BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

約束 ~Always~第1話

2024年03月09日 | FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説「約束~AIways~」
「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様は一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。

「ジェフリー、入るよ?」
海斗がグローリア号の船長室をノックすると、部屋の主はまだ夢の中に居た。
「もぉ、起きてよキャプテン、もう朝だよ。」
海斗がジェフリーの身体を揺さ振ると、彼は呻いて海斗をシーツの中へと引き摺り込んだ。
「ジェフリー!」
「おはよう、カイト。」
「ルーファスがあなたを呼んでいるよ。」
「あぁ、わかった・・」
出会った頃と同じ位の長さになったブロンドの髪を鬱陶しそうに掻き毟ったジェフリーは、欠伸を噛み殺しながら船長室から出て行った。
「もう、いつもこんなんじゃ調子狂っちゃうよ・・」
海斗はそう言った後、ジェフリーの後を慌てて追い掛けた。
「なぁカイト、もし生まれ変わったら、どうしたい?」
「そうだなぁ・・生まれ変わってもあなたの隣に居たいなぁ。」
「可愛い奴め。」
ジェフリーはそう言って笑った後、海斗の額にキスを落とした。
「ずっと一緒だよ、ジェフリー。」
「あぁ、ずっと一緒だ。」
あの日、初めてジェフリーと出会った時から、海斗は彼に心を奪われていたのかもしれない。
海斗は、もし生まれ変わってもジェフリーの隣に居たいと思った。
だが今は、来世の事を考えるよりも、隣に居る恋人の体温を感じていたかった。
(愛しているよ、ジェフリー。世界中の誰よりも。)
海斗は静かに目を閉じた。
また明日、海の仲間達との新しい生活が始まる。
何の変哲もない、だが何物にも代え難い宝物のような日々だった。

―ねぇ、あの子どうするの?
―うちには、ねぇ・・

(どいつもこいつも・・)

