「当事者尋問」
平成21年2月某日。
O氏とKさんに対する当事者尋問。
法壇上の裁判官の横には、名古屋地裁で裁判修習中の司法修習生。
そして、傍聴席には息子の晴れ姿(?)を見に来た私の親父。
「宣誓 良心に従って、ほんとうのことを申します。
知っていることをかくしたり、無いことを申したりなど、決して致しません。
以上のとおり誓います。」
O氏とKさんが法廷の中央にある証言台の前に立ち、ふたり並んで宣誓書を読み上げる(※ちなみに宣誓書の文章は裁判所によって微妙に違う。興味のある方は裁判傍聴時に調べられたい)。
まず、O氏の代理人弁護士によるO氏の主尋問。
依頼者(O氏)と、その代理人弁護士のやりとりだから、言うまでもなく事前に代理人弁護士が作ったシナリオに沿ってみっちり練習してきている。
(プロの役者じゃない、という意味で)ド素人の尋問者(弁護士)と、同じくド素人の供述者(O氏)が、暗記してきたシナリオどおりに喋るだけだから、大根役者の三文芝居みたいなやり取りが延々と続く。まぁ、それはこちらも同じことですが。
あまりの大根ぶりに裁判官や修習生の中には「目を閉じて熟考」を始める輩も(たまに)いる。
事前にリハーサルしてきているから、主尋問で失敗をしでかす(=墓穴を掘るようなことを言ってしまう)なんてことは、よほど代理人弁護士の腕が悪いか、供述者(=当事者本人)がチキンハートじゃない限り、まずない(たまにある)。
O氏の主尋問はほぼ完璧だった。
事前リハーサルも何も、O氏と代理人弁護士は、前の裁判で既に「本番」を経験済みなのだから当たり前だろう。
内容的に目新しい話は何もなかったが、主尋問はそれで十分。
これまでにまったく出てこなかった新しい事実(主張)がいきなり飛び出して来たら、裁判官も相手方も面食らうし、手続きも混乱する。
主尋問では、これまで書面で主張してきた事実を、当事者自身の生(なま)の言葉で、淀みなく、詳細かつ説得的に裁判官に伝えられればそれで十分なのだ。
しかし、眠く・・・じゃなかった、目を閉じて熟考したくなっちゃったぞ。
O氏の代理人弁護士とO氏のやり取りってば、盛り上がりなさすぎ!
って、裁判官と修習生まで二人そろって居眠・・・じゃなかった、目を閉じてやがる!
「私からは以上です。」
そう言ってO氏の代理人弁護士が着席した。
さあ。
私のO氏に対する反対尋問だ。
待ってろ! 裁判官と修習生。
今、刮目(かつもく)させてやるぜ。
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「反対尋問その1【布石】」
私:あなたが東京のWTK社でKさんに会ったのは、「平成17年5月25日午後2時」で、間違いありませんか?
O氏:はい。間違いありません。
私:本当は「平成17年5月27日」だったのでは?
O氏:いや、25日です(きっぱり)。
私:しかし、前の裁判の記録を見ると、当事者尋問のとき裁判官はあなたに対して、
「平成17年5月27日にWTK社に行ったときの話ですが」
と質問しています。ところが、あなたは、今のように
「いえ、25日です」
と訂正もしないで、
「そのときKさんとT社長に会議室で会った。」
と答えていらっしゃる。何故、日付を訂正しなかったんですか?
O氏:いや、私は最初からずっと25日と言い続けてましたから(きっぱり)。
私:じゃ、これからも「平成17年5月25日」ということでお話を伺っていきますね。
O氏:はい。
私のO氏に対する反対尋問は続く。
私:あなたのこれまでのご主張によると、そのとき、あなたはT社長からKさんを「営業担当者」と紹介されたんですね?
