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北朝鮮の 『金王朝』 戦前の大日本帝国を範に作られた?! >女帝・金与正、は最後の切り札

2022年06月10日 00時06分42秒 | 国際情勢のことなど
北朝鮮の「女帝」金与正、じつはこれから「大粛清」されるかもしれない…!
 
北朝鮮で「金与正」が台頭してきたワケ
 
写真:現代ビジネス
 
 金正恩の妹・金与正が、にわかに注目を集めている。6月16日には予告どおり、開城の南北共同連絡事務所を木っ端微塵に爆破した。「金正恩の後継者に決まった」、「すでに統治の実権を握った」と報じるメディアもある。 【写真】惣菜屋が大人気、百貨店に大型テレビがズラリ…知られざる北朝鮮の現場写真! 
 
 金与正の突然の挑発行動は、いったい何を意味するのか。不可解な北朝鮮の権力構造の背景を探ってみる。 

7/9thu/2020
 
北朝鮮の金王朝を理解するには、補助線がいくつか必要だ。第一の補助線は、儒教である。  中国は儒教の国だ。朝鮮も、儒教の国だ。必死で中国を真似した。科挙も採り入れた。親族集団も儒教風。ちっとも儒教風でない日本とは、まるで違う。  儒教はいう。最初の王は堯。つぎが舜、つぎが禹。古典にある通り、王たちは有能な部下を順に抜擢した。禅譲である。禅譲(能力主義抜擢人事)が儒教の理想だ。  
 
そして禹は、自分の子に王の位を譲った。以下、子から子に血縁で受け継ぐ。世襲である。こうして最初の王朝(夏王朝)が始まった。世襲は、儒教の実際である。  中国共産党政権は、毛沢東→華国鋒→トウ小平→江沢民→胡錦濤→習近平、と抜擢人事でポストを引き継いだ。禅譲である。北朝鮮は、金日成→金正日→金正恩、親から子に、ポストを受け継いだ。世襲である。  
 
マルクス・レーニン主義の原則とは関係ない。でも、儒教の原則には合っている。
 
金王朝の「正体」
 
金日成と金正日 photo/gettyimages
 
 金日成将軍がソ連の後押しで、救国の英雄として乗り込んで来た。延安帰りの中国派は粛清された。元日本共産党の人びとも粛清された。  
 
金日成の労働党政権は、ソ連の傀儡だった。でもだんだんソ連の支配を脱して、ソ連が崩壊しても続いている。  北朝鮮の独裁体制の、本質は何だろう。マルクス・レーニン主義ではない。儒教の王朝か? 少し近いかもしれない。日本の天皇制とも、そっくりである。  
 
北朝鮮の「主体思想」をつくった黄長ヨプは、戦前の日本で教育を受けた。朝鮮は、1910年から1945年までの35年間、大日本帝国の一部だった。主体は国体の焼き直しだ。金日成が、「天皇」の抜けたあとにすっぽり収まっても不思議はない。  
 
儒教の皇帝と、日本の天皇制。これを足して2で割ったのが金王朝だと考えると、いろいろ説明がつく。 
 
 天皇は「万世一系」で、アマテラスや神武天皇と血がつながっている。金日成→金正日→金正恩、は「白頭山の血統」だという。神話にさかのぼるところが共通している。儒教にはない特徴だ。  
 
いっぽう金王朝は、皇帝権力の要素もある。天皇はふつう、権力を直接ふるわない。皇帝はふつう、実際に権力をふるう。  
 
金王朝を天皇制とみるなら、言わば「天皇親政」だ。天皇親政は、戦前昭和の総力戦体制のキーワードだ。北朝鮮は建国以来ずっと、総力戦体制なのである。
 
 
じつはライバル関係だった「金日成」と「金正日」
 
世襲も簡単ではない photo/gettyimages
 
 皇帝にも天皇にも似てはいるが、要は独裁者である。  独裁は、効率的である。民主主義のややこしい意見調整や、法の縛りは関係ない。独裁は、不安定である。独裁者はなんでも決定するから、どんな失敗も自分の責任になる。部下のせいにして、粛清する。  
 
