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尾崎翠

 LINEでの授業は7時までなので、夜にゆっくりできる時間ができ、本でも読んでみようか、などと1ヶ月前は思っていたが、思いのほか疲れてしまい、11時過ぎくらいには寝入ってしまうのが毎日となっている。当然本を読む時間などなく、かなり当てが外れたことになっているが、それでも昨夜はどういうわけだか、部屋に転がっていた本を手に取った。「ちくま文学の森 美しい恋の物語」。かなり前にモーパッサンの短編「未亡人」をフランス語で読んでみようと思い立ったものの、己の能力に自信が持てずに、カンペとして本を探し当てて買ったものだった。
 まず最初に堀辰雄の「燃ゆる頬」という短編を読んだ。16ページほどの短編ですぐに読み終えた。堀辰雄の小説は40年以上前にいくつか読んだ記憶はあるが、果たして何という題名のものだったか、もう忘れてしまった。それなのにこの「燃ゆる頬」を読みながら、「ああ、堀辰雄だ・・」などと思ったのは、ただの勘違いか、それとも昔取った杵柄の証なのか、よく分からない。でも、この小説で感想文は書きたくないな、というのが率直な思いだった。
 続けて「初恋」という短編が載っていた。私はよく確認もせず、これを島崎藤村の小説だと勘違いして読み始めた。(藤村の「初恋」は「まだあげ初めし前髪の・・」という詩なのに・・)。だから、私の知っている藤村の小説とはかなりテイストが違う文章と設定に戸惑いながらも、藤村はこんな小説も書けるのか、という妙な感心とともに読み進めていった。
 この短編の結末は「なんだ・・」と肩すかしを食わされる物だったが、途中の表現は繊細を極め、ぐいぐいと作中に引き込まれていった。何より今読んでも決して古ぼけていない描写にはかなり心を揺さぶられた。「さすが、藤村」などと偉そうな感想を口走りながら、少し読み返してみてびっくりした。
「藤村じゃない!尾崎翠って誰?」
と己の恥を晒すようだが、初めて目にする名前に驚いた。よく見れば、作者についての注釈も載っていた。
『1896年(明治29年)~1971年(昭和46年) 鳥取生まれ。女学校時代に「文学世界」へ投書を始める。故郷での代用教員ののち上京、日本女子大学に入学、「無風帯から」を発表。女子大中退後、文学に専念。「アップルパイの午後」「第七感界彷徨」で一部の注目をあびる。昭和七年の帰郷後、音信を絶つ。戦後一時、行商をしていた。その後老人ホームに。「第七感界彷徨」があらためて発見されたのちも、面会を謝絶、ひっそりと死去。「初恋」は昭和二年、「随筆」に発表したものだ。』
 全く知らなかった・・。少し調べてみたら、花田清輝も注目していたとかの記述を見つけた。「おお!あの花田清輝が!!」とかなりの衝撃を受けて他の作品を読むことはできないかと、さらに調べてみたら、「ちくま日本文学」に「尾崎翠」という一冊があることを知り、早速注文した。
 これは、コロナ自粛で慣れない生活にヘトヘトになっている私への天からの慰藉かもしれない・・。 
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