マーケティング研究 他社事例 593 「揺らぐアベノミクス」 ~スタグフレーションの足音~
国立民俗博物館外来研究員の早川氏は2007年3月から2009年1月までアフリカ南部のジンバブエで「計測不能」と言われたハイパーインフレーションを体験しました。
「朝起きて日本円で1万円分の価値のジンバブエドルが手元にあっても、家を出てタクシーに乗ったり、新聞を買ったりするまで、それが1万円のままなのか全くわからない。そんな状況だった」
ハイパーインフレーションとは、物価が極端に上昇する現象で、月間インフレ率(消費者物価上昇率)が50%以上の状態を指します。
ジンバブエでは当時、貨幣の大量供給で物価が急上昇し、経済活動や国民の日常生活が大混乱しました。
ジンバブエ政府の統計部局が大混乱し、ジンバブエ政府の統計部局が2008年7月に発表したインフレ率は月間2600%、年率では2億3100万%に達し、その後、同国政府は公式なインフレ率の公表を諦めたのでした。
「パンの値段が列に並んでいる間に2倍になったこともある」と早川氏は言います。
1980年にイギリスから独立して以降、故・ロバート・ムガベ氏が長期独裁政権を築いていたジンバブエは、ムガベ氏が2000年、白人が所有する農地を強制接収して黒人への分配を始めると、今度は欧米諸国との関係が悪化しました。
経済が疲弊し、物価上昇に拍車がかかった結果、ハイパーインフレ下の同国では公務員でも月収で石鹸1つ買えない窮状に陥ったのでした。
人々は副業などによって収入源を複線化し乗り切ろうとしましたが、手にしたその場で紙幣が減価する実現にはなすすべもなく、多くが貧困化しました。
結局2009年初頭、アメリカドルや南アフリカランドといった外貨を経済取引に導入することを合法化する「複数通貨制」を導入し、結果、ジンバブエドル札は名実ともに紙くずになりました。
まるでパニック映画のような話ですが、歴史を振り返ると同様の出来事は世界の様々な場所で起きています。
1年間で物の値段が10の16乗倍になったといわれるハンガリー、物価上昇率が年率3000%を超えたアルゼンチン、そして現在進行形でハイパーインフレーションに見舞われているのが、南米のベネズエラです。
「また倍になっている」
2020年4月中旬、ベネズエラの首都カラカス在住の日系ベネズエラ人の男性は思わず苦笑しました。
この日、近所のスーパーに買いに行ったのはラム酒でした。
1週間前は約50万ボリバルでしたが、約100万ボリバルに値上がりしていました。
値上がりしたのは、ラム酒だけではありません。
ベネズエラでは今、食料品や医薬品など生活物資の価格が急激に上がっています。
政府が2019年に価格統制政策を緩和したことで、「スーパーの棚に何もないという状況はなくなった」ものの、価格が高くて一般の人は満足に買えません。
同国の通貨建てで4月中旬の米1Kgの販売価格は28万ボリバル、牛肉1Kgは70万ボリバルでした。
ベネズエラの最低賃金は当時月額25万ボリバルですから、スーパーに行って買い物をすれば、数カ月分の給与がたちまち無くなってしまいました。
2018年のインフレ率は中央銀行調べで13万%です。
反政権の国会議員は170万%、イギリスの民間調査会社は100万%と試算しました。
上昇の幅に開きこそありますが、すさまじいインフレ状態にあったことには変わりありません。
急激なインフレに悩む国々の人たちに「日本は今、インフレによる国民の所得向上を起爆剤の一つにして景気回復を図ろうとしている」と話すとすると、彼らはこう答えると思います。
「インフレで所得増?そんなのクレイジーだ!インフレはコントロール出来るものでは無い!」
さすがに日本がジンバブエやベネズエラのような事態に陥る事は絶対に無いと多くの日本人が考えていると思います。
しかし、アベノミクスが「中央銀行がインフレ目標を明示し、その達成を優先する金融政策」を柱にしている以上、その終着点は「ハイパーインフレによる国家財政破綻」である可能性は原理的に、ゼロとは言い切れません。
アベノミクスの結末は、教科書的に言えば次の3つになります。
①成功する
年率2%程度のマイルドなインフレが実現し、日本経済が復活し、物価上昇を上回る所得増加が実現し、国家の財政問題も解決する。
②失敗する
大規模金融緩和下でもインフレにならず、デフレが続きます。
③裏目に出る
大規模金融緩和の副作用で経済はむしろ悪化し、最悪の場合、ジンバブエやベネズエラのような国家財政破綻・ハイパーインフレに陥ってしまう。
これまでシナリオ③の到来を予測する専門家は少数派でした。
アベノミクス開始からおよそ7年が経過し、今のところは①への希望と、②への失望の間を往復しているといったところでしょうか?
