雲のたまてばこ~ゆうすげびとに捧げる詩とひとりごと

窓の雨つぶのような、高原のヒグラシの声のような、青春の日々の大切な箱の中の詩を、ゆうすげびとに捧げます

蚊も刺さぬなら‥‥

2013年05月28日 | エッセイ

▲田植えを終えたばかりの南阿蘇村の田。(2013.5.26)

 蚊も刺さぬなら‥‥

 可能な限り毎朝、チリトリと箒を手に事業所の外回りの掃除をする。掃除と言っても落ち葉や煙草の吸い殻を拾う点検がてらだ。ズボンが汚れぬように、ギャルソンのような長いエプロンをして、ポケットには花鋏が入っている。プランターや花壇の草花の簡単な選定をしたりするためだが、やり始めると根が好きなだけに、つい予定していた作業時間をオーバーしてしまう。
 外での作業は、季節によって暑かったり寒かったりがあるのはもちろんだが、鬱陶しいのは、年間の3分の2は蚊が襲ってくること。長い時間同じ場所での作業をする際は、蚊取り線香を予め焚いておくか、動き回る場合は、蚊取り線香を携帯用のケースに入れて腰からぶら下げて作業をする。しかし朝から短い時間の外回りの点検では、無防備で作業をするために、肌にとまっているのを見つけた数匹は手で叩いて殺すが、気がつかぬうちに20分程の間に、数カ所は蚊に刺されてしまうことも多い。
 眠れぬ夜に、ようやく訪れた浅い眠りに中に、あの耳障りなブーンという蚊の小さな羽音が届く。途端に目が覚めてしまう。布団から出ている手足を引っ込めるが、顔だけはいかんともし難い。敵もその顔をねらっている。羽音が止んだ時に素早く掌で自らの顔を叩く。たいていは空振りでしばらくするとブーンという羽音が聞こえてくる。これを数回繰り返すと、さすがに眠いし、顔は痛いし腹が立って完全に目が覚める。電燈を灯して徹底抗戦の姿勢へと移る。ところが電燈の下で明るくなった部屋の中で我が身をさらしてまで襲ってくる敵はまれで、たいていは明るくなった途端に身を隠してしまう。しばらくは、半分蚊に意識を向けながら本でも読んでいると、さすがにじきに眠気が襲う。電燈を消す。すると、そう。奴の羽音がブーンと近づいてくるのである。ここまでくると怒りは大きくなり、再び電燈を点けて布団から跳ね起きて、最終兵器を持って来る。殺虫剤のスプレーである。ベッドの下、天井の四隅、家具の影。奴が潜みそうな場所にスプレーをする。そして殺虫剤をまいた部屋にすぐ寝るのは嫌なので、しばらく他の部屋で本を読みながら待機する。
 蚊も刺しても痒くならなければ、殺されぬものをと思ってしまう。出産前のメスが、出産に向けた栄養補給のために、人や動物の血を必要とし、刺した後、血の凝固を防ぐ成分を人や動物に注入するのだと聞いたことがある。その成分が痒さの元らしい。私の血でよろしければ分けてあげるから、恩を仇で返す様な、あの痒くなる仕打ちだけは止めてくれない。
 鳴きもせでぐさと刺す蚊や田原坂
 夏目漱石も蚊に刺されたときに、鳴かないで黙って刺す蚊を、お前は卑怯だ、と怒ったのだろうか。熊本市の北西部にある西南戦争の古戦場、田原坂で明治の文豪、夏目漱石が読んだ俳句だ。熊本の地方紙、熊本日日新聞に連載中の「漱石くまもとの句」というコーナーで俳人の坪内稔典さんがそう紹介していた。
 ちなみに文豪の一句と較べようもないが、私のブログにも「蚊」という掌の小説を2011年5月31日に載せている。ぜひご一読ください。
 蚊のシーズンには、外回りのちょっとした水たまりに蚊の幼虫のボウフラが湧いてしまう。そこで、極力水がたまりそうな空き缶やプラスチックの容器、バケツなどは裏返して水がたまらぬようにしておく。睡蓮鉢などには事業所で飼っている熱帯魚のグッピーを、一つの鉢にオスとメスのペアで数匹ずつ放す。気温が20度を下回らない間は、熱帯魚もヒーター無しで死ぬことはない。それどころか、生き餌のボウフラをたらふく食べたグッピーは、体格も大きくなって本来の水槽のものよりたくましく育ち、数匹だったグッピーは、夏の間で数倍、数十倍にも数を増やす。秋には希望者に分けないと、元々の水槽の人口密度(?)が高くなり過ぎてしまう程だ。
 下水道も普及し、道路も路地に至るまで舗装されて、水たまりが少なくなった。日本家屋も密閉型の家が増え、屋内に侵入することも至難の業だろう。多分蚊の方も住みにくい世の中になったものだと嘆いているかもしれない。
(2013.5.28)


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