息子を医大に「裏口入学」させた罪を着させられたキャリア官僚と、元文科事務次官・前川喜平の関係性

1/27(金) 7:03配信
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贈収賄事件において、見返りが金銭ではなく、息子の医大合格というのは前代未聞だ。当初は金銭の授受を視野に文科省キャリア逮捕という戦果を上げようとしていた東京地検特捜部は、なぜそこまで強引に、東京医大「不正入試」事件を立件しようとしたのか。「内閣人事局」「前川の乱」「森友・加計問題」などが複雑に絡み合う背景に追る連載最終回。
『東京医大「不正入試」事件』(5)前編 【
検察の無理筋シナリオに裁判所が推認を重ねて有罪に
文部科学省科学技術・学術政策局長(役職は当時、以下同)の佐野太被告が受託収賄の疑いで逮捕・起訴された、2018年夏の東京医大「不正入試」事件。
東京地検特捜部の森本宏部長と廣田能英主任検事が描いた無理筋のシナリオを、東京地裁の西野吾一裁判長が推認に推認を重ねて有罪に仕立て上げた判決内容は、すでに病膏肓に入った日本の刑事司法の現状を改めて浮き彫りにしたものと言えるだろう。
そもそも森本部長率いる東京地検特捜部はなぜ、贈収賄事件の見返りが金銭ではなく、息子の医大合格というような“筋の悪い”ネタを強引に事件化しようと目論んだのか。
実はこの事件が立件された18年7月当時、永田町・霞が関界隈では「事件の根底には(内閣人事局を実質的に取り仕切る)『首相官邸』に対する、検察側の忖度があったのではないか」と囁かれていた。それは以下に述べる背景に基づくが、公判で明らかになった事実も踏まえて、事件化された経緯を改めて振り返ってみよう。
前川元文科次官と「官邸」との確執が発端?
12年12月に発足した第2次安倍晋三政権は、「霞が関」の人事権を掌握して「官邸」主導の政治運営を進めたが、なかでも安倍一強を形作る力の源泉と言われたのが、各省庁の審議官級以上約600人の人事を操る内閣人事局だった。「官邸」は同局を実質的に取り仕切ることで、霞が関のキャリア官僚を震撼させていたが、これに正面から異を唱えたのが、16年6月から17年1月まで文科事務次官を務めた前川喜平氏だった。
前川氏は天下り仲介スキームに関わる再就職等規制違反の責任を取る形で、17年1月20日に文科事務次官を辞任した。
「官邸」には、この時の前川氏の姿勢が「地位に恋々としがみついている」と映ったようだ。
それから4ヵ月後の5月17日、「加計学園」問題を巡り、朝日新聞が「文科省が内閣府から『総理のご意向だと聞いている』と言われたと記載された、複数の文書が存在している」とスクープ。これについて前川氏は、「次官在任中に担当課から受け取った文書に間違いない」と明言した。
その後、読売新聞が、前川氏が出会い系バーに頻繁に出入りしているなどと報じ、「官邸」からのリークが噂された。それでも前川氏はひるむことなく記者会見を開き、朝日が報じた文書について「幹部の間で共有され、確実に存在していた」と断言した。これが決定的に「官邸」の逆鱗に触れることになった。いわゆる「前川の乱」である。 この前川氏とコンビを組んで文科省を動かしていた存在が佐野被告だった。
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後編記事【安倍政権「森友問題」の目くらましに利用された…⁉ 世間を大騒ぎせた医大「裏口入学」事件の真相】に続きます
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安倍政権「森友問題」の目くらましに利用された…⁉ 世間を大騒ぎさせた医大「裏口入学」事件の真相
田中 周紀ジャーナリスト贈収賄事件において、見返りが金銭ではなく、息子の医大合格というのは前代未聞だ。当初は金銭の授受を視野に文科省キャリア逮捕という戦果を上げようとしていた東京地検特捜部は、なぜそこまで強引に、東京医大「不正入試」事件を立件しようとしたのか。「内閣人事局」「前川の乱」「森友・加計問題」などが複雑に絡み合う背景に追る連載最終回。
『東京医大「不正入試」事件』(5)後編
「次の次の事務次官」と言われていた佐野被告
12年1月から13年6月まで、大臣官房長を務めた前川(喜平)氏の下で、佐野太被告は12年7月から大臣官房政策課長、12年12月から13年6月まで同総務課長を歴任。前川氏が16年6月に事務次官に就任すると、佐野被告も歩調を合わせるかのように大臣官房長に就いた。ある永田町関係者が話す。
「前川氏が記者会見で『あったことをなかったことにはできない』などと明言したことから、前川一派は『官邸』から目の敵にされてしまい、文科省に残っている前川一派はみんな傷めつけてやろうということで、捜査当局が同省の局長クラスを標的に内偵捜査を進めることになったのです。なかでも佐野氏は前川氏と一心同体と見做され、前川氏が事務次官を2年間務めた後の、次の次の事務次官就任が確実視されていた。その芽を摘んでおくという意味でも、格好の標的でした」
特捜部は当然、この捜査を担うことになる。それに検察庁の人事も「官邸」の掌の上にあるのは自明の理。ここで文科省のキャリア官僚を誰か一人でも挙げておけば、審議官以上の人事権を一手に握る「官邸」に対して恩が売れ、その覚えもめでたくなる。
そこに引っ掛かってきたのが、一連の事件で「霞が関ブローカー」とされた谷口浩二被告と佐野被告の関係だった。両者はしばしばゴルフのラウンドを共にしていたが、プレー代は必ず自身が負担し、谷口被告が開いていた銀座のクラブでの飲食にも佐野被告は一切参加していなかった。内偵捜査は停滞を余儀なくされた。
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