ステージ横の袖の暗がりにはパイプ椅子が並べてあり、そこが演説者の最後の控え場所だった。
応援演説は、後援会長の岩下先輩を筆頭に衆議院議員、参議院議員、県議会議員、そして有権者男女の順番だった。僕は前山県議の次の有権者男性の代表として、40代中小企業の技術系中間管理職という立場だった。
集会が始まったころ、僕らはまだ楽屋にいたが場慣れしている青年会長の山中氏の促しで、ステージに向かった。僕は暗がりに並べられたパイプ椅子の一番端っこに座り順番を待った。そして原稿をソラで読み、つまずいては原稿をポケットから取り出して読み返すのだった。隣に座っていた夫妻は松中議員に記念写真を撮ってもらっていた。こんなところで記念撮影とは大した度胸だなと思った。一瞬、自分も妻と一緒であればと思ったが、今の緊張を考えると妻の存在は屁のツッパリにもならんだろうと思い直して自分に集中したのだった。
前山県議がステージに出ていった。僕はそれを追うように、椅子を離れると袖に立った。そして膝の屈伸と股割り、肩まわりのストレッチをした。緊張のあまりロボットのように歩いてしまうのは目に見えていた。イチロー選手よろしくのつもりでストレッチをしたが、その努力も虚しく、同級生の感想は、「まるで、ロボットだったぞ!」だった。
司会の木嶋議員が僕を紹介した。
ステージはひときわ明るく、その向こうに側には1500人近い観衆が固唾を飲んでいるようだった。
僕はステージの真ん中に立ててあるマイクをめがけて足を踏み出した。
光を浴びると、先ず、国旗に一礼し、続いて壇上横に立っている三原候補と握手をした。頼む!三原の目と手がそう訴えていた。
スタンドマイクの前に立ち大きく息を吸った。足が小刻みに震えていることに気がついた。責任は全て選挙長の松中議員が取ってくれるはずだ、オレはオレのことをやるだけだ!
「私は、三原候補とは同世代の、三人の子供を持つ父親です」
、、、足はまだ震えているが出だしはまずまずだ、、、
「10年前、郷里の熊本に戻ってきました」
「仕事は技術職ですが、この10年、仕事は激減し、どうにか、生活できている状態です」
「これも、ひとえに、社長を始めとするスタッフ皆さんの支えがあったことと感謝し、私自身、血の滲み出るような努力を重ねています。しかし、会社には新たに人を増やすような余力はありません」
「7月に起こった大災害で夜を徹して仕事に励んでいますが、果たして、数ヶ月後、1年後に仕事はあるのか、不安があります」
、、、次はなんだった?次は、、思い出せ!
「これからの社会は一体どうなるのでしょうか?」
、、、そうだった、、、
「私は、贅沢のできる暮らしを望んでわけではありません」
「単純なんです」
「日々、努力をし、それがちゃんと報われる社会、そして、子供たちに希望が持てる社会を願っているだけです。ただただ、子供達や妻と、父、母と、明るい将来について話したいだけです」
、、、込み上げてきた、、今度は声が震え出す、、、
「政治家には、そんな社会を作ってもらいたいと心から願ってます」
「三原候補には、それができると信じています」
「ここに御出でのみなさんも、それを願っているのではないでしょうか」
、、、最後だ、一気にたたみ掛けるぞ、、、
「私は全てを三原候補に託します!」
「どうか彼を勝たせてください!」
「そして、彼の勝利が、我々の勝利となるのです!」
「彼を勝たせることが我々の使命です!」
「どうかよろしくお願いします!」
、、、感情的になってる、なり過ぎている!なぜだ!、クソッ!、、、
三原の手を握った。三原の目にも熱いものが見えたような気がした。
、、、もうここには居られない、、袖に戻ろう、、と、その前に国旗に、、身体を反転させて国旗に一礼すると、僕は袖に走ったのだった。
続く、、、
応援演説は、後援会長の岩下先輩を筆頭に衆議院議員、参議院議員、県議会議員、そして有権者男女の順番だった。僕は前山県議の次の有権者男性の代表として、40代中小企業の技術系中間管理職という立場だった。
集会が始まったころ、僕らはまだ楽屋にいたが場慣れしている青年会長の山中氏の促しで、ステージに向かった。僕は暗がりに並べられたパイプ椅子の一番端っこに座り順番を待った。そして原稿をソラで読み、つまずいては原稿をポケットから取り出して読み返すのだった。隣に座っていた夫妻は松中議員に記念写真を撮ってもらっていた。こんなところで記念撮影とは大した度胸だなと思った。一瞬、自分も妻と一緒であればと思ったが、今の緊張を考えると妻の存在は屁のツッパリにもならんだろうと思い直して自分に集中したのだった。
前山県議がステージに出ていった。僕はそれを追うように、椅子を離れると袖に立った。そして膝の屈伸と股割り、肩まわりのストレッチをした。緊張のあまりロボットのように歩いてしまうのは目に見えていた。イチロー選手よろしくのつもりでストレッチをしたが、その努力も虚しく、同級生の感想は、「まるで、ロボットだったぞ!」だった。
司会の木嶋議員が僕を紹介した。
ステージはひときわ明るく、その向こうに側には1500人近い観衆が固唾を飲んでいるようだった。
僕はステージの真ん中に立ててあるマイクをめがけて足を踏み出した。
光を浴びると、先ず、国旗に一礼し、続いて壇上横に立っている三原候補と握手をした。頼む!三原の目と手がそう訴えていた。
スタンドマイクの前に立ち大きく息を吸った。足が小刻みに震えていることに気がついた。責任は全て選挙長の松中議員が取ってくれるはずだ、オレはオレのことをやるだけだ!
「私は、三原候補とは同世代の、三人の子供を持つ父親です」
、、、足はまだ震えているが出だしはまずまずだ、、、
「10年前、郷里の熊本に戻ってきました」
「仕事は技術職ですが、この10年、仕事は激減し、どうにか、生活できている状態です」
「これも、ひとえに、社長を始めとするスタッフ皆さんの支えがあったことと感謝し、私自身、血の滲み出るような努力を重ねています。しかし、会社には新たに人を増やすような余力はありません」
「7月に起こった大災害で夜を徹して仕事に励んでいますが、果たして、数ヶ月後、1年後に仕事はあるのか、不安があります」
、、、次はなんだった?次は、、思い出せ!
「これからの社会は一体どうなるのでしょうか?」
、、、そうだった、、、
「私は、贅沢のできる暮らしを望んでわけではありません」
「単純なんです」
「日々、努力をし、それがちゃんと報われる社会、そして、子供たちに希望が持てる社会を願っているだけです。ただただ、子供達や妻と、父、母と、明るい将来について話したいだけです」
、、、込み上げてきた、、今度は声が震え出す、、、
「政治家には、そんな社会を作ってもらいたいと心から願ってます」
「三原候補には、それができると信じています」
「ここに御出でのみなさんも、それを願っているのではないでしょうか」
、、、最後だ、一気にたたみ掛けるぞ、、、
「私は全てを三原候補に託します!」
「どうか彼を勝たせてください!」
「そして、彼の勝利が、我々の勝利となるのです!」
「彼を勝たせることが我々の使命です!」
「どうかよろしくお願いします!」
、、、感情的になってる、なり過ぎている!なぜだ!、クソッ!、、、
三原の手を握った。三原の目にも熱いものが見えたような気がした。
、、、もうここには居られない、、袖に戻ろう、、と、その前に国旗に、、身体を反転させて国旗に一礼すると、僕は袖に走ったのだった。
続く、、、