新型コロナウイルスの感染が拡大して病床が逼迫するにつれ、無症状や軽症の自宅療養者や宿泊療養者が急速に悪化し、死亡するケースが増えている。救急医療の専門家は、コロナ患者の場合、患者自身も気付かないうちに血液中の酸素濃度が下がる「ハッピー・ハイポキシア(幸福な低酸素)」になる恐れがあると警鐘を鳴らす。
神奈川県の50代男性は、軽症で基礎疾患もなく、昨年12月9日に県の宿泊療養施設に入った。2日後の午後、定時連絡への応答がなく、看護師が部屋へ行くとベッドで心肺停止状態になっていた。
大阪府の50代男性も陽性の届け出を受けた保健所が今年1月14日に電話連絡し、検査時には無症状だったが、翌15日の連絡時は症状が出ていると回答。救急搬送先で死亡が確認された。
1・25・2021
無症状や軽症の人が急激に重症化する要因の一つとされる「ハッピー・ハイポキシア」について「本人は苦しさを感じないが、実際には重症化に陥っている」と解説するのは、東海大学医学部付属病院高度救命救急センターの守田誠司所長だ。
「航空医学から出た用語で、飛行機の高度が上がって気圧が低くなり、操縦士の脳に酸素が回らなくなると、多幸感が生じて判断を誤り、墜落する例もあった」という。ハッピーと名がついていても恐ろしい症状だ。
コロナ感染者の急速な重症化について守田氏は、「患者本人は平気な様子で来院しているが、データをみると血中酸素濃度が低いことも少なくない。自覚しないまま急激に症状が悪化する
というのはコロナ以外の肺炎などではほとんどみられないケースだ」と語る。 東京都は15日から、都内の自宅療養者を対象とした支援の一環として、酸素飽和度を測定する「パルスオキシメーター」の貸し出しを高齢者など優先度の高い患者から貸与しているという。
守田氏は、「一般に正常値は96~100%で、95%を切ると低酸素状態、90%を切るとためらわず救急車を呼ばなければ間に合わなくなる。パルスオキシメーターが手元にない場合、家族から見て感染者のテンションが普段より高いことで異変に気付く例もあるので、よく様子を見てほしい」とアドバイスした。