開成の入試問題に「大江戸線」が出題された意味
中学入試というと、そうとう難しい問題もあり「小学生にここまで解かせる必要があるのか?」と思っている人も少なくないでしょう。一方で中学入試には学校のカラーが色濃く反映され、模試の偏差値だけでは測れない知識や教養も試されます。中学受験専門塾ジーニアス代表・松本亘正氏の著書『超難関中学のおもしろすぎる入試問題』から、都内屈指の進学校、開成学園が出題する問題に関して一部抜粋、再構成しお届けします。
開成学園は首都圏屈指の進学校です。2019年は東京大学に186人の合格者を出し、38年連続全国1位となりました。中学入試の社会の問題では、こんなことまで求められるのかと思うような細かい知識を問うものもあります。とくに「東京問題」と呼ばれる、東京の都市や文化に関する問題はユニークです。
以下の開成の問題は、上野御徒町駅で大江戸線に乗り都庁に行くときに、1番線(本郷三丁目方向)なのか2番線(新御徒町方向)なのか、それともどちらに乗ってもよいのかということを聞いています。
【問】御徒町で地下鉄に乗り、都庁に行くことにしました。そこで大江戸線に乗ることにしました。上野御徒町駅で大江戸線に乗るときについて、次の文のうち正しいものを1つ選び、記号で答えなさい。
ア 都庁前駅に行くためには1番線に乗らなければならない。
【問】御徒町で地下鉄に乗り、都庁に行くことにしました。そこで大江戸線に乗ることにしました。上野御徒町駅で大江戸線に乗るときについて、次の文のうち正しいものを1つ選び、記号で答えなさい。
ア 都庁前駅に行くためには1番線に乗らなければならない。
イ 都庁前駅に行くためには2番線に乗らなければならない。
ウ 都庁前駅に行くためには1番線・2番線のどちらに乗ってもよい。
正解はウ。どちらに乗っても都庁前駅に行くことができます。いったいなんでこんな問題を中学入試で出すのでしょうか。単純に雑学的な知識を求めているというだけでもなさそうです。
■関西では「開成ツアー」も組まれている
関西から受験生たちの開成ツアーというものが積極的に組まれています。関西の灘中に合格した子たちが受験を終えた後、塾の実績作りのために開成中を受験するということです。開成中に10人合格、20人合格という広告を出すと塾の宣伝にもなるので、こういったツアーが組まれていたのです。
ウ 都庁前駅に行くためには1番線・2番線のどちらに乗ってもよい。
正解はウ。どちらに乗っても都庁前駅に行くことができます。いったいなんでこんな問題を中学入試で出すのでしょうか。単純に雑学的な知識を求めているというだけでもなさそうです。
■関西では「開成ツアー」も組まれている
関西から受験生たちの開成ツアーというものが積極的に組まれています。関西の灘中に合格した子たちが受験を終えた後、塾の実績作りのために開成中を受験するということです。開成中に10人合格、20人合格という広告を出すと塾の宣伝にもなるので、こういったツアーが組まれていたのです。
今でも塾業界では半ば公然と行われており、関東からも「灘ツアー」が組まれ、実績作りのために優秀な生徒を特待生に認定して、旅費などを負担する大手塾もあります。灘中に合格する子は、開成中などほかの有名校にも合格するので、塾の実績に加算できるという仕組みです。
「優秀児の囲い込み」は上場企業の塾や、関東・関西両方に拠点を持っている塾が積極的に行っています。優秀層を関東、関西のトップ校に合格させることで見かけ上の実績をよくすることができます。そうすると、多くの生徒が数字を見て入塾するのです。
本当に優秀な子たちは対策が不十分であっても関東、関西両方のトップ校に合格するのですが、多くの場合、関東の生徒は関東の有名校に進学し、関西の生徒は関西の有名校に進学するので、行かない学校には入学手続きを行いません。
すると、辞退者が大量に出て欠員が生じるので学校としては補欠合格を出すことになります。それが何十人にも上るということが開成中でも起こっています。入学意思がまったくない子たちの受験が多いことについて、開成の先生も苦々しく思っているかもしれません。
すると、辞退者が大量に出て欠員が生じるので学校としては補欠合格を出すことになります。それが何十人にも上るということが開成中でも起こっています。入学意思がまったくない子たちの受験が多いことについて、開成の先生も苦々しく思っているかもしれません。
■あえて東京出身ならば解ける問題を出す