O氏:そうです。
私:これは今回の裁判で、あなたが「そのときKさんから貰った名刺である」と証拠提出しているKさんの名刺です。この名刺に書かれているKさんの肩書、この部分を読み上げてください。
O氏:私、メガネがないと、ちょっとよく見えないんですが・・・・。
(あたふたとメガネをかけて)ああ、「代表取締役」と書いてありますね。
私:代表取締役が「営業担当者」って、おかしな話だとは思いませんでしたか?
O氏:25日のときは、そこまでは気づきませんでした。
私:「そこまでは気づかなかった」とはどういうことですか?
O氏:いや、25日には私、メガネを持って行かなかったので。
私:メガネを持って行かれなかった? T社長から出資の話というか、お仕事の話があると言われて、あなたはわざわざ東京まで出かけられたんでしょ? 出資とかお仕事の話ならいろんな書類を見せられる可能性があると思うんですが、メガネは持っていかれなかったんですね?
O氏:はい。
これまで完璧に見えたO氏の話に小さな綻(ほころ)びが生まれた。
私のO氏に対する反対尋問は続く。
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「反対尋問その2【綻び】」
私:前の裁判の当事者尋問調書を見ると、あなたは、平成17年12月に沖縄でKさんに会った時の状況について、こう仰ってます。
「沖縄の本社の方へ行きまして、そこにいた留守番のKさんという人と話をした。」
と。
あなたの話では、平成17年12月に沖縄でKさんに会ったのは5月25日の東京に続いて2度目のはずです。
でも、あなたの言い方は、まるで「沖縄で初めてKさんという人に会った」ように聞こえる。
2度目に会った人についての説明としては、すごく違和感のある表現です。
どうしてちゃんと説明しなかったんですか?
「5月25日に東京で会ったKさんがそこにいたので、T社長とか出資金の行方について問い質(ただ)した」
とか、先ほどの主尋問で証言されたように、
「いきなり沖縄の本社に乗り込むのは正直怖かったけど、以前会ったことのあるKさんの顔を見てホッとした」
とか。
O氏:いや、Kさんという人を前から知っているならそうも言えるでしょうが、初対面で名前も知らないのに、そんな風に言えるわけがないと思いますけどね。
綻(ほころ)びが、大きくなった。
私:前の裁判を起こすとき、どうしてKさんも被告にしなかったんですか?
O氏:それは弁護士さんと相談してこういう形でやる、というふうに指示を受けましたんで。
私:弁護士さんが指示をした?
O氏:弁護士さんと相談してですね。
私:弁護士さんから言い始めた?
O氏:はい。
私:では、前の裁判のとき、どうしてKさんを証人として呼び出して尋問しなかったんでしょう?
O氏:それも弁護士さんの考えがそういうところにあったんだと思います。
私:なるほど。Kさんに対する証人尋問をしなかったのも弁護士の先生のご指示だったんですね?
O氏:はい、そうです。
私:前の裁判の法廷でKさんに5月25日の話をされると何かまずいことでもあったんじゃないですか?
O氏:それは違うと思います。
心なしかO氏の口調が早くなってきている。
やましいことがあるとき、聞かれたくないことを答えなければならないとき、人は早口になる。
たまりかねて、O氏の代理人弁護士が私の尋問に割り込んできた。
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「反対尋問その3【墓穴】」
O氏の代理人:前の裁判でKさんを被告にしなかったことが平岩先生は何かえらく不満みたいですが、(中略)東京のWTK社に対して仮差押えをするとなると、東京地裁へ行って、資料も疎明しなければならない。これじゃ駄目だから、大急ぎで判決取ろうと私が提案したことは覚えてますか?
O氏:はい。今、思い出しました。
O氏の代理人:それで名古屋の裁判所へ裁判を起こして、「T社長に対する刑事裁判の記録もそろっている、証拠も陳述書も全部そろっている。これではもうほぼ疑問の余地はないからとにかく早く判決出してくださいと言って、私が(前の裁判の)裁判官に法廷で頼んだことを覚えていますか?
