徒然草120段『唐の物は、薬の外は、』
原文
唐の物は、薬の外は、みななくとも事欠くまじ。書(ふみ)どもは、この国に多く広まりぬれば、書きも写してん。唐土舟(もろこしぶね)の、たやすからぬ道に、無用の物どものみ取り積みて、所狭く渡しもて来る、いと愚かなり。
現代語訳
薬を除き、中国からの舶来ものはなくても事欠くことはないであろう。書物どももこの国には多く普及しているので書き写すことができる。中国風の交易船の容易くない船旅に無用のもののみを選んだかのように積み込み所狭しに持って来ることほど愚かなことはない。
原文
「遠き物を宝とせず」とも、また、「得難き貨を貴まず」とも、文にも侍るとかや。
現代語訳
「君主は遠来の物を宝としない」とも言っている。また「得難い貨幣を尊ぶこともない」とも昔の文書にはあるとも聞いている。
イギリスの文化とアメリカの文化 白井一道
『徒然草120段』を読み、イギリスの文化とアメリカの文化の違いのようなものを読んだように感じた。君主の文化を持つ国がある。日本も君主を尊ぶ文化があるように思うが、アメリカには君主を尊ぶ文化がない。アメリカには民衆の文化を尊んでいる。アメリカに民主主義があるとしたなら、それはもともとアメリカには君主の支配を尊ぶ伝統がないからであろう。
アメリカ人は国旗を掲げるのが好きである。この国は自分たちの国だという気持ちが強い。アメリカ国民はアメリカという国を自分たちが築き上げたという強い気持ちを持っている。この国は私の国だと気持ちはイギリス人とは比べようもなくアメリカ人は強い。アメリカ建国の裏側にはネイティブ・アメリカンの泪と深い悲しみがある。アメリカ人にはネイティブ・アメリカンとの闘いの歴史の上に今があるという意識があるからなのだろう。銃の所持が法的に認められている。アメリカの負の遺産として今問題になっていることの一つが銃の所持ということである。イギリスにもアイルランド征服戦争といった負の遺産がある。
もともとアメリカに入植してきたイギリス人たちの多くは本国イギリスでは恵まれた人々ではなかった。大半が貧しい人々であった。入植地アメリカにはイギリスの庶民の文化が持ち込まれた。どこの国にあっても庶民はフレンドリーである。なぜなら庶民は助け合うことなしには生きていけなかったから、そこに人に対する優しさのようなものが培われていった。アメリカに入植した者たちは助け合って生きて来た。だからフレンドリーなアメリカ文化が形成された。マグカップでグイグイコーヒーを飲む文化がアメリカ文化だとしたら、イギリス人は真っ白な中国製の茶碗で紅茶を嗜む。イギリス貴族の文化を継承しているのがイギリスの文化のようだ。
アメリカ人がごく普通のコーヒーを好むのに対してイギリス人は高級な紅茶を好む。このようなイメージがある。アメリカ文化が民衆の文化だとしたら、イギリスの文化は貴族の文化なのであろう。