醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1305号   白井一道

2020-01-21 11:25:47 | 随筆・小説



   
  徒然草130段『物に争はず、』



原文
 物に争はず、己れを枉(ま)げて人に従ひ、我が身を後にして、人を先にするには及かず。

現代語訳
 物事を争うことなく、言いたいことを控え人に合わせ、自分を後にし、人に譲るに越したことはない。

原文
 万の遊びにも、勝負(かちまけ)を好む人は、勝ちて興あらんためなり。己れが芸のまさりたる事を喜ぶ。されば、負けて興なく覚ゆべき事、また知られたり。我負けて人を喜ばしめんと思はば、更に遊びの興なかるべし。人に本意(ほい)なく思はせて我が心を慰めん事、徳に背けり。睦(むつま)しき中に戯るゝも、人を計り欺きて、己れが智のまさりたる事を興とす。これまた、礼にあらず。されば、始め興宴より起りて、長き恨みを結ぶ類多し。これみな、争ひを好む失なり。

現代語訳
 あらゆる遊びで勝ち負けを好む人は、勝ち誇るためだ。自分の芸が優れていることに喜ぶ。だから負けて喜べないことがまた分かっている。自分が負けて人を喜ばすのかと思うと更に遊びに面白さがない。人に嫌な思いをさせ、自分だけ楽しい思いをすることは人の道に背いている。親しい仲で楽しく遊んでいる最中に人を計り欺いて自分の智謀の優れていることを楽しむ。これはまた礼に背いている。だから初めは楽しい付き合いであったことが長い間には恨みになることが多いようだ。これは皆、争いを好む欠点だ。

原文
 人にまさらん事を思はば、たゞ学問して、その智を人に増さんと思ふべし。道を学ぶとならば、善に伐(ほこ)らず、輩(ともがら)に争ふべからずといふ事を知るべき故なり。大きなる職をも辞し、利をも捨つるは、たゞ、学問の力なり。

現代語訳
 人より勝ろうと思うなら、ただ学問をして学んだことを人にも学んでもらおうと思うことだ。人の道に従うなら自分は善いことをしているというような事を誇らず、仲間と争うような事をしてはならないと言う事に気付きべきなのだ。大事な職をも辞し、利殖を求めない事ができるのは学問の力である。

 真実を求めるということ  白井一道
 2020年1月3日、米軍無人機、ドローンがバグダッド国際空港近くでイラン革命防衛隊コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官らを殺害した。ワシントンでテレビゲームをしているかのようにドローンを飛ばし、イラン革命防衛隊ソレイマニ司令官を爆殺した。アメリカ政府は人道に反する殺人を正々堂々白昼の犯罪を犯した。イラン政府は当然のこととして反撃、報復を宣言した。
 1978年から始まったイラン・イスラム革命以来、アメリカとイランとの間では緊張状態が継続している。1979年にはイランアメリカ大使館人質事件が発生した。アメリカ政府はイラン・イスラム政権を倒すべく、イラクを支援して1980年から1988年まで戦争をした。がしかし、イラン・イスラム政権を打ち倒すことはできなかった。イラクのサダム・フセイン政権はアメリカ政府の意志に反し、1990年8月2日、イラク軍は隣国クウェートへの侵攻を開始し、8月8日にはクウェート併合を発表した。これを契機に湾岸戦争からイラク戦争へと継続していく。基本線はイラン・イスラム政権をアメリカ政府は打倒することであった。
 しかし、イラン・イスラム革命以来、40年間、現在に至るまでアメリカ政府はイラン・イスラム政権を倒すことができずにいる。いよいよアメリカ政府軍が中近東地域から撤退せざるを得ない状況になってきたというのが現実のようだ。
 イラン政府はイラクアメリカ政府軍基地にミサイルを撃ち込む報復攻撃をした。イラク政府はアメリカ軍のイラクからの撤退を議決した。アメリカ政府はイラクから軍を撤退させないと言っているが、イラクのアメリカ政府軍司令官は撤退を指示しているようだ。孫崎享さんの話によるとアメリカ軍兵士たちはイランからのミサイル砲撃に恐れ慄き、打ち震え、兵士として使いものにならない状況にあるのではないかと話していた。トランプ大統領は逆にイラン政府がアメリカ軍を恐れていると言っている。