ジェフリー=ロックフォードは、時折聞こえて来る親族達の囁き声に、苛立っていた。
親族席に座っているのは、赤毛の、幼い少年だった。
彼は、海難事故で一夜にして孤児となった海斗だった。
海斗の前に置かれている三基の棺には、彼の家族の遺体は納められていない。
彼らの遺体は、まだ冷たい海の底に沈んでいるのだ。
海斗の親族達は、彼の心情を慮ろうともせず、誰が海斗の面倒を見れば良いのかを話し合っていた。
「カイト、俺の所へ来ないか?」
「いいの?」
そう言って俯いた顔を上げた海斗の瞳は、涙に濡れていた。
「行こう、カイト。」
「ちょっと、勝手に決めないで!」
「そうだ、大人の話に子供が口を挟むな!」
「自分の事しか考えないあんたらが、この子を育てられるとは思えないね。」
ジェフリーはそう言って海斗の親族達を黙らせると、海斗の手を取って歩き出した。
「どこ行くの?」
「俺の家さ。」
ジェフリーが海斗を連れて行ったのは、ジェフリーの親族が経営する居酒屋兼食堂「グローリア号」だった。
「ジェフリー、こいつは誰だ?」
「俺の運命の相手さ。」
「そうか。」
「本当に、ここで暮らしてもいいの?」
「いいに決まっているだろう。カイト、飯は?」
ジェフリーの問いに、海斗は首を横に振った。
「そうか。待ってろ、今俺が飯を作ってやるからな。」
ジェフリーは海斗を二階の自室に残すと、店の厨房へと下りていった。
「あの子、あの事故の子か?」
「あぁ。あの子の親族は、自分達の事しか考えていなかった。身寄りもなくて一人で心細そうに葬祭会場の親族席に座っているあいつが、小さい頃の俺と重なって見えた。」
「そうか・・」
ジェフリーの遠縁の伯父・ワッツは、児童養護施設で彼を引き取った日の事を思いだした。
彼は、多額の借金を抱えて自殺した父親の代わりに、交通事故に遭い寝たきりになった母親の介護と家事を独りでしていた。
その母親の死後、餓死寸前のジェフリーをソーシャルワーカーのトマソン医師が彼を保護したのだった。
ワッツがジェフリーを児童養護施設から引き取った時、ジェフリーは死んだ魚のような目をしていた。
全てに、絶望したかのような目をしていた。
「俺は、カイトにあんな思いを・・社会から拒絶された悲しみや辛さを味わわせたくないんだ。」
ジェフリーはそう言うと、輪切りにした玉葱をパン粉に塗し、油で揚げた。
「これで良し、と・・」
ジェフリーがオニオンリングとハンバーグを皿の上に置きながらそう呟いていると、店のドアベルが鳴り、一人の男が入って来た。
「すいません、店は五時からです・・」
「こちらに、カイト=トーゴ―様はご在宅でしょうか?わたくし、こういう者です。」
黒髪の男は、鮮やかな緑の瞳でジェフリーを睨んだ後、一枚の名刺を彼に手渡した。
そこには、“弁護士 ビセンテ=デ=サンティリャーナ”と印刷されていた。
「あの子に何の用だ?」
「それは貴様には関係の無い事だ。」
「ヴィンセント?」
「カイト、迎えに来たよ。」
「お腹空いた。」
海斗はそう言うと、カウンター席によじ登った。
「ハンバーグとオニオンリングだ、食うか?」
「うん!」
「カイト・・」
ビセンテは海斗に話し掛けたが、海斗は彼を無視した。
「悪いが、坊やはあんたとは話したくないみたいだ。」
「カイト、また来るよ。」
ビセンテはそっと海斗の頭を撫でた後、店から出て行った。
「もしもし、わたしだ。」
『あの坊やとは会えたの?』
「あぁ。だが、邪魔者が居た。」
『そう。』
「また連絡する。」
ビセンテはそう言うと、スマートフォンを切った。
「お帰りなさいませ、旦那様。」
「レオはどうしている?」
「レオ様なら、お部屋でお休みです。」
「そうか。」
ビセンテは執事のペレスに背を向けてリビングから出ると、二階の子供部屋へと向かった。
そこには、かつて共に戦場を駆け抜けた元従者の姿があった。
「ただいま、レオ。」
ビセンテはそう言うと、そっとレオの金髪を撫でた。
レオと“再会”したのは、二年前に起きた悲惨な交通事故の被害者同士としてだった。
レオはその事故で両親を、ビセンテは唯一の肉親であった妹を亡くした。
