伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む市議会議員。市政や市議会、日常の活動などを紹介していきます。

和紙・楮保存会の視察旅行に参加

2023年11月22日 | 遠野町・地域
 今回の視察は15日7時に遠野を出発し、17人の参加者を乗せた中型バスで門出和紙の産地である柏崎市の高志の生紙工房(こしのきがみこうぼう)をめざしてひたすら走り、昼食後の午後1時頃から研修開始。終了後に魚沼市のホテルで1泊し交流を深め、翌16日に長岡市の有限会社小国和紙生産組合で研修した。終了後に小千谷市で昼食後、錦鯉の里を見学し、13時30分頃帰路についた。遠野到着は18時前だった。

 東から西へ、西から東へと旅した今回の視察だが、この季節、遠野ではなかなか見られない冠雪を見ることができるなど、列島東西での季節の違いを実感した。



 帰路となる2日目の午前は晴れていた。昼頃の空にハロが浮かび、以降、雲が全天を覆った。



 その雲にもずっとハロが見えていたので、車中から時折空を見上げて楽しんだ。



 会津地方に差しかかった頃、山際の雲の切れ間に夕焼けがのぞいた。



 移動中は小説を読み続けていて、時折、バスの窓外に目を向けた際に飛び込む地上と空の景色を楽しみながら、往復の車中でほぼ読み終えた。読書が目的の研修視察ではなく、あくまで伝統的和紙生産にかかわる見分を広げることに目的があったわけだが、まあ、積読が1冊減ったことも旅の成果と言えば成果となる。

 さて、日本列島を横断した視察の行程で、いわき市と日本海側の気候の違いを実感した視察の旅。この気候の違いが楮の刈り取りや和紙作りにも影響していた。そのことは後に記載する。

 門出和紙では15日、「高志の生紙工房」でお話をうかがった。同工房は9月に保存会が開いた講演会で講師を務めた1人小林康夫さんが開いた工房だ。

 また小国和紙では16日、小国和紙生産組合でお話をうかがった。名称は組合となっているが実際は有限会社だそうだ。同社の先代は大工で、仕事が減る冬場の副業として和紙製造を始めた。当時は和紙作りに様々な方々がかかわっていて組合の実態があったのだが、和紙製造業を会社化する時点では組合の実体はなくなっていたのだが、それまでの名称のままで届け出をしてしまった。そのために実体がない組合の名称が残ってしまったという。同社は、必要に応じてアルバイト等が入るようだが、現在は2人の社員(家族)で運営しているらしい。

 視察では3つの点について聞いた。1つは楮の栽培と収穫、
2つに楮の処理と材料作り、
3つ目に抄紙(和紙の製造)と事業に関して。

楮の栽培と収穫

 1点目、楮の栽培と収穫についてだが、門出和紙では、工房裏手の楮畑を見学できたものの、小国和紙では移動手段であった中型バスが入ることができないため畑を見ることはできなかった。現場は見られなかったものの、得た知識は多い。両者でそれぞれ事情が異なるので一概に言えないが、共通するのは雪のシーズンになる前に楮の借り入れを終えなければならないという点だ。柏崎市高崎町の門出和紙の付近では約3mの積雪になるという。



高志の生紙工房の楮畑


 そのため楮の収穫は短期間に集中して行われる。
 遠野の場合、週2日間の活動日を設け、その日の作業(2時間程かかる「ふかし=枝を蒸す作業」と「楮はぎ=枝から皮を剥ぐ作業」を2回分)に必要な量だけを収穫する。このため収穫には1カ月半から2カ月程度かかる。

 一方、小国ではまず全ての楮を収穫する。収穫した楮の枝は収穫を終えるまでそのままの形で保管する。収穫を終えたら、枝を均等の長さに切り取る次の段階の作業「玉切り」に進むという。収穫から「玉きり」までは約1カ月かかる。豪雪地であるため、雪が降ると畑作業が困難になるためこのような手順を踏むという。
遠野の作業手順が常識的な作業の進め方と思っていたが、井の中の蛙の思い込みだったようだ。気候が違えば、作業手順も変わるという、当たり前のことに気が付いたのは新たな学びだ。

 楮はお盆の頃までに2m程まで伸びる。その頃までに草刈りや2度の芽欠き作業を行う。

施肥

 楮をしっかり育てるためには施肥が必要だ。
 小国の場合、鶏糞あるいは浄化槽の汚泥を利用した肥料を使うという。肥料を撒いた後に株間にトラクターをいれ耕うんし漉きこむ。そこには楮の根を切断し繁茂を防ぐ目的もあるという。

