伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む市議会議員。市政や市議会、日常の活動などを紹介していきます。

議員だよりに信玄堤から水害対策を考察した記事を書きました

2019年11月12日 | 市議会




信玄堤から治水を考えてみた



 台風19号による水害から1ヶ月を迎えました。8人の尊い市民の犠牲を悼み、11月13日、市の施設では黙とうが呼びかけられ、心からの冥福が祈られました。避難所生活が続くなど、被災された方々や被災地では災害とのたたかいが続いていますが、今回の水害を受けて今後の防災について考えてみます。


 台風19号による災害後、「信玄堤」という言葉を聞くようになりました。

 武将・武田信玄が、甲府盆地を水害から守るために2つの川の治水対策に着手し、20年の歳月をかけて堤を築いた。この堤が「信玄堤」です。

 信玄堤は、岩に川の流れをぶつけることで水流を弱めたり、堤防に切れ目を入れた「霞堤」という構造で堤防外に逃がすことで水の力を分散させて堤防の決壊を防いだり、また「聖牛」と呼ばれる木材で作った構造物を水流の激しい箇所に設置し、勢いを弱めるなどの工夫をこらして水害から盆地を守りました。

 堤の管理は新たに開いた集落に農民を移住させ管理等を任せ税等を免除する、また、水防の神社を設置して、年1度の水防祭り「御幸祭り」を推奨し、神輿を担いだ人々が堤防の上を歩くことで土を固めさせる・・などの工夫を凝らし、堤防の維持に努めたといいます。

 さらに大水で農作物に被害が出れば、堤防復旧に農民を就役させ、大人でも、女性でも、子どもでも賃金を払い、救済事業も展開したといいます。


■考え方の違い

 こうして学んでみると、信玄堤に関する事業は合理的な発想のもとに進められていたと考えられます。

 大雨による濁流に敢然と立ち向かうのではなく、水を柔軟に受け流す工夫で水害の発生を抑制しつつ、日常の管理から災害の際の手当までも一つのパッケージとして治水に取り組んでいたのです。

 ところが、近年は強固な堤防やダムの中に水を押し込める形の治水が進められてきました。一定の時期は、それで対応できたのかもしれません。しかし、2015年9月の茨城県常総市の水害や、2016年8月に北海道や岩手県で大きな被害を出した台風10号に伴う水害など、全国的に続いている災害は、強固な鎧で災害を防ぐという考え方には、限界があるように感じられます。


■想定外が日常に

 実際、本市の、降り始めから13日午前9時までの台風19号による降雨は、三和で448ミリをはじめ田人298ミリ、遠野296.5ミリ、内郷270ミリ、川前、242ミリ、小川241ミリを記録しました。

 また10月25日の台風21号に伴う大雨では、10時から22時の総雨量が、内郷で196.5ミリ、常磐190.5ミリ、小名浜181ミリ、平で156ミリ、四倉172.5ミリ、好間164ミリを記録しています。

 このように記録的な大雨が連続している現実があり、地球温暖化による気候変動が指摘される中で、この降雨を一時的な現象とは言い切れません。


■阿武隈川平成の大改修

 こうしたもとで、今後の治水対策を考える際に、従来の延長線上で対応するのかが問われてくると思います。

 台風19号等により、県内の阿武隈川沿線でも大規模な水害が発生しています。阿武隈川では、約5日間で計画高の水位を2回も超過する大雨があった1998年8月の洪水を受け、「平成の大改修」と称 した、中上流部での堤防がない箇所での築堤を中心とした事業費約800 億円の治水対策が2000年度にほぼ終了していました。

 この結果、2002年に98年洪水に匹敵する雨量があったにもかかわらず、浸水面積をほぼ半分に抑え込む成果を上げていました。郡山市だけで見れば420haから230haに減少しているのです。

 ところが、台風19号では、阿武隈川や支流の越水等で、98年洪水を大幅に上回る1,437haが浸水しています


■放水路等で水害防止

 一方、東京都は、水を受け流すため地下に巨大な放水路や貯水池を作り洪水対策を進めてきました。これらが効を奏したのか、水害常習地であった関係地区が、台風19号では水害を免れたと報じられています。

 水を受け流す信玄堤と同じ対応策です。ここに今後の方向性が示されているように思います。信玄堤、今後の水害対策の参考にすることが必要なのでしょう。

文=伊藤浩之


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2 コメント

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台風19号での雨量 (Unknown)
2019-11-13 09:48:09
やはり、抑え込む防災には限界があると思います。
「いかに逃がすか」という発想が必要になるのではないでしょうか。

ところで、意外と知られていませんが、台風19号の雨量について、県が田人町前山地区に設置した雨量計で、ほぼ500ミリの降水量を記録したと思います。

今から確認するのは難しいかもしれませんが、降雨時であれば、

http://kaseninf.pref.fukushima.jp/gis/

で、雨量を確認できます。
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驚きの506ミリ (伊藤浩之)
2019-11-13 13:51:25
コメントありがとうございます。

信玄堤のお話をTV報道で聞いて、調べてみたら、おっしゃるようにいかに水を逃がすかが大事と思い、本稿をまとめてみました。

お知らせいただいたHPで、台風19号時に、田人・前山の雨量計が累計506ミリの雨量を観測していたことを確認できました。信じられない値です。これだけの雨量だもの、おふくろの宿から国道289号線辺栗トンネルに至る土砂崩れもこの雨が原因となれば、納得のいくところです。

あの土砂崩れの航空写真を写した写真を、本日夜にでもブログに掲載し、雨のすさまじさを記憶にとどめ、今後に役立てたいと思います。

重ねて御礼申し上げます。
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