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>提供する医療のレベルが低くても、“医師”という資格を利用すれば簡単に金儲けができることに医師人生の途中で気付くのです
>当然のことながら、詐欺医療に健康保険は利かない。全額が自由診療、つまり自己負担となる。医療費は医者の「言い値」なので高額だ。
>悪徳医師の多くがターゲットにするのが慢性疾患やがんで、中でも“がんの終末期”の患者が狙われやすいという。
《「医師」の肩書を信じないで》悪徳医師が生まれる“哀れなメカニズム”と末期がん患者が「命を落とした時の言い訳」とは

2/17/2022
がんなどの深刻な病気の患者の悩みに付け込み、科学的根拠のない詐欺医療を行い、高額な“医療費”を騙し取る悪徳医師。
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しかし、悪徳とはいえ「医師」である。彼らは大学の医学部を卒業し、医師国家試験に合格している。そこに至る道のりは決してラクではなかったはずなのに、なぜ道を踏み外してしまったのだろう。
詐欺医療の実態を解明し、医学的根拠に基づく解説をすることで被害者をなくし、詐欺医療の根絶を目指す「詐欺医療から人々を守るプロジェクト(略称=サギプロ)」を設立した上松正和医師(東京大学医学部附属病院放射線科助教)に話を聞いた。
悪徳医師が生まれるメカニズムとは
そもそも悪徳医師が生まれる背景には何があるのか。
「ひと口に“医師”と言っても、その中には優秀な医師と、そうでない医師がいる。医師国家試験合格後も勉強や研鑽を続けられない医師は、まともな医療を提供し続けることができません。ただ、提供する医療のレベルが低くても、“医師”という資格を利用すれば簡単に金儲けができることに医師人生の途中で気付くのです」(上松医師、以下同)
ドロップアウトしそうな医師を探して取り込もうとする“悪徳業者”も存在する。効果のないサプリメントや水などのインチキ商品を消費者を騙して売りつけるには、「医師」という資格は抜群の効果を持つ。最も簡単なのは、クリニックを開設し、医師の資格を持つ者を雇い、診療の一環として商品を売りつける方法だ。
「インチキ商品を売りたい業者は、話に乗ってきそうな医者をつねに探しています。僕のところにも求人メールが来ますよ。『短い労働時間で年収は数千万円!』とか(笑)。
しかも詐欺医療であることはとりあえず隠して、『新しい免疫治療』なんて書いてある。まともな医者が読めばすぐにインチキと判るのですが、意外に簡単に魂を売って、詐欺医療に流れてしまう医者もいるんです」
上松医師によると、悪徳医師にも大きく分けて2つのタイプがあるという。
「金儲け」という目的をもって患者を騙す医者と、
本気でその詐欺治療が効く、と信じ込んでいるタイプだ。
「統計はないので肌感覚ですが、はじめのうちは前者、つまり金儲けのために患者を騙している医師が多数でしょう。ただ、嘘を言い続ける自分や、他の医師から批判される自分を直視できず、自らの嘘を信じ込んでいく医師がいるようです。そんな医師にとっては医療の効果の検証など求めていないので何を言っても通じない」
医師の「保険が利かない」発言にはご用心
そう言えば、かつてオウム真理教(当時)がクリニックを持ち、一般診療を行っていたことがある。しかし「診療」とは名ばかりで、実際には医師の資格を持つ信者が、診療の名のもとに洗脳をしていただけのこと。
医師が信仰や信念を持つのは自由だが、科学者であるはずの彼らが、自身の信仰や信念を押し付ける道具として医療を利用し始めると、事はとても厄介になってくる。上松医師の「何を言っても通じない」という言葉がよく理解できる。
当然のことながら、詐欺医療に健康保険は利かない。全額が自由診療、つまり自己負担となる。医療費は医者の「言い値」なので高額だ。
そんな時、悪徳医師は「保険が利かない」という点を逆手にとった商売をするという。
「『まだ国も知らない新しい治療』とか、『自由診療だから国の規制を受けなくていい』『一人ひとりの患者さんに合わせたベストな治療が可能』などのセールストークがよく使われます。でも実際には、保険診療でもかなり自由に治療を組み合わせて“ベストな治療”ができるのですが……」
