孫崎享著『日米開戦へのスパイ』を読む
侘助 孫崎享著『日米開戦へのスパイ』を読んだ。
呑助 スパイとは誰のことですか。
侘助 スパイ、リヒアルト・ゾルゲのことを書いている。
呑助 篠田正浩監督の映画『スパイ・ゾルゲ』を見ましたよ。
侘助 ゾルゲ団の一人として逮捕され、死刑された尾崎秀実(ほつみ)著『愛情はふる星のごとく』がベストセラーとなり、ゾルゲ事件は広く国民に知られるようになったスパイ事件かな。
呑助 酒と女を愛した国際的なスパイというだけで大衆の心を掴むには十分な出来事ですよね。
侘助 ゾルゲに尽くし通したのが、愛人の石井花子だ。ゾルゲが絞首刑になると、彼の遺骨を掘り返し、多摩墓苑に立派な墓を作って、埋葬したようだからね。
呑助 孫崎さんはどのような切り口でゾルゲを書いているんですか。
侘助 ゾルゲは絞首刑になるような政治的な損害を日本国に与えていないにも関わらずに絞首刑にされた。その理由は何か。
呑助 日本政府はゾルゲに機密情報を盗まれていないということなんですか。
侘助 当時の日本政府にとってダメージを受けるような機密情報は無かった。
呑助 ゾルゲが得た機密情報とは、何なんですか。
侘助 最大のものはドイツ・ヒトラー軍がソ連に宣戦布告をし、進軍を始めるのが何時かと、いうことをソ連政府にもアメリカ政府にも情報を流していたということとなのかな。
呑助 ソ連にもアメリカにもそのような情報を流していたんですか。ゾルゲというのは、ソ連のスパイだったんですよね。
侘助 当時、ソ連とアメリカはともに連合国の仲間だったからね。
呑助 ドイツや日本のファシズム政権と戦ったスパイだったということですか。
侘助 ドイツ・ヒトラー政権と戦ったスパイなんだと思う。
呑助 日本政府は特にスパイ・ゾルゲに機密情報を盗まれたということはないということなんですね。
侘助 日本政府内の政権闘争にゾルゲ事件は利用されたと孫崎さんは主張している。1941年、時の近衛内閣の最大の課題は対米関係だった。
呑助 当時日本軍は中国へ進軍していたんですよね。満州から華北へと破竹の勢いで勢力ほ拡大していたんですよね。
侘助 そうなんだ。日本軍の中国侵略にアメリカが介入してきた。アメリカもまた中国への進軍をしたいと考えていた。外交的努力によってアメリカとの和平を実現したいというのが総理大臣近衛文麿の方針だった。一方外交でアメリカと和平することに対して陸軍は自分たちの今までの努力を無にするのだと反対し、アメリカとの戦端を開くべきだと主張したのが東条英機陸軍大臣だった。
呑助 近衛総理と東条陸軍大臣が中国問題を巡って対立していたということなんですね。
侘助 東条陸軍大臣は近衛総理を辞任させ、自分が総理になろうと画策をした。如何にしたら、近衛総理を辞任に追い込むことができるか策を練った。それがゾルゲ事件だった。
呑助 政権闘争とゾルゲ事件に関係があったということなんですか。
侘助 東条陸軍大臣は近衛総理に辞任しろと進言し、あとは東久邇宮に任せたらどうかと提案した。さらに政権に大きな影響を持つ公家たちには公家が政権を担当する危険性を主張した。
呑助 東条という人はなかなかの策士なんですね。
侘助 そのような時に近衛首相の補佐官の一人がゾルゲ事件に関わり逮捕される。その人が尾崎秀実だった。
呑助 赤色スパイ団の一人が近衛首相の側近だった。
侘助 近衛首相は辞任し、後に東条英機陸軍大臣が総理になる。こうして日本は真珠湾攻撃をする。日米戦争の始まりだ。東条陸軍大臣がゾルゲ事件をつくりだし、近衛総理を追い落とし、日米戦争への道を開いた。
呑助 東条の陰謀ですか。