そして独裁者は、うまく後継者に権力を引き継がないと、体制が崩壊してしまう。そして権力の継承のルールがない。これがアキレス腱だ。  
 
独裁体制の安定のためには、後継者が決まっているとよい。でもそう簡単ではない。  
 
儒教の皇帝や、天皇は、男系男子に継承するのがルールだ。安全のため、後継者の候補は、何人かいる。そのうち一人が選ばれる。皇帝にとっては、後継者(皇太子)は実は、危険な存在だ。  
 
皇太子の身になってみよう。確実に権力を手にできるだろうか。ライバルは大勢いる。皇帝の気が変わって、廃嫡されるかもしれない。いますぐ皇帝が死んでくれると助かる。いや、いっそ皇帝を殺してしまおう。こんな皇太子の企みに、皇帝も気づく。殺されないうちに、皇太子を始末しよう。  
 
中国の歴史は、皇帝が皇太子を殺したり、皇太子が皇帝を殺したりがしょっちゅうある。殺すか殺されるかのライバル。それが皇帝と皇太子だ。  
 
後継者に指名された林彪と毛沢東も、そういう関係だった。  金日成と金正日はどうか。金日成は、早い時期に金正日を後継者に指名し、二○年ほど並走した。実務は金正日が担当し、重要事項は金日成に決裁を仰いだ。金正日は疑われないように、細心の注意を払ったろう。金日成も万一に備え、軍事指揮権を手放さなかったはずだ。
 
 
「張成沢の二の舞」を避けたい金与正
 
張成沢は粛清された photo by GettyImages
 
 金正恩の後継者が金与正なら、両者の関係を見極める必要がある。 
 
 皇帝や独裁者は、女性をどう扱うか。奥さんや奥さんに準ずる女性を大勢つくる。男子を何人も生ませるため。そして、奥さんの地位を低めるため、である。  
 
有力幹部の娘ではなく、身分のない家庭の出身者(歌手やダンサーとか)を選ぶ。その女性の産んだ子が後継者となっても、女性の父親や一族がしゃしゃり出て来ないためだ。  
 
 
独裁者の姉妹が、有力幹部に嫁ぐのは好ましくない。独裁者の姉妹の夫が、権力をもつのも望ましくない。ナンバー2といわれた金正日の妹の夫(張成沢)が、金正恩に殺害されたのも、そうした力学だ。  
 
 
金与正はまあ有力な幹部に嫁いだらしく、子どももいる。金与正は家族が目立たないようにしている。  張成沢の二の舞を避けたいのだ。
 
 
 
抹殺か、一生軟禁か…
 
photo by iStock
 
 さて本題は、なぜ金与正が急に、政治の表舞台に登場し、金正恩の「後継者」になったのか。金正恩はまだ30代半ば。順当なら、彼の息子が後継者になる。しかし、健康問題が持ち上がった。  
 
父親の金正日も、健康に問題があった。あわてて三男の金正恩を後継者に仕立てた。金正男(長男)と金正哲(次男)は外された。金正男はのちに、金正恩の命令で毒ガスで暗殺された。金王朝では、後継者にならなかった息子たちは、抹殺されるか、一生軟禁されるのだ。  
 
