1分で読める小さなお寺の法話集

子育て、人材育成に関する法話を実話と歴史から紐解いて書いております。

【住職の法話。考え方を少し変えるだけで、苦しい人生が、楽しい人生に】 縁というは、まことに不思議なもの。が、犬も歩かにゃ、棒にも当たらん。種も撒かにゃ、芽も出らん。

2023-08-19 14:00:54 | 法話

 8月20日投稿分 


この仕事(住職)をしておりますと、様々な面白い縁がやってまいります。もうかれこれ10年以上前の事ですが、ある大手スーパーの社長(当時80歳くらい)が、書店で偶々、拙僧の法話本を手に取り「こいつ(拙僧の事)は、面白い坊主だな。近くだし、1度会ってみるか」で呼び出された家が、そりゃ、ものゴッツでかい家でして、床の間に通されると、縦150センチ、横100センチ程の大きな神棚が4つ(明治神宮、宇佐神宮、伊勢神宮、出雲大社)、お祀りを。社長が拙僧に「これ、どう思うや。屈託のない意見を聞かせろ」と。言葉遣い通りの豪傑。対し、拙僧「この神棚、触ってもいいですか」と許可を得て、閉じていた扉を全部開け放すと「何でや」と社長が。「両手でわが目を覆ってごらん。鬱陶しいでしょうが」「んんっ、確かに」と、しばし無言に。


更に、この社長が「ところで住職よ。わしは今、癌でな。医者は言い難いのか、はっきり物を言わん。これこれこういう状態なんだが、わしは助かると思うか」と。「その病状じゃ、難しいでしょうね。が、1000人近くを葬儀、それ以上の人の『生き死に』に関わってきた経験からして、人間は、死ぬ時は、死ぬ。如何に、死にとうても、死ねん。人間は間違いなく、寿命。病気じゃ、死なないかな」と。すると社長、仁王さんみたいな顔で、ニコッと笑って「わしに対し、ここまでズケズケ物を言う奴は初めてじゃ。あんた(拙僧の事)、気に入ったわい。毎月、ここに来てくれんか」と。そこからの縁で、社長が他界するまで7年間、お付き合い(神棚、仏壇参り)を。


その7年間の間、様々な話が交わされましたが、それを全て書けば、膨大な量になるので、1つだけ『ほう』という話だけを書きましょうかね。


社長が「住職よ、わしは若い頃、田舎(生まれ里)で小さなスーパーから始めて、今日までに築き上げてきたが、10年程前、倒産の危機に見舞われ、先祖代々の土地を泣く泣く売却する事になったんじゃ。それが数十億で売れたが、借金を全て返済したら、残りがたったの400万円になった。その内の200万円は、長い間苦労を掛けてきた女房に『好きな事に使え』と。そんな事を言っても、無駄遣いをする様な女房ではないがな。残りの200万円は、その土地、その土地で、商売をさせてもらってきた事の御礼報謝として、10店舗が建つ土地の氏神(八幡様)さんに、数十万円づつお賽銭を。大学から戻ってきたばかりの息子(現社長)が『何という事をするんだ』と猛反対されたが『これだけは、わしの気の済む様にさせてくれ』と頼んだんじゃ」と。


この事について、後に現社長(息子さん)から「住職。あの時、親父は、残りのお金を全て氏神さんの賽銭に。当時は『なんて事を』と思ったが、今の繁栄は間違いなく、あの時から始まったような気がする」と。これは、拙僧の憶測だが、恐らく社長(親父様)は『人間は裸で生まれてきたんだ。やり直そうと思ったら、丸裸になるが最も早い近道』と思われたんではないかと。縁あった7年間の付き合いから、恐らくこの親父様(初代社長)は、そういう風に思われたんではないかと。


因みに、この社長(親父様)と、現社長(息子さん)は『拙僧との縁は、自分だけのもの』とお互いが、そう思っておりました。お2人ともが、同じ書店で偶々、拙僧の法話本を手に取った事が、始まりの縁にて。縁とは実に、面白いもんですね。拙僧も「親父様(初代社長)を知ってますよ。7年間、ご自宅の方に毎月、伺っておりましたよ」とは、ご本人(現社長)には、話してなかったですもんね。


この大手スーパーの現社長(息子さん)に依頼され、拙僧、社長100人程の前で講演を。その時に「求人広告で『経験者優遇』の表示は如何なものですかな。経験者が仕事が出来るとは、経験者が真面目に仕事をするとは、限らんでしょ。『育てる』という一手間を嫌って、未経験者を直に確かめもせず、面接段階で切るは、将来の会社にとって、大変な宝となるやも知れん逸材を、みすみす逃す事になりはしませんか。やる気のある未経験者は、やる気のない経験者を、あっという間に追い抜いていきますよ。昨今、就職しても、数年でコロコロ職を変わる人が多いそうですね。選択の自由、と言えばそれまでですが。そう考えると、求人においての年齢制限は、あまり意味がないのではないかと。数年で辞めていくなら、使える(仕事が出来る)60代、70代は、沢山おりゃせんですかね。求人で呼びかけて、その年齢で面接に来るという事は、意欲があるという事でしょ。老齢化社会のその中で、会社の宝となる老齢者が。若い人達にも良い刺激に」と。


【余談】

就職の話が出ると、いつも思うのですが、医学部受験も、またその如しかな。受験だから、学力試験の点数は、合否の基準になるは仕方のない事だが、僅か数点差で落とされた中に、将来『神の手』となる逸材がいたとしたら、医学の世界(患者にも)にとっては大損害に。外科志望は、試験前に何かしらの手立て(器用さを調べる)を。わが寺の宮大工棟梁(現99歳)が「手の器用さは、如何ともし難いものがある」と。以前、山中伸弥医師(ips 細胞)が「私は外科志望だったが、手の不器用さは如何ともし難い」と、別の道を模索されたと言われておりましたもんね。


それと、今1つ。国立なら、医学部でも6年間、350万円程で済むが、私立医学部になると、安くても2000万円。色々クリアー出来る策は取られてはいるが、実際は授業料以外の出費(多額の寄付金など)が。檀家の中にも、私立の医学部に行った者が何人かいまして、ある檀家は、親は家を売りましたもんね。志を貫くにも、まずはお金が必要。志はあっても、お金がなくて、それを貫けない。どれほどの逸材を逃してきたんだろうね、医学界は。医学界に限らずですが。何とか、ならんもんかな、日本の教育。


先日、読者が「住職さん、今日、過労自殺された若手医師のニュースが」と。「見ましたよ。わが寺の檀家にも医師、看護師の人が何人かおらっしゃいますが、とんでもないくらい疲労困憊を。何回か代議士さんに「拙僧知人の医師、看護師さんが『給料を下げてもいいから、今の倍の人材が欲しい』と言ってますよ。将来は、老人だらけに。『立派なお寺があっても、そこに良寛がいなきゃ、何にもならん』という言葉が。医師、看護師を増やしましょうや。様々な問題をクリアーして。人材を、育てる、探すは、組織の上に立つ人の役目ですばい、と進言した事が」と。


拙僧、方々の看護協会からこれまでに、10回以上講演を依頼されました。この度もオンデマンドで。10月にお寺に来られ、法話の撮影をする事に。講演依頼の内容は、看護師さん達が疲労困憊で、何か、元気が出る様な話をくださいとの事。働き方改革という言葉を耳にして久しいが、労働時間の短縮は、人材を増やすしかないかな。


次の投稿法話は、8月25日になります。