醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  990号   白井一道

2019-02-07 15:14:38 | 随筆・小説



  名酒「二兎」を楽しむ


侘輔 今日楽しむ酒は愛知県岡崎市の酒蔵、丸石醸造さんのお酒、銘柄「二兎(にと)」純米吟醸雄町五十五しぼりたて生原酒だ。
呑助 以前、楽しんだお酒ですね。
侘助 覚えている人もいるかと思うが2017年5月に楽しんでいる。
呑助 もう一年以上前のことになるのでほとんど忘れていますね。今日楽しむお酒「雄町五十五」というのは、精米歩合が五十五%だということでいいんですかね。
侘助 そのようだ。一粒の
酒造米の内、四十五%を糠として捨て、残った五十五%の米でお酒を醸しているということかな。
呑助 削った米で醸すとなぜ美味しいお酒ができるんですかね。
侘助 昔からよく搗いた米でお酒を醸すと美味しい酒ができるということを経験的に知られていたようなんだ。糠には豊かな栄養が詰まっている。糠漬けのキュウリやナスは日本の食文化を代表するものだと言える。また酒造米の糠は団子などなっている。糠には脂肪や蛋白質が豊富だ。
呑助 米の栄養素である脂肪や蛋白質を削った方が美味しいお酒ができると言うことなんですか。不思議なことですね。
侘助 なぜなのかというと水に溶けた澱粉がお酒になるからなんだ。脂肪や蛋白質がお酒、アルコールになるわけではないからなんだ。精米され、糠を削られ、澱粉だけの米で醸すと綺麗なお酒になるということなんだ。
呑助 精米された酒造米は本当にみな小粒になっていますよね。
侘助 精米された酒造米に残った微量な脂肪や蛋白質はお酒の味の特徴になるようだ。味の多い酒は雑味となって切れが悪くなったりする。
呑助 綺麗な酒とは味の少ない酒だということですか。
侘助 美味しい酒の特徴の一つは綺麗な酒だということかな。
呑助 それで昔から酒造りする米の精米には時間をかけたということなんですか。
侘助 そうなんだろうな。精米技術の向上がよりおいしいお酒を醸すようになった。縦型精米機の発明が画期的な出来事だった。1930年代のことだ。このころから精米歩合を80%以上上げることができるようになった。縦型精米機発明以前、80%以上精米することができなかった。なぜなら80%以上以上米を搗くと米が割れてしまうからだ。割れた米では酒を醸すことができない。
呑助 明治や大正時代のお酒と比べると遥かに今のお酒の方が美味しいということですか。
侘助 間違いなく、昔のお酒と比べたら今のお酒の方が美味しいはずだと思う。なぜなら精米歩合が高いからね。
呑助 酒造技術の進歩が美味しいお酒を醸すということですか。
侘助 過去の人々のたゆまぬ努力の結果によって今の私たちは美味しいお酒を楽しむことができるということなのかな。
呑助 酒造りに携わった人たちの長い長い歴史の上に今の私たちの日本酒文化というものがあるということなんですね。
侘助 清酒が飲めるということは大変なことなんだ。清酒を楽しめる有難さに感謝しなくちゃね。