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「野獣死すべし」

 日曜日、何年かぶりに松田優作主演の「野獣死すべし」をDVDで見た。
 松田優作の鬼気迫る演技と小林麻美の可憐さには改めて思いを深くした。


 
 映画の出来としては疑問が残る気もしなくもなかったが、そんなもの松田優作を見ているだけで霧散してしまう。松田優作の魅力を凝縮したような映画だった。やっぱ、かっこいいわ・・。
 
 劇中に松田優作の声で流れる詩は誰の作だろうと思って調べてみたら、萩原朔太郎だった。この詩がこの映画を象徴しているとは思えなかったが、久しぶりに萩原朔太郎の詩に触れた感激を記念して、詩を引用してみる。


『漂泊者の歌』  萩原朔太郎 

日は断崖の上に登り
憂ひは陸橋の下を低く歩めり。
無限に遠き空の彼方
続ける鉄路の柵の背後〔うしろ〕に
一つの寂しき影は漂ふ。

ああ汝 漂泊者!
過去より来りて未来を過ぎ
久遠の郷愁を追ひ行くもの。
いかなれば蹌爾として
時計の如くに憂ひ歩むぞ。
石もて蛇を殺すごとく
一つの輪廻を断絶して
意志なき寂寥を蹈み切れかし。

ああ 悪魔よりも孤独にして
汝は氷霜の冬に耐えたるかな!
かつて何物をも信ずることなく
汝の信ずるところに憤怒を知れり。
かつて欲情の否定を知らず
汝の欲情するものを弾劾せり。
いかなればまた愁ひ疲れて
やさしく抱かれ接吻〔きす〕する者の家に帰らん。
かつて何物をも汝は愛せず
何物もまたかつて汝を愛せざるべし。

ああ汝 寂寥の人
悲しき落日の坂を登りて
意志なき断崖を漂泊〔さまよ〕ひ行けど
いづこに家郷はあらざるべし。
汝の家郷は有らざるべし!
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