醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  1000号  白井一道

2019-02-17 13:40:58 | 随筆・小説
  


 象という宇宙冬の動物園  浅井慎平

 テレビの俳句番組を見て、浅井氏の俳句を知った。動物園の象は象ではないと浅井氏は述べていた。この言葉を聞いて、私は浅井氏の俳句が表現していることを理解した。動物園とは自然の存在としての動物を殺しているところだと私は理解した。人間存在の残酷さを浅井氏は動物園に飼われている象に発見した句だと思った。
 私たちは毎日牛肉や豚肉、鶏肉など食べ生きている。牛や豚、鶏を殺し、精肉にしたものを肉屋で購入し、いただいている。すき焼きを食べて私は牛を殺すことが残酷なことだと感じたことがない。牛をする現場を私は見たことがないからかもしれない。する現場を知らない私たちだから牛肉を美味しくいただけるのかもしれない。
 昔、『帰らざる河』という映画を見た。激流の川を筏に乗ったマリリン・モンローと相手役のロバート・ミッチャムが流れていく。この中で川岸に小鹿に出て来る。この小鹿を見たマリリン・モンローが言う。「美味しそうな小鹿ね」と美しい女性、マリリン・モンローが言う。肉食の歴史の浅い日本人の感覚と肉食の歴史が長い国の食文化の違いを感じた出来事だった。
 ネズミが家に入り込み、天井を走り回る音がする。ネズミ捕りの道具を買い求め、米粒をまき、ネズミが捕れるのを待った。とうとうネズミは米粒に寄せ付けられ捕ることに成功した。トリモチに足がくっつき、動けなくなっているネズミの姿に哀れを私は感じたが、折り畳み可燃ごみの日に情け容赦なく捨てた。
 人間と平和共存できる野生動物とできない野生動物がいる。害獣と益獣だ。象は人間と平和共存できる動物の一つであろう。家畜化した象に象の死を浅井氏は発見した句が「象という宇宙冬の動物園」だったのかもしれない。