闇夜に紛れ牛65頭襲う、北の大地で神出鬼没「OSO18」…ワナすり抜け「人間の考え読んでる」
2022/11/07 14:10
北海道東部の 標茶(しべちゃ) 町と 厚岸(あっけし) 町で2019年以降、1頭の大型のヒグマが放牧中の乳牛を襲い続けている。被害は今年の8頭を含めて計65頭に上り、このうち31頭が死んだ。ワナをかいくぐり、闇夜に紛れて獲物を狙うヒグマの名は「OSO18(オソ・ジュウハチ)」。酪農が盛んな地域にとって深刻な脅威となっている。(長谷裕太)
監視カメラが捉えたOSO18とみられるヒグマ。餌が置かれた箱ワナの脇を素通りした(標茶町提供)監視カメラが捉えたOSO18とみられるヒグマ(標茶町提供)
10月半ば、標茶町の山中で、地元のハンターらがオフロード車を走らせていた。OSO18の手がかりを追うためだ。「神経を研ぎ澄まして行くぞ」。北海道猟友会標茶支部長の後藤勲さん(79)が仲間に声をかけた。
牛の襲撃は19年7月、標茶町オソツベツ地区から始まった。放牧中の1頭が背中を引き裂かれていた。その後も被害が続き、足跡の分析から、襲ったのは体長2メートル、体重300キロを超える10歳以上の雄グマと推定された。足跡は幅が18センチもあり、現場の地名と合わせ、OSO18と呼ばれるようになった。
出没4年目の今年も、7月から被害が相次いだが、8月20日を最後に沈黙を保ったままだ。とにかく用心深くて神出鬼没。後藤さんらは約4時間、ライフル銃を引っ提げて山中を捜し回ったものの、その姿を捉えることはできなかった。
ヒグマは本州や四国にいるツキノワグマよりも大型だが、多くは木の実などを餌にする。エゾシカを捕食することもあるが、牛を襲うケースは極めて珍しい。
OSO18は知能が高く、襲撃を重ねるうちに、「捕獲の網」をすり抜けるすべを学習していると考えられている。深夜から明け方に放牧中の牛のみを狙い、牛舎などには近づかない。沢や林の中を移動しているとみられ、足跡もほとんど残さない。他のヒグマと違い、仕留めた獲物を土に埋めて後で戻ってくる習性も持ち合わせていない。被害現場の範囲は直線距離で30キロ以上にも及ぶのに、それらしきヒグマの目撃情報は1件だけだ。
OSO18の足跡(標茶町提供)
標茶町では、職員が餌を仕込んだ箱ワナを各所に仕掛けているが、そのすぐ横を通り抜ける様子が監視カメラに映っていた。町農林課の宮沢 匠(たくみ) 係長は「警戒心がずば抜けている。人間の考えていることを読んでいるようだ」と歯がみする。
牧場側も手をこまねいているわけではない。昨年、乳牛4頭を襲われた厚岸町営牧場は今春、被害エリアを中心に総延長23キロを電気柵で囲った。牧場全体の4分の1程度だが、牧場長の桜井唯博さん(57)は「できる限りの対策を打つしかない」と話す。
現場に残された体毛のDNA型などから、OSO18以外に牛を襲うヒグマはいないとみられ、道ヒグマ対策室は「OSO18を駆除できれば被害は収まる」との見立てだ。
「放牧ができなくなるなど地域の酪農のあり方にも影響が出てきている」として駆除の妥当性を訴える。
地元の危機感はさらに強い。猟友会の後藤さんは「OSO18が襲った死骸から、他のクマが牛の味を覚えるかもしれず、第2、第3のOSOが生まれる前に駆除しなければならない。今年の冬眠前までには決着をつけたい」と話す。