 
金与正」と「金正男の息子・金漢率」の関係
 photo by GettyImages
 
 さて、金与正にも男の子がいた場合、どうなるか。  母親の李雪主が育てた金正恩の息子より、自分の息子が大事ではないだろうか。それに金正恩の息子が権力を握ると、自分も自分の息子も、粛清されるかもと心配しなければならない。それならと、金正恩の息子と権力闘争になるかもしれない。  金正恩に、実は男の子がいない場合。このケースは、もっと悩ましい。金正恩が死ぬと、その系統は絶えてしまう。「白頭山の血統」であと残っているのは、金与正のほかには、金正男の息子の金漢率(ハンソル)ぐらいだ。金正恩の兄の正哲やほかの男性親族は、政治に興味がないと、世捨て人のように身を守っている。  金漢率は、父を殺され、アメリカCIAに身柄を保護されている。北朝鮮の独裁体制に批判的な考えを持っているだろう。そのうち担がれて、北朝鮮のトップに据えられる可能性があるということだ。  金与正は女性で、金漢率は直系の男性。金漢率のほうがずっと正統である。金与正は、金漢率を気にしなければならない立場だ。  金与正が後継者に急浮上したのは、本人の意欲もある。が、それ以上に、ほかに後継者がいないから金与正で行こう、と党や軍の幹部が思ったということである。  独裁者が交替すると、政権幹部の多くも交替する。そこで、後継者を誰にするか、議論が紛糾する。金与正にも反対があったはずだ。  金与正は、組織部を基盤に、党をおさえている。あとは、軍を掌握してみせなければならない。
金与正は、北朝鮮の「最後の切り札」
 連絡事務所を爆破したあと、指揮権を軍の総参謀部に戻すとのべた。指揮権は、金正恩-総参謀部-軍部隊、のラインにあるのが正しい。それを、(金正恩-)金与正-総参謀部-軍部隊、の線で動かした。一時的にせよ、指揮権をふるってみせた、ということである。  これは、立派な実績になる。後継者として適格だとアピールできる。  北朝鮮の体制が続くカギは、安全保障。そのため核開発を進めてきた。核弾頭を数十発製造し、アメリカに届こうというミサイルも開発した。あとは,潜水艦搭載のSLBMが配備できれば、万全だ。もうアメリカの武力を恐れる必要はない。核保有国として、アメリカと対等に交渉できる。  もうひとつのカギは、独裁を維持し、「白頭山の血統」を守りぬくこと。かつての日本風に言えば、「国体を守れ」である。金与正が後継者になった。北朝鮮にはもう後がない、ということだ。  金与正に男子がいるとして、権力を継承させられそうにない。「白頭山の血統」と言いにくいからだ。この問題は日本の、女系天皇を容認するかの議論と似ている。女系は、天皇制の伝統ではない。でも、そんなことを言っている場合ではない。国民の合意があれば、女性天皇、そして女系天皇でもよいではないか。  同じ理屈を、北朝鮮の指導部も考えた。金与正が後継者になるとすれば、そういう意味になる。日本の女性天皇は、国民の暖かい合意に包まれるだろう。女性独裁者の金与正は、暖かく迎えられるか疑問である。  独裁政権なるものは、ひと握りの人びとの利権や特権のかたまりである。多くの人びとがそれを支持しないと声をあげれば、あっさり倒れる。  金与正は、それでも政権を守ろうとする、北朝鮮の切り札である。でももう、ほかに切り札は残っていないかもしれない。 ---------- 【連載:橋爪大三郎の「社会学の窓から」】最新バックナンバーはこちらから ----------
 
金正恩は持病で、いつ死んでもおかしくない。そこで後継者に、金与正が急浮上した。独裁政権の安定のためには、それしかなかったのである。  
 
金正恩には、妻の李雪主がいる。彼女は高級幹部の娘ではない。子どもが三人いるが、まだ小さい。男の子がいるかどうかよくわからない。
 
  男の子がいる場合、金与正の役目はワンポイント・リリーフ。男の子が成人するまでのあいだ、後見人の役目をつとめます、である。 
 
 金与正は、金正恩の遺訓に従うと言って、実権を握る。独裁者として意思決定もする。みながそれに従うのは、「白頭山の血統」を守るためだ。
 
 
金与正は「つなぎとしての後継者」なのか…?
 
 
金正恩と金与正のツーショットがここ数年増えた photo by iStock
 
 女性が、ワンポイント・リリーフとは言え、最高権力を握ってよいのか。  中国では、西太后の例がある。皇帝の生母として清朝の宮廷で勢力を伸ばし、絶対的な権力をふるった。則天武后の例もある。唐の高宗の后の則天武后は、高宗の死後、皇帝の位につき、国号を周と改めた。姓が「武」なので、王朝は交替する。晩年退位し、高宗の子が復位したので、国号は唐に戻った。  
 