 楮の繁殖力は旺盛だ。私の経験でも、地に着いた枝から根を出すこともある。また、楮の周りにはたくさんの新芽が伸びてくる。地下浅くを這うように伸びる根から芽を出し広がっていく。

 耕うんは無作為に広がる楮の根の切断し、拡散を抑えることにも役立つ。畑の管理上は大切な作業と思える。遠野ではトラクターの使用は難しいが、耕うん機をいれることは可能と思われる。

 また、畑の草刈りもトラクターで行うという。省力化のためであるが、こうした作業を可能とするため株間は3.3mあけるという。

肥料の性質

 肥料には、牛糞、鶏糞などが良く使われるが、小国では鶏糞が使われる。本来、牛糞が栄養分と土壌改良効果のバランスが良いらしい。だがその分雑草に対する効果も高く、おまけに牛の飼料の関係からか見たことがない草も生えてくるという。このため、肥料には鶏糞を使う。土壌改良効果は低いものの、浄化槽肥料がこれを補う。鶏糞の使用で土が柔らかすぎる状態になった場合は、土を固める効果のある浄化槽肥料を使って調整するという。

収穫

 楮の収穫は以前は桑刈用のカマを使っていたという。この時分には、5人から6人の人員で刈取り(収穫)に約1週間、畑出しに3日間程かかったという。

 現在は収穫をエンジン式カッターで行うようにした。林業で使われる枝払いに使う装置だ。背負い式の草刈り機エンジンに小径のチップソー(円形の刃)をつないだ形をしている。

 一般的なチェーンソーでは切り口が荒れてしまいカビなどが発生するため、翌年芽が出なくなることがある。しかし、このカッターは木を痛めることなく収穫ができるという。たぶん刃のきめ細かさの違いだろう。この道具の導入で収穫は3日間程に短縮されているという。


エンジン式カッターの使用実演=国見和紙


 この過程を見て気にかかるのは、収穫後の野積みによる長期保存が黒皮を剥きにくくしないかという点だった。収穫後の長期保存は、皮と枝の芯にあたる木部の癒着を強くし、皮を剥ぎにくくすると考えていた。小国では乾燥などが気にかかる場合は、積んだ枝に水をかけたりシートなどで覆うことで遮光し防いでおり、問題がなく皮を剥けていると説明された。

楮の更新

 門出でも、小国でもそうだったが、茨城県大子町から譲り受けた苗を植え付けて楮の更新を図っているという。株が古くなると、芽が出にくくなったり、枝が貧弱になり収量が減少してくる。収量の確保を図るのが株の更新だ。

 更新後は、数年で根が地力を蓄え、しっかりした枝を算出できるようになる。このため、現在、往時に比べると収量が減っているという。

楮の処理と材料作り

 2つ目の楮の処理と材料作り。
 楮の収穫後は「玉切り」と呼ぶ作業に入る。楮の枝を一定の長さに切りそろえ、根元から1番、2番と部位別に選別しながら束ねる作業となる。だいたい10tの原木(皮のついたままの枝)で1週間ほどかかるという。

枝の蒸し

 玉切り後は枝を蒸す作業をする。これは10日間ほどかかり、蒸した後は枝から皮をむいていく。ここらの作業は、量的規模を除けば遠野と変わらない。
 以下、小国での蒸し装置を模式図としてみた。





 蒸し器に入れた楮の枝は約3時間蒸し上げるという。



 蒸しあがった枝は、大きなトロ舟(3m×2m×0.4mくらいかな)に水を張り枝の根元部分を浸け込んで立て、上からシートで覆って保温する。水に浸けた部分の皮は収縮し裂き目がつきやすくなる。皮むきは皮を裂いてつかみ、一気に引きはがす方法で行われるので必須の措置だ。保温するのは、枝が温かい方が皮をむきやすいからだ。

皮の乾燥と皮引き

 むきとった皮は乾燥させる。小国では、乾燥室を使う。乾燥室の熱源には体育館で使用するような大型のヒーターを使い、扇風機を使用して熱風を送りこむという。冬の日本海側は湿度が高いのでこのような方法をとるらしい。

