いていた。
 会議が終わり幹部会に移った。議題は明後日のことについてである。イリオネスは、全員と目をあわせて互いの意志を通じ合わせた。
 『皆、よく聞いてくれ。我々の全員が明後日の夜から、この出来上がった宿舎に起居し、生活を開始する。この件について諸君らに担当してもらう役務を指示する。総括の責任者にアレテス、君に担当してもらう。いいな。まず、明後日の段取りについて説明する。当日は、午前中に今、居留しているところよりの引越しの完了である。次は、軍団の武具に一切を倉庫に収納すること、また、これまでに接収した戦利品も倉庫に収納する、この件に付いてはカピユース、君が担当だ。宿舎の割り振りは、パリヌルス、オキテス、市民たちの事もあるのでオロンテスが加わって三人で当たってほしい。ギアス、君は統領の引越しに当たってくれ。それから、リナウス、君はアレテスに相談して砦と宿舎の完成についての神への感謝の儀式の準備を整えるのだ。そのあと役務及び用件を終えた皆を動員して、宴の準備に取り掛かってほしい。以上だ。質問はあるか、あれば言ってくれ』
 一同は、はたと考えて、
 『特にありません』
 『よし、ないようだな。ではこれで終わる、解散』

第2章  トラキアへ  225

2010-06-03 06:01:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『統領、お聞きになったとおりです。北東の櫓と西門に少々の遅れがありますが、明日には砦も宿舎も完成します。砦内外の整地も明日中には終わります。その上で明後日の午後には皆で砦の完成を歓びあいたいと思っています。統領のほうから何か指示等がありましたら、言ってください』
 『そうか、俺のほうからは特別にない。皆が此処を使うのは何時からとしている』
 『予定では、明後日の夜から使わせてやりたいと思っています』
 『判った。いいだろう。そのほうが皆も喜ぶ。ところで俺はどうする。皆と行動をともにしようと思っているが、それでいいか』
 『それでいいと思います。統領から皆にひと言お願いします』
 アエネアスが起ちあがった。
 『諸君。建設に着工してから今日まで、そして、完成までにあと2日、皆よくがんばってくれた。私から皆に厚く礼を言う、ありがとう。突貫工事で仕上げたこの砦、にわか造りにしては、とてもよく出来上がっている。これで皆もおちついて日々の暮らしができる。皆で歓び合おうではないか、完成を見るまで力を合わせてがんばろう』
 アエネアスは、簡単に思いを伝えた。