異次元緩和は一定の効果も見られ、消費税増税後の2014年には物価上昇率は2.6%でした。
しかし、この基調は定着せず「マネタリーベースが増えても市中のマネーが一向に増えない」状況が続いています。
足元の消費者物価指数(CPI、3月)は、生鮮食品を除く総合指数が前年同月比0.4%の上昇で、2月の0.6%上昇から鈍化し、一方、物価の影響を差し引いた実質賃金は前年同月比1.0%の減少(毎月勤労統計調査2月確報、従業員5人以上)でした。
なお、賃金の伸びが物価の伸びを下回っている状況です。
その意味では、「アベノミクスは明らかに成功している」とはお世辞にも言い難い状況と言えます。
ただし、だからといって、「裏目に出て、ハイパーインフレになる予兆」なども無いのが現状です。
加えて、たとえアベノミクスが失敗して、裏目に出たとしても、国家財政はそう簡単には破綻しません。
そこまで至るにはいくつもの【段階】を踏むことが必要だからです。
具体的には、日本の国家財政破綻は、インフレが加速するだけではなく、国際価格の暴落と金利上昇、大幅な円安が発生し、国家債務の膨張に歯止めがかからない事態に陥って初めて、最悪のシナリオが現実味を帯びてくるのです。
そして、そこまで追い込まれるには、ジンバブエやベネズエラのように「インフレ不況」ではありません。
もっと異常な状態にあることが前提になるのです。
(続く)
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国立民俗博物館外来研究員の早川氏は2007年3月から2009年1月までアフリカ南部のジンバブエで「計測不能」と言われたハイパーインフレーションを体験しました。
「朝起きて日本円で1万円分の価値のジンバブエドルが手元にあっても、家を出てタクシーに乗ったり、新聞を買ったりするまで、それが1万円のままなのか全くわからない。そんな状況だった」
ハイパーインフレーションとは、物価が極端に上昇する現象で、月間インフレ率(消費者物価上昇率)が50%以上の状態を指します。
ジンバブエでは当時、貨幣の大量供給で物価が急上昇し、経済活動や国民の日常生活が大混乱しました。
ジンバブエ政府の統計部局が大混乱し、ジンバブエ政府の統計部局が2008年7月に発表したインフレ率は月間2600%、年率では2億3100万%に達し、その後、同国政府は公式なインフレ率の公表を諦めたのでした。
「パンの値段が列に並んでいる間に2倍になったこともある」と早川氏は言います。
1980年にイギリスから独立して以降、故・ロバート・ムガベ氏が長期独裁政権を築いていたジンバブエは、ムガベ氏が2000年、白人が所有する農地を強制接収して黒人への分配を始めると、今度は欧米諸国との関係が悪化しました。
経済が疲弊し、物価上昇に拍車がかかった結果、ハイパーインフレ下の同国では公務員でも月収で石鹸1つ買えない窮状に陥ったのでした。
人々は副業などによって収入源を複線化し乗り切ろうとしましたが、手にしたその場で紙幣が減価する実現にはなすすべもなく、多くが貧困化しました。
結局2009年初頭、アメリカドルや南アフリカランドといった外貨を経済取引に導入することを合法化する「複数通貨制」を導入し、結果、ジンバブエドル札は名実ともに紙くずになりました。
まるでパニック映画のような話ですが、歴史を振り返ると同様の出来事は世界の様々な場所で起きています。
1年間で物の値段が10の16乗倍になったといわれるハンガリー、物価上昇率が年率3000%を超えたアルゼンチン、そして現在進行形でハイパーインフレーションに見舞われているのが、南米のベネズエラです。
「また倍になっている」
2020年4月中旬、ベネズエラの首都カラカス在住の日系ベネズエラ人の男性は思わず苦笑しました。
この日、近所のスーパーに買いに行ったのはラム酒でした。