患者側はリテラシーを上げて自衛
こうしたフレーズに騙されないためには、患者側もリテラシーを上げて自衛する必要があるだろう。
「まず、前提として、自由診療が必ずしも詐欺医療ではありません。保険診療になるにはある程度の規模を対象とした治験で得られた科学的根拠(エビデンス)が必要なので、重粒子線治療など一部の症例には効果がありそうでも、症例数が少ないため保険で認められないケースはあります。ただ、乳がんや前立腺がんなど患者数の多い病気で、自由診療が効果を示すケースは極めて少ないのが実情です。
信頼できる順に並べると『自由診療<<<保険診療<標準治療』といった感じです。新たに開発された治療法に一定の効果が認められれば保険診療にはなりますが、それが標準治療になるには、既存の治療と比べて有効性が優れていることを証明するための比較試験をクリアしなければならない」
そうした審査を経て行われる標準治療と、「国も知らない治療」のどちらに大切な命を預けるべきか――。
たしかに患者の側に理解力が求められるところだ。
最大のターゲットは“終末期のがん患者”
そのうえで上松医師が付け加える。
「もし本当に効果の期待できる薬やサプリを開発したとしたら、開発者(製薬企業)はその薬やサプリをたくさん使ってもらうために保険収載(保険診療での使用が認められること)を目指すはずで、そのためには治験が不可欠。治験は患者に経済的負担のかからない仕組みで行われるので、保険診療よりも安い出費で済みます。
つまり、現状の日本の医療制度で、効果の期待できる医療に、保険診療とは桁違いの高額な医療費が発生することはあり得ないと考えたほうがいいでしょう。例外的に先進医療という保険外で提供される医療がありますが、これは保険診療になるためのデータが今ひとつ足りない段階のもので、期待はあるものの効果が認められて保険承認されるのは6%程度です」
本当に「効果のある薬(サプリメント)」と謳いながら、自由診療でしか使われないのは、健康保険制度の整備された日本において「理屈が通らない話」というわけだ。
そして、悪徳医師の多くがターゲットにするのが慢性疾患やがんで、中でも“がんの終末期”の患者が狙われやすいという。
「卑劣な理由ですが、終末期の患者やその家族の藁にも縋る思いを利用して、大金を引き出せるからです。なかにはその患者が命を落とせば訴えられることなく逃げ切れると思っている悪徳医師もいるでしょう。医師として、本当に許しがたい行為です」
必ず標準医療を行う主治医に相談を
どんなに大金を使おうと、それがインチキである以上、効果はない。しかし詐欺医療の側には、患者が命を落としたときの言い訳も用意されている。
「『抗がん剤や放射線の影響で助からなかった。もっと早くウチに来ていれば……』が常套句。
反対に、もし症状に少しでも改善がみられたら、広告塔として利用されます。それで症状が改善した人は詐欺医療で改善したのではなく、標準治療による副作用がなくなって一時的に体が楽になっただけで、実際は病状が進行していることが多いのですが……。
がん患者への詐欺医療は、病状が悪化しても近くの救急病院に行け、と言うだけなので、悪徳医師の側に損はない仕組みなんです」
ところで、詐欺医療に運悪く取り込まれてしまった患者は、それまでの主治医(正当な医療の医師)にはどう説明しているのだろう。一説によると、3~4割が主治医には内緒にしているという。しかしこれは非常に危険だ。
「詐欺医療で出す“わけの分からないサプリメント”が、正当な標準治療で処方される薬と干渉して効果を下げたり、悪化させたりする危険性があります。どうしても標準治療以外の“治療”に興味があるなら、まずは正直に主治医に相談してほしい」
おそらく主治医は反対するだろう。しかし、そこできちんと議論することが、命とお金を守ることにつながるのだ。
最後に上松医師は、こうつぶやいた。
「“医師”という肩書を信用しないでください……」 同業者と闘わなければならない上松医師の無念さが伝わってきた。
長田 昭二/Webオリジナル(特集班)