そこで東京問題と呼ばれる、あきらかに東京の生徒であれば常識であるような問題が出されているのではないかと塾業界では噂されていました。とはいえ、社会の70点満点のうちの数点ですから合否に大きな影響を与えることはありません。ただ、入学する意思もないのに関西からツアーで受験する子たちが大挙してやってくることへの不満を表明した問題ではないかというのです。
さて、問題の解説に入りましょう。答えは「ウ」で、たしかにどちらに乗っても着きます。環状線であれば当然そう言えます。例えば山手線でも、内回りに乗っても外回りに乗っても必ず目的地に到着することはできます。
そこで東京問題と呼ばれる、あきらかに東京の生徒であれば常識であるような問題が出されているのではないかと塾業界では噂されていました。とはいえ、社会の70点満点のうちの数点ですから合否に大きな影響を与えることはありません。ただ、入学する意思もないのに関西からツアーで受験する子たちが大挙してやってくることへの不満を表明した問題ではないかというのです。
さて、問題の解説に入りましょう。答えは「ウ」で、たしかにどちらに乗っても着きます。環状線であれば当然そう言えます。例えば山手線でも、内回りに乗っても外回りに乗っても必ず目的地に到着することはできます。
ただ大江戸線は純粋な環状線ではありません。大江戸線は図のように、環状部と放射部からなっています。都庁前から六本木や両国や飯田橋を回ってくるっと1周するという部分に加えて、練馬や光が丘といった郊外に向けて放射状になって延びている線もあります。まるで数字の6を描くような作りになっているのです。
いったいなぜ大江戸線は6の字のようになっているのでしょうか。もともと環状線だけでなく新宿から先の練馬・光が丘に地下鉄を造ろうという理由があったのです。これは高度経済成長期と関係があります。
いったいなぜ大江戸線は6の字のようになっているのでしょうか。もともと環状線だけでなく新宿から先の練馬・光が丘に地下鉄を造ろうという理由があったのです。これは高度経済成長期と関係があります。
1955年から始まった高度経済成長によって東京に人口が集中し、郊外にもたくさんの家が建てられるようになりました。そうすると鉄道網で輸送力を強化する必要がでてきます。練馬区の光が丘再開発計画がきっかけで、そこにも鉄道が必要だということになりました。
しかし、石油危機や都の財政問題、そして人口が郊外に移動するドーナツ化現象によって大江戸線の建設が見合わされた時期もあり、ようやく1991年に練馬・光が丘間で開通します。その後1997年に新宿・練馬間を開通。全線が開通したのは2000年というように段階を踏んで開通してきました。
さて、この大江戸線の建設は単に旅客輸送だけではない目的があります。大江戸線の麻布十番駅と清澄白河駅には、緊急時用の東京都の防災物資を保管する倉庫である、防災備蓄倉庫が設けられています。もし災害時に地上の道路が使用できない場合、地下鉄を利用して物資を輸送することを想定しているのです。光が丘駅の近くには、自衛隊の練馬駐屯地がありますから、非常時の自衛隊員の移動にも役立てることができるのでしょう。
■開成の入試問題から、東京の文化を学ぶ
■開成の入試問題から、東京の文化を学ぶ
また、大江戸線は地下深くにあるため、天災の影響を受けにくいという利点もあります。台風で、JRや私鉄の運行が停止しても、東西線や丸ノ内線といったほかの地下鉄が止まっても、大江戸線は通常どおりだということはよくあるのです。
以上、開成の「東京問題」を紹介してきました。中学受験指導を行う立場としては、配点が高いわけではないので、これらの問題のために受験勉強の多くの時間を割くのはもったいないという思いもあります。
以上、開成の「東京問題」を紹介してきました。中学受験指導を行う立場としては、配点が高いわけではないので、これらの問題のために受験勉強の多くの時間を割くのはもったいないという思いもあります。
入試で重箱の隅をつつく問題が出されると、対策する側もより細かく、よりマニアックに用語を覚えさせようとする傾向があり、結果として暗記偏重になりがちです。
一方、自分が住んでいる地域について知ることも大切な勉強です。開成の入試問題からそのようなメッセージを読み取ることができます。直前期に詰め込むというより、小学生のうちから東京の街並みを散歩するなかで気づくことが理想と言えるでしょう。
一方、自分が住んでいる地域について知ることも大切な勉強です。開成の入試問題からそのようなメッセージを読み取ることができます。直前期に詰め込むというより、小学生のうちから東京の街並みを散歩するなかで気づくことが理想と言えるでしょう。