1週間前は約50万ボリバルでしたが、約100万ボリバルに値上がりしていました。
値上がりしたのは、ラム酒だけではありません。
ベネズエラでは今、食料品や医薬品など生活物資の価格が急激に上がっています。
政府が2019年に価格統制政策を緩和したことで、「スーパーの棚に何もないという状況はなくなった」ものの、価格が高くて一般の人は満足に買えません。
同国の通貨建てで4月中旬の米1Kgの販売価格は28万ボリバル、牛肉1Kgは70万ボリバルでした。
ベネズエラの最低賃金は当時月額25万ボリバルですから、スーパーに行って買い物をすれば、数カ月分の給与がたちまち無くなってしまいました。
2018年のインフレ率は中央銀行調べで13万%です。
反政権の国会議員は170万%、イギリスの民間調査会社は100万%と試算しました。
上昇の幅に開きこそありますが、すさまじいインフレ状態にあったことには変わりありません。
急激なインフレに悩む国々の人たちに「日本は今、インフレによる国民の所得向上を起爆剤の一つにして景気回復を図ろうとしている」と話すとすると、彼らはこう答えると思います。
「インフレで所得増?そんなのクレイジーだ!インフレはコントロール出来るものでは無い!」
さすがに日本がジンバブエやベネズエラのような事態に陥る事は絶対に無いと多くの日本人が考えていると思います。
しかし、アベノミクスが「中央銀行がインフレ目標を明示し、その達成を優先する金融政策」を柱にしている以上、その終着点は「ハイパーインフレによる国家財政破綻」である可能性は原理的に、ゼロとは言い切れません。
アベノミクスの結末は、教科書的に言えば次の3つになります。
①成功する
年率2%程度のマイルドなインフレが実現し、日本経済が復活し、物価上昇を上回る所得増加が実現し、国家の財政問題も解決する。
②失敗する
大規模金融緩和下でもインフレにならず、デフレが続きます。
③裏目に出る
大規模金融緩和の副作用で経済はむしろ悪化し、最悪の場合、ジンバブエやベネズエラのような国家財政破綻・ハイパーインフレに陥ってしまう。
これまでシナリオ③の到来を予測する専門家は少数派でした。
アベノミクス開始からおよそ7年が経過し、今のところは①への希望と、②への失望の間を往復しているといったところでしょうか?
異次元緩和は一定の効果も見られ、消費税増税後の2014年には物価上昇率は2.6%でした。
しかし、この基調は定着せず「マネタリーベースが増えても市中のマネーが一向に増えない」状況が続いています。
足元の消費者物価指数(CPI、3月)は、生鮮食品を除く総合指数が前年同月比0.4%の上昇で、2月の0.6%上昇から鈍化し、一方、物価の影響を差し引いた実質賃金は前年同月比1.0%の減少(毎月勤労統計調査2月確報、従業員5人以上)でした。
なお、賃金の伸びが物価の伸びを下回っている状況です。
その意味では、「アベノミクスは明らかに成功している」とはお世辞にも言い難い状況と言えます。
ただし、だからといって、「裏目に出て、ハイパーインフレになる予兆」なども無いのが現状です。
加えて、たとえアベノミクスが失敗して、裏目に出たとしても、国家財政はそう簡単には破綻しません。
そこまで至るにはいくつもの【段階】を踏むことが必要だからです。
具体的には、日本の国家財政破綻は、インフレが加速するだけではなく、国際価格の暴落と金利上昇、大幅な円安が発生し、国家債務の膨張に歯止めがかからない事態に陥って初めて、最悪のシナリオが現実味を帯びてくるのです。
そして、そこまで追い込まれるには、ジンバブエやベネズエラのように「インフレ不況」ではありません。
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成長クリエイター 彩りプロジェクト 波田野 英嗣