O氏:はい。
O氏の代理人:前の裁判でT社長やO氏に対する当事者尋問をしようというのは、私から「調べてください」と言ったのか、前の裁判の裁判官が「一遍(いっぺん)調べてみましょう」と言ったのか、覚えていますか?
O氏:たぶん、裁判官だと思います。
O氏の代理人:そうですね。だから、前の裁判の記録を見ると、私でも、T社長の代理人からでもなく、いきなり裁判官の質問から始まっている。
O氏:はい。
O氏の代理人:これは「当事者尋問」が裁判官の職権で実施することになったからです。
O氏:はい。
O氏の代理人:ということは、前回の裁判でKさんを証人として調べなかったというのも、裁判官が「調べる必要なし」ということだったんじゃないんですか?
O氏:そうだったと思います。
なんとも長い言い訳。
人は、苦し紛れの言い訳をするとき、饒舌になる。
O氏の代理人弁護士は自ら墓穴を、それも大きな墓穴を掘ってくれた。
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「人の呪わば穴2つ」
O氏の代理人弁護士は墓穴を3つ、掘った。
一つ:「前の裁判でKさんを被告にしなかった」ことについての説得的な理由を何一つ語れなかったこと。
二つ:前の裁判の目的は「大急ぎで判決を取ることだった」と自分から認めてしまったこと。
三つ:苦し紛れに「Kさんに対する証人尋問を行う必要なしと裁判所が判断した」と虚偽の説明を法廷でしてしまったこと。
三つ目について少しだけ説明しておこう。
前の裁判の裁判官が、「Kさんを(証人として)調べる必要なし」という判断をした、などという事実は、前の裁判の記録上、どこにも出てこない。
前の裁判では、被告のT社長側も、O氏の代理人弁護士も、つまり当事者双方とも「Kさんに対する証人尋問の実施」を裁判所に申請しなかった。
当事者双方がKさんに対する証人尋問の申請を出していないのに、裁判官が先回りして「Kさんを証人として調べる必要はない」などと判断することはあり得ない。
前の裁判では、被告のT社長側も、O氏の代理人弁護士も、「Kさんに対する証人尋問の実施」を裁判所に申請しなかった。
そこで裁判官は、せめて職権で(つまり、当事者からの申請がなくても)実施できる当事者尋問を実施することにしたのだ。
しかし「当事者尋問を実施することを裁判所が決定したこと」と「Kさんに対する証人尋問を行う必要なしと裁判所が判断したこと」とイコールではない。
判決を早く出せ早く出せとせっつく原告O氏の代理人弁護士、Kさんの利益とか事件の真相究明には何の興味もない被告T社長の代理人弁護士。
当事者主義とか証明責任の名のもとに繰り広げられる2人の弁護士の茶番劇への裁判官の精一杯の抵抗が「T社長に対する当事者尋問の実施」だったのだ。
「人の呪わば穴2つ」という。
墓穴を3つも掘ったO氏(の代理人弁護士)の恨みの深さが知れるな。
誰の、何についての恨みだか知らないが。
10月の弁論準備手続期日にO氏の代理人弁護士が私に投げつけた言葉を、今、そのままお返ししよう。
事実を証明するためにどのような証拠・証人を裁判に提出するかは当事者の自由。
「当事者主義」だ。
前の裁判でこの当事者主義を利用して意図的にKさんを被告からも証人からも除外して裁判に関与させなかった理由は、もうすぐこの法廷で明らかにされる。私によって。
裁判官の横で眠そうに座っている司法修習生は、「いったい、双方の代理人弁護士は何でこんなに熱くなってるんだ?」とキョトンとしている。
嘴(くちばし)の黄色いヒヨコちゃんには分からなくてよろしい(←偉そう)。
火種が揃った。
さぁ、反撃の狼煙(のろし)をあげよう。
だいじょうぶ、Kさん。
Kさんの背広の内ポケットに入っている「ヒロの手作りお守り」と「日枝神社のお守り」がきっとKさん(と私)を守ってくれるよ。
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