つれづれなるままに弁護士(ネクスト法律事務所)

それは、普段なかなか聞けない、弁護士の本音の独り言

母が逝きました。

2015-01-25 22:27:30 | 日記

約1か月ぶりの更新である。

ついでに言えば、今年初めての更新でもある。

相変わらずナマケモノを絵に描いたような更新頻度だ。もうすぐ身体中に毛が生えて爪が大きく伸びて木にぶら下がり始めるのかもしれぬ。

 

新年第1号の投稿が訃報である。

このブログを楽しみに読みに来てくださる(数少ない)ファンの方には新年早々、縁起の悪い話で申し訳ない。

先週木曜日(1月22日)にお袋が逝った。午前11時45分だった。

暮らしていた老人ホームで朝、呼吸が止まりかけている状態のお袋をスタッフの方が発見してくれ、愛知医科大学病院のEICUに救急搬送され、死亡が確認されるまで2時間半もなかった。

その間、私は台東区にある某小学校で6年生のチビッコを相手に模擬裁判の指導をしていた。

私の携帯に最初の連絡が入ったのが9時18分。

着信履歴を見ると、その後も10時16分、10時22分、10時27分、10時35分、11時42分と電話やメールで名古屋と連絡を取り合っている。11時35分の電話でEICUの医師から、

「お母様の呼吸は搬送されてきた時点で既に止まっていました。意識もありませんでした。延命措置はどうしますか?」

と確認され、以前から言い聞かされていたお袋の意思に従って、「延命措置不要」と伝えた(と思う)。

その間も模擬裁判は続いている。

ご担当の社会科の先生や同行した2人の弁護士に心配をかけないように、約60人の子供たちを動揺させないように、しれっと模擬裁判を続けながら、

「あぁ、俺は親不孝な商売を選んだな。」

と思ったりしていた。

その後、受任中の刑事事件の被疑者に接見に行き、事情を説明し、来週月曜日まで接見に来られない、すまぬ、と謝った。

何故か、被疑者が泣いてくれた。お袋の死を知って最初に泣いてくれたのが接見室のアクリル板のむこうの被疑者、というのもなぁ。

弁護士とはつくづく因果な商売だ。

 

家族を車に乗せて、雨の東名を飛ばして、名古屋インターを出たのは日付けが変わる直前の23時半だった。

名古屋インターを出た瞬間、誰もスイッチを触ってないのに車の室内灯が2回、チカチカと点滅した。

たぶん、お袋が「さよなら。」を言いに来たのだろう。

病院の霊安室でチビたちとお袋の遺体と会い、最後のお別れをした。

12時間近く霊安室に安置されていたお袋の顔はひんやり冷たかったけれど、まるで眠っているように静かで安らかだった。

お袋は約30年間、人工透析をしていた。

「透析は辛い。病院に行きたくない。」とずっと言い続けていた。

ようやく、大嫌いだった人工透析をしなくて済むようになり、水分や果物の摂取制限も気にしなくていい世界に旅立ったのだ。心底ホッとしたのだろう。

お袋は死後、角膜を提供する「アイバンク」と、遺体を解剖実習に提供する「献体」に登録していたので、私たち家族が病院に着いた時にはお袋の角膜は既に摘出してもらった後だった(摘出の仕方が上手なのだろう、お袋の目元は何もなかったかのように綺麗だった)。

お袋の遺体は、私とカミサンと2人の孫とお袋の最期を看取ってくれた三木医師と夜勤の看護師さんに見送られて、献体受け入れの窓口になっている会社に引き取られて行った。

お袋の意向もあり、お袋の兄弟姉妹も高齢なので、以前から通夜や葬儀はしないことに決めていた。

通り一遍、型通りの、何度聞いても意味もよく分からない読経に見送られて、おそらく誰にも呼ばれることのない戒名を付けられて旅立つより、2人の孫の、

「ばあちゃん、さよなら。ありがと。おつかれさま。」

と言う言葉で送られる方がお袋も嬉しいだろう。


病院での細々とした手続きを終え、ホテルにチェックインし、コンビニで買ったビールを飲んで、ようやく一息いた。

小学校6年の長男がマンガを読みながら私の晩酌に付き合ってくれた。

酒のツマミの焼き鳥を横取りして食べている長男を見ながら、

「今日の(既に日付けは変わっているので、正確には昨日だが)模擬裁判の児童たちも6年生だったな。あぁ、そう言えばお袋が二度目の自殺未遂を俺の目の前で図ったのも、俺が小学校6年の時だった。」

と思い出した。

 

翌日、お袋の遺品の整理に老人ホームに行った際、若かったころのお袋の写真を見つけた。

看護婦をしていたお袋が、色褪せた写真の中で嬉しそうに笑っている。

 

人工透析で苦しみ続けて、親父と上手くいかなくて離婚して、辛いことばっかりの人生みたいにみえたけどさ。

お袋、あんたも輝く笑顔で人生を生きていた時期がちゃんとあったんだな。

 

そう思ったら、少しだけ安心した。

 

 

この記事を書いている間中、そして今も、お袋の遺品を詰め込んで持って来た段ボール箱の中でずっとカタカタと音がしている。

どうしたお袋。何か忘れ物か?