醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  1004号  白井一道

2019-02-22 13:02:10 | 随筆・小説



 滋賀県 美冨久酒造 三連星の酒を楽しむ
  

侘輔 今日は違う酵母で醸した酒を味わうというテーマで楽しみたい。
呑助 酵母は酒が生れていく過程でどのような働きをするんですかね。
侘助 酵母と言う微生物は糖を食べて生きている。酵母は糖を食べるとアルコールと炭酸ガスを吐き出す。
呑助 酵母がお酒を排泄物として出しているんですか。お酒とは微生物の排泄物なんですか。
侘助 人間に悪さをする微生物もいるが人間生活を豊かにしてくれる微生物がいる。
呑助 今日楽しむお酒は清酒酵母が生むお酒とワイン酵母が生むお酒の違いなんですか。
侘助 日本酒とワイン。お酒が生れて来る過程にどのような違いがあるのか、そのことがます分からないとね。
呑助 日本酒とワインは最も代表的な醸造酒ですね。
侘助 最も大きな違いは日本酒の場合は並行複発酵のお酒なのに対してワインは単発酵のお酒だということかな。
呑助 並行複発酵とは、どのようなことを言っているんですか。
侘助 並行複発酵とは、一つのタンクの中で麹がお米の澱粉を糖分に変える化学変化と糖分を酵母がアルコールに化学変化させる過程が同時に起こることを並行複発酵という。
呑助 水と蒸米と麹と酵母を同時にタンクに入れるとお酒ができてくるということですか。
侘助 原理的にはそういうことなのかな。実際にはいろいろ複雑な手順があって難しいけどね。
呑助 単発酵というのはどういうことなんですか。
侘助 ワインの原料はブドウでしょ。ブドウには糖分が満ちている。だから穀物の澱粉を糖分に化学変化させる必要がない。ブドウの糖分を食べる酵母はワインを吐き出す。日本酒の醸造に比べてワインの醸造は単純なんだ。
呑助 ブドウを踏み潰したタンクにワイン酵母を入れるとワインができるということですか。
侘助 ワイン酵母は甘い水が大好き、どんなに甘くても美味しく食べられる。ワイン酵母に対して清酒酵母はあまりにも甘い水には耐えられずに死んでしまう。
呑助 清酒酵母は甘さに弱いということですか。
侘助 そうらしい。清酒酵母は甘さには弱いがアルコールには強い。
呑助 清酒酵母はアルコールに強いということはどういうことなんですか。
侘助 清酒酵母は、糖を食べてアルコールを吐き出し、自分の出したアルコールに最終的には溺れて死んでしまう。清酒酵母の場合、およそアルコール度が20%ぐらいになると死んでしまう。
呑助 ワイン酵母の場合はどうなんですか。
侘助 ワイン酵母の場合には13、4度位になると死んでしまう。清酒酵母は甘さには弱いが、アルコールには強い。ワイン酵母は甘さには強いがアルコールには弱い。
呑助 だからですか、ワインは日本酒に比べてアルコール度数が低いのは。
侘助 甘さと酸味にワインの味があるとすると清酒は仄かな甘未、酸味と旨味に日本酒の味がある。ワインに比べて高いアルコール度に日本酒の特徴があると思っているんだ。今、甘い酒が人気だから美冨久酒造さんは甘さと酸味のある酒を醸した。