醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  1010号  白井一道

2019-02-27 12:39:56 | 随筆・小説


 『レ・ミゼラブル』を思い出す



句郎 フランステレビが日本の刑務所を取材した。そのドキュメントを見た。
華女 どんな内容だったの。
句郎 少子高齢化が進む日本社会は刑務所の中も高齢化が進んでいる。65歳以上の服役者が増えてきているという。
華女 どのような罪で服役している人が多いの。
句郎 軽い窃盗を繰り返す人が多いという。
華女 なぜ、罪を悔い改めないの。
句郎 まず第一に刑務所の中は安全だという。
華女 日本は刑務所の中より社会は危険性に満ちているということなの。
句郎 高齢者にとって娑婆は危険に満ちているということなんじゃないのかな。身寄りのない高齢者。収入のない高齢者。住む場所のない高齢者。特に女性にとって俗世間は危険に満ちているようだ。
華女 屋根のある部屋で冬を過ごしたいということなのね。
句郎 ホームレスの人々にとって刑務所はホテルになっている。だから今や刑務所は刑務官より介護者の方が多いくらいだとフランスのテレビは報じていた。
華女 悲しい話ね。
句郎 子供のころ読んだ『ああ無情』を思い出した。19世紀のフランスでも屋根のある所で休みたいと思い罪を犯し、早く捕まえてくれと警察に行く犯罪者の話を思い出した。
華女 日本社会はちっとも豊かになっていないということね。
句郎 私が子供のころと比べてみると遥かに今の方が豊かになっていると思う。しかし、貧しい人々が大勢日本にはいるということも事実なんだと思う。
華女 住井すゑさんの言葉を思い出すわ。その社会の本質はその社会の最も弱い者に現れると、言っているのよ。
句郎 社会の歪はその社会の最底辺に赤裸々に現れてくるということかな。
華女 社会で最も弱い人が高齢者の女性、身寄りのない女性、収入のない女性よ。頼れる人のいない女性よ。最後に頼れるところが刑務所と言うことなのかもしれないわ。
句郎 刑務所の中は清潔、寝具もきれいに洗濯されている。規則正しい生活、食事を心配する必要がない。
華女 自己責任を問う社会にあっては、同情を得ることは難しいわね。
句郎 若いころ、何をしていたんだと言われるよね。
華女 盛り場に生きる若い女性の言葉を思い出すわ。「私は死にたいの」と、言っていたわ。体を売って生きることは永遠の冬を生きているみたいだとね。痛くないならすぐにでも死にたいわと、ね。
句郎 身寄りのない、収入のない高齢者になった時、最後に頼れるところは刑務所なのかもしれないな。
華女 子供を持った女には、強く生きる女性もいるのよ。子供のために生きる。そのような女性はいると思うわ。
句郎 生きる目的があるからな。
華女 昔の女はそうだったんじゃないのかしら。私の母なんかもそうだったように思うわ。私の母の一生はただ自分の子供ためだけに生きた女性だったように思うわ。
句郎 男も基本的にはそうなんじゃないのかな。家庭をもって妻と子供のために働き、生きる。そうなんじゃないのかな。この当たり前なことが厳しすぎると感じる人がいる。会社の倒産、首切り、病気、怪我などや不慮の災害などで悲劇に見舞われることがあるからね。
華女 刑務所が終の棲家となるような高齢者がいる社会というのは悲しいことね。
句郎 二百年前の社会と変わらない現実がある日本社会だということを認識することは大事だよね。
華女 社会は変わっていっているようで変わらないところもあるということね。
句郎 資本主義社会は封建社会と比べてみると遥かに良い社会になった。資本主義社会は自由だ。自由は強い者にとって有利な社会だ。弱者には厳しい厳しい社会だ。