 遠野では、枝からむきとった皮は束ねて竿にかけ自然乾燥させる。乾燥の過程で束ねた部分のカビ発生を防ぐため天地をかえる作業をするが、人工的に熱を加えたりする作業はしない。太平洋側の冬は一般的に乾燥する気候となるので可能な方法なのだろう。

 乾燥した皮は水で戻し、表面の皮を削ぎ取る作業を行う。小国では「皮ひき」(遠野では「しょしとり」)と呼ぶ。

 楮の皮は、表側から黒皮、甘皮、白皮の三層からなる。「皮引き」はこの3層から、黒皮を除いて甘皮と白皮を残す、あるいは黒皮と甘皮を除いて白皮を残す作業となる。通常は包丁を使って手業で皮を削いでいくのだが、小国では機械も使う。

 機械は長方形の刃を円筒形に並べたもので、回転する刃に皮を当てることで必要のない黒皮、あるいは甘皮を削いでいく。機械を使用することで作業が格段に速くなる。


皮引きの装置


 小国には2台の機械があったが、1日に1.5tの処理ができるという。

雪さらしによる漂白

 こうして作った白皮は乾燥の後、3月中旬以降に「雪さらし」をする。雪の上に白皮を並べて漂白するための作業だ。

 雪上の皮は、夜間の冷気で凍み、昼間の日照で乾燥する。この繰り返しと同時に雪による日光の乱反射で紫外線が強くあたる。この作用で、白皮はさらに白さを増していくという。雪上に置くことで雑菌の繁殖を抑え、カビなどによる皮の劣化も防止する効果もある。雪国ならではの作業だ。宮城県の白石和紙では、干した白皮に水をかけてわざわざ凍みらせる工程をとるという。同様の理由だろう。

 遠野の場合、白皮は洗濯用ハンガーの洗濯ばさみでつるし、太陽光の熱と自然風で乾かす作業を行う。目的は乾燥にのみあると考えていた。しかし、太陽光の紫外線にさらし漂白する効果があることを考えると、もっとその効果を発揮させる乾燥方法、例えば今までよりも太陽光にさらす時間を長くする措置をとることなども検討して良いだろう。

 この後の紙漉きまでの工程は、国見が機械を使用する場面が多い点を除けば遠野と変わらない。乾燥した白皮を水に浸けて戻し、炭酸ソーダを合わせて釜で煮、柔らかくなった白皮からごみや皮の汚れを取り去る「塵より」(遠野では「塵取り」)を行い、木槌で叩く「叩解(こうかい)」とビーターによる繊維化を行い、トロロアオイを準備することで紙漉きの材料が揃う。

 叩解は、「塵より」を終えた白皮を固い台の上にのせて木槌で叩き、繊維をほぐしていく作業。ビーターは、水を循環させて流し、なぎなたのような回転刃で皮をバラバラにして繊維にする装置となる。

抄紙と和紙の事業

 3つ目に抄紙(和紙の製造)と事業化。
 小国で、和紙を漉くために用意される繊維が3種類紹介された。中国産楮の繊維、雪さらし繊維、過酸化水素漂白繊維の3種類だ。前の写真の左から、黄色味が強い中国産は柿渋紙の材料、若干の黄色味がある雪さらしは書画などの用紙、白味の強い過酸化水素漂白はお酒のラベル印刷用に使われるという。




 小国ではこのように和紙の用途に応じて繊維を使い分けており、製品にはその製品の性状を記したカードを添付しているようだ。



 小国では、大学や様々な職人とコラボしながら和紙を活用した製品を創出している。大学は2校がインターンシップで学生が入っていると言い、1校が1週間、1校は4カ月間かけて、和紙の製造やPR、その活用法などを学び考えているというが、こうしてできた製品を1つ買い求めてきた。



 和紙を折り込んで製作されたカードケースで、添えられたカードには、製品の材料となった和紙が21匁(1匁=3.75g)の菊版で3層からなり、材料には小国産の楮をソーダ灰で煮熟し、機械で打解したうえで、手漉きで紙とし乾燥機を使用したことが記されている。和紙の見分けは素人目には難しい。こうして和紙の特性を伝えることで和紙の価値に対する信頼を得ることができそうだ。