天使のような可愛い顔に巻かれた包帯姿のレオを病院で見た時、ビセンテはレオを病院で引き取る事に決めた。
「ビセンテ様・・」
「レオ、わたしと共に来るか?」
ビセンテはそう言うと、レオのまっすぐな蒼い瞳が自分を見つめている事に気づいた。
事故の後、レオは後遺症もなく元気に毎日暮らしている。
そんなレオを毎日幼稚園まで送り迎えをし、彼の為に愛情のこもった弁当をビセンテは作りながら、マリアを喪った悲しみを少しずつ癒していった。
だが、ビセンテは現在、途轍もない困難に見舞われていた。
それは、幼稚園指定バッグ類の製作だった。
裁縫が大の苦手であるビセンテにとって、それは勝てる見込みがない刑事事件の裁判よりも厳しく辛いものとなった。
四日がかりでバッグ類を完成させたビセンテは、魂が半分抜け出たような顔になっていた。
「ビセンテ様、行って来ます。」
「レオ、今日は早く迎えに来るからな。」
「うん!」
ビセンテがレオと幼稚園の前で別れ、駐車場に停めてある車に乗り込もうとした時、一人の保護者が彼に近づいて来た。
「久し振りだな、ビセンテ。わたしの事を憶えているか?」
そう言いながらサングラスを外したのは、アロンソ=デ=レイバその人だった。
「まさか、君とこんな所でまた会えるなんて思いもしなかったよ。」
「わたしもです・・」
「その様子だと、まだ独身のようだな?」
「その質問には、答えられません。」
「相変わらず、つれないなぁ。」
アロンソは、そう言うとビセンテの肩を強く叩いた。
転生しても、彼は何も変わらなかった。
「ビセンテ、あの子にはもう会ったのか?」
「はい。ですが、あの子は海賊に引き取られました。」
「それは良かったじゃないか。」
「良くありません!わたしは、カイトを大事に育てようと・・」
「落ち着け、ビセンテ。独りよがりの君の愛情で、カイトを縛っても何にもならない。それよりも、彼を心から愛してくれる人の元に引き取られた方が幸せじゃないか?」
「そうかもしれませんね。」
「それにしても、君がレオと一緒に居るなんて、やはり君達は運命で結ばれているんだな。」
幼稚園の近くにあるカフェで、アロンソはそう言った後、コーヒーを飲んだ。
「今日は会えて嬉しかったです。」
「わたしもだ。あ、ライン交換しないか?」
「お断り致します。」
「・・そ、そうか。」
アロンソとカフェの前で別れたビセンテは、職場へと向かった。
「おはよう、カイト。」
「ジェフリー、おはよう。」
「良く眠れたか?」
「うん・・」
「ここに座って待ってろ、今朝飯作ってやるから。」
ジェフリーは店の厨房でエッグベネディクトを作った。
「美味しいか?」
「うん・・」
海斗はエッグベネディクトを頬張りながら、ジェフリーに微笑んだ。
(やっと、笑ったな。)
海斗が家に来て一月が経った。
一月前は全く笑わなかった海斗だったが、ジェフリーと共に過ごすようになってから、彼は笑顔を見せるようになった。
「今日から新しい学校だな。」
「うん!」
「一緒に途中までついて行ってやろう。」
「ありがとう。」
海斗と手を繋いでジェフリーが通学路を歩いていると、そこへ一人の少年が彼らの方へとやって来た。
「ジェフリー、その子は?」
「こいつはカイト、訳あって一緒に暮らしている。カイト、俺の親友の、ナイジェルだ。」
「初めまして・・」
海斗がそう言って少年に挨拶すると、彼は灰青色の瞳で海斗を見つめた後、こう言った。
「久し振りだな、カイト。」
「ナイジェル、ナイジェルなの!?」
「あぁ。」
転生したナイジェルは、前世の頃と全く変わっていなかった。
「また後でな、カイト。」
「うん!」
楽しそうに会話をする彼らの姿を、遠くから一人の少年が黒塗りの高級車の中から見ていた。
「坊ちゃま?」
「出して。」
「はい・・」
やがて少年を乗せた黒塗りの高級車は、有名私立男子校の前に停まった。
「では、行って来るよ。」
「行ってらっしゃいませ。」
少年は校舎の中へと入ると、数学科講師室へと向かった。
「おはよう、ヤン。」
「ここでは、“先生”だろう?」
ヤン=グリヒュスは溜息を吐きながら、少年―ラウル=デ=トレドを見た。
「気に入らない?じゃぁ、“パパ”とでも呼ぼうかな?」
「好きにしろ。」

