雲のたまてばこ~ゆうすげびとに捧げる詩とひとりごと

窓の雨つぶのような、高原のヒグラシの声のような、青春の日々の大切な箱の中の詩を、ゆうすげびとに捧げます

緑の光の中で

2011年06月23日 | ポエム
 の光の中で

今が真夏だったら
いいのですが‥‥
ひぐらしの鳴く高原の
小さな並木径で
ぼくは
木の根に腰をおろして
ぼんやりとしていたいんです

草のにおいをかぎながら
あくせく動く
いつもの自分を
そっとのぞいてみたいのです

さびしいくせに
ひとりが好きで
じっとしていたいのに
走り回って

そんな自分を
ちょっと笑ってみたいのです
(1974)


 片付けられない

 同じ高校を卒業し、芸大を目指して一緒に浪人した仲良し3人組の私とK君とT君。一番ハンサムだったT君は、男兄弟で育ち、女性に対しては奥手で、口もまともに聞けない位だった。
 帰省中のある日、T君からの電話を取り次いだ妹がくすくす笑っていた。
 急用で私の実家に電話したT君は、電話に出た妹に舞い上がり、「SですがT君いますか?」と、逆のことを言ってしまったのだ。
 私は、3人の女兄弟が。K君も2人の姉がいる。女兄弟がいるということは、小さい頃から兄弟の女友達とも触れ合う機会が多く、自然に女性とフランクに対応出来るようになる。T君は、その点、まるでダメで、1対1で女性と対面する状況は、考えられなかった。
 でも、3人の中で、1番お嫁さんが必要なのも、T君と思われた。
 料理はしない。洗濯を限界までしない。何よりひどかったのは、部屋の片付け、掃除だった。
 今のように、携帯電話は無いし、もとより固定電話をひくことは3人とも頭にもなかった。だからお互いのアパートの部屋を訪ねるときは、いつも突然だった。
 コンコンと、いかにも薄っぺらいT君のアパートの部屋をノックし、声をかける。
 ガタゴトガサカサと音がして、T君の声がする。
「散らかっているから1時間位して来てくれ」と言う。
「部屋が汚いのは、分かっているから、大丈夫だよ。入れてくれ」
そう、私が言っても、いつもT君は絶対に1時間以上は部屋に入れてくれなかった。
 そして、仕方なく1時間時間をつぶして再訪し、中に入れたT君の部屋は、1時間、何処を片付けたのだと首をひねるほど、汚かった。
 畳の部屋なのに、新聞紙やチラシや雑誌で畳が見えない。
 その新聞やチラシや雑誌の層が5センチはあるようだった。その中から発掘した卓袱台で作った料理を食べ、新聞やチラシや雑誌の層の上に布団を敷いて寝た。したたかに酔い乍らも、布団の中で、この部屋に私が入る1時間前は、どうなっていたんだろうといつも想像した。(2011.6.23)

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