和紙の事業

 さて、小国、門出に加えて井沢の各和紙工房は、朝日酒造の清酒「久保田」のラベルを生産している。


酒ラベルの和紙漉き


酒ラベル和紙の乾燥作業


 小国では売り上げの大きな部分をラベルが占めており、「依存しすぎ」が課題だったという。

 依存の度合いを調べてみると「一時は『久保田』のラベル制作が売り上げの約9割を占めていたが、現在では6割台になっている」とする記事があった(2015/08/19、電通法・地域創生と伝統工芸No.3=高志の生紙工房でのラベル和紙作り、https://dentsu-ho.com/articles/2924)。15年当時で依存度を6割台に改善している。その後、新型コロナ流行で、多く漉いていた1升瓶の製造が減り、当然のごとくラベルの生産も減ったという。「依存しすぎ」脱却の取り組みを継続していたことが、工房の経営にプラスになったことは間違いない。

 依存改善策の全貌までは分からないが、一つに柿渋を塗布した製品タグの生産がある。これは着物業者に納めており、同様の和紙の生産者が減少する中で京都からの注文も入ったという。また、先の和紙製品の製作と販売(ネットショップも可能)や和紙漉きや和紙小物制作の体験の受け入れなどを増やしているのもその例だろう。




取り組みに活かす

 小国、門出とも、遠野の現状とは隔たりが大きい。
 遠野は、楮の安定生産と規模拡大、そのための体制作りに加え、和紙の生産担い手の育成や和紙の販売先の確保と、和紙の材料作りから和紙の生産・販売にかかわるあらゆるところに課題を抱えている。

 一方、視察した両工房とも軸に座る和紙の販売は確保されている。また使用する白皮(天皮付きもある)の量は、小国でおおよそ中国産3t、タイ産1t、小国産が1t、門出は中国産だけでも7tを使う。遠野での昨年の白皮の生産量は約180㎏なので、扱う量にも大げさにいえば天地の開きがある。

 こうした現状の違いを踏まえると、今回の視察は遠野和紙における現状の取り組みよりも、将来の取り組みに参考になるものだったろう。

省力化の検討

 その1つは省力化。楮畑でのトラクターの活用や楮収穫用のエンジン式カッター導入、楮枝蒸し用の大型容器、皮削ぎ機械、打解機などを導入した小国では、少ない人数でも和紙生産をすることができるよう体制が作ってきた小国の取り組みは、今後の遠野和紙・楮保存会の会員の推移はどうあれ、遠野和紙を継承する上で大切な取り組みになりそうだ。

一方、会員の増員があるならば、これまでの作業と同等の作業を少人数で進められるなら、会員が携わる作業のバリエーションを広げることが可能となり、保存会の取り組みのいっそうの充実につながることになるだろう。

料金設定

 2つに体験の料金設定。
 今年の保存会は、地域おこし協力隊が発案した楮の皮むきやしょしとり体験会、アクアマリンでの紙漉き体験をはじめ機会をとらえて紙漉きなどの体験を積極的に進めてきた。体験者が子どもであってもその親も含めて紙漉きに触れてもらうことが遠野和紙のPRにつながり、関心を持ち、関心を深めてもらうとともに、和紙との関わりを持ってもらうきっかけになると考えているからだ。

 ただ、体験に関する料金をどう設定するかに頭を悩めてきた。現時点で、保存会として料金をどうするか決定をしておらず、その整備は課題になっている。小国での体験料金の設定は参考になる。

経験積み上げにより得られる知見が広がる

 視察は移動に時間がかかるなどなかなか疲れるものではある。しかし、他の産地の状況から遠野和紙の現実を見ることで、見えていなかったものが見えてくることにもつながることをあらためて実感した。

 これまでもそうだが、今回も新たな知見を得られた。その効果は大きい。

 一方、視察のたびに同じような知見に触れてきたかもしれない。しかし、それらが視察のたびに新たな知見として得られているように感じるのは、おそらく相手方の原因ではなく、こちらの変化に原因があるのだろう。受け手のこちら側の経験の積み上げにより、これまで気づかなかった問題意識を芽生えさせていることが気づきにつながっていると考えられる。
 このような知見を得られたのも今回の視察の1つの成果かもしれない。
 さて、今回の視察でこんな風景を見た。




 高志の生紙工房で、戸外で乾燥していた溜め漉きの紙に来た虫だ。トンボはアキアカネ、ハチはセグロアシナガバチ。太陽光の反射が大きい環境であるため温かく、居心地がいいのだろう。

 視察の合間に和みをもたらたしてくれた景色だった。 


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