これらは、皇帝の「妻」が権力を握るケース。中国では、皇帝の「妹」が権力を握る例はない。  
 
日本ではどうか。最初の女帝の推古天皇は、欽明天皇の娘で、異母兄敏達天皇の妻で妹。実子の竹田皇子を擁立したかったが反対があって、それまでのつなぎに即位したという。つなぎとして後継者になったのは、金与正のケースと似ている。  
 
つまり、金与正のワンポイント・リリーフは、中国より日本のケースに似ている。金王朝はやっぱり、天皇制に通じるのだ。
 
 
金与正」と「金正男の息子・金漢率」の関係
 photo by GettyImages
 
 さて、金与正にも男の子がいた場合、どうなるか。  母親の李雪主が育てた金正恩の息子より、自分の息子が大事ではないだろうか。それに金正恩の息子が権力を握ると、自分も自分の息子も、粛清されるかもと心配しなければならない。それならと、金正恩の息子と権力闘争になるかもしれない。  
 
金正恩に、実は男の子がいない場合。このケースは、もっと悩ましい。金正恩が死ぬと、その系統は絶えてしまう。「白頭山の血統」であと残っているのは、金与正のほかには、金正男の息子の金漢率(ハンソル)ぐらいだ。金正恩の兄の正哲やほかの男性親族は、政治に興味がないと、世捨て人のように身を守っている。  
 
金漢率は、父を殺され、アメリカCIAに身柄を保護されている。北朝鮮の独裁体制に批判的な考えを持っているだろう。そのうち担がれて、北朝鮮のトップに据えられる可能性があるということだ。  
 
金与正は女性で、金漢率は直系の男性。金漢率のほうがずっと正統である。金与正は、金漢率を気にしなければならない立場だ。 
 
 金与正が後継者に急浮上したのは、本人の意欲もある。が、それ以上に、ほかに後継者がいないから金与正で行こう、と党や軍の幹部が思ったということである。
 
  独裁者が交替すると、政権幹部の多くも交替する。そこで、後継者を誰にするか、議論が紛糾する。金与正にも反対があったはずだ。  金与正は、組織部を基盤に、党をおさえている。あとは、軍を掌握してみせなければならない。
 
 
金与正は、北朝鮮の「最後の切り札」
 連絡事務所を爆破したあと、指揮権を軍の総参謀部に戻すとのべた。指揮権は、金正恩-総参謀部-軍部隊、のラインにあるのが正しい。それを、(金正恩-)金与正-総参謀部-軍部隊、の線で動かした。一時的にせよ、指揮権をふるってみせた、ということである。 
 
 これは、立派な実績になる。後継者として適格だとアピールできる。  
 
北朝鮮の体制が続くカギは、安全保障。そのため核開発を進めてきた。核弾頭を数十発製造し、アメリカに届こうというミサイルも開発した。あとは,潜水艦搭載のSLBMが配備できれば、万全だ。もうアメリカの武力を恐れる必要はない。核保有国として、アメリカと対等に交渉できる。  
 
もうひとつのカギは、独裁を維持し、「白頭山の血統」を守りぬくこと。かつての日本風に言えば、「国体を守れ」である。金与正が後継者になった。北朝鮮にはもう後がない、ということだ。  
 
金与正に男子がいるとして、権力を継承させられそうにない。「白頭山の血統」と言いにくいからだ。この問題は日本の、女系天皇を容認するかの議論と似ている。女系は、天皇制の伝統ではない。でも、そんなことを言っている場合ではない。国民の合意があれば、女性天皇、そして女系天皇でもよいではないか。  
 
同じ理屈を、北朝鮮の指導部も考えた。金与正が後継者になるとすれば、そういう意味になる。日本の女性天皇は、国民の暖かい合意に包まれるだろう。女性独裁者の金与正は、暖かく迎えられるか疑問である。  
 
独裁政権なるものは、ひと握りの人びとの利権や特権のかたまりである。多くの人びとがそれを支持しないと声をあげれば、あっさり倒れる。 
 
 金与正は、それでも政権を守ろうとする、北朝鮮の切り札である。でももう、ほかに切り札は残っていないかもしれない。 
 
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7/9thu/2020
 
 
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