醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  989号  白井一道

2019-02-05 13:09:15 | 随筆・小説



  ベネズエラに「ショック・ドクトリン」か


侘助 南米ベネズエラが国家破綻の危機にあるという報道があるね。
呑助 ハイパーインフレだそうですね。
侘助 国際通貨基金(IMF)はインフレ率が2019年中に年率1000万%に達すると予測しているようだ。
呑助 国を捨て、難民化する国民が増えてきている状況だそうですね。
侘助 政情不安と暴力行為、食糧や医薬品、生活用品の不足により、多くの家族の生活が崩壊し、毎日5000人ものベネズエラ人が近隣諸国へ渡ろうとしていることが報じられている。人々の避難の影響を最も受けている隣国コロンビアでは、すでに約100万人のベネズエラ人を受け入れている他、エクアドルには22万人以上、アルゼンチンには13万人、チリには10万人、そしてブラジルにも8万5,000人以上の難民が押し寄せていると報じられている。
呑助 左翼政権が成立するとよくこのような事態が生じますね。古くはチリですかね。
侘助 東西冷戦の最中の1970年、サルバドール・アジェンデ博士を指導者とする社会主義政党の統一戦線である人民連合は自由選挙により政権を獲得し、アジェンデは大統領に就任した。なおこれは、南アメリカにおいて自由選挙で社会主義政党が選ばれた初めての例であった。 しかし、アジェンデ政権の行う社会主義的な政策に富裕層や軍部、さらにドミノ理論による南アメリカの左傾化を警戒するアメリカ合衆国は反発し、アメリカ政府に支援された反政府勢力による暗殺事件などが頻発した。1973年9月11日、ピノチェト将軍はアメリカCIAの全面的な支援の下、軍事クーデターを起こし、アジェンデ政権は崩壊する。
呑助 南米で「9.11」というとチリのアジェンデ政権が倒れたことを言うらしいですね。
侘助 この「9.11」を調べて書いたものがカナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』だ。
呑助 10年くらい前に話題になった本ですよね。
侘助 ナオミ・クラインは、ケインズ主義に反対して「真の変革は、危機状況によってのみ可能となる」と述べるなど徹底した市場原理主義を主張したシカゴ学派 (経済学) のミルトン・フリードマンを批判、こうした主張を「ショック・ドクトリン」と呼び、現代の最も危険な思想とみなしている。近年の悪名高い人権侵害は、反民主主義的な体制による残虐行為と見るばかりでなく、民衆を震え上がらせて抵抗力を奪うために綿密に計画され、急進的な市場主義改革を強行するために利用されてきた側面に注目している。
「ショック・ドクトリン」の最初の応用例が、1973年の軍事クーデターによるアウグスト・ピノチェト政権下のチリである。シカゴ学派は投資家の利益を代弁、「大きな政府」や「福祉国家」をさかんに攻撃し、国家の役割は警察と契約強制のみであるべきで、他はすべて民営化し市場の決定に委ねよと説いていたが、そのような政策は有権者の大多数から拒絶され自国で推進することができず、独裁体制下のチリで実行に移されたと述べている。チリでは無実の一般市民の逮捕・拷問・処刑が相次ぐばかりでなく、「惨事便乗型資本主義」がはびこって、「小さな政府」主義が金科玉条となり、公共部門の民営化、福祉・医療・教育などの社会的支出の削減が断行され、多くの国民が窮地に追い込まれた。
呑助 経済危機をつくりだし、新自由主義経済政策を実施するということなんですね。
侘助 ベネズエラがチリのようにならないといいが、アメリカの手口も巧妙になっているのだろうから、難しいかもしれないな。トランプ大統領は軍隊の派遣も選択肢のテーブルに上がっていると発言しているからね。
呑助 「惨事便乗型資本主義」の輸出ですか。これは明らかなおためごかしの内政干渉ですね。