己の下腹をまさぐるラウルの白い首に、赤黒い痣がある事にヤンは気づいた。
コメント

光と影の輪廻 Ⅰ

2024年03月09日 | PEACEMAKER鐵 転生不倫パラレル二次創作小説「光と影の輪廻」
「PEACEMEKER鐵」二次創作です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

―ねぇ土方さん、もし本当に“生まれ変わり”というものがあるのなら、どうします?
―何だ、急に?
それは、まだ戦が始まる前、屯所で歳三達と過ごす穏やかな日常の、他愛のない恋人同士の会話だった。
―わたしは、何度生まれ変わってもあなたと一緒に居たいなぁ。
―俺もだよ。
情事の後、歳三はそっと総司の髪を優しく撫でた。
―俺も、もし生まれ変わる事があったら、絶対にお前を見つけてやる。
―約束ですよ!
―あぁ、約束だ。
そう言って自分と交わした“約束”を、歳三が“忘れて”しまうなんて、この時は思いもしなかった。
「沖田さん、沖田さんったら!」
突然、肩を強く叩かれ、総司は我に返って現実の世界へと戻った。
「もう、何ぼーっとしているのよ!レジ、お願いね!」
「すいません・・」
総司は慌てて客が置いたトレーに載せられたパンをレジのバーコードリーダーに通していった。
「お疲れ様です。」
「お疲れ~」
バイト先のパン屋から出た総司は、自転車で自宅近くの道路を走っていた。
するとその途中の公園で、数人の中学生達が何やら揉めているのを見かけて、気になって総司がその様子を見ていると、どうやら二人組の中学生が一人の中学生に暴力を振っているようだった。
「あなた達、何をしているの!」
「うっせぇよ、ババアはすっこんでろ!」
「そうだ!」
中学生の一人がそう叫び総司に向かって金属バッドを振りかざしたが、それを総司は軽くかわすと彼女に足払いを喰らわせた。
「警察呼ぶわよ!」
「クソッ!」
「おぼえてろよ!」
総司に悪態をついた女子中学生達は、そのまま公園から去っていった。
「大丈夫?」
「はい・・」
「これ、わたしのスマホの番号。またあいつらに何かされそうになったら、連絡して。」
「ありがとうございます!」
「家何処なの?良かったら家の近くまで送ってあげようか?」
「はい・・」
総司が助けた中学生を家まで送ると、彼女は純和風の武家屋敷のような家に住んでいた。
「ここで大丈夫です。」
「おう、帰っていたのか。」
「お父さん!」
ガラガラと、玄関の引き戸が開かれ、家の中から長身の男性が出て来た。
あまりにも懐かしい、その男性の顔を見た途端、思わず泣きそうになってしまった。
(土方さん・・)
顔も姿も、声も、歳三はあの頃と全く変わっていなかった。
「その人は?」
「公園で絡まれていた所をこのお姉さんに助けて貰ったの!」
「そうか・・」
そう言った歳三の態度は、そっけなかった。
「すいません、もう帰りますね。」
「娘をここまで送って下さって、ありがとうございました。」
「いいえ。」

(土方さん、わたしの事を“憶えて”いなかった・・)

150年という、長い時を経て再会した総司と歳三のそれは、随分と呆気ないものだった。

(そりゃそうだよね・・)

頭でそう割り切ろうとしながらも、総司は一晩中“昔”の事を思い出しては枕を濡らしていた。

「土方先生、おはようございます。」
「おはようございます。」
歳三が職員室に入ると、同僚の女性教師が彼に声を掛けて来た。
「“沖田総司”・・」
「あぁ、この子、うちの学校がアルバイト禁止なのに、ベーカリーでバイトして・・」
(うちのクラスか・・)
「土方先生、どうされました?」
「いいえ。」
「そろそろ授業が始まりますから、急ぎませんと。」
女性教師はそう言うと、バタバタと慌ただしい様子で教室から出て行った。
「ねぇ、今日から新しい先生来るんだって!」
「男?女?」
「男の先生だって!」
「え~、どんな人なんだろ?」
教室で女子生徒達がそんな事を話していると、そこへ歳三が入って来た。
「今日からお前ぇらの担任を一年務める事になった土方歳三だ、よろしく頼む。」
「キャ~」
「イケメン!」
周りが騒ぐ中、総司はじっと、歳三の顔を見ていた。
(まさか、土方さんとこんな形でまた会えるなんて・・)
総司がそんな事を思っていると、歳三と目が合った。

“総司”

夢の中で、己の名を呼びながら自分を見つめる歳三の瞳が好きだった。
だが、今は―

(あぁ神様、何故わたし達は・・)

こんなに、残酷な形で再会してしまったのでしょうか。
土方さんは、わたしの事を・・

(こいつ、“何処か”であった事がある・・)

歳三はそんな事を思いながら、総司を見つめていた。

“土方さん”

その声は、何処か懐かしく聞こえた。

土方さん・・

目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。
自分の前には、自分のクラスの生徒、沖田総司の姿があった。
―どうしたんですか、そんな気難しい顔をして?
また俳句の事でも考えていたんですか、と、総司はクスクスとそう言って笑った。
ふと周囲を見渡すと、文机の上には一冊の本が置かれていた。
そこには、“豊玉発句集”と表紙に書かれていた。
『返せ!』
―何ですか、そんなに恥ずかしがることないでしょう?
私と土方さんの関係で、隠し事なんて柄じゃないですよ。
『てめぇ・・』
―あはは、そんなに眉間に皺を寄せてちゃ、色男が台無しですよ!
そう言って、屈託の無い笑顔を浮かべる総司が、好きだった。
なのに―
―あはは・・みっともないところ、見せちゃいましたね・・
そう力無く笑った総司の口元は、血に濡れていた。
『総司・・』
何故、彼なのだろう。
何故、自分ではなく、彼が・・
歳三は、そこで夢から目を覚ました。
(何だ、これ・・)
洗顔を終えた後、歳三が鏡を見ると、そこには、見知らぬ男の姿が映っていた。
黒の着流しに、艶やかな黒髪を赤い髪紐で結い上げたその男は、自分と瓜二つの顔をしていた。
“てめぇはまだ、思い出さねぇのか?”
鏡の中の男はそう言うと、歳三を睨んだ。
「あなた、どうしたの?」
はっと彼が我に返って鏡の方を見ると、そこには自分の顔しか映っていなかった。
(一体、何だったんだ?)
「お父さん、お父さんったら!」
「済まねぇ・・」
「もう、今日はどうしちゃったの?」
娘がそう言って心配そうに自分の顔を覗き込んで来た。
その顔が、“誰か”と重なった。
「今日はお仕事、休んだ方がいいんじゃないの?」
「あぁ、そうする・・」
「じゃぁ、わたし達はもう行くから。」
「気を付けてな。」
「ええ。」
この日、妻は娘と共に妻の実家へと帰省する事になっていた。
「数日したら帰って来るから、そんなに心配しないで。」
「あぁ・・」
歳三は二人を玄関先で送り出した後、いつものように車で出勤した。
「土方先生、おはようございます。」
「おはよう。」
「なんか先生、顔色悪いよ、どうしたの?」
「いや、ちょっとな・・」
「ちゃんと病院、行った方がいいよ。」
「わかったよ。」
教師の仕事は、多忙を極める。
生活指導や教材研究、そして部活動の指導・・それだけでも、二十四時間などあっという間に過ぎてしまう。
「はぁ・・」
「土方先生、お疲れ様ですね。」
「大会が近いので、色々と。」
「そうですか。」
歳三はクラス担任と、剣道部の顧問を務めているので、時間が足りない。
「無理は禁物ですよ。」
「わかっていますけれど、中々自分の時間が取れなくて・・」
「そうですか。じゃぁ、わたしはこれで。」
「お疲れ様でした。」
パソコンから顔を上げた歳三が時計を見ると、それは午後八時を指していた。
「あ、土方さ・・先生、こんな時間までどうしたんですか?」
「仕事だ。そういうお前ぇは、どうしてこんな遅くまで残っていたんだ?」
「部活の片付け・・というか、色々と先輩から押し付けられちゃって・・」
そう言って苦笑した総司の周りには、誰の物なのかもわからない胴や面が転がっていた。
「ったく、仕方ねぇな、俺も片付け、手伝ってやるよ。」
「え、いいんですか?」
「いいも何も、お前ぇを一人で帰らせる訳にはいかねぇよ。」
「ありがとうございます。」
そう言った総司の横顔が、少しやつれているように見えた。
「大丈夫か?」
「最近、バイトをかけもちしていて休む暇がなくて・・」
「休める時は休め。そうしねぇと、身体がもたねぇぞ。」
「はい。先生、今日は家まで送っていただき、ありがとうございました。」
総司はそう言って歳三に向かって弱々しく微笑んだ。
“もう、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。”
京を離れる前、右肩を撃たれ負傷した近藤と共に大坂へと移送させる時、総司は歳三を心配させまいとそう言って無理に笑った。
「これ、俺のスマホの番号とLINEのIDだ。何か困った事があったら連絡しろ、いいな?」
「え・・」
「何でも、一人で抱え込むな。お前ぇは、一人じゃねぇ。」
歳三はそう言うと、そのまま車で去っていった。
(先生、どうしちゃったんだろう?)
アパートの階段を上がりながら、総司が部屋の前まで行こうとした時、そこに一人の青年が立っている事に気づいた。
「あの、うちに何かご用ですか?」
「沖田さん、ですよね?」
「え・・」
「俺、市村鉄之助です!」
「鉄・・君・・」

“沖田さん!”

総司の脳裏に、いつも自分に屈託の無い笑みを浮かべていた少年の顔が浮かんだ。

「あぁ、やっぱり